第三十八話
バーテンダーの腕を競う大会なんて大抵の人は興味もないだろう。というよりもバーテンダーと言う職業に興味関心を寄せる人自体が少ない上に、あくまでもお酒を楽しむところで働いている人位の認識なので尚更だろう。そして大会と言ってもテレビ放送されるわけでも無く、大々的に宣伝をしている訳でも無いので観客は同業者か知り合いくらいしか来ない。実に寂しい事だがこれが現実だ。
「大会と言ってもそれほど大規模ではありませんし、認知度も低いので優勝したからと言って何かあるわけでは無いんですけどね」
「という事は佐藤さんは優勝経験がおありなのですか?」
「優勝回数は四回ですね。その内国内の大会が二回で世界大会が二回です。一応若手バーテンダーの期待の新星としてそこそこ名前は売れていました」
「佐藤さんの若さで四回も優勝経験があるなんて凄いです。沢山努力されて、才能もあったから成し得た快挙ですね」
「師匠である叔父にそれはもう厳しくバーテンダーのイロハを叩きこまれましたから。そのおかげで何とかここまで来れたんです。才能に関しては叔父曰くそこそこなので兎に角人の何倍も勉強をして努力をしろと毎日のように言われていました。その時はまだ若かったので俺には隠された才能がある!なんて思っていましたが今なら叔父の言う通り私には才能が無いのが分かります」
「佐藤さんの叔父様はとても厳しくて優しい人だったんですね」
「はい。凡人が天才に勝つには血の滲むような努力が必要不可欠であり、その上で自分の強みを伸ばしていかなければいけないのでその事を教えてくれた叔父には感謝しています。――出来る事ならこの世界に来る前に有難うと伝えたかったです」
勿論家族にも今まで育ててくれてありがとうと伝えたいし、数少ない友人にも別れの言葉を伝えたかった。だが幾ら悔やんでも元の世界に戻れるわけではない。それどころかもう二度と会う事は出来ないのだから。後悔先に立たずという諺通り幾ら悔やんだ所でどうしようもない。
何となく湿っぽい雰囲気になってしまったが、久慈宮さんにとっては酷く詰まらない話だろう。そう思っていたが返ってきた反応は予想外のものだった。
「きっと叔父様に佐藤さんの気持ちは伝わっていると思いますよ。例え言葉に出さなくても態度や雰囲気で分かりますから。それにお店は大繁盛していますし、きっと今の状況を知れば立派になったと褒めて頂けるはずです。だから後悔なんてする必要はありませんし、前を向いて進んで行きましょう」
「そう……ですね。何時までも後ろを振り返っていても何も変わらないですし、全ての想いを胸に先へと進んで行きます」
やはり人に話すと楽になるし、胸の中に蟠っていた想いが晴れるな。一人で思い悩んでいても良い解決策は浮かばないし、出口のない迷路に迷い込んでいるようなものだ。だからこそ改めてこういう機会に恵まれて良かったと思う。――よし、この話はこれでお終いだ。何時までも重い話では聞いている方も気が滅入ってくるしね。
明るい話題はなにかないだろうか?なんとなく久慈宮さんへと目を向けていると頭に閃くものが生まれる。丁度話を聞きたいと思っていたし聞いてみよう。
「そういえば久慈宮さんは以前あった時に進路に迷っていましたが、制服を着ているという事は目指すべき道が決まったんですね」
「はい。病院の中庭で佐藤さんとお話してから自分なりに考えて、どうしたいのか?どういう道に進むべきなのかが決まりました。時期的に進路を決めるにはギリギリのタイミングでしたがなんとかなって良かったです」
「それは何よりです。ちなみに高校生活はどうですか?やっぱり大変ですか?」
「そうですね。私が通う高校が四季鳴館学院というところなのですがかなり厳しくて大変です。ですが、凄く遣り甲斐はあります」
「そう感じているのなら大丈夫そうですね。なんか名前からして伝統と格式高い学院と言う感じがしますがやはり色々と厳しいんですね」
「はい。今から約二百年前に創立された学院で立派な淑女を育成するのを目的としてます。それは今も変わらないのですが、年々男性が減っている現在はどれ程立派な淑女になろうと出会い自体が無いので理念がやや形骸化していますがそれでも日本王国三大高校として名を馳せています」
二百年前に創立されたとなればその頃はまだ男性も多かったし男女比率も少し女性に傾いている位だろうから問題は無かったんだろうな。今となっては見る影も無いけど何もできない女性よりも一通り卒無く熟せる女性の方が男の目に留まりやすいのは間違いないので淑女教育も無意味ではない。ただそれでも久慈宮さんも言っていた通り出会いそのものが無いからなぁ……。
「例え男性との出会いが無くてもが学院で習った事は決して無駄にはなりませんし、将来の役に立つので私としては良いと思いますよ。それに個人的な意見ですが礼儀作法が確りしていて、上品な女性の方が魅力的ですから」
「そう言って頂けると学院での勉強を一層頑張らなければいけませんね」
「無理の無い範囲でお願いしますね。身体を壊したら元も子もないので」
「はい。お気遣い頂き有難うございます」
俺もバーテンダーの勉強や修行を毎日二十時間近くしていた頃があったが洒落にならないくらい大変だったな。毎日寝不足だし頭の回転も遅くなって何度も同じ間違いをしていたっけ。単純に効率で言えば物凄く悪いんだけど自分では全然気が付かないんだよね。これが一番だ!って思っていたから誰かに指摘されるか身体を壊すまでは只管に続けるというある意味で狂気を宿していたと言える。
結果として俺の場合は師匠である叔父に説教&お叱りを受けたことで目が覚めて、それからは節度を守って勉強と修行をするようになったけど今にして思えばかなり無茶をしていたと思う。ただ久慈宮さんの場合は理知的な子だし俺みたいにはならないだろう。聡明な人ほど自己管理が完璧だからな。
――話は変わるが久慈宮さんが通う高校って日本王国三大高校なんだ。ちょっと気になるしその辺りを聞いてみようかな。
「久慈宮さんの通う学院が日本王国三大高校と言われていると先程仰っていましたが、物凄く頭が良くてさらに家柄も良くないと入学は難しいのでしょうか?」
「そうですね。受験資格を得るには模擬試験で上位三百位以内に入らなければいけません。受験資格を得た後は本試験になりますが家柄、学力、社会貢献活動をどれだけしてきたか、幼稚園~中学校までの成績や生活態度その他諸々を含めた総合的な基準を満たしていれば晴れて入学となります。ですが|四季鳴館学院の偏差値は八十二もあるので並大抵の学力では間違いなく落とされます」
「偏差値八十二!?そんなに高いんですか?というか天才と言われる人じゃないと入学とか無理なのでは……」
「学力だけを見れば日本王国のトップレベルの人達が集まってきますね。ですがいくら勉強が出来てもそれは一つの判断材料に過ぎませんので。あくまでも総合的に優れていなければ合格は出来ないんですよ。どれか一つでも劣っていればその時点で落とされますし」
「そんな超名門校に入学出来た久慈宮さんってもしかして名家か旧家の出身ですか?」
「いえ、私の実家は財閥なんです。久慈宮財閥と言う名を耳にした事はありませんか?」
「あっ、聞いた事があります。不動産、製薬、建設、金融、重工業等々多岐に渡る業種を展開している日本王国でトップ三に入る大企業ですよね」
「はい。その久慈宮財閥のトップが私の母になります」
「…………」
マジで?大金持ちと言うのも憚られるほどの大富豪じゃないか。それこそ殿上人と言っても過言では無い程だ。……こんなしがないbarに連れ込んだのがバレれば社会的に抹殺されるのではないだろうか?お喋りしていただけで疚しい事は一切していないと言った所で信じては貰えないだろう。大事な娘に何してくれてんじゃワレ!と激怒されて最悪物理的に消される可能性も無きにしも非ず。
うん、もう手遅れ感が半端ないけど今からでも謝罪をしておきべきだな。
「今まで無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。どうか社会的に抹殺するのだけはご寛恕下さい」
「佐藤さんがお気にされる必要はありませんし、偉いのは母であって私はしがない小娘ですからどうか今まで通りでお願い致します」
「……本当に大丈夫でしょうか?」
「勿論です。もし母が佐藤さんに何かしたら私はすぐに絶縁しますし、国や軍警察が黙っていないでしょう。それこそ総力を挙げて財閥を解体しにかかると思います。それだけでは無く非公式ファンクラブに加入している人達も挙って不買運動やデモをすると思うのでどのみち未来は無いですね」
「そう言う事でしたら今まで通りでいきますね」
「はい。よろしくお願いします」
ふぅ、これでなんとか命は繋ぎ止められたな。だが安心して無礼な態度や言動を取らない様に気を付けなければいけない。親しき中にも礼儀ありと言うしね。
さて、久慈宮さんがどういう人かがある程度分かってきたがここで一つ問題が発生する。放課後にお酒を提供する店に何度も来るというのは流石にマズいのではないかという事だ。お店に入ったのは今日が初めてだがその前に何回か店内を観察していたしもし学校や親に知られたら問題になる可能性が高い。要らぬ世話かもしれないが何か起こってからでは遅いし聞いておこう。
「そう言えば久慈宮さんは何度もお店まで来ていますが一応お酒を提供しているbarなので、もし学校や親御さんに知られたら問題になるのでは?」
「学校に関してはもし知られても注意程度で済むと思いますし、母には事前に伝えていますので大丈夫だと思います」
「そうですか。それなら安心ですかね」
「はい。――今更なのですが私の事はどうか桜と呼んで下さい。久慈宮って言い辛いと思うので」
「それじゃあ桜ちゃんと呼ばせてもらいますね。それと私の事も拓真と呼び捨てで構いませんよ」
「そう言って頂けてとても嬉しいのですが男性を呼び捨てにするのは流石に出来ませんので拓真さんと呼ばせてもらいますね」
「分かりました」
何と言うか女子高生から名前呼びされるとかちょっと背徳感があるな。雪音さん達とは年齢も近いから名前を呼ばれても特に思う所は無いのだが、制服を着たうら若き乙女から拓真さんって言われるのはグッとくるものがある。そもそも普通に生活をしていたら二十代半ばの男が女子高生と友達になる事は皆無だし、出会える機会もない。それを考えると女子高生はおろか女子小学生でさえも声を掛ければ簡単に付き合えるし、SEXまで直行便で進めるというのは恐ろしいものがある。とはいえ流石に小学生や中学生に手は出せない。この世界では合法であり何ら問題が無いとしてもどうしても今まで培ってきた倫理観がNO!と強く訴えてくるし、ロリコン道へ踏み出したくないというのもある。
じゃあ女子高生なら良いのか?と言われれば…………ギリギリOKじゃないかな。一応精神的にも肉体的にもある程度成熟しているし自身で責任も最低限は取れるだろうからね。ここら辺の許容範囲は人によって大きく変わるからなぁ。俺の数少ない友人は二十代後半以上じゃないと興味が持てないと言っていた奴が居たな。そいつ曰く十代後半とか二十代前半の女性は乳臭いガキであり色気も糞も無いんだから女として見れるわけないだろと熱弁していたのを思い出したよ。
俺はそこまでストライクゾーンが狭くないから適当に聞き流していたけどまあ好みは千差万別という事ですね。などと取り留めの無い事をぼんやりと考えていたら久慈宮さん――桜ちゃんが話しかけてきたのですぐに思考を切り上げる。
「そういえばこのお店は拓真さん一人で切り盛りしているんですか?」
「前までは私一人で営業していたのですが、流石に手が回らなくなったので大分前に従業員を二人雇いました。今では私を含めて三人でお店を回しています」
「従業員の方は当然女性ですよね?」
「そうですね。付き合いのある方が丁度仕事を探していたのでお願いした形です。もう一人の人も働いてみたいという事で雇いました」
「凄く羨ましいです。出来れば私も拓真さんのお店で働きたいのですが未成年では無理ですよね?」
「お酒を扱っていますし、営業時間も夜~深夜までなので流石に難しいと思います。この世界の労働基準法にもよりますが、桜ちゃんはまだ高校生ですし学業にも影響が出ると思うので働くとしても大学生になってからですね」
「そうですよね……。はぁ、もっと早くに生まれていれば拓真さんと一緒にお仕事を出来たのに悔しいです。本当に今ほど自分の年齢を恨んだことはありません」
こればっかりは俺でもどうしようも出来ない。未成年と知りつつ雇用するのは犯罪だし、もし発覚すれば桜ちゃんだけでなく親御さんにも迷惑を掛けてしまう。そうなれば俺は無傷でも久慈宮さんの母親が経営する会社や取引先に少なからず悪影響を及ぼすのは間違いない。だからこそ心を鬼にして雇うことは出来ませんよと伝えたけど桜ちゃん物凄く悲しそうな顔をしているんだよね。そんな表情を見せられてはい、この話はこれでお終いねとはしたくはない。
雇うことは出来ない……であればその他の方法ならなんとかなるのではないだろうか?法のグレーゾーンを突くやり方は流石に避けたい所だが何か良い案は無いかな……。
必死に頭を回転させて思考を巡らせていると一つ良さそうな解決策が思い浮かんだ。これなら合法だし一緒に作業をする事も可能だ。だが桜ちゃんの希望に沿っているのかは分からないんだよな。一応提案してみて駄目だったら別の方法を考えれば良いか。よし、まずは聞いてみよう。
「確かに一緒に仕事は出来ませんが方法を変えれば何とかなりますよ」
「本当ですか!?」
「はい。雇用は出来ませんがお手伝いと言う形で夕方~十八時くらいまで開店準備を手伝ってもらうことは出来ます。勿論手伝ってもらった分のお給料はお支払いしますのでご安心下さい」
「成程。確かにお手伝いという形であれば未成年でも問題はありませんね。――そう言う事でしたら是非お願い致します」
「分かりました。それでは幾つか確認したい事があるので今から言う内容で問題無いか聞いていて下さい。――まず手伝いに来るのは都合の良い日で構いません。時間も一応夕方~十八時としていますが前後しても大丈夫です。お給金に関しては月末に纏めてお支払いします。また金額についてですが一回のお手伝いで五千円でどうでしょうか?」
「拓真さんが仰った内容で問題ありません。またお給料に関しては時給換算で二千五百円くらいになるのでもっと安くても大丈夫です」
「そう言って頂けるのは有難いのですが、お酒を扱う飲食店だと大体このくらいの時給なのでお気になさらなくて大丈夫です。寧ろ高校生の大切な時間をお店の手伝いに使ってくれるのですから安いくらいだと思いますよ」
「うーん……、拓真さんがそう仰るなら先程言われた金額でお願いします」
「はい、了解です」
学生時代の時間は本当に貴重だし大切だからね。仕事なんて大人になれば嫌と言う程やる事になるんだから学生の内は兎に角やりたい事を目一杯して、全力で遊び尽くすべきだと俺は思う。彼女・彼氏を作るも良し、友達と馬鹿な事をして笑い合うのも良し。海外旅行をして見聞を広めるのもいいだろう。人生で一度しかない青春なんだから後悔しない様にするべきだ。
今にして思えば俺の高校時代は只管にバーテンダーになる為の修行に費やして、青春と呼べるような事は殆どしてなかったのが悔やまれる。たらればの話になるがもし学生時代に戻れるのなら可愛い女子とイチャイチャして夏祭りデートとかしてみたかった……。
少し話が逸れてしまったが学生時代の日々と言うのは斯くも大切という事だ。
「そう言えば仕事内容をまだ伝えていなかったですね。やる事は主に在庫確認やキッチンの清掃、あとはグラスやお皿が汚れていないかの確認等です」
「店内の清掃はしなくても宜しいのですか?」
「そっちは従業員の方が来た時にやるので大丈夫です。結構細々とした内容で面倒臭いとは思いますがお願いします」
「お任せ下さい。どんな些細な事も見逃しませんし、任せて頂いたお仕事は完璧に熟します」
「ふふっ、そう言って貰えると心強いです」
普段は一人で作業をしているがこれが結構大変なんだよ。内容自体はさして難しくは無いんだけど作業量が多いし、先程も桜ちゃんに行ったけど細々としているから精神的に辛い。しかも単純作業だから時間の経過も遅く感じるしで結構面倒だったりする。が、これからは桜ちゃんと二人だから効率も上がるし、話をしながら仕事を出来るから大分楽になるだろう。
思わぬところで思わぬ人材を確保できたのは僥倖に他ならない。居るかも分からない神に感謝を捧げたくなるくらいには嬉しい出来事だ。心の中で手を組んで祈りを捧げようとした所で桜ちゃんから声を掛けられた。
「そういえば、他に従業員の方がいらっしゃるんですよね。私も働くことになったのでご挨拶をしたいのですが、何時頃お店にいらっしゃるのでしょうか?」
「十八時にはお店に来るのですがまずは桜ちゃんにお手伝いをして貰う事になったのを私の方から伝えておきますね。その方がスムーズに話が進むと思いますし、お互い心の準備も無いままに顔合わせは結構大変だと思うので」
「そうですね。では拓真さんからお話して貰った後にご挨拶をさせて頂きます」
「お願いします。二人とも良い子なので桜ちゃんとも仲良くなれると思いますよ」
「そうだと良いのですが……。従業員の方達は年上なので緊張してしまいます。上手く話せなかったらどうしようとか、失礼な事をしないかと少し心配です」
「今まで話した感じだと何も問題は無いと思います。凄く礼儀正しいですし、話していて気まずくなったり会話が続かなかったりと言った事も無いですしね。それに小百合さんと千歳さんは多少の無礼は気にしないタイプなので安心して下さい。もし何かあれば私が間に入りますしね」
「ではお言葉に甘えてもしもの時は拓真さんを頼らせて頂きます」
「はい。お任せ下さい」
もしかしたら小百合さんと千歳さんは桜ちゃんの事を知っているかもしれないな。二人とも良い所のお嬢様だし何かしらの繋がりがあってもおかしくはない。家同士の繋がりとか、パーティーで話した事があるとか色々と可能性は有るからね。もしそう言った繋がりが無くても二人とも優しくて性格も良いから特に困るような事態にはならないだろう。
考えを纏め終えたので時計を見ると時刻は十七時半を過ぎた所だった。何だかんだで結構長い間話していたんだな。あと一時間半もしたら営業が始まるしここらで桜ちゃんを家に帰した方がいいだろう。
「もういい時間なのでここら辺でお開きにしましょうか」
「分かりました。今日は一杯お話しできて嬉しかったです。それと拓真さんと二人っきりで過ごせるとは思っていなかったのでこうして二人の時間を過ごせて凄く楽しかったです」
「それは私も同じですよ。まさか病院で出会った女の子と再会出来るなんて夢にも思いませんでしたから。でもこれからは何時でも会うことは出来ますし、お店のお手伝いもして頂けてとても有難いです」
「ふふっ、これからよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします。――外も結構暗くなってきましたしタクシーを呼びましょうか?年若い女の子の一人歩きは危ないですし」
「ご心配頂き有難うございます。ですがこの時間であれば特に問題は無いので電車で帰る事にします。帰宅ラッシュまではもう少し時間がありますから席にも座れるはずですし」
「分かりました。それじゃあ気を付けて帰って下さいね」
「はい。それじゃあ今日はありがとうございました」
別れの挨拶をした後外まで出て桜ちゃんの姿が見えなくなるまで見送る。
まだ一日が始まったばかりだというのになんとも濃い時間だったな。でもここ最近不可解に思っていた事が全て解決したし気分はスッキリ爽快だ。このまま仕事も頑張らなければいけないが、まずは小百合さんと千歳さんに桜ちゃんの事を説明しないとな。よし、今日も一日張り切っていこう。




