第四十六話
毎日仕事に追われていると一週間があっという間に過ぎていく。つい先週お客様から演劇のチケットを貰って皆に予定を聞いてスケジュール調整をしようと思っていたら気が付けば観に行く日になっていた。時間が過ぎるのが早いなと思いつつも出掛ける準備を始める。
――先週雪音さん達に確認した所全員予定が空いていたのでいつもの面子で行く事になる。今回観に行く演劇はドレスコードは無いので割とラフな格好でも良いのが有難い。公演する場所や内容によってはドレスコードが決められている場合もあるので、何も調べずに行って入場できませんでしたという事もあるので注意したい所だ。今日行く公演は特に決まりが無いとはいえ余りにもいい加減な服装だと周囲から顰蹙を買ってしまうので清潔感を心掛けつつ場に合うような服をチョイスする。髪も寝癖が無いか確認した後ワックスを使って確りとセットしなくてはな。鏡の前で何度も見直して変な所や、乱れている場所が無いかチェックしてから戸締りをして家を出る。
女性陣とは最寄り駅で待ち合わせしているのでそこまではタクシーで移動する。金銭的な負担が大きいが電車の場合色々と都合が悪いので仕方ない。安全をお金で買っていると思えば多少は気も楽になるし、毎日護衛をしている人達の負担も少しは減らせるので悪い事ばかりでもないしね。そんな事を考えつつ自宅の前に停車している無人タクシーに乗り込む。目的地までは自動運転で行ってくれるのでわざわざ行き先を告げる必要が無いから楽でいい。ただ一人だと話し相手が居ないので無言の車内で数十分過ごさなくてはいけないのがちょっと辛い所だ。暇な時間を無心でひたすら耐え続けていると、目的地に着いたのでタクシーから降りて待ち合わせ場所へと向かう。
約束の時間まではまだ余裕があるが俺が着いた時には全員が揃っていたので少し慌ててしまう。
「すみません。お待たせしました」
「私達が早く着きすぎただけですのでお気になさらず。それでは全員揃った事ですし劇場へ行きましょうか」
「分かりました。確かここから歩いて十分くらいでしたよね?」
「はい。真っ直ぐに行けば着くのですぐですよ」
菫さんとの話が一段落した所で六人揃って歩き出す。そうして暫く歩いた先に見えてきたのは大きな建物だ。なんでも演劇専用のホールになっており、最新の設備と環境が整えられていて、世界でも有数の劇場として有名らしい。さらっとネットで調べただけなのでそのくらいの情報しかないが、それを考えるとSS席とは言え高額なチケット代も納得である。まあ俺の場合はお客様から格安で譲り受けたので低下で買った人には悪い気もするが……。
そんな事を考えつつ劇場に着いたので中に入り、受付でチケットを見せると係りの人が席まで案内してくれる。普通であれば指定の座席まで自力で辿り着かなくてはいけないが流石はSS席である。スタッフの案内に従って辿り着いた席はまさに豪華の一言。広いスペースにゆったりとした間隔で座席が配置されており、席も広くて大きい。更には舞台全体を見渡せる最高の位置なので余すと事無く全てを観る事が出来る。そして飲み物や軽食も無料で提供されるみたいでそれも嬉しい点だ。ちなみにメニューも豊富でどれにしようか悩むほどある。最高ランクの座席に相応しい環境に驚きつつも、凄く嬉しい気持ちで一杯だ。
さて、開演まではあと十五分程あるからその間にパンフレットでも見るかな。えーと、劇の題目はロミオとジュリエットか。ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲で多くの人が知っているであろう超有名作でだな。ロミオとジュリエットは心無い周囲のせいで罪のない男女が全てを失い、命を落とす恋愛悲劇でヒロインであるジュリエットを演じるのは宮前透香さんか。主演を務めるという事はそれだけの実力があるという証明だが果たしてロミオとジュリエットは名作であるがゆえに何百回も公演されているし、観客の目も肥えているだろうから生半可な演技力では失望されるだろう。俺も前に居た世界で一度見た事があるが、その時は演者の演技が素晴らしく甚く感動したのを今でも鮮明に覚えている。自分の中でそれを超えるのは難しいのではと思うが宮前透香さんがどのような演技を見せてくれるか今から楽しみだな。期待を胸に今か今かと待っているとブザーが鳴り緞帳が上がる。
序盤はモンタギュー家の一人息子ロミオがロザラインへの片想いに苦しんでいる所から始まる。当然男性役も女性が演じているが全く違和感が無い。短髪で細身の身体だが確りと男性らしさを感じられる。ただ頑張って低めの声を出しているがどうしても高めなのは否めないのでそこは少し残念な所だ。だが総じて演者の皆さんの演技が上手く、舞台上から視線を外せない。隣にいる女性達も同様で一言も発さずに見入っている。観劇中にお喋りをするのはNG行為なので当然と言えば当然なのだが。
――話は進み山場の一つである気晴らしにと友人達とキャピュレット家のパーティに忍び込んだロミオがキャピュレット家の一人娘ジュリエットに出会いたちまち二人は恋におちる。二人は修道僧ロレンスの元で秘かに結婚するという場面に差し掛かる。この際のジュリエット役を演じる宮前透香さんの幸せに満ちた表情は何時までも記憶に残るだろう事は間違いない。
話がここで終わればハッピーエンドで二人は幸せに暮らしましたとさとなるのだが、そうは問屋が卸さない。ここからロミオとジュリエットの不幸で悲しい出来事が続いて行く事になる。
二人が結婚した直後、ロミオは友人とともに街頭での争いに巻き込まれ親友・マキューシオを殺されてしまう。その事に逆上したロミオは、キャピュレット夫人の甥ティボルトを殺してしまう。このことからヴェローナの大公エスカラスはロミオを追放の罪に処す。ロミオは今や自分の妻となったジュリエットの元に訪れ、未明に立ち去る。一方、キャピュレットは悲しみにくれるジュリエットに大公の親戚のパリスと結婚する事を命じる。という二人の仲を引き裂くような出来事が起こるんだけど大公エスカラスの憎悪で歪んだ表情で追放を命じる場面は背筋が凍る程迫力があった。更にジュリエットのロミオが去った事による焦燥と悲愴で満ちた演技は見ているこちらの心を深く抉ってくる。この時点で涙腺が緩んで涙が零れそうになるが、必死に堪える。
そんな俺の心情とは無関係に舞台は進み、いよいよラストに差し掛かる。
ジュリエットに助けを求められたロレンスは彼女をロミオに寄り添わせるべく、仮死の毒を使った計略を立てる。しかし、この計画は追放されていたロミオにうまく伝わらなかった為ジュリエットが死んだと思ったロミオは、彼女の墓参りに来たパリスと決闘し殺してしまい彼女の墓の側で毒薬を飲んで自殺。その直後に仮死状態から目覚めたジュリエットも、ロミオの短剣で後追い自殺をする。事の真相を知って悲嘆に暮れる両家はついに和解する事になる。という内容なのだが最後のジュリエットが短剣で後追い自殺をする場面で限界が訪れた。今まで我慢していた感情が堰を切って溢れ出し、涙が次から次へと頬を伝い零れ落ちる。それだけでなく僅かに嗚咽も漏らしてしまうという醜態を晒してしまうがもう自分自身でも止められないのだから仕方ないだろう。
「拓真さん、どうぞこれをお使い下さい」
「有難う御座います」
雪音さんから小声でそっとハンカチを渡されたので受け取り涙を拭う。幸いな事に俺達の座席の周囲にはお客さんが居ないので俺の恥ずかしい姿を見られる心配は無い……のだが舞台からは別だ。俺が号泣しているのが見えたのか一瞬演者全員の動きが止まったが流石のプロ根性ですぐに演技を続けていた。
そうしてラストシーンである両家が和解した所で今回の劇は終了となる。役者さん全員が舞台に上がり横並びに整列してお辞儀をした所で席から立ち上がり盛大な拍手を送る。舞台に関わった全ての人に感謝と尊敬の念を込めて緞帳が下りるまで拍手を続けるのだった。
「いやー、素晴らしい演劇でしたね」
「そうですね。役者さんもとても素晴らしい演技でしたし、心に響くものがありました」
「分かります。個人的にはどの役者さんも良かったのですが、ヒロイン役の宮前透香さんは頭二つくらい抜き出ていたと思います」
「確かに他の役者さんと比べて飛び抜けて上手でしたね。まだ二十代前半という事ですがお若いのにまさに竜躍雲津ですね」
「まさに雪音さんの仰る通りだと思います。俺と同年代の人とはとても思えませんし本当の天才とはこういう事を言うのだなと痛感しました」
「ふふっ、私としては拓真さんも才能に溢れていると思いますよ」
「有難う御座います。そう言われると照れますね」
雪音さんの様な人からそんな事を言われると浮かれてしまうな。ついつい調子に乗ってしまいそうになる心を落ち着かせなくては。何度か深呼吸をして多少落ち着いた所で今度は桜ちゃんが少し心配そうに声を掛けてくる。
「観劇中に泣いていましたけどもう大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。――みっともない姿を見せてしまってすみません」
「とんでもありません。感動して涙を流すのは自然ですし何も恥じる必要は無いですよ」
「俺自身もまさか泣くとは思っていなかったので自分自身でも少し驚いています。ロミオとジュリエットを観るのが初めてであれば泣いても仕方ないとは思うのですが二回目なのにまさか号泣する事になるとは……」
「それだけ心にくるものがあったという事ですね」
「はい」
何かを見たり感じたりして心を揺さぶられる事は多々あれどここまで感動したのは生まれて初めてかも知れない。今日感じたことは俺の人生に影響を与えるだろうし、人間としての成長にも繋がるだろう。
「本当に今日演劇を観に来れて良かったです。そういえば物販もありましたよね?」
「はい。ロビーで台本の複製やポストカード、タオルやマグカップ等々が売られているみたいです」
「結構色々とあるんですね。これはお財布が許す限り買おう」
「もしお金が足りなければ私がお出ししますので遠慮なく仰って下さいね」
「いえ、流石に菫さんにたかる様な真似はしませんよ。ある程度吟味して購入しようと思うのでお気持ちだけ受け取っておきますね」
「そうですか……。分かりました」
ちょっと残念そうなのは俺に何かを買ってあげたかったという事だろうか?とても有難い事だがそれはまた別の機会に取って置こうと思う。今回の買い物はあくまで個人的に欲しいと思った物を買うだけだからね。
さて、劇が終わったのに何時までも客席で駄弁っているのも迷惑だろうしそろそろ移動しようかと腰を上げた所で、出入り口の扉がノックされてスーツに身を包んだいかにも仕事が出来そうなキリッとした女性が入ってくる。誰かの知り合いか、劇場のスタッフが退場を促しに来たのかな?と考えていると真っ直ぐに俺の近くまで歩いてきて軽く頭を下げる。
「はじめまして。突然のお声掛けになりましたことをお詫び申し上げます。――私は今舞台の主演をしております宮前透香のマネージャーで高坂と申します」
「はじめまして。俺は佐藤拓真と申します。……それで何かご用でしょうか?」
「はい。実は宮前が劇を観にいらした男性――佐藤様と少しお話をしたいと申しておりまして。お時間の都合が良ければ少しだけお付き合い願えないでしょうか?」
「俺としてはとても嬉しい申し出なのですが、連れもいますのでどうするか聞いてみますね」
「はい、よろしくお願い致します」
高坂さんから少し離れて皆にどうするか聞いてみるとこの後の予定は入っていないし、時間的にも余裕があるのでOKと言う返事を貰えた。となれば俺の返答も決まっている。
「OKを貰えましたので是非お願いします」
「有難う御座います。では楽屋へとご案内致しますので私の後をついて来て下さい」
「はい。……あっ、物販でグッズを買おうと思っていたんだった」
「グッズでしたら後で販売している物を詰め合わせてお渡しする事も出来ますがどう致しますか?」
「うわっ、それは嬉しいです。総額幾らになるかちょっと怖いですけど」
「無料でお渡しいたしますのでお金は不要ですよ」
「本当にタダでいいんですか?凄く申し訳ないんですが」
「お気になさらないで下さい。私共も今回男性が観にいらっしゃった事で得るものが多々ありましたのでそのお礼も兼ねていますので」
成程。関係者にも利益があったからこその無料か。それならこれ以上問答するのは野暮ってものだし有難く受け取っておこう。
さて、話も一段落した所で高坂さんの案内の元宮前さんの楽屋へと向かう。こういう舞台裏と言うか劇場の裏側に来る機会なんて今までなかったので凄く新鮮だし興味をそそられる。ついついキョロキョロと辺りを見回しながら高坂さんの後を付いて行く。
時間にして十分ほど歩いた所でドアに宮前透香様と張り紙が張られた扉の前に付く。
「この部屋に宮前が居ますのでどうぞ中にお入りください」
高坂さんがドアを開けて入室を促してきたので緊張しながらも部屋へと足を踏み入れる。室内はとてもきれいに整理されていて汚れ一つ見当たらない。そして優しい花の香りがするのは香水だろうか?とても良い香りでリラックスできる。そんな居心地が良い空間に佇んでいる一人の美人な女性が立っているのでそちらに目を向けると一礼してから言の葉を紡ぐ。
「はじめまして。宮前透香と申します。この度は私の我儘をお聞き下さり感謝の念に堪えません」
「いえ、俺の方こそ舞台の主演の方とお会いできて光栄です」
「有難う御座います。立ち話もなんですからどうぞお座り下さい」
ソファを進められたので女性陣と一緒に座る。流石に全員が同じ場所には座れないので二つに分かれる事になる。俺が座っているソファには左右に雪音さんと菫さんが。もう一つのソファには小百合さん、千歳さん、桜ちゃんが座っている。そして対面には宮前さんとマネージャーの高坂さんが居る。
なんというか芸能人とこうして対面すると雰囲気に圧倒されてしまうな。別に高圧的とか下に見る態度では無いんだけど独特のオーラを感じる。言語化するのが難しいし実際に対面して見ないと分からないと思うが兎に角一般人とは明らかに違う存在という事がヒシヒシと伝わってくるのだ。果たしてそんな人とまともに話せるのだろうか?と緊張で生唾を飲み込んだ所で宮前さんが話しかけてくる。
「今回の劇はお楽しみいただけましたか?」
「はい。とても素晴らしかったです。実はロミオとジュリエットは一度観た事があるのですが、正直今回と比べると雲泥の差ですね。演者さん一人一人の演技も迫真に迫っていて良かったですが特筆すべきはジュリエットです。役を演じているのではなく本人そのものだと舞台が終わるまで思っていた程でその一挙手一投足に目を奪われてしまいました」
「そ、その様な高評価を頂けるとは……。今この時ほど役者をやっていて良かったと思った事はありません。本当に嬉しすぎて……どうしましょう」
最後の言葉を言い終わる前に宮前さんの頬に涙が零れ落ちる。これは嬉しすぎて泣いてしまったという事で良いんだよな?普通に褒めただけだし泣かせるような酷い事は言っていないので大丈夫だと思うが何が相手の逆鱗に触れるか分からないからな。もしかしたら……と言う可能性があるが。
っと、そんな事よりも目の前で女性が泣いているのにハンカチの一つも出さないとか男として終わっているだろう。慌ててポケットを探るが何の感触も返ってこない。……そうだった。今日はハンカチを忘れてしまっていたんだ。くそっ、最悪の失態だなと内心で自分に悪態をついていると自前のハンカチで涙を拭った宮前さんが申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。
「いきなり泣き出してしまいすみません。余りにも佐藤様のお言葉が嬉しくて我慢できずに泣いてしまいました」
「いえ、お気になさらずに」
「お気遣い頂き有難うございます。――男性とお話しするのは初めてなのですが世間で言われている男性像とは全く違って少し戸惑っています。もし私の言動や態度に不快な点がありましたら遠慮なく仰って下さい」
「あー……普通の男と違うとよく言われますね。最初は戸惑うかと思いますが、変わり者なんだなぁと思って頂ければ多少は精神的に楽になるかと思います。それと宮前さんはとても礼儀正しい方ですし、不快になる事は無いので安心して下さい」
「分かりました。ではその様にさせて頂きます」
この世界での男性基準で俺を量ろうとすると脳がバグってしまうから注意が必要だ。変人奇人なんだなと思って接した方が気持ち的にも精神的にも良いだろう。
だが、俺の考えに待ったをかける人が現れる。そう、雪音さん達女性陣だ。
「確かに拓真さんの仰る通り世間一般の男性とは大分違いますが、それは良い意味で違うという事であり付き合いが少しでもあれば拓真さんの魅力に気が付くはずです」
「雪音さんの仰る通りですね。拓真さんと関わりを持つと一度会った事がある男性が別の生物に感じますから。とてもでは無いですが同じ男性だとは思えません」
「分かります。さり気無い気遣いとか、優しさに触れると胸が幸せで一杯になりますし男性=拓真さんという図式になっていますし」
雪音さんの言葉に小百合さんが同意を示し、更に菫さんが小恥ずかしい事を言ってくる。褒められているので嬉しいんだけどちょっと想いが重いと言うか……宮前さんが引かないか不安になってくる。そんな内心をあっさりと覆す言葉が宮前さんから齎される。
「私も極々短い時間しか接していませんがお気持ちは分かります。何と言うのでしょうか……女性の理想の男性がそのまま表れたという表現がピッタリなんです。こんなに優しくて格好良くて、女性に対して忌避感も嫌悪感も示さない男の人なんて素敵すぎます」
なんだろう……宮前さんの瞳にどす黒いハートマークが見えた気がするんだがきっと気のせいだな。というかいくら男性が貴重な世界とは言え有名女優が初対面の平々凡々な男に興味を示すはずが無い。ましてや一目惚れしたんじゃないか?とか自信過剰に過ぎるし、妄想にしたってやり過ぎだ。先の発言は社交辞令だと思うから額面通りに受け取らない様にしなくてはな。
「それにしても楽屋と言う所に初めて来たのですが結構質素と言うかシンプルなんですね」
「そうですね。基本的にヘアメイクや衣装への着替えは別の部屋で行いますので楽屋は時間が来るまでの待機場所と言う感じになります」
「それじゃあ時間が来るまで適当に暇を潰して過ごす感じなんでしょうか?」
「はい、その通りです。台本は事前にすべて頭に入っていますので雑誌を読んだりマネージャーとお喋りをして過ごしています」
「成程。勝手なイメージなんですが、楽屋では台本を読み返したり演技の再確認をしたりでピリピリしているんだろうなと思っていました」
「ふふっ、確かに新人の頃はそうでしたね。何度も何度も確認して不安を紛らわせるのに必死でした。それも場数を踏めば必要が無くなるのでベテランの人ほど暇なんですよ」
「芸能界の裏側を見れて気がしてちょっと嬉しいです。――っと、結構長い間お話をしていましたね。宮前さんもお忙しいでしょうし俺達はこの辺りで失礼させて頂きます」
そう言って腰を浮かした所で寂しげな表情を浮かべた宮前さんから声を掛けられる。
「あの、この後のご予定はもうお決まりですか?」
「一応夕ご飯を皆で食べに行こうかなと思っています」
「それでしたら劇場の近くに美味しい和食のお店があるのですがどうでしょうか?」
「おぉ、いいですね。お手数ですがお店の場所を教えて頂いても?」
「勿論構いませんが、もし宜しければ私も御一緒してもよろしいでしょうか」
「俺は大歓迎ですが――彼女達もOKみたいなので一緒に行きましょう」
「有難う御座います。それではすぐに支度をするので少しだけ待っていて下さい」
余りにも自然な流れで宮前さんと食事をする事になったが果たしてどうなる事やら。




