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第四十二話

 まだまだ寒い日が続く今日この頃。皆さんはどのようにお過ごしだろうか?降雪地帯に住んでいるのであれば毎日雪かきに追われている事だろうし、雪が降らない地域に住んでいても家の中でぬくぬくとして外出しないという人も多いと思う。俺は店舗兼住居に住んでいるので通勤時間が無いのでかなり楽だが夕方にお店の方に行くと暖房が入っていない為物凄く寒い。室内が暖まるまでの間かじかんだ手を擦り合わせて温めながら開店作業をしているが、まあ辛い。お手伝いをしてくれている桜ちゃんも身体を動かしていないと寒いのか店内の掃除などを率先してやってくれる。早く暖かくならないかなと思うが、天気予報によると来月まで冬型の気圧配置となるみたいで春の来訪を告げるのはまだ先になりそうだ。思わずはぁ~と溜息が漏れてしまうが冬ならではの楽しみ方もあるにはある。例えば温泉に行ったりウィンタースポーツを楽しんだりと冬を楽しみにしている人も居る事だろう。雪見温泉とか一度は行ってみたいがこの世界では気軽に旅行には行けない。必ず同伴者が必要になるし、数日間旅館やホテルに泊まる事になるので近親者か配偶者、又は恋人と行く事になる。そうなると一人身の俺としてはどうしようも出来ないし、もし強引に一人旅を決行しようとしても女性達から物凄く心配されるし阻止されるだろう。

 ――温泉行きたいな~とぼんやりネットを見つつ考えているとあるサイトが目に入った。興味が湧いたのでHPを開いてみると様々な入浴施設の紹介と、〇月〇日グランドオープンの文字が載っている。なんでも二ヶ月前にオープンしたスーパー銭湯らしい。最新の設備と様々な施設がテナントと入っていて一日中遊べるし、二十四時間オープンなので好きな時間に行けるというのも有難い。ただ、源泉かけ流しでは無く温泉かけ流しなのが気になるな。この二つの違いは説明すると結構面倒なので興味があれば調べてみると良いだろう。どちらも源泉を使用してる点については同じなので効能が変わる訳では無いからそこまで神経質になる必要もないのだが、やはり温泉=源泉かけ流しというイメージがあるのでうーん……となってしまう。

 何れは有名な温泉地に行きたいが、当分は我慢するしかない。変わりと言っては何だが良い感じのスーパー銭湯が見つかったし皆を誘って行ってみようかな。思い立ったが吉日という事で早速端末を手に取り皆にこの前オープンしたスーパー銭湯に行きませんか?というお誘いをしてみる。

 五分も経たずに全員からOKですという返答が来た。次はそれぞれ学校や仕事があるので全員の都合が良い日を決めなければいけない。何度かスケジュール調整をした結果再来週の土曜日に行く事となった。そうして日々を過ごしていき、いよいよ当日。目的地は俺の住んでいる所から車で三十分程なのでタクシーを使って行く事に。車内で他愛ない話をしているとあっという間に着いて車から降りると立派な外観の建物が出迎えてくれる。

「滅茶苦茶大きいですね。これだけ凄いと中がどうなっているのか楽しみです」

「様々な施設があるみたいですし、お風呂に関しても十数種類あって来店客からも好評を得ているらしいですよ」

「そうなんですね。それだけ沢山あったら一日居ても全部入るのは無理そうです。それに他の場所を見たりしていたら尚更無理そうですね」

「今回キリという訳では無いですしまた来た時に色々とまだ見ていない場所を見てみましょう」

「ですね」

 雪音さんと話しつつ建物へと入ると靴をロッカーに仕舞い、その足で受付へと行く。銀行の窓口のような形で幾つもの受付口がありどこも人が並んでいて少し待つ事になりそうだ。無言で待っているのも暇だし適当に話でもして時間を潰すか。

「そう言えば皆さんは銭湯に行ったりするんですか?」

「近所に無いので行く機会はほぼ皆無ですね」

「私も雪音と同じです」

「子供の頃に何回か行ったきりです」

「私は銭湯に来たのは初めてなので少し緊張しています」

「友達と一度だけ行った事がありますが、こういう大きい施設は初めてです」

 雪音さん、菫さん、小百合さん、千歳さん、桜ちゃんの順で答えてくれたが初めてなのは千歳さんだけで、他の面々は数回行った事があるがそれ以来機会が無いという感じか。

「俺もこう言った大型入浴施設は初めてなので楽しみ半分、緊張半分と言った所ですね。でも普段家で入る風呂とは全然違うと思うので堪能したいと思います」

「ふふっ、そうですね。お家のお風呂とは何もかも違うでしょうし、色々なお湯を楽しみたいです」

「確かにそうですね。ただついつい長湯をして逆上せないようにだけは注意しなければいけないですけど」

 お湯巡りをして気が付けばかなり長い時間風呂に入っていた結果脱水症状になったり、逆上せて倒れてしまうなんて事件が偶にあるから本当に注意しなければいけない。こまめな水分補給と休憩は必須だし万が一があれば各方面に多大な迷惑を掛けてしまうから常に頭に入れておかねばな。注意事項を改めて頭に叩き込んだ所で俺達の順番が回ってきたので受付へと行き入浴料を支払う。その際色々と説明を受けたのだが最後に受付の人が神妙な顔で俺へと爆弾を投げかけてきた。

「最後になりますが、当入浴施設には混浴露天風呂が御座います。こちらは男性と同伴者のみが利用可能で許可が無い人は入れない仕様となっております。利用料金は無料となっています。また利用時間に関しては一組一時間の制限があります。お客様は今回ご利用になりますか?」

「質問なのですが混浴露天風呂を利用する際は水着着用が必須とかでしょうか?」

「いえ、必要ありません」

「そうですか。……どうしますか?」

 俺としては大歓迎なんだけど女性達はどうなのだろうか?と思い聞いてみた。男なら別に裸を見られたところで恥ずかしくも無いし問題無いんだけど、女性の場合はそうはいかない。男性に裸を見られるなんて羞恥心で死にそうになるとか、わざわざ好き好んで混浴なんてしたくない!という人が多数派だろう。一応ダメもとで聞いた結果は果たして意外なものだった。

「私達は是非お願いしたいですが、拓真さんはお嫌では無いですか?」

「全く嫌では無いですし、こちらこそ是非お願いしたいです」

「それでは何も問題はありませんね」

 微笑みを浮かべながら何も問題は無いという菫さんに感謝しかない。前言撤回される前に手続きをしなければとすぐに受付へと向き直る。

「混浴露天風呂を利用させていただきます」

「分かりました。――ではこちらが露天風呂へと続く通路に設けられている扉の鍵になります。鍵はお帰りになる際に受付へとお戻し下さい」

「分かりました。有難う御座います」

 六人分の鍵を貰ってそれぞれに手渡していく。これで夢の混浴が実現する訳だ。こんな事態になるなんて全く予想していなかったが本当に最高だ。神は俺を見放してはいなかった。心の中で居るかも分からない神様に祈りを捧げた後お風呂へと向かう事になった。

 お風呂への入り口は受付から歩いて数分の所にあり、ホログラムで女性用と大きく映し出されている。そう、女性用しかないのだ。あれ?男性用はどこにあるの?と辺りを見回してみたがどこにも無い。当たり前に男風呂があると思っていたがもしかして無いのだろうか?――いや、それなら混浴云々の話は出てこないはずだし……。さてどうしようかと思っていると小百合さんが話しかけてきた。

「拓真さん。男性用の入り口はこの通路を進んで左に曲がった所にあるみたいです」

「あっ、そうなんですね。てっきり男女で入り口が隣接しているとばかり思っていたので全然分かりませんでした。ではここでお別れですね」

「はい。それでは三十分後に露天風呂で待っていますね」

「よろしくお願いします」

 話し終わった後女性陣と別れて男湯へと向かう。脱衣所へ入るとさっさと服を脱ぎロッカーへと押し込み、タオルを持ったらお風呂へGO。むあっとした湯気で一瞬視界が奪われるがすぐに元に戻ったので周囲を見渡してみたんだが誰もいない。当然と言えばそうなんだけどこんなだだっ広い風呂で俺一人とか寂しすぎる。もしかしたら誰かいるのかなと少しだけ期待していたが見事に打ち砕かれた格好だ。というかほぼ男性が来る可能性が皆無なのにこんなに広い男風呂を作る意味があるのだろうか?適当に室内風呂を少し大きくした程度で良いんじゃないかな。掃除も大変だし、ランニングコストは嵩むしハッキリ言って無駄だと思うが……。俺には分からない理由があるのかもしれないが分からないな。

 まあ考えても無駄な事に時間を割いても仕方ないし風呂に入るか。

 入浴する前にまずは頭や身体を洗う。偶にお湯を掛けただけで湯船に入る人が居るが汚いので止めた方が良いし、入浴した後に身体を洗うとお湯の有効成分を洗い流す事になるので非常に勿体ない。なので必ず身体を洗ってから入りましょうと誰にともなく言いながら綺麗にしていく。

 ――しっかり身体を洗った後はいよいよ湯船に突入だ。最初に選んだのは炭酸風呂。シュワシュワが心地良くて凄くリラックスできる。炭酸泉の効果・効能は疲労回復、血行促進、腰痛や肩こりの改善等で数回に分けて入るとさらに効果が見込めるとボードに書いてある。立ちっぱなしの仕事なので足腰に疲労が溜まりやすいのでこの効果は有難い。

 ふぃ~とおじさん臭い台詞がつい口を突いて出てしまうが、気持ち良いのだから仕方ない。十分程お湯に浸かったので一旦上がり次に向かったのはラジウム泉だ。微量の放射能を含んでいる為危険と勘違いしている人もいるが、微量の放射能は人体に良い影響を与えることが実証されているので安心して欲しい。とはいえ幾ら安全だと言っても忌避感を示す人も居るだろうしその場合は無理に入ることは無い。ちなみに臭いも無く、色も無色透明なのでパッと見は普通のお湯に見えるので注意が必要だ。

 という事で早速湯に浸かってみる。……うーん、特に言う事は無いな。シュワシュワもしていないし、湯がトロミをおびている訳でも無いしただのお湯だ。取り合えずこちらも十分程入ってから上がるか。そうして十分に温まった所で上がり時計を見ると露天風呂に行く時間まであと少しとなっていたので急いで向かう事にした。

 この先混浴露天風呂とプレートに書かれているドアを開け通路を歩くと開けた場所に大きな露天風呂が目に入ってくる。女性陣はもう来ているのかなと周囲を見渡してみたが誰もいなかったので申し訳ないが先に入ることにしよう。肌を刺す冷たい空気で冷えた身体が熱い湯によって一気に温まる感覚は露天ならではだろう。これで雪でも降っていれば風情があって最高なんだが生憎と今日は晴天なので空を睨みながら悪態をつきそうになった所でキィッと扉が開く音が響く。視線を音の鳴った方へ向けるとバスタオルを巻いた女性達がこちらへ向かって歩いてくる。

「お待たせしてすみません」

「いえ、俺もついさっき来た所ですからお気になさらずに」

 返事をしつつ視線は彼女達の肢体から離れない。バスタオル越しでも分かる大きな胸、くびれた腰、スラッと伸びる長くて細い綺麗な脚。正に神が作りたもうた芸術作品と言っても過言では無い程完璧なプロポーションだ。男であれ女であれここまで素晴らしい身体を目の前にしたのであれば絶対に凝視するだろう。――だがそれは見ている側の意見であり、見られている側は別だ。余りにもジッと見ていたせいか雪音さんが不安そうな声で問いかけてきた。

「あの、どこか変だったでしょうか?もしご不快であれば戻るので仰って下さい」

「いえ、あまりにも綺麗だったので見惚れていただけです。服の上からでもスタイルが良いのは分かっていましたが、こうしてバスタオル一枚だとより際立つと言うか……綺麗です」

「あ、有難う御座います」

「寒いですしどうぞ湯に浸かって下さい」

「はい、失礼します」

 顔を真っ赤にした女性達が静々とお風呂に入ってくる。てっきり少し距離を空けて座るのかなと思っていたが、なんと俺の左右に桜ちゃんと菫さんが座り、前に雪音さんと小百合さん、そして千歳さんが座った為三方が女性に囲まれている格好になってしまった。どこからどう見てもハーレム野郎だなこれは。しかもお湯がにごり湯では無く無色透明なので素晴らしい身体を余す事無く見ることが出来るというある意味で視線のやり場に困るこの状況。果たして俺は理性を保てるのだろうか?

「こうして女性と一緒にお風呂に入ったのは小さい子供の頃以来なので緊張してしまいますね」

「お母様と一緒に入っていたのですか?」

「はい。小学校に上がるまでは母親と一緒に入っていました」

「それは羨ましいですね。もし私に拓真さんの様な素敵な子供がいれば何歳になっても一緒に入ると思います」

「流石に年頃になると難しいと思いますよ。恥ずかしさだったり、男女の性差を認識したりするので嫌がられるかと」

「うぅっ、男の子って難しいんですね」

 小百合さんと話していて思ったが子供に向ける愛情が重い。この世界の事を考えれば当然なのかもしれないが過保護&激重愛情で性根がひん曲がった子供になりそうで怖い。何時か俺に子供が出来た時は上手い事軌道修正しなければ駄目だな。――彼女もいないのに何言ってんだこいつって思われそうだけど事前に対策を練っておくのは大切だからな。

 将来について考えつつも、視線はお湯にぷかりと浮かぶおっぱいやタオルで隠された部分と太股の絶対領域に囚われている。少し脚を上げれば秘所が見えてしまうというドキドキ感とたわわに実ったお椀型の胸に誰が勝てるというのだろうか?男の理想を体現したスタイルに男の理性など勝てるはずが無い。しかも無意識だと思うが腕を胸下で組んで谷間が凄い事になっていたり、脚を組み替えたりとあまりにも高い殺意を孕んだ攻撃が休むことなく続くのだから俺のHPはゼロに近い。そんな状態で雪音さんからとんでもない爆弾が投下された。

「もしよろしければ胸を触ってみますか?」

「…………。Why?」

 雪音さんの言葉に一瞬頭の中が真っ白になって訳の分からない言葉が口から零れてしまったよ。もしかしたら俺の耳がイカレたかもしれないので、確認の為もう一度聞いてみることにしよう。

「すみません。もう一度言ってもらってもいいですか?」

「もしよろしければ胸を触ってみますか?」

 ……うん、聞き間違いじゃなかった。『胸を触ってみますか?』ってそりゃあ触るどころか揉みしだきたいし、なんなら顔を埋めたり舐めたりしたいけど他にも女性が居るし駄目だろう。目の前で乳繰り合う光景を見せられて良い気持ちになんてならないからな。ちらりと菫さん達に目線を向けると、それぞれ胸を持ち上げてどうぞ触って下さいと言わんばかりにアピールしているではないか!

 触らねば無作法と言うものという言葉が脳裏を過るがここでおっぱいを触ってしまえば絶対に歯止めが利かなくなり、彼女達を襲ってしまうだろう。それは男として、そして人として絶対にしてはいけない行為だ。グッと歯を食いしばり断腸の思いで言の葉を紡ぐ。

「皆さんのお気持ちは大変有り難いですが、一度そう言う事をしてしまえば我慢が出来ずに最後までしてしまうと思うのでお気持ちだけ頂きます。ですが、最後までしても良いという機会が訪れた際は遠慮なく触らせて下さい」

「分かりました。ではその時を心待ちにしております」

 見惚れる様な微笑みを浮かべながら更に爆弾を投下してきた。もはや理性は消し飛び残滓しか残っていないがなんとか我慢しなければいけない。無だ、心を無にするのだ。般若心経を唱えればマグマの様に熱く滾っているリビドーも沈静化するはずなので、必死に心の中で般若心経を唱え続ける。

 数分が経ち大分心も穏やかになってきたのでこれなら女性達の無意識の誘惑にも勝てるはず。確認のために桜ちゃんに話を振ってみよう。

「そういえば桜ちゃんは女子高生ですが、男と一緒にお風呂に入るなんて無理、気持ち悪いとか思わないんですか?」

「全く思いませんよ。もし相手が拓真さんでは無く他の男性だったら謹んで遠慮させてもらいますが、拓真さんと一緒なら毎日入りたいくらいです」

「そうなんだ。年頃の女の事だからてっきり嫌だろうなと思っていたけど、そう言ってくれて嬉しいです。……というか今更何ですが、妙齢の女性と混浴とかかなり問題なのでは?親御さんに知られたら滅茶苦茶怒られそうなんですが」

 本当に今更だが冷静に考えると割と洒落にならないよな。未婚でお付き合いもしていない女性と裸の付き合いをするとか親からしたらふざけんな!って感じだろう。古い考え方の人だったら娘を傷物にされたと言うだろう。特に千歳さんの実家は有名な名家だし斬捨御免となっても仕方ない。最悪な想像に背筋がゾッとなり、冷汗が流れてくる。そんな俺の様子を見て取った千歳さんが安心するような笑顔で言葉を紡ぐ。

「大丈夫ですよ。怒られるどころか羨ましがられますし、よくやったと褒められると思います。男性と一緒に入浴するなんて奇跡的な事ですし、その事で文句を言うような人ではありませんから」

「そうですか。それならよかったです。娘を傷物にした責任を取れと言われる可能性も考えていたので優しいお母さんでよかった」

「あっ、その手がありましたね」

 ポンッと手を叩いてその手があったかと言う表情をしている。もし千歳さんに搦手を使われていたら俺は確実に責任を取り結婚する事になるが、今気が付いた様である意味で良かったよ。――別に千歳さんと結婚したくないとかではなく、まずは恋人になってそれから結婚と言う一連の流れを大切にしたいのでいきなりはちょっとなと思うんだ。まあ千歳さんも本気で搦手を使えばよかったと思っている訳では無く、そういう手もありましたねと言う感じなので大丈夫だろ。多分……。

 深く息を吸い吐き出すと、色々な感情を乗せた白い吐息が空へと消えていく。

「こんなに気持ちいい露天風呂なのに他の人が入れないのはちょっと可哀想ですね」

「そのお気持ちは理解できますが、自由に出入り出来る様になると確実にトラブルが発生しますし難しいかと。それに女湯にも露天風呂はありますからそちらで満足してもらうしかないですね」

「確かに言われてみればそうですね。でも男湯には俺一人しか利用客がいないのでかなり寂しいんですよね。大きなお風呂に一人ってちょっと恐怖感もありますから」

「出来る事なら一緒に行きたいのですが、流石に同伴者とは言え許可は下りないでしょうし……。残念至極です」

 菫さんと話していて感じた事だが、割と男も大変なんだよな。銭湯に来るだけで様々な許可や制限が必要になるし、何よりそれを相手に強いているというのが精神的にキツイ。それに同性がこういった施設に来る事も無いし、今の俺みたいに寂しい状況になるしさ。

 女性が多い世界も大変だなと人事(ひとごと)の様に思いながら壁に掛けてある時計に目をやると、なんとここに来てから四十分も経っていた。体感では十分少々だったが予想以上に長湯をしていたみたいだ。他の温泉も楽しみたいだろうし、ここら辺で一旦お別れとしようか。

「随分と長い事ここにいますし、そろそろ上がりましょうか。逆上せたりとかしていないですか?」

「大丈夫です。もっと拓真さんと一緒に居たいですが、我慢します」

「それは俺も同じ気持ちです。ですが折角銭湯に来たんですから色んな湯を楽しまないと損ですよ」

「そうですね。ではこの辺りで一旦お別れしましょうか」

「はい」

 こうして非常に名残惜しいが混浴は終了となった。一人男湯に戻ると一気に寂寥感が襲ってくるが、紛らわす為に刺激のある温泉に浸かろう。んー、電気風呂とかいいかも。ビリビリと痺れる刺激が良い感じで気持ちを切り替えさせてくれそうだし。そうと決まればレッツゴー!

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