第二十三話
俺の身の回りの世話をしてくれるという爆弾発言から早一週間半が過ぎた。女性が男の家に上がり込む危険性を説いたんだけど結果としては三人とも頬を染めながら『大歓迎です!』と言わてしまった。男性に襲われる?それどんなご褒美ですかと言わんばかりの勢いだったのは今でも鮮明に思い出せる。そして瞳に肉食獣の気配が色濃く浮かんでいたのも俺は見逃してはいない。当たり前だが女性にも性欲があるし、特にこの世界では男性との性行為はほぼ不可能。兎角男性の性欲が薄いのに加えて、男の数自体が少ないからSEX出来る確率は天文学的数字になる。その事を前提として考えてみると俺が彼女達に言った、『でもですね、男の家に上がり込むというのはその~、危険もありまして。お三方とも綺麗な女性ですし密室で過ごせばひょんな拍子で私の箍が外れてしまう可能性もありまして……』という発言は男性が自分を性的な目で見ている、更に言えば我慢できずに襲われてしまうかもしれないという女性にとっては奇跡みたいな言葉となる。こうして冷静に考えてみればかなり危ない発言だし、自ら外堀を埋めていくスタイルと言われても仕方ないけど三人の嬉しそうな顔を見たらどうでもよくなってしまった。そして身の回りのお世話をするというのも流れでOKしてしまい、休日の今日からご飯を作って貰ったりお掃除をして貰ったりというのが始まる。一応初回という事で家の中を案内する為三人に集まってもらう事にしている。約束の時間まであと十五分程あるし、もう一度身嗜みのチェックをしようかと洗面所に行こうと思った矢先にインターホンが鳴らされた。
「はーい。今行きます」
少し急ぎ足で自宅の玄関へ向かい、扉を開く。その瞬間目に飛び込んできたのは眩しい太陽の日差しと共に私服に身を包んだ女神だった。
三人の私服姿は何度か見た事があるが、今日はいつもとは一味違うと言うか色気が凄い。別に肌の露出が多いとか下着が見えそうな服装とかではない。寧ろ清楚可憐といった格好なんだけど匂い立つような色香を振り撒いているんだよね。思わずうっ……と前屈みになりかけたが鋼の意志でなんとかこらえる。胸の内に熱く滾る欲望を噯にも出さずに笑顔で声を掛ける。
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「今日はよろしくお願いします。さっ、中に入って下さい」
狭い玄関なので俺が先に中に入った後雪音さん、菫さん、小百合さんの順で玄関を上がる。その際踵を使って靴を脱ぐことも無く、また靴を確りと揃えているのを見ているとやっぱり良い所のお嬢様なんだなと改めて思う。一見当たり前に思える行動だが出来ていない人が多いんだ。特に親しい間柄だとその辺りがズボラになりがちだからね。だからこそ三人がごく自然にしているのを見て流石だなと思った訳でさ。なんて何時までも感心している場合じゃないよな。
「まずは居間に案内しますね」
廊下を少し歩き扉を開けるとすぐ今に到着。
「キッチンはあっちにあります。一応最低限の調理器具はありますが、ある程度凝った料理をするなら厳しいかもしれません」
「少し見てみても良いですか?」
「どうぞ」
俺が菫さんに答えると三人がゾロゾロとキッチンの方へと移動する。毎日料理をしていて、腕前もプロ顔負けの女性に最近碌に使っていないキッチンを見られるのは少し恥ずかしい。――さて、どういった評価が下されるやら。
「冷蔵庫が小さいですね。それと電子レンジも温め機能しかありませんし」
「フライパンとお鍋が一つ。包丁は三徳包丁が一つのみ……。菜箸やお玉は小さいタイプですね」
「炊飯器は一人暮らし用のマイコンタイプで三合炊きみたいです。AIを搭載した高圧力IHタイプでは無いので買い替えは必須ですね。美味しいご飯が炊けないというのは致命的ですから」
菫さん、雪音さん、小百合さんの順に評価を下していくがどれも絶望的なまでの低評価。というか三人の顔色が悪いし、これでどうやって料理をするの?という疑問がありありと表情に出ている。言い訳させてもらうなら男のズボラ飯ならこのくらいの調理器具で十分なんです。材料を適当に切って焼く、炒める、茹でるくらいしかしないからね。最悪スーパーのお惣菜を買ってきて、それを食べるとかだから正直調理器具とかあまり要らないというね。だが女性陣にとってはそうでは無いようで雪音さんが深刻な表情で俺に話しかけてきた。
「拓真さん。申し訳ありませんが、今ある調理器具ではまともにお料理が出来ないのでこちらで用意してもよろしいですか?」
「それは構いませんが、お金は俺が出しますね」
「いえ、それは大丈夫です。あくまで私達が料理をする上で必要だと思った物を買うのでお金はこちらで全額払います」
「分かりました」
「――今の時間だったらすぐに注文すれば夕方には届くと思うので、早速ネットで見てみましょう」
言うが早いか雪音さんが小型端末を弄り、家電量販店のネットショップページを開く。その際ホログラムモードにしてくれたので、画面が空中投影されてこの場に居る全員が見ることが出来る。準備が出来た所で買い物が始まった。
「あっ、この冷蔵庫なんてどうでしょうか?容量も六百五十ℓもありますし、扉は観音開きで左右どちらかでも開けられるので便利です。それとAIを搭載していて庫内の食材に合わせて適切なナノマシン処理をして鮮度を保つ機能があるみたいですね」
「少し大きいけど置くスペースがあるかしら?」
「今置いてある冷蔵庫と電子レンジを上に置いている棚をどければ大丈夫です」
「それなら問題無いわね。それじゃあ冷蔵庫はこれにしましょうか」
小百合さんと雪音さんの遣り取りを聞いていたが、あの短い時間でキッチンの間取りを完璧に理解してどこに何を置くかまで決めているとは恐れ入る。そこまで考えて決めてくれたのは嬉しいんだけど、最新式かつ無駄に最新技術が盛り込まれている為お値段が六十万円という……。スペックを考えれば妥当な値段なんだろうが、一般庶民の俺からするとたかが冷蔵庫に六十万円とか頭おかしいとしか言いようがない。しかし、買い物がこれで終わった訳では無く次から次へとカートに商品が入れられていく。
「電子レンジはこの入れた食材を自動で検知して最適な処理をしてくれて、オーブンやトースター機能もあるものにしましょうか」
「フライパンと包丁は信頼と実績があるメルクリックスはどうかしら?数年使用しているけど未だに食材が引っ付いたり、汚れがこびりついたりしないわよ。包丁も同じく切れ味は一切落ちていないし、欠けたりもしていないからお勧めね」
「賛成。ただ万能包丁ではなく、各食材に合わせた包丁を用意しないと」
という感じで自分で使っている器具を選んだり、多機能で様々な用途に使える商品を選んだりと話し合いながら選んでいる。当然値段も目玉が飛び出る程高いんだけどね。そうして三十分程で一通り買い終わったらしく、最終確認を俺にしてきた。
「大体必要な物を選んだんですが、この様な感じで問題ありませんか?」
「はい、大丈夫です。ただ金額が二百万円近いのですが……。やっぱり俺もお金を出します」
「男性が使うものですし、これくらいなら全然安いですよ。なので拓真さんがお金を出す必要はありません」
「さいですか」
雪音さんは大病院の医師、菫さんは軍警察の若手ホープ、小百合さんはお母さんが日本王国女王という高貴な家柄。それを考えれば二百万円くらい端金なのかもしれない。俺もそこそこ稼いでいるがポンッと数百万円を支払う事は無理だな。それはそうと三人の総資産額は一体どのくらいなのだろうか?確実に億は超えているだろうし、年齢を考えればこれからもっと増える事は確定事項。仮に将来結婚するとすれば俺の今の年収で生活していけるのかな?これまでの付き合いで三人とも散財はしないタイプというのは分かっているが、心配ではある。まあ、そもそも結婚できるのかという話ではあるんだが。
などと無駄に将来について考えてしまったが、今は家の中を案内している途中なんだよな。えーと、居間は終わったから次は風呂場にしようか。
「じゃあ次はお風呂場に案内しますね」
「分かりました」
居間を出て横に備え付けられている扉を開けるとすぐに風呂場になる。ユニットバスタイプでは無いのでそれなりに広さがある。
「一人用にしては結構広いですね。これなら二人同時に入る事も出来そうです」
「多分二人でも大丈夫だと思います。試した事が無いので使用感とかは分かりませんが」
「……今まで彼女と一緒に入るとかは無かったのですか?」
小百合さん、その言葉は俺に大ダメージを与えるので勘弁して下さい。彼女?生まれてこの方居た事がありませんがなにか?女の子と一緒に風呂に入る機会なんて一度もありませんがなにか?
……駄目だ。内心で毒づいてみたが空しくなるだけだし、自分で自分に傷をつけてどうするよ。
「そういうのは無かったです。いつかそう言う機会があればいいなとは思ってはいますが」
「そうですか。それは良かったで――いえ、近いうちにチャンスは来ると思いますよ」
そう言いながらニコッと満面の笑みを浮かべる小百合さん。これは俺にも春が来たんじゃないかと期待したくなるが、焦っては駄目だ。あくまで冷静に、そしてがっついてはいけない。ここで俺が返すべき言葉と態度はこれが一番だろう。
「有難うございます。期待して待つ事にしますね」
「はい」
という感じで風呂場の案内は終わり、最後は寝室となる。広さは八畳でベッドのほかにデスクや衣類タンスを置いている。テレビやパソコン等は一切置いていない。小型端末があればネットも出来るし、テレビも見られるからだ。なのでかなりシンプルで人によっては殺風景に映るかもしれない。個人的には物がたくさん置いてあるのは落ち着かないのでこのくらいがベストだと思っているが三人にはどう映るだろうか?
「最後になりますが、ここが寝室です」
「わぁ、広いですね。それに物が少ないです。私の部屋も似たような感じなので落ち着きますね」
最初に感想を言ってくれたのは雪音さんだ。まさか俺と同じシンプルイズベストな部屋とは思わなかったので少し驚いた。とはいえ男の俺とは違ってインテリアとか拘っていそうだ。
「私こういうシンプルなお部屋は好きです。それにとても良い香りがします」
「そうですか?芳香剤は使っていないし何の香りだろう?」
菫さんの言葉を受けてスンスンっと嗅いでみるが全く分からない。鼻が慣れてしまっているせいだろうか?ベッドシーツや枕カバーは毎日洗濯しているから汗臭いとか、加齢臭とかはしないはずだけど。うーんと頭を捻っていると少し嬉しそうな表情で菫さんが話しかけてくる。
「なんて言えばいいのか表現が難しいですが、物凄く濃厚で女性の本能を揺さぶる様な芳醇な香りなんです。ずっと嗅いでいたいけど……」
「確実に理性が溶けますよね。まだ数分しか経っていないのにお腹がキュンキュンしっぱなしですし、ウズウズして堪りません」
菫さんが言い淀んだ所で引き継ぐように小百合さんが言葉を続ける。が、トロンとした表情で下腹部を触りつつ股を擦り合わせるのは反則だと思います。そういえば以前俺の体臭が女性にとってかなり危険――性的な意味で――だっていう話を聞いたような気がするな。となれば匂いがこれでもかと染みついているこの空間は魔境なのでは無いだろうか。というかこのまま放置していたら彼女達の理性が崩壊して襲われるかもしれない。良くて俺の眼前でオナニーをする程度で済むかもしれないが、今までの関係ではいられないのは確実。よってここは可及的速やかに居間へと退避するべし。
そうして何とか居間へと移動して危機回避したが、さてこれからどうしようか?ネットショップで注文した品は即日配送らしいけど当然すぐには来ないし、適当に俺の部屋について感想でも聞いてみようか。
「これで一通り家の中を案内しましたが、どこか不明点などはありましたか?」
「特にありません。ただ、炊事に関しては最低限必要な物は先程買いましたがまだ足りないものがあるので追々買い足していきたいと思います。後は掃除機がかなり古いタイプみたいなのでこちらも最新型に買い替える予定です。その他細々とした物は必要になった際に都度購入する形でどうでしょうか?」
「分かりました。それでお願いします」
雪音さんの提案に了承を返す。買い替えに関しては問題無いし、家事炊事をしてくれる人が必要だと言うならその言に従うべきだろう。変にこちらからあれこれ言ったら不要な物まで買う事になるからね。
だがしかし、総額幾らになるのだろう?キッチン周りだけで二百万円オーバーなのに、更に買う予定なんだから二倍~二・五倍くらいになるのかな?四百万円越えとか正直何を言っているのか分からないレベルなんですが……。しかも、全額彼女達が出してくれるというのだからいよいよもってヒモ疑惑が確定したな。遊びに行った際に飲み物を買ったり、ファミレスでの食事代くらいなら俺に気を使ってこちらにお金を出させてくれるのだが、基本的には女性が全額出すという形になっている。これは俺が金欠だから金出してね!と言っていそうなった訳では無く、この世界では男性にお金を出させるのは有り得ない行為なのだ。だから最初は雪音さん、菫さん、小百合さんは物凄く嫌がったが男の面子を立てさせて欲しいという事で渋々了承を貰ったわけだ。そんなわけで今回の買い物については俺がお金を出す事は無いというね。
――少し回想に耽ってしまったな。そういえば大事な問題が残っていたのを思い出した。生理現象に関わる話だし、早めに聞いておこう。
「あの、三人にお聞きしたいのですがトイレは一つしかないので男女共用となりますが大丈夫ですか?確か男性が居る家族は必ず男女別でトイレや風呂を用意するという話を聞いたので心配になりまして」
俺の言葉を聞いて三人ともハッとした後顔を見合わせる。おしっこをするのは人間の生理現象だし、いつ尿意を催すかなんて本人でも分からない。当たり前だが俺の家でトイレに行きたいという事もあるだろう。その際どうするかという話になる訳だ。
「一応お店の方には男女別でトイレが設置されていますが、わざわざ移動するのも面倒だと思いますし皆さんさえ良ければ家の方のトイレを使って頂ければと考えているのですがどうでしょうか?」
「そうですね……、確かに家族に男性が居る場合は先程拓真さんが仰られた通りです男女別で用意するのが一般的です。ただ私達の場合まだ結婚していませんし、そこまでする必要は無いです。ですが私達が使用した後だと拓真さんはお嫌では無いですか?」
「嫌では無いですよ。寧ろ逆では無いかと」
「というと?」
菫さんが疑問を返してきたが、ここら辺でも俺が元居た世界との齟齬があるのか。普通は女性の方が男が使った後のトイレに入りたくないって言うものだが、この世界では逆になるのか。こういう些細な事でギャップが生じるのはまあ仕方ないし一つずつ埋めていくしかないな。
「菫さん達は俺がトイレを使用した後に使うのは嫌じゃないかなと思いまして」
「全く嫌ではありません。寧ろご褒美――コホン。失礼しました。私達は問題ありませんので、男女共用で使うという事で宜しいでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
結構不穏な発言が聞こえたが、菫さんの名誉の為にも聞かなかったことにしよう。決してご褒美なんて言っていない!いいな、言っていないんだ。
ふぅ、これで今の所問題はすべて解決したかな。結構喋って喉が渇いたし、飲み物でも用意しよう。と言ってもコーヒーとお茶くらいしか無いんだけど。
「飲み物を用意してきますね。コーヒーとお茶どっちが良いですか?」
「それでしたら私がご用意します」
「有難うございます。じゃあお願いしても良いですか」
「お任せ下さい」
ニコッと微笑んでから小百合さんがキッチンへと向かう。日本王国女王の娘にコーヒーを淹れさせるとか昔だったら問答無用で打ち首獄門だろうな。平和な世に生まれてよかったぜ。
なんて益体も無い事を考えているとお盆に四人分のコーヒーカップを載せて小百合さんが戻ってきた。目の前にコトッと置かれたカップからは湯気が立ち上り、馥郁たる香りを漂わせている。インスタントなのに何故に俺が淹れたものとここまで差が出るのだろうか?単純に技術の差だけではないだろう。あれか?美人が手ずから用意してくれたという特大補正がかかっているからか?うーん、今の所それが最有力だな。美人や美少女というのはそれだけのパワーを持っているからな。そんな物凄い力を持っている人が目の前に三人居るというこの状況は正にパラダイス!うへへへっと気持ち悪い笑みが漏れ出るくらいには心が盛り上がっている。
「あの、嬉しそうなお顔をされていますけど、何か良い事でもありましたか?」
「あっ、顔に出ていましたか?」
「はい」
小百合さんに指摘されて思わず自分の顔を触ってみると、確かに口角がこれでもかという程上がっていた。傍から見ればかなり気持ち悪い表情を浮かべていた事だろう。これは反省だな。
「小百合さんが淹れてくれたくれたコーヒーがとても美味しかったので、つい笑みが零れてしまいました」
「まあ、有難うございます。拓真さんにそう言って頂けてとても嬉しいです」
微笑を浮かべながらそう言ってくれたが、少し心苦しさもある。確かにコーヒーが美味しかったのは確かだが、それは二割程で残りの八割は下心が占めているのだから。本心を言えば美少女が淹れたコーヒーマジ美味いです!最高だぜ!となるがそんな事を言ってしまえば今日まで築き上げた関係が一瞬にして崩れてしまうからね。だから下心は心の裡に仕舞って当たり障りのない言葉を選んで伝えた訳だよ。彼女達とは良い関係を続けたいし、もっと先へと進みたいとも思っているから下手を打つわけにはいかない。石橋を叩き割る勢いで慎重になるべきだからな。などと考えつつコーヒーを飲んでいるとピンポーンとチャイムが鳴らされた。
「あら?お客様かしら?拓真さん、この時間に誰かと会う約束はされていますか?」
「いえ、していません。今日はこの後も予定は入っていないし誰だろう?」
菫さんの問いかけに返事をしつつ首を傾げる。
「アポイントメントも無く拓真さんの自宅に来るという事は……。念の為私が対応しますね。雪音、小百合。いざとなったら拓真さんを連れて逃げてね」
「分かったわ」
「分かりました」
二人の返事を聞いた後菫さんが緊張の面持ちでインターホンカメラに映っている映像を見る。そして少しの間遣り取りした後に俺の方へと歩いてくる。
「確認した所、ネットショップで買った家電類の配達に来たみたいです。ですが、まだ安心は出来ませんので拓真さんはそのままお待ち下さい」
「俺も一緒に行った方が良いのでは?」
「一応身分の確認は取れていますが、万が一という事もありますので安全が確保されるまではお待ち頂けないでしょうか?」
「そういう事でしたら分かりました」
「では行ってきます」
緊張感を漂わせながら菫さんが玄関へと向かう。この世界で身分証を偽造するのはかなり難しいが不可能では無いし、他人の物を使っている可能性だってある。確かに菫さんの言う通り念には念を入れた方が良いだろう。そうして五分程待った所で菫さんが戻ってきた。
「確認が取れました。問題ありません。――早速ですが購入した家電の搬入を開始しても大丈夫でしょうか?」
「はい、お願いします」
ふぅ、これで一安心できる。菫さんのお墨付きなら何の問題も無い。さて、これから業者さんが作業をする訳だし邪魔にならない様に隅っこに移動しようかと腰を上げた時、目の前に四人の作業服を着た女性が横一列に並び始める。
えっ!?と思ったのも束の間。彼女達が一斉に声を揃えて口にしたのは……。




