第三十三話
千歳さんと小百合さんをお店で雇う事になってから二ヶ月が経った。俺の自宅での話し合いの後すぐに菫さんと小百合さんのお母さんに話がいったみたいだが根回しには結構時間が掛かったようだ。それぞれの派閥があり、互いに牽制し合っている中である意味弱みを見せるというのは非常にリスキーだし相当上手に立ち回らなければ一気に攻勢を掛けられてしまう。だからこそ慎重に事を進めなければいけないのだがここでネックになったのは日本王国女王の一人娘が街の酒場で働くという点だ。もし身に危険が及んだ時に対処できるのか?、また高貴な身分の女性を酒場で働かせるなんて言語道断だ!とか警備をどうするのか?等々様々な問題が浮上したが俺の現状も絡めて上手く解決したと聞いている。
まず身に危険が及んだ際の対処と警備については俺の警護をしてもらっている特別警護対象保護課の人が対象を千歳さんと小百合さんにまで広げる事で解決した。といってもあくまで働いている時だけになるが。
次いで高貴な身分の女性を酒場で働かせる事についてだが、これは小百合さんのお母さんが職業に貴賤は無い!と一喝した上で娘が望んで働かせてもらうのだから外野がとやかく言う問題ではないとガツンと言ったみたいだ。そもそも男性が働いている職場に就職出来るなんて奇跡をむざむざ手放すなんて世紀の愚か者と言われ後ろ指を差されるだろう。そんなレッテルを娘に貼れと言うのかと厳しく問いただした結果相手が折れたらしい。その後は割とすんなりと事が運びようやく準備が整ったのが先月の事だ。それからすぐに二人が働き始めた訳だが、驚く事ばかりで正直うーん……と唸りたくなる。
別に悪い意味では無くて二人ともあまりにも有能過ぎたのだ。百種類を超えるカクテルのメニューをサッと目を通しただけで覚えてしまうし、開店準備や閉店後の作業なんかも一度教えれば次からは完璧に熟す。更には接客も卒無く熟し人当たりの良さから結構人気だったりもする。
もうね、初日から二日で教える事が無くなったというのは喜ぶべき事なのだろうが何となく悲しくもある。ただすぐに仕事を理解して業務を遂行できるというのはこちらとしても楽だし助かるというのはあるな。それに言われなくても率先して動いてくれるからこちらもカクテル作りに集中できるし、仕事にも大分余裕が出て精神的にも大分助かっている。
正直これだけ有能な人材を雇えたというのは僥倖だろう。――これは余談になるが制服姿がまたセクシーなんだよ。露出は抑えているので露骨なエロさは無いがアップスタイルの髪型と、タイトスカートから覗く黒ストッキングに包まれた脚が凄まじい破壊力でヤバイ。間接照明に照らされた店内で見ているからと言うのもあるが色気が凄まじいんだこれが。仕事中じゃなかったら理性蒸発しているね、間違いなく。幸いにも男性客は一切来ないので暴走する野郎が現れる心配が無いのが唯一の救いだろうか。
はぁ~と深い溜息を一つ吐いた所で時計を見るとそろそろ彼女達が出勤してくる時間だ。パンッと頬を叩き煩悩を退散させたところでカランとドアベルが鳴り響く。
「「おはようございます」」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
夜に差し掛かろうという時間だが挨拶はおはようございますだ。夜の仕事をしているからどうしても世間一般と時間間隔がズレてしまっているというのもあるが、こんばんはと言うのもおかしいし必然的におはようございますとなってしまう。
まあ、そんな事はどうでも良いとして二人揃って女子更衣室へと向かって行く。そして暫くして着替え終わって制服に身を包んだ姿でホールへと来ると早速仕事の開始だ。
「それじゃあ私が椅子を下ろしますので千歳さんはテーブルを拭いてもらっても良いですか?」
「分かりました」
テキパキと連携しながら開店準備を進めていく。それらが終わったら最後にドアプレートをOPENにして今日の業務がスタートする。
――開店直後は相変わらず来店客は少ないが時間を追うごとにどんどんと増えていく。複数人でいらっしゃる方はボックス席に、お一人で来られる方はカウンター席にご案内するのが基本だ。そうして来店するお客様を捌きつつ俺はひたすらにカクテルを作り続ける。そんな中目の前に座る女性から不意に声を掛けられた。
「女性のスタッフを雇われた事でお店が少し華やかな雰囲気になりましたね」
「そうですね。どうしても男一人だと堅苦しいと言うか、武骨な感じになってしまいますから。お客様にとっても少しお店に入りずらい印象を与えますし」
「うーん……でも私は佐藤さんがお一人で営業されていた時のお店の雰囲気も好きですよ」
「有難うございます」
「でも凄く良い人を見つけましたね。仕事も完璧に熟していますし、こちらがお酒について質問してもすぐに答えてくれるから知らないカクテルを頼む時とか助かっているんですよ」
「それは私自身もそう思います。正直このお店で働くことは社会の損失になるのでは?と思うくらい二人とも有能ですから。それにまだ若いですし、いずれもっといい仕事を見つけて退職したらどうしようなんて偶に考えてしまうくらいなんですよ」
「その心配は無いと思います。だってこの国中を探しても男性と一緒に働ける職場なんて存在しませんし、ましてや佐藤さんの様な素敵な男性となれば尚更です。正に女性が夢見て、憧れる職場ですしそれを自ら手放すなんて事をしたら世の女性から袋叩きにあいますよ。それに例え無給・無休で各種福利厚生が一切無くても働きたいという人はごまんと居るはずですから」
「そうだといいのですが。――私は無理に引き止めたりするつもりはありませんし、最終的には彼女達が決める事ですから。実際に働いてみて思っていたのと違ったとか、なんか合わないなぁと感じて退職するなんて結構多いですからね」
「確かに私の勤めている会社でもそう言った理由で退職する人が何人かいましたね。全員新卒でしたけど取り合えず三年働いて見て判断しなさいと昔は良く言われたものです。はぁ、これも時代なのですかねぇ……」
「無理に働いて精神的に追い詰められ精神疾患を患ったりするよりかは良いと思いますが、繰り返すと辞め癖がついてしまいますしケースバイケースと言った感じでしょうか」
俺が居た世界でも仕事が原因となる精神疾患は大きな問題だったからな。大手の会社に限らず中小でもメンタルヘルス対策として産業医や産業保険医が常駐していたり、外部委託していたりとかなり予算を割いているという記事を読んだ事がある。それに比べて叔父が経営していたbarはメンタルヘルス?そんなもの知るかという感じだったな。お酒を提供する接客業だし精神的に相当タフじゃないと勤められないというのもあるし、酔客相手に常に冷静かつ的確な対応をしないといけないから自然に精神が鍛えられるからと言うのもあるだろう。だがあくまでそれは叔父も俺も男だから成り立っていた事だ。当然男と女では精神構造が違う訳だし、繊細さも違う。だからこそ注意深く小百合さんと千歳さんの様子を見て問題が無いか確認しなければいけない。幸い今の所特に辛そうにしていたり、何かを我慢しているといったのは無いので安心だが。
なんて考え込んでいると先程話をしていた女性が再び話しかけてきたので思考を切り上げる。
「あの、今はお二人を雇っていますがこの先従業員を増やす予定などはありますか?」
「うーん……、今の所は無いですね。お店はそこまで広くはありませんしこれ以上人を雇ってもかえって効率が悪くなると思うので。将来お店を増築したり、今よりも多くのお客様が来店される様になればまた違うのですが現状では誰かを雇用する予定はありません」
「そうなんですね。分かりました」
「もし誰かを雇うならホール担当では無くバーテンダーが良いですね。私一人で全てのカクテルを作っていますが、お客様をお待たせしてしまう事もあるので。飲みに来たのに中々注文した品が来ないというのは印象が悪いですから」
「普通のお店ではそうかもしれませんが、佐藤さんのお店の場合は待つ時間も楽しいですよ。カクテルを作っている姿を眺めているだけで幸せですし、時間なんてあっという間に過ぎてしまいます。あっ、ちなみに私の友人も同じことを言ってました」
「あはは、それはちょっと恥ずかしいですね」
お客様に見られる仕事なのだから普通であれば有難うございますと返すべきなのだろうが、楽しいとか幸せとか言われるとは思わなかったので本当に恥ずかしい。多分耳まで真っ赤になっているんじゃないかな?そしてそんな俺を見て可愛いと妖艶な笑みを浮かべて言ってくるものだからもうお手上げです。内心で悶えていると少し離れた所から冷たい視線が飛んできている事に気付いた。思わずそちらに目を向けると少しだけ頬を膨らませた千歳さんと小百合さんがこちらを見ている。はい、デレデレしてごめんなさい。今は仕事中でしたね。マスター兼経営者が女性と話してデレデレしているのを見せられたらそら不機嫌にもなるわな。公私混同も甚だしいと怒られても仕方ないし、女性はそういうのに敏感だから尚更だろう。目線だけでごめんなさいと伝えてから煩悩退散と心の中で叫ぶ。
その後はまるで悟りを開いたかのように穏やかな心で仕事をしていくのだった。
深夜一時を回り店内にはお客様は誰もいない。花金であればこの時間でもちらほらと飲んでいる方が居る場合もあるが次の日も仕事がある平日はお客様ゼロが殆どだ。それに閉店まで一時間だしゆっくりお酒を飲むという事も出来ないしね。なのでこういう場合は小百合さんと千歳さんと他愛無い話をして過ごすのが日常となっている。
「お疲れ様です。――この店で働いてから一月経つけど少しは慣れましたか?」
「はい。一通り仕事も覚えましたし慣れました」
「私も小百合さんと同じく仕事の内容も覚えましたし大分慣れました」
「そっか。それならよかった。最初の一ヶ月、二ヶ月は働き始めたばかりだと覚える事も多いし大変だから心配だったんだけど大丈夫そうだね」
「はい、何も問題ありません」
小百合さんがそう返事をしてくれたし本当に大丈夫だろう。ただ昼夜逆転生活は慣れるまでが大変だからそこら辺は注意して見なければいけないな。
「千歳さんは大丈夫だと思いますが、小百合さんはお店で働いてから夜型生活になったので体調やメンタル面で不調があったらすぐに言って下さいね」
「分かりました。今の所そう言った調子の悪さなどはありませんが、もし何かしらの異変があったらすぐにお伝えしますね」
「はい、お願いします」
一応病院で医師をしている雪音さんにも相談してもしもの際に診察してもらえるよう手筈は整えているから大丈夫ではあるが油断は禁物だな。取り合えず仕事や健康面については問題無いからいいとして、あとはあれも聞いておこう。
「今更の話になるのですが、お二人はお店に来る前に食事はしてきていますか?」
「夕方に少し食べてから出勤しています」
「私は何も食べません。起きるのが夕方と言うのもありますし、中々食事をする時間が取れなくて」
「小百合さんは少し食べてから来られると。……千歳さんは何も食べていないと。そう言う事でしたら休憩時間中に賄いを出した方が良さそうですね」
「「賄いですか?」」
二人が声を揃えて返事をしてきたが、飲食店ではよくあるだろう。俺一人で営業をしていた頃は夕方に朝食としてコーヒーと栄養バランス食品を食べて終わりで閉店作業が終わるまで一切物を食べなかったが、女性となるとそうもいかないだろう。カウンターでひたすらカクテルを作っている俺と違って二人はホールを歩き回り、片付けや洗い物を一手に担っているのだから消費カロリーも多いしちゃんと食べて欲しいしね。
「そうです。といってもウチの店はbarなのでそんなに凝った物は出せませんし、レパートリーも多くないので似たり寄ったりの料理になってしまいますがそれでもよければ賄いを出そうと思うのですがどうでしょうか?」
「……あの、お料理は拓真さんがお作りになられるのですか?」
「はい。開店前に作り置きしておいて温めればすぐ食べられるようにしておきます」
「…………」
俺の手作りだよと言ったら小百合さんが無言になってしまったんだが。そして千歳さんも同じように無言になっている。二人の料理の腕を考えれば素人の作ったご飯なんか食べられるかと思われても仕方ないか。とはいえ俺の自宅に行って好き勝手に料理をして食べて下さいと言うのは違うだろう。もしあれだったらコンビニで適当に弁当を買ってそれを出すと言うも一つの手ではあるが味気なさすぎる。
さてどうしたもんかと頭を捻っていると小百合さんが重い口調で話しかけてくる。
「あの、本当に拓真さんがお作りになった料理を食べられるのでしょうか?」
「はい。簡単な物になりますが俺が作ります」
「そう言う事でしたら是非お願い致します」
「私も拓真さんの手料理でしたら食べたいので賄いお願いします」
おぉう。二人とも凄い気迫でお願いしてきたぞ。そこまでして食べたいのなら俺の料理スキルを総動員して美味しいご飯を作ってあげよう。あっそうだ。一応二人にリクエストを聞いておこうかな。
「小百合さんと千歳さんは賄いで何か食べたい物とかありますか?」
「拓真さんがお作りになった物ならなんでも大歓迎ですが、強いて言うならさっぱりとしたお料理が良いです」
「さっぱり系ですね。分かりました。千歳さんは何かありますか?」
「私はあまり量が食べられないのであまり味が濃くないお料理が良いです」
「となると中華とかの油っぽい料理も避けた方が良さそうですね」
「出来ればそうして頂けると嬉しいです。中華料理は嫌いでは無いのですが、全体的にくどいので」
「了解です。じゃあお二人のリクエストを参考にしつつ明日から賄いを出す事にします」
「「お願いします」」
話が纏まりホッと一息ついた所で時計を見ると閉店時間である深夜二時まであと五分となっていた。もうお客様も来ないだろうし、今日の営業はほんの少しだけ早いがここまでするか。
「それじゃあもうすぐで閉店時間なので片付けをお願いします」
「「分かりました」」
二人が清掃や洗い物をしている内に俺は帳簿を付けたり、お酒の減り具合を確認したり等々の雑務をこなしていく。大体三十分程で終わったが俺一人の時は一時間以上かかっていたから大分早くなったな。それに普段はなかなか手が届かない部分とかも綺麗にしてくれているし大助かりだし本当に有難い。
――閉店作業が全て終り小百合さんと千歳さんが着替えた後、二人は帰る事なく俺の自室の方へと向かう。部屋に何か忘れ物をしたとかではなく、週に二度ほど夜ご飯を一緒に食べているので俺の部屋へと向かっている訳だ。そうして俺も含めて三人が居間へと着いた所で千歳さんが声を掛けてくる。
「拓真さん。今日のお夕飯はどうしましょうか?何か食べたい物とかあれば仰って下さい」
「それじゃあ、鍋料理が良いです」
「鍋ですか。えーと、確か冷蔵庫に豚肉と豆腐、後はキムチがあったのでキムチ鍋は如何でしょう?」
「おっ、良いですね。それでお願いします」
「分かりました」
俺のリクエストで今日の夕飯はキムチ鍋となった。千歳さんと小百合さんが自前のエプロンを身に付けてキッチンに立ちテキパキと準備をしていく。ご飯は事前に用意していなかったので今から炊くことになるが三人分で一合なので二十分程で炊けるから今からでも十分間に合う。とは言え実際に食べる量を考えると0.8合くらいになるのだが、炊飯器は基本的に0.5合刻みなので仕方なく一合にしているからどうしても毎回ご飯が余ってしまう。成人女性二人で0.3合――中程度の茶碗に少し少な目に盛る程度――しか食べないのだから相当な小食と言えるだろう。菫さんや雪音さんも同じくらいしか食べないので食費が掛からないという面ではとてもお得だ。しかもそれだけしか食べないのにスタイル抜群だしおっぱいも大きいしで意味が分からない。細身の人でおっぱいが大きい人なんて豊胸手術をしていない限り平坦かまな板なのに小百合さんはEカップ、千歳さんはCカップ。そして俺の目測になるが雪音さんと菫さんもE~Fは確実にあるだろう。少しのエネルギーで男受けする最高の身体を作り、維持できるというのは年々男性が少なくなり人類存続の危機に曝されてきた事で急激に遺伝子が進化した結果なのかもしれない。果たしてそれが良い事なのか悪い事なのかは分からないが、少なくとも俺にとっては最高と言えるだろう。華奢でおっぱいでかいとか文句のつけようもない。いつかはフカフカでプニプニなおっぱいに顔を埋めたい所存である。あっ、あと黒ストッキングに包まれた脚も触りたいし、お尻も撫でてみたいな。スベスベで滅茶苦茶触り心地が良いはずだし、女性特有の柔らかさも堪能できるはず。……惜しむらくは女性経験が無い俺にとっては全て憶測でしかないというね。
はぁ、女体に触れたいなと心からの願いを神に祈っているといつの間にか料理が出来たのか、鍋を持ってこちらに小百合さんがやって来た。そして開口一番こんな事を言ってくる。
「両手を合わせてお祈りしていましたが、何かありましたか?」
「えーっとですね……その……どうしても叶えたい願いがありまして神様にお願いしていました」
「そうなのですね。私で出来る事でしたら何でも仰って下さい。お力になりますから」
「有難うございます。もう少し自分の力で頑張ってみてそれでも駄目だったらお願いします」
「はい。お任せ下さい」
可愛らしく力こぶを作って言ってくれるが、流石におっぱい触らせて下さいとか黒ストッキングに包まれた脚とお尻を触らせて下さいなんて口が裂けても言えない。もっと仲良くなってそれこそ恋人同士になればワンチャンあるかもしれないが、今は心の内に留めておくべきだろう。
余りにも下種な考えは放棄して目の前にある美味しそうな料理を食べるとしよう。二人も席について待っているしな。
「それじゃあ食べましょうか。頂きます」
「「頂きます」」
鍋から装って貰った野菜たっぷりのキムチ鍋を一口食べると、口の中一杯に辛みと旨味が押し寄せてくる。そして野菜の甘みが後から来ることで辛みを和らげてくれるからとても食べやすい。豚肉も脂身をある程度削ぎ落しているのでくどくないのも良い。肉も野菜もとても美味しいが特に気に入ったのが豆腐だ。スープが染み込んだ豆腐がこれまた絶品なんだよ。下処理がとても丁寧にされているから大豆特有の僅かな臭みも無いし、水っぽくも無いから大豆の旨味を堪能できる。
こういう細かい部分も当たり前の様に出来るというのは料理上手な人でもそう多くはいないだろう。それを考えるとこの世界の女性の料理に対する研鑽は想像を絶するのではないかと思う。そう考えると俺ももっと勉強した方がいいのかもしれないな。
そんな事を考えている内に茶碗が空になってしまった。ついでにご飯も全部食べてしまったのでおかわりしようかなと腰を上げようとした瞬間に千歳さんから声が掛かる。
「ご飯のお代わりをお持ちしますね。お鍋の方もすぐに装いますので」
「すみません。お願いします」
「ふふっ、なんだか傍から見ていると夫婦みたいですね」
「ごほっ、ごほっ」
いきなり小百合さんが変な事を言ってきたから思いっ切り噎せてしまった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっとビックリして噎せただけですから。――それにしてもさっきのやり取りですが夫婦に見えましたか?」
「はい。主人が何を欲しているのかを言われなくてもすぐに理解して行動に移す所とか正にです」
「言われてみればそうかもしれませんね。小百合さんも俺の思考を読んだかのように先回りで色々としてくれますし、熟年夫婦も真っ青な阿吽の呼吸とか以心伝心ですよね」
「そうですね。拓真さんの事でしたら何を仰らなくても分かりますから。勿論私だけではなく雪音さんや菫さん、千歳さんもそうだと思いますよ」
「ですね」
なんて話をしつつ食事は和やかに進み、明け方に彼女達が帰るまで楽しい時間は続くのだった。




