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第四十五話

 週末を控えた金曜日と言うのは飲食店にとって稼ぎ時である。週末を控えて大いにはしゃいだり、飲み食いできるのだから懐も緩むのは当然だろう。かく言う俺の店も金曜日は客足が伸びて大勢のお客様が居らっしゃる。カウンター席もソファ席もほぼ満席で新たに来たお客様には少々お待ち頂くことになるのが心苦しいが現状お店を増築する予定も無いしどうしようも出来ないのがなんとも……。

 店内を見回しつつそんな事を思っていると、目の前に座る常連さんから声を掛けられる。

「あの、注文してもよろしいでしょうか?」

「はい。何に致しましょう?」

「ではパナシェをお願いします」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

 オーダーされたパナシェとはビールと炭酸飲料で作るフランス発祥のカクテルでアルコール度数も二.五度と低いのでアルコールが苦手な人でも飲みやすいカクテルとなっている。作り方は簡単でビールに炭酸飲料を同量注いで混ぜるだけだ。炭酸飲料は定番で言えばサイダーやレモンソーダだろう。源流に合わせるならレモネードを入れるのだが、今ではそれに限らず色々な物を使うのが主流となっている。ちなみに俺はレモンソーダを使っている。スーパーで材料を揃えられるので家で飲む場合でもお手軽に作れるのでお勧めだ。ササッと作り終えて出来上がったパナシェをお客様に提供する。

「お待たせしました。パナシェになります」

「有難う御座います。――飲みやすくて美味しい」

「もう少しレモンの酸味が欲しい場合はグラスに付けてあるレモンを絞ると味わいが変わって楽しめますので宜しければどうぞ」

「もう少し飲んだら試してみますね」

 気に入ってくれればいいなと思いつつ、新たに入った大量のオーダーを処理していく。テキパキと作っては出しを繰り返しているが、一人で捌ける量を超えているのでどうしても提供までに時間が掛かる。小百合さんや千歳さんがカクテルを作れればいいのだが、現状を考えるとホールもかなり忙しそうだし一人抜けたら回らなくなる可能性が高い。かといって桜ちゃんはまだ高校生だから無理だし、新しく人を雇うというのも諸々の理由があり難しい。いよいよもってにっちもさっちもいかなくなったら人を増やす事を考えよう。――完全に問題の先送りだが、まだどうにかなっているので暫くは大丈夫だろうという目算もあっての事なので多分問題無いはず。

 それに今がピークタイムという事も関係しているからあと二時間~三時間もすれば落ち着くだろう。それまでは小百合さんと千歳さんに頑張ってもらわなければ。

 ひたすらに仕事を熟し少し落ち着いたタイミングで目の前に座る常連さんから声を掛けられる。

「随分とお忙しそうですが体調などは大丈夫ですか?」

「体調管理には気を付けてはいるのですが、最近は寝ても疲れが取れない日が多くてちょっと大変ですね。纏まったお休みが取れればいいのですが、なかなか難しくて」

「眠りにつくまで時間が掛かるとか、食欲が無いと言った事はありませんか?」

「言われてみればベッドに入っても眠るまでに数十分はかかっていますね。食欲に関してはいつも通りで大丈夫です。栄養バランスを考えたご飯を毎日食べているのでその辺りは問題無いです」

「となると睡眠が原因かもしれないですね。最近は季節の変わり目で寒かったり、暖かかったりするのでそれも要因としあるのかも」

「確かにそうですね。もう少し経てば気候も安定するでしょうしそれまでの辛抱かなと思って我慢するしかないですね」

「もしどこか異変を感じたらすぐに病院に行って下さいね」

「はい。お気遣い頂き有難うございます」

 俺の体調に関しては専属医である雪音さんがチェックをしているし、もし何かあれば即病院送りになるからあまり心配はしていない。ただお客様に心配をかけるのは接客業をする上で避けなければいけない事なので今後は注意しなければな。反省が終わった所で再度大量の注文が来たので急いでカクテルを作っていく。カクテルのメニュー数はお店によってかなりばらけており数十種類しか出さないお店もあれば、百種類以上を出すお店もある。俺のお店では百二十種類のカクテルメニューを用意しているが、それだけ多いと沢山出るカクテルと全くオーダーされないカクテルに分かれる。中には年に数回しかオーダーされないカクテルもあるので、ごく偶に注文が入ると嬉しくなって少しサービスしちゃうのは内緒だ。ちなみにうちではノンアルコールの商品は一切置いていない。最近は割と多くのお店で置いているが個人的にはbarはお酒を楽しむ社交場と考えているのでノンアルコールはちょっと違うかな……と思うので今後とも置くことは無いだろう。とはいえお酒を飲めない人でもbarの雰囲気を楽しめるというのはありだし、悪い事では無いのであくまでも一個人の意見として受け取ってもらいたい。

 なんて他愛も無い事を考えつつも手を動かしている内に多少客足も落ち着いてきた。これで地獄の様なラッシュも少なくなるだろう。ここで少し一息つきたいと事だがお客様が丁度カクテルを飲み終わったので話を振ってみる事にした。

「お客様。空いたグラスをお下げしますね」

「はい。お願いします。それとFine & Dandyをお願いします」

「かしこまりました」

 Fine & Dandyは程良い苦味とシトラス系の爽やかな香りが特徴で、味は甘酸っぱくて、さっぱりしている。だがアルコール度数は二十五度以上あるのでお酒に弱い方にはお勧めできない品だ。材料はドライジン、ホワイトキュラソー、レモンジュース、アンゴスチュラ・アロマティック・ビターズとなっており各材料を氷を入れたシェーカーに入れた後シェイクして完成となる。どちらかと言えば若い人向きよりもある程度年齢を重ねた大人向けと言えるカクテルだ。

 そうこうしている内に出来上がったカクテルをお客様に提供する。結構飲んでいるしこれがラストかなと思い、チェイサーも同時に提供する。この場合は悪酔い防止の為で多少二日酔いも楽になるのでもし飲みに行った際に出されたら無理の無い範囲で頂く方が良いだろう。そんな俺の配慮が分かったのか微笑みを浮かべながらお礼を言ってくれた。

「有難う御座います。――そういえば佐藤さんは演劇を見たりしますか?」

「一応昔に二回ほど観た事がありますがそれ以来見に行っていないですね。ドラマや映画は結構観ているのですが、わざわざ劇場に足を運ぶというのがどうしても足枷になっていましてなかなか……」

「それではあまり興味が無いのでしょうか?」

「そうでもないですよ。生で見る演劇は凄く刺激になりますし、劇場でしか味わえない雰囲気がありますから機会があれば行きたいですね」

「それじゃあ丁度良いタイミングだったかもしれませんね。実は私と友人で演劇を観に行く予定だったのですが、全員にどうしても外せない予定が入ってしまってチケットを余らせていたんです。もし宜しければ貰って頂けませんか?」

「大変嬉しいのですが枚数はどの位か教えて頂いても?」

「はい。丁度六枚ですね。来週末に行われる夕方から始まる回のチケットになります。座席はSS席なので観る環境はかなり良いと思いますよ」

「割と直近なんですね。――六枚だったら従業員と友達を連れて行けるので助かります。それとSS席だとかなり高かったのではないですか?」

「一枚三万円しました。ですが、値段に見合った座席ですし様々なサービスも受けられるので決して高くは無いと思います。それにキャストが全員実力派で人気がある人ばかりですから」

「一枚三万円……」

 基本的に演劇のチケットは座席のランクにもよるが一番安くて五千円前後、一番高くて一万五千円位が相場だったはずだがそれの二倍とかもはや意味不明だよ。そしてそれが六枚という事は十八万円というおいそれとは貰えない値段になる。流石にタダで貰える値段では無いので断るべきだろう。

「値段が値段なのでお気持ちは大変有り難いのですが貰う訳にはいきません」

「お気になさらずにと言いたい所ですがやはり心情的に難しいですよね」

「はい。なので一枚二万円で譲り受けるというのはどうでしょうか?」

「佐藤さんからお金を貰うのは私としては非常に心苦しいのですがそうしましょうか。ですが値段に関しては一枚五千円でお願いします。これは譲れませんからね」

 子供みたいな可愛らしい笑みを浮かべながら譲れないと強調して言われてしまったので、これ以上問答を繰り返すのは相手に失礼になるな。五千円×六で三万円か。元の値段から十五万円OFFとか出血大サービス所の話じゃないなこれは。

「分かりました。ではそれでお願いします。――支払いをしたいのですが電子マネーだと口座振り込みになるので口座を教えて貰う事になりますが大丈夫ですか?一応現金払いも出来ますのでどちらかお好きな方をお選び下さい」

「それでは現金でお願いします」

「分かりました。……千歳さん、ちょっといいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「申し訳ないんだけどリビングに置いてある俺の財布から三万円を封筒に入れて持って来て貰えませんか」

「分かりました。封筒はお店に置いてあるのを使っても大丈夫ですか?」

「問題ありません。お手数ですがよろしくお願いします」

「お任せ下さい。それでは少々外しますね」

 流石に目の前のお客様を放って自室に戻るわけにはいかないので、千歳さんに任せたが戻ってくるまでは小百合さん一人でホールを回す事になるので短時間とは言え申し訳ない気持ちで一杯だ。

 ――そう言えばこの世界に来てから現金で支払いをしたのは初めてだな。基本的に電子決済で全て済むし、今回紙の紙幣を持っていたのも偶々だからある意味で運が良かったと言えるだろう。これが俺の初体験になるのかと下らない事を考えている内に千歳さんが戻ってきて俺に封筒を手渡してくれる。

「有難う御座います。助かりました」

「お役に立てて良かったです」

 千歳さんと一言交わしてからお客様に向き直り封筒を手渡す。

「どうぞお受け取り下さい」

「はい、確かに受け取りました」

「一応中身を確認して貰っても宜しいですか?万が一金額が間違っていたら大変なので」

「分かりました。……確かに三万円入っているので大丈夫です。それにしても十数年ぶりに現金を見ましたが昔とデザインが変わったんですね」

「そうなんですか?昔の紙幣を見た事が無いので変化が分からないのですが」

「結構変わっていてこの真ん中に印刷されている肖像画は前は違う人だったんですよ。それと全体的にサイズが一回り位小さくなっていますね」

「へぇー、色々と変わっているんですね。でも財布も持たない生活をしている身としては紙幣はかなり不便で使いづらいですよね」

「確かにそうですね。電子決済の場合お財布を持たないくても良いというのもありますし、ほぼすべての事が端末で処理できるのでそれを一度知ってしまうと……と言う感じですし」

「子供達とか紙幣や硬貨を見た事が無い可能性もありますよね」

「私の友人の子供がまさにそれですね。現金は前時代的な物ですし、今では一般的にはほとんど使われませんから仕方ない面もあるとは思います」

 より便利で簡単な方を選ぶのは当然だし、古い物は淘汰されるのは至極当たり前の流れだろう。とは言え少し寂しくもあるが。こういう事を言うと老害と認定されそうだが過去を懐かしむのは悪い事では無い。問題はその考えを他人に押し付ける事だからその辺りの線引きを確りとしていないと大変な目に遭うので俺自身も若い人と話す時には注意しなければいけないな。

 ――そういえば若い人で思い出したけど今回観に行く事になった演劇に出演する人が全員実力派で人気があると言っていたが演者はそれなりに年を重ねた人ばかりなのだろうか?もしそうなら少し華が無いというか、楽しみが少し減るかもしれない。大事な問題なので聞いてみることにしよう。

「そう言えば頂いた演劇のチケットですが出演者で一押しな人はいますか?」

「何人か候補は思い浮かぶのですが、その中で一番となれば宮前透香(みやまえとうか)でしょうか。彼女は代々続く芸能人一家に生まれて幼い頃から子役として活躍していたのでその実力は折り紙付きです。ここ数年は演技の幅も広がって色々な賞を取っていますので今一番人気がある女優ですね」

「それは凄いですね。となると結構お歳を重ねているのですか?」

「いえ、まだ二十代前半だったはずですよ。幼い頃から芸能界に居るので中年くらいと間違う人が偶にいらっしゃいますが若者ですね」

「これは失礼致しました。――宮前透香さんですか。結構ドラマや映画を観ていますが残念ながら宮前さんが出演している作品は見た事がないはずなので今から演劇を観に行くのが楽しみです」

「きっと佐藤さんも楽しめると思いますよ」

 お客様の話を聞く限りハズレと言う可能性は限りなくゼロに近いし観に行って時間の無駄だったという事は多分無いだろう。しかし宮前透香さんね……。この世界の人だから滅茶苦茶美人なんだろうな。しかも女優をしているんだから一般人よりも二回り位綺麗だと予想する。パッと頭に思い浮かべてみようとしたが無理だわ。自分が想像できる範囲を超えた美人なんて思い浮かべられるわけが無いというね。という訳で本人を見てみないと何も分からないという結論に至った所で、目の前に座るお客様から会計をお願いしますという声が掛かったので小百合さんに目配せしてお会計をして貰う事に。

 お客様はお酒に強い人だから大丈夫だとは思うが、今日はアルコール度数が高いカクテルを三杯飲んでいたし少し心配だ。二日酔いは本当に辛いし、酷い場合丸一日ベッドでイモムシ状態になるから誰しもが避けたいだろうが分かっていても飲んでしまうのがお酒の怖さだな。しかも今度は絶対に節度を心掛けて飲み過ぎないようにすると強く心に誓っても、同じ事を何度も繰り返すというね。お酒には魔性の魅力があって抗う事は非常に難しいので鋼のメンタルを持っている人以外は二日酔いはお酒を飲む際のセットみたいなものだろう。お酒って怖いな~と戦々恐々としながら仕事を続ける。

 そうして閉店時間である深夜二時を迎えたので小百合さん、千歳さんと一緒に閉店作業を始める。二人とも慣れたものでテキパキと作業を進めて全て終わった後かなり遅い時間だが夜ご飯を食べる事に。三人で俺の部屋へと向かい事前に作り置いてある料理を温めてテーブルへと並べる。今日のメニューは豚の角煮と中華スープ、それとサラダとご飯です。因みに作ってくれたのは菫さんで夜に自宅に来て料理をしてくれた。

 湯気が上がる各種料理を見ながら手を合わせて頂きますをする。

「うん、美味しい。この豚の角煮ですが中華料理によくある独特の香りがありませんね」

「恐らく八角を使っていないのだと思います。中華料理では豚肉や鴨肉などの甘い香り付けによく使われるのですが苦手な人も多いので今回使わなかったのではないでしょうか」

「あー、それです八角。俺も少し香るくらいなら大丈夫なんですが強く香っていると駄目ですね。なんというかこう……食欲が減退するというか」

「分かります。ほんのり鼻孔を擽るくらいがベストであって主張する位強く香るのは料理を作る上でNGなのでその辺りを分かっていない人が作ったのかな?と疑問に思ってしまいます」

「小百合さんも千歳さんも料理上手ですから尚更そう思うのかもしれませんね」

 二人とも和洋中どれも大抵の料理は作れるからな。どれも美味しいしハズレが無い上に、非常に手際が良いので短時間で何品も作るという凄腕というね。そんなご飯を毎日作ってもらっていたらつい食べ過ぎてしまって太りそうになるがそこら辺は自制と彼女達が量を確りと管理して作っているので今の所は太ったという事は無い。もし肥満体型になっても嫌われないとは思うが果たしてそんな体たらくで美しい女性の傍に立っていても良いのだろうか?答えは断じて否だ。だからこそ常に体型管理と自己管理をしなければいけない。

 ――ご飯を食べながら考える事では無いかもしれないが、気を付けるべき事柄なので良しとしよう。……そういえば話は変わるが今のうちに二人に来週演劇を観に行かないか千歳さんと小百合さんに聞いてみよう。

「今日お客様から演劇のチケットを貰ったのですが良かったら一緒に観に行きませんか?来週末の夕方から始まる回なのですが」

「勿論ご一緒させて頂きます」

「私も予定は空いているので是非お願いします」

「分かりました。丁度チケットが六枚あるので雪音さん達も誘おうと思っています。もし予定があったりで駄目そうなら残念ですが行ける人だけでと言う感じになります」

「彼女達でしたら仮に予定が入っていたとしても、キャンセルして拓真さんのお誘いに応じると思うのでご心配は杞憂だと思いますよ」

「そうだと良いのですが」

 先に入っている予定を態々キャンセルして俺の方に来ると言うのは嬉しいが、申し訳なくもあるので無理はしないで欲しい所である。相手にとっては先に予定を入れていたのは私なのにキャンセルとか最悪となりかねないし、そうなれば関係に罅が入る事もあるからな。一度悪化した人間関係を修復するのは物凄く大変だし、どうしてもしこりが残ってしまうので何としても避けたい事柄だ。

 雪音さん達三人にどうか予定が入っていませんようにと願いながら食事を進めていると、千歳さんから声を掛けられる。

「チケットの代金を後でお支払いしますのでお幾らか教えて貰っても宜しいですか?」

「いえ、お金は結構です。普段お世話になっているのでお返しという事で」

「有難う御座います。凄く嬉しいです。ですがお世話になっているのはこちらの方ですよ。拓真さんには一生を掛けても返しきれない御恩がありますし」

「そうですね。私も千歳さんと同じです。拓真さんに生涯を掛けて尽くしても足りない程のものを貰っていますから。少しでも返せればいいのですが、貰ってばかりで本当に申し訳ないです」

「それを言うなら俺の方こそお二人には感謝していますし色々な物を沢山もらっていますよ。毎日がこんなに色付いているのも二人と出会えたからですし」

 俺の言葉に小百合さんと千歳さんの頬に雫が流れ落ちる。それは悲しみから流れる涙では無く嬉しさが心を満たしたから流れる涙だろう。その姿を見て俺の涙腺も緩くなるがグッと堪える。男が涙を見せるのは格好良くないからな。何よりも彼女達を心配させたくないし。

 そうして二人が泣き止んだ後改めて声を掛ける。

「少し落ち着きましたか?」

「はい。みっともない姿をお見せしてしまい申し訳ありません」

「いえ、そんな事は無いですよ。感情を無理に押さえつけるのは精神的に良くありませんし、何より二人共泣いていてもとても美しいという事が分かりましたから」

「ふふっ、有難う御座います。そう言って頂けると少しだけ涙を見せて良かったと思えます」

 さっき言った事はお世辞でもなんでもなく本心だ。本当の美人は喜怒哀楽どの感情を見せても美しさが変わらない、場合によっては更に増すというのは衝撃的な事実だよ。これがそんじょそこらの美人程度なら何も変わらないし、思う事も無いだろう。人間を超越した美を備えているからこそと言える。

 というかこんなジゴロみたいな事を自然と口にしていた自分に今更ながらちょっとビックリしているんだが。俺がいた世界ではたとえ酔っぱらってしつこく絡んで来るお客様にも言った事が無かったのに、人間変わるものだな。そんな事を考えつつ食事を再開して美味しいご飯に舌鼓を打つ。

「お二人共今日はご飯を食べたら帰りますか?」

「特に予定も無いので明け方まで居ようかと思います。帰りはいつも通りタクシーを呼んで帰ります」

「私も小百合さんと同じく明け方か朝まで居ようかなと思っています」

「分かりました。それじゃあ時間までゆっくりお話でもしながら過ごしましょうか」

「「はい」」

 こうして二人が帰るまで楽しい時間を過ごすのだった。

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