第四十四話
今日は久し振りに幼女三人組が店舗兼自宅に遊びに来るためお菓子を用意したり、飲み物を用意したりしている。前回来た時は店舗の方で遊んだが今回は自宅の方へ来ることになっている。予定では十五時に来るので以前の俺であれば掃除をしたり、見られたらマズい物を隠したりしていたのだが今は違う。毎日女性達が掃除をしてくれているし、エロ関係は厳重にデータで保管しているので問題無い。誰がいつ来ても対応できる完璧な状態なので例え幼女に部屋を漁られても痛くも痒くもないのだ。
あまりにも下らない思考に残念過ぎるだろ俺……と自己嫌悪に陥りかけていた時ピンポーンとインターホンが鳴ったのですぐに対応する。相手は幼女三人とお母さん達だったのですぐに玄関へと行きリビングへ通すと、元気一杯に子供達が腰回りに抱き付いてくる。
「おぉっと。今日も元気そうで何よりだ」
「えへへ~、おとうさんのにおいがする~」
「おとうさんだいすき!」
「ううぅ~、おとうさんとやっとあえた」
美穂・凛・友香の順に嬉しさを滲ませながら声を上げる。大好きだったり、やっと会えたと言われるのは俺も嬉しいが美穂に臭いを嗅がれるのはちょっと困るかな。まだ二十代半ばだから加齢臭はしないはず。それに体臭には気を付けているから変な臭いはしないはずだけど大丈夫だよな?不安が押し寄せるが子供達の顔を見ると恍惚としているので悪臭は放っていない様だ。……幼稚園児が成人男性に抱き付いて恍惚とした表情を浮かべているとか事案どころか即逮捕レベルの光景だがお母さん達が何も言ってこないので多分問題無いはず。でもいつまでもこのままという訳にもいかないので一旦引き離すことにしよう。
「お母さん達もこんにちは。今日はよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。あの、つまらない物ですがよろしければ召し上がって下さい」
「わざわざ有難うございます」
「いえ、お気になさらずに。――ほら、皆も何時までも佐藤さんに抱き付いていないで離れなさい」
「「「え~」」」
「佐藤さんのご迷惑になるでしょう。ほら、早くしなさい」
お母さんに窘められて渋々と言った体で幼女達が離れていく。俺が言おうと思っていたが、気を使ってかお母さんが先に動いてくれたので助かった。
「今飲み物とお菓子を持ってくるので少々お待ち下さい」
「何かお手伝いいたしましょうか?」
「いえ、お気持ちだけで大丈夫です。用意している物を持ってくるだけですから」
そう言ってからキッチンへと向かいコップとペットボトルのジュースやお茶、それとお菓子を持って戻る。それぞれ座っている席にコップを置きまずは子供達に何を飲みたいか聞いてみる事にした。
「美穂達はジュースは何が良い?」
「わたしはオレンジジュース」
「えっとね~、アップルジュースがいい」
「コーラにする~」
見事にリクエストが分かれたが、それぞれのコップに飲み物を注いだ後は、お母さん達にも聞く。一応大人用に緑茶と紅茶、炭酸水を用意したが三人揃って緑茶を選んだ。ここは子供達とは真逆だなとすこしおかしくなりつつ飲み物を注ぎ終わった後、俺も椅子に座り紅茶をコップに入れていく。
「それじゃあ乾杯」
紅茶を一口飲んでみたが普段飲んでいる物とは味も風味もかなり落ちる。ペットボトルの紅茶なんだから当たり前だが、昔であればそんな事を思わなかったんだよな。この世界に来て俺の味覚もかなり鋭くなったと喜ぶべきか、安物では満足できなくなったと嘆くべきか……。
少し思案に耽っていると、隣でニコニコしながらお菓子を食べている幼女達が目に入る。スーパーに売っているチョコやポテチを美味しそうに頬張っている姿を見ると先程まで考えていた事は意味が無いなと気付かされた。安物だろうが高級品だろうが美味しい物は美味しいしそれでいいではないか。大事なのは美味しい物を食べて幸せな気持ちになれるかなのだから。
新たな気付きを与えてくれた子供達に感謝を込めて頭を撫でてあげる。
「おとうさんのなでなできもちいい~」
「えへへ~、もっとして~」
「んんっ、てがおおきくてあたたかい」
お菓子を食べる手を止めて微笑みを浮かべながら気持ちよさそうにしている。やばい、滅茶苦茶可愛いんだが。実の子供では無いけど父性が刺激されるし守ってあげたくなる。よしよしと三人の頭を撫でているとお母さん達が微笑ましい表情で俺を見ている事に気が付いた。
「もし父親がいればこういう光景を見られたのでしょうね」
「本当ね。子供に優しい笑みを浮かべながら接してくれるんですから、素晴らしいです」
「父親がいるというのはそれだけで尊いですからね」
ほぼすべての子供達が母子家庭の世界だから確かに疑似的な物とは言え父親的存在と一緒に過ごすというのはとても貴重なのだろう。それが凛達にどの様な影響を与えるのかは分からないが、悪影響は与えないと思う。でも知らず知らずのうちに教育に良くない事をしているかもしれないから、その時はお母さん達に注意して貰おう。
「まだまだ寒い日が続いていますが体調を崩したりなどはしていませんか?」
「私達は風邪を引いたり、体調を崩したりという事はありませんが友香が先月風邪を引いてしまって数日寝込んでしまいました」
「大丈夫だったんですか?子供の風邪は重症になる可能性が高いと聞きますし」
「すぐに病院に行ってお薬を貰ったので大事には至らなかったです。医療用ナノマシンを体内に入れているので滅多に体調を崩さないはずなのですが、お医者様に調べてもらった結果ナノマシンの自己メンテナンス中に菌が悪さをしたのではないかという事でした」
「そうなんですね。物凄い低確率で起こる可能性を引き当ててしまったと……。今は友香も元気そうですし、よかったですが今後も同じ事が起きないか心配ですね」
「それについてはお医者様に新しい医療用ナノマシンを入れて貰いましたので大丈夫だと思います」
「でしたら安心ですね」
幾ら医療が発達していようが病気や怪我などを完全に防ぐことは出来ない。ある程度は予防できるが今回の様に偶然が重なった結果病気になる事もあるのだから難しいよな。俺も定期健診を受けていて毎回健康と言われているが季節の変わり目とかは少し体調が悪くなったりもするし、そこら辺はこの世界でもまだ対処出来ていないのだろう。それでも俺がいた世界とは医療技術が雲泥の差だし、平均寿命もかなり延びているのでどちらが良いか?と問われれば間違いなくこちらの世界の方と答えるだろう。俺も何時までも健康で若々しくありたいものだとしみじみと思っているとクイッ、クイッと服の裾を引っ張られる感触がしたのでそちらの方を見てみると凛がチョコパイをこちらに差し出していた。
「俺にくれるのかな?」
「うん。おいしいからおとうさんにもたべてほしいの」
「有難う。それじゃあ貰うね」
「あのね、あ~んしてあげる」
「おっ、そうか。それじゃああ~ん」
凛の小さい手が俺の口元まで伸びてチョコパイを食べさせてくれる。なんとも微笑ましいし、子供ならではの純真無垢な感情が伝わってきて心がほっこりする。毎日仕事で疲れて摩耗した心を癒してくれるようで幸せを感じるな。大人の女性にされたら色気や愛情を感じてしまうが子供では全く違うのだなと新たに知ることが出来た。
――そこで話が終われば良かったのだが凛に続いて美穂と友香、更にはお母さん達も同じ事をしたいと言って来て結局全員からあ~んをされてしまったよ。菫さん達に知られたらお小言を言われそうだが甘んじて受け入れる所存である。
お茶を飲みながら他愛無い話で盛り上がっていると美穂が何やらもじもじとしているのに気が付く。お腹でも痛いのだろうかと心配になり声を掛けてみる。
「美穂。どこか調子が悪いの?」
「えっとね……おしっこにいきたいの」
「そっか。トイレは廊下に出て右側のドアにあるから行って来なさい」
「うぅ~、おとうさんもいっしょにきて」
今まで何度か幼女のトイレを手伝った事があるが、美穂達も来年には小学校に上がるんだし流石に教育上良くないのではと思いお母さんに視線を送ってみる。すると申し訳なさそうな表情で頭を下げながらこう言ってきた。
「大変申し訳ないのですが、お願いできないでしょうか?」
「分かりました。それじゃあ美穂、トイレに行こうか」
「うん」
美穂と連れ立ってトイレに行き色々と手伝ってあげたが、最初と違い慣れた手つきになっていたのに自分でも驚いてしまった。サッとスカートとパンツを下ろして便座に座らせて、おしっこをさせたあと股をトイレットペーパーで拭き再びパンツとスカート履かせる。この手順を僅か一分少々で熟してしまうとかある意味で変態の所業だ。しかも相手は幼女。……まあ小さい子供だし、成人女性にしてあげている訳では無いから大丈夫だろ。たぶん、きっと、おそらく。
無事トイレを済ませてリビングに戻ると凛と友香の姿が見えない。どこに行ったのだろうと部屋の中を見回してみるとソファの上で寝転がっているではないか。
「美穂もソファで寝転がる?」
「うん。わたしもいくね」
結構大きいソファなので幼女三人が寝転んでも余裕があるので転げ落ちたりはしないだろうが、注意深く見守っておく必要があるな。自分の席で紅茶を飲みながらキャッキャッしてる子供達を見つつ、お母さん達と雑談でもしよう。
そうして二十分ほど経ち子供達のはしゃぎ声が落ち着いたのを感じて視線を向けると何故かパンツ一枚でソファに座っていた。――何を言っているのか分からないと思うが俺も分からない。何がどうなったら服を脱ぎ捨てる事になったのか、そしてなぜパンツ一枚で座っているのか……。この難問はかのシャーロックホームズでも解決する事は困難だろう。
少しの間訳が分からず思考が取っ散らかってしまったが、冷静にならなければ。まずは服を着せる事が先決だな。
「三人ともまずは服を着ようね。裸だと風邪を引いちゃうからね」
「「「はーい」」」
元気よく返事をした後いそいそと服を着始める。その後なぜこうなったのかを聞いてみたら想像の斜め上の返答が返ってきた。
「ともかちゃんのうわぎがひっかかってぬげちゃったの。それでわたしたちもまねしたんだ」
「そっか。でも風邪を引いちゃうから服は脱いじゃ駄目だよ。それに男性がいる前でパンツ一枚になるのははしたないから止めた方が良いね」
「おとうさんにならはだかをみられてもへいきだよ?」
「えーと……、立派な淑女になるには例え俺でも見せちゃ駄目なんだよ。そういうのは将来好きになった男性に見せるべきだからね」
「おとうさんのことだいすきだからだいじょうぶ」
幼稚園児位だと羞恥心や恋心というものを理解していないから仕方ない部分もあるが、どう説明すれば納得してくれるだろうか?――にっちもさっちもいかずに助けを求めてお母さん達の方へと視線を送るとすぐに理解してくれて子供達に説明してくれる。こういう時男だと色々と難しい所があるが、流石は母親と言った感じで凄く分かり易く理由を説明していたのには驚いた。こういう場合こうすれば良いのかと将来自分に子供が出来た時に予習になったのでとても有難い限りである。
良い勉強になったし今後同じような事が起きたらお母さんと似たような対応を取れば大丈夫だろうと考えていると服を着終えた子供達が戻ってきてお菓子を食べ始める。それを見てからお母さん達に話しかける。
「子供って大人が予測できない行動を取るので大変ですね。正直今回位の事であれば問題無いですが、例えばコンセントに触って怪我をしたり、火の元に近づいて火傷をしたりする可能性を考えると常に見ていなければいけないでしょうし」
「確かにそうですね。私達が予期できない行動をしたり、色々なものに興味を持ってしまいますから小学校に上がるくらいの年齢になるまでは苦労します」
「教育上何をするにも駄目だと叱る訳にもいきませんからね。一度言ったら理解してくれてもうしなくなれば良いのですが難しいでしょうし……。そう考えると自分にもいつか子供が出来た時に確りと育てられるか不安です」
「それに関しては奥様と協力して少しづつ学んでいくしかないですね。誰でも親になるのは初めてですし一歩一歩進んで行くしかないと思いますよ。あとは親や周りの子供がいる人に教えて貰うというのも大切です。先達の知恵や経験と言うのは何ものにも代えがたいものですから」
「確かにそうですね。何でも自分だけでどうにかしようとせずに他の人に力を貸して貰えれば大きく変わりますし、自分自身の成長にも繋がりますね」
誰の力も借りずに独力でどうにかしようとしても必ずどこかで躓いてしまう。その結果停滞が続き最後にはどうにも出来ずに破綻してしまうだろう。それが自分自身に降りかかるなら当然の結果として受け入れるが、子供や妻にまで被害が及んでしまうとなれば話は別だ。他人の力を借りるというのは恥では無いし、忌避するような事でもない。自分の事だけでなく家族の事も考えて大局的に物事を捉え、考えなければいけないという事がお母さんと話していて理解出来た。
とはいえ俺が結婚して子供が出来るのはまだまだ先の話だし、そもそもの前提として彼女を作らなければお話にならないというね……。現状を改めて認識したら寂しくなってしまうな。――そんな心情が顔に出ていたのか子供達が心配そうな表情で俺に声を掛けてくる。
「おとうさん、かなしいの?」
「うん、考え事をしていたら少し悲しい気持ちになってしまったんだ。心配を掛けてごめんね」
「それじゃあわたしがかなしくないようになでなでしてあげるね」
「ずるい。わたしもする」
「なでなでしておとうさんをげんきにしてあげなきゃ」
子供らしい純粋な厚意に心が暖かくなる。だが小さい子に心配をかける時点で駄目だし、大人としてもっと確りとしなければと思うが今この時だけは素直に頭を撫でてもらうことにしよう。腰を曲げてから頭を下げて撫でやすいように態勢を整えると小さい手がそっと頭に置かれる。まるで壊れ物を扱うような優しい手つきがとても心地いい。
三人が順番に俺の頭を撫で終えた所で再び姿勢を戻し子供達にお礼を言う。
「有難うね。お蔭で元気が出たよ」
「「「おとうさんがげんきになってよかった!」」」
満面の笑みで言われて俺も笑顔を浮かべる。本当にこの子達はどこまでも可愛いし、つい自分の子供の様に思ってしまう。ふとしたきっかけで出会い、縁を結んで今も続いている訳だが何時までもこうして笑いあえたらいいなと願う。とはいえ友香達が小学校に上がれば交友範囲や行動範囲も広がり今みたいにそこそこの頻度で遊ぶというのは無くなるのだろうが……。少し寂しくもあるがそれが成長であり、大人へと向かって行く途中なのだと思うと受け入れなくてはいけない。
――そんな思いもあるが今は未来の事よりもこの瞬間を楽しむべきだな。よし、美穂達もお菓子を食べ始めているし俺もポテチでも食べるかな。そういえばポテチと言えば様々な種類の味があるがどれが好きだろうか?俺は昔販売されていたガーリック味が大好きなのだが今はもう売っていないのが凄く残念だ。袋を開けた瞬間に空間全体を満たすガーリックの強烈な香りと食べた時にガツンと来る味が大好きで二日に一度は食べていたが、あまりにも人気が無かったのか数ヶ月で姿を消してしまったある意味で伝説の商品である。正直女性は絶対に食べないだろうし、男でも好みは真っ二つに分かれるだろうが俺は大好きなので再販を強く希望する……んだけどこの世界ではどのみち無理だし諦めるしかないか。
因みに今食べているのはのりしおで定番中の定番で嫌いな人は少ないんじゃないだろうか。確かに美味しい事は美味しいんだけどどうしてもパンチ不足が否めない。
「辛しマヨネーズにつければいい感じになるかもしれないな」
「おとうさん、からしマヨネーズってなに?」
「マヨネーズに唐辛子を混ぜた物で少し辛いから凛にはまだ早いかな」
「わたしもからくてもたべられるもん」
「そっか。じゃあ今持ってくるから一度試してみようか」
「うん」
椅子から立ち上がり冷蔵庫に向かうと小皿にマヨネーズと唐辛子を投入。そしてスプーンで軽く混ぜるとはい出来上がり。一応子供達でも食べられるように唐辛子の量はかなり控えめにしているが果たして食べられるだろうか?もし無理そうなら普通のマヨネーズを用意すればいいか。
「はい、持って来たよ。取り合えず沢山つけずに少しだけにしとこうね」
「わかった~。……それじゃあいただきます」
のりしお味のポテチに辛しマヨネーズをつけてパクッと一口食べた後の第一声がこれだった。
「からくてしょっぱいけどおいしい」
「おぉ、そうか。口に合ったようで良かったよ。美穂と友香も試してみるかい?」
「「うん」」
興味津々と言って感じで二人が返事をするとさっそく食べ始めるが、どうにも反応が良くない。あまり美味しくなかったのだろうかと思い感想を聞いてみる事にした。
「二人ともあんまり美味しくなかった?」
「したがぴりぴりするからわたしはあんまりすきじゃないかも」
「からいからふつうにたべるほうがわたしはすき~」
「そっか。それじゃあ美穂と友香は何もつけずに食べよう」
「からいのがおいしいのに……」
凛の少し寂しげな声が最後に聞こえたがこればっかりは好みだからな。大人でも辛いのが苦手な人はいるし、そもそもマヨネーズが嫌いと言う人も少数だがいる。大人になれば味覚も変わって好きになるかもしれないが、幼稚園児では辛しマヨネーズが好きと言う子は極々少数だろう。そのなかに凛が含まれるわけだが、仲間が誰もいないというのは寂しいし俺も一緒に食べよう。
久し振りにお菓子を食べたが中々にジャンク感があり、食べる手が止まらない。最近は殆どお菓子を食べないが偶にはこうして貪るのも悪くない。――そういえば雪音さん達は料理は一通り作れるがお菓子はどうなのだろうか?必要な技術や道具なんかも料理とお菓子作りでは全く別物だし、一切作れないという可能性も無きにしも非ず。それに自分で作るよりもお店で買った方が早いし美味しいから俺が居た世界でも自分でお菓子を作りますと言う人は数人しかいなかったな。興味があるし今度会った時にでも聞いてみよう。もし作れるなら一緒にお菓子作りとか出来るし、家だとやれる事が限られるから結構いい案かもしれない。
コンソメ味のポテチを食べながらそんな事を考えていると、ふと思い出した。そう言えば最初の方にお母さん達から手土産を貰ったんだった。中を確認した所ケーキだったので、今出して皆で食べるか。
再び冷蔵庫へと向かい箱に入ったケーキを持ってくる。
「お母さん達から頂いたケーキを頂こうと思うのですが、どの種類が良いですか?」
「それではイチゴのショートケーキでお願いします」
「私も同じのでお願いします」
「チョコレートケーキにしますね」
お母さん達は定番であり、人気No1を争う二種類をチョイス。そして子供たちはと言えば二人がシュークリームを選び、一人がモンブランを選んだ。俺は最後に余ったモンブランを食べる事に。
「それじゃあ頂きます。――んっ、美味しい」
「お口に合ったようで良かったです」
「いや~、本当に美味しいですね。季節的に栗の収穫時期が過ぎているので味が落ちるだろうなと思っていたんですが、風味も良くて栗の甘さがとても良いです」
「ふふっ、もしよろしければ購入したお店をお教えしましょうか?」
「是非お願いします。今度個人的に買いに行きたいので」
お客さんが家に来た時にお出しできる最高のお菓子だし、何より俺の好みにバッチリ合っているというのが大きい。普段お世話になっているお礼も込めて今度菫さん達にも買ってきてご馳走しよう。喜んでくれると良いなと思いながら楽しい時間は夜の帳が降りるまで続くのだった。




