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第二十二話

 時刻は二十時を回り、お客様が来店されるピークの時間帯だ。何時も来店される方から初めましての方まで様々な人がやってくる。そんな中カランとドアベルが鳴り入店したのは小百合さんだった。

「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」

 カウンター席に空きがあったのでそこへとご案内する。椅子に座ってから少し経った後注文を伺うと、甘いカクテルが飲みたいというオーダーを頂いたのでシンガポール・スリングを作ることにしよう。

 シンガポール・スリングは赤い色が特徴的で甘くて飲みやすいカクテルだ。面白いのは同じカクテルなのにレシピが二種類ありラッフルズ・ホテルとサヴォイ・ホテルとなっている。ここで違いを話すと結構長くなるので割愛するが気になる人は調べてみる事をお勧めする。

 少し話が逸れたが今回小百合さんにお出しするのは甘さが強いラッフルズ・スタイルの方だ。使う材料はドライジン30ml、チェリーブランデー15ml、ベネティクティン7.5ml、ホワイトキュラソー7.5ml、レモンジュース15ml、パイナップルジュース120ml、グレナデンシロップ10ml、アンゴスチュラビターズ1dashとなっている。ただ、多少違う配合も当然あるしこれが正解では無いのでそこは注意して欲しい。バーテンダーによって使うお酒や材料を変えたりするのは当たり前なのでね。

 という訳でささっと作り、コースターの上に置く。南国を思わせる見た目が可愛らしいと女性に人気だが小百合も例に漏れず喜んでくれている。そうして一通り目で楽しんだ後に一口飲んだ。

「爽やかですけど、色々な果物の味がして美味しいです。それに甘くてとっても飲みやすい」

「お口に合ったようで何よりです。レモンとパイナップルジュース、そしてチェリーブランデーを使っているのでミックスジュースみたいな味でお酒が苦手な人でもゴクゴク飲めるんですよ」

「ふふっ、確かに美味しいからつい飲みすぎちゃいそうですね。でも、本当に美味しい」

 笑顔を浮かべながらコクリと喉を鳴らす様はなんというかとても妖艶に見える。

 そして他のお客様が居るのに普通にマスクを外して俺と喋っているんだが恥ずかしがったり、口元を隠す素振りも見せず少しずつ成長しているんだなと実感させられる。そんな親みたいな目線で小百合さんを見ていると、バッチリ目が合ってしまった。

「私の顔に何かついていますか?」

「いえ、何もついていませんよ。小百合さんの成長を目の当たりにできて少し感慨に耽っていました」「……あっ、もしかしてマスクですか?」

「はい。他の人が居ても外したままなのでついそんな事を考えてしまったんです」

「私がこうしてマスクをしていなくても普通にしていられるのは全部拓真さんのおかげです。色々とアドバイスも頂いたり、専門的な改善方法を実践したりとこんな短期間でここまでこれたのは拓真さんが協力してくれたからだと思います」

「有難うございます。――でも私だけの力でここまで来れた訳では無いので小百合さんと二人で頑張った結果という事で」

「そうですね。私と拓真さんが力を合わせたからこそですね」

 そう言って微笑んだ時口元から八重歯が見えたが、手で隠す事はしなかった。周りの人も気にした様子もなく談笑していたり、静かにお酒を楽しんでいる。うんうん、笑った時に見える八重歯は小百合さんのチャームポイントだと思うしとても可愛いからもっと見せて欲しいと思うのは流石に欲深すぎるか。それでもいつか沢山笑った顔を見せて欲しいなと考えてしまう。

 その光景を脳内で描いて内心でホクホクしていると、来店を告げるドアベルが軽やかに鳴らされる。

「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」

 新たに来店したのは雪音さんと菫さんの二人だ。もう常連なので座る席も決まっているからそちらに案内したんだけど、席に向かう途中で雪音さんが驚いたような声を上げた。

「あれ?小百合じゃない。久し振りね」

「こんばんは。小百合さん、菫さんお久し振りです。お元気でしたか?」

「お陰様で毎日元気に過ごせているわ」

「私はちょっと前まで忙しかったけど、ようやく落ち着いたって感じね」

 小百合さんの言葉に雪音さん、菫さんの順で返事を返す。色々と気になる事があるが、グッと飲み込んで二人に質問を投げかける。

「三人ともお知り合いみたいですし、いつもの席では無く小百合さんの隣にしますか?」

「そうですね。それでお願いできますか?」

「分かりました。それではこちらへどうぞ」

 という感じで一番右に小百合さん、その左隣に雪音さん、菫さんが座る形となった。それを確認した後注文を聞きそれぞれのカクテルを作り、渡す。二、三口飲んで少し落ち着いた後に聞きたかったことを雪音さんに質問してみる事にした。

「あの、皆さんお知り合いなんですね」

「そうなんです。家の関係で昔からよくパーティーに出席していたのですが、その時に知り合ったんです。今から六年前くらいですね。それからは一緒に遊んだり、連絡を取り合ったりしているんですよ」

「成程。そうだったんですね。――雪音さんは医師の家系ですし、菫さんは軍警察長官の娘で小百合さんは国家元首の娘さんと。錚々たる面子が集うパーティーですね。正直想像もつかないです」

「確かに政財界に身を置く人たちが出席していますが、案外普通ですよ。殆ど親同士で話していますし目的は色々な人とのパイプを作る事だったり、より強い関係を結ぶ事ですからね。それに女性ばかりで男性は参加しませんし」

「へー、それは意外ですね。てっきり男が居た方が有利に動くから男性の子供が居る人は連れてくると思っていました」

 男性が極端に少ないこの世界では男性という存在はあらゆる面で有利に働く。それは政治でも例に漏れず、雪音さんが言っていたパーティーに息子を連れて行ってちょっとボディタッチなんかさせれば大抵の事は押し通せそうなものだが。まあ、そもそもの話息子がいる家庭が極少数で更に親が政財界に居るというかなり特殊な条件を満たさなければ不可能だからそういった事例が無いのかもしない。

 ……もし俺がそう言ったパーティーに参加した場合どうなるのだろう?気になるし聞いてみようか。

「あの、もし私が皆さんが参加するような催し物に参加した場合どうなるのでしょうか?」

 てっきり多少騒ぎにはなると思いますが、それくらいですねなんて返ってくると予想していたんだけど三人とも押し黙り、更には店内のお客様もこちら――というか俺を見たまま驚いた表情をしている。別に変な事を言ったつもりは無いし、特に返事に困る内容でもないはずなんだけど……。少しの間沈黙が続き、ちょっとマズいなと考え始めた時重々しく菫さんが口を開く。

「拓真さんはそういったパーティーにご興味がおありなのですか?」

「あります。自分の住んでいる世界とは全く違いますし、良い刺激を貰えるのではないかなと思いまして。とはいえ、そう言った場に合う服も持っていませんし私みたいな一般人だと絶対に浮いてしまいますよね」

「凄く良い考えだと思います。それと服に関しては私の方で用意できますし、拓真さんの場合良い意味でとても目立つと思います。それこそなんとしても縁を持とうとあらゆる手段を使うでしょう」

「菫の言う通りね。当然私達で拓真さんの事はお守りするけれど、相手も海千山千の剛の者だから他にも助っ人が必要ね」

「それでしたら私が立候補します。母にお願いすればある程度は接触する人を減らせると思いますし」

「助かるわ。小百合のお母様が力を貸してくれるなら大船に乗った気でいられるわ」

 おぉう……どんどんと話が進んで行っている。いつの間にか俺がパーティーに出る事になっているし、警備面での話もある程度纏まっているとか早すぎないか?三人とも頭が良いし、昔からの付き合いだから相手の言いたい事がすぐに察せるというのもあるのだろうが展開が早すぎて追いつかない。

 少し考えている内になにやら直近で開催される物からどれにするかという話をしているんだが……。このままだとシャレにならない事態になるので一旦止める為に三人に向かって声を掛けた。

「すみません、少しの間ストップでお願いします」

「あっ、ごめんなさい。拓真さん抜きでドンドン話しを進めてしまいました」

「いえ、雪音さんが謝る様な事ではありません。ただ何となく気になって聞いてみただけなので、直近でパーティーに参加するとかは考えていませんので。何れそう言う機会があれば良いな程度なんです」

「うぅ、完全に失態です。つい拓真さんがそういったものに興味があると聞いてテンションが上がって暴走してしまいました」

「そうなんですね。でも三人の珍しい姿を見れて私としては役得でしたよ」

「そうですか?拓真さんが喜んでくれたのなら恥ずかしい姿を見せてよかったのかも」

 うん、やや暴走気味だったが反省もしているみたいだし最後に丸く収められたから万事良し。あとは良い感じの空気になったし変に話が逸れない様に注意するだけだな。取り敢えずは話題を変えようか。

「そういえば先週街でブラブラしていたらテレビ撮影している所に出くわしたんですよ」

「「観ました!勿論生放送で」」

 雪音さんと菫さんが声を揃えて返事をしてくれた。小百合さんはその時一緒だったので特にリアクションは無いがニコニコしながら俺の方を見ている。

「観てくれたんですね。でも素人の食レポとかかなり酷かったと思いますし、観ていてつまらなかったのでは?」

「そんなことは無かったですよ。確りと商品をアピールしていましたし感想もとても素晴らしかったです。実は放送を見た翌日に買いに行ったくらいですから」

「おぉ、それは嬉しいです。食べてみて雪音さんの口に合いましたか?」

「凄く美味しかったです。二本買ったんですけど、あっという間に食べてしまってもう一本買っておけばと後悔しました」

「分かります。一口食べればもう止められない止まらないでずっと食べ続けてしまうんですよね。……話していたら食べたくなってきました」

「ふふっ、では今度のお休みに買いに行きませんか?」

「良いですね。あっ、折角なので菫さんや小百合さんも一緒にどうですか?」

「勿論ご一緒致します」

「ご迷惑でなければ私も行きたいです」

 二人からの了承も取れたし、早めにスケジュールを調整して全員が都合がいい日を決めないといけないなと考えていると、菫さんが少し重めの口調で問いかけてくる。

「ですが行くとなれば最低でもあと二週間は間を置いた方が良いと思います」

「直近だと何か不味いんですか?」

「はい。実は拓真さんがテレビ出演してからというものテレビ局には問い合わせの連絡が山のように来て対応で今でも手一杯の状況みたいです。そして紹介されたお店は連日大混雑で二時間待ちはザラ、更には男性がお店の周囲に出没するという噂を聞き付けた女性達が昼夜問わず徘徊してます。私達軍警察も治安維持の為出動する事態でして当分騒ぎは収まりそうにないですね」

「私のせいで菫さんに多大なご迷惑をお掛けしてしまったようですみません」

 腰を深く折り頭を下げる。俺の迂闊な行動がどの様な結果を招くかをもっと考えるべきだった。男性が全国放送のテレビに少しだけとはいえ映ればどうなるのかなんてすぐ分かる事なのに……。関係者各位に謝罪行脚をしなければいけないな。

「拓真さんが謝罪する必要はありません。治安維持は私達の仕事の一環ですし、騒ぎと言っても犯罪が多発しているとかではなくもしかしたらテレビに映っていた男性に合えるかも?という淡い期待から行動しているだけですし。それに軍警察上層部は今回の件を日本王国を良い方向に変える切っ掛けになるのではと考えているみたいです」

「というと?そんな変革を促すような事では無いと思うのですが」

「いえ、とても大きな出来事です。人前に出るだけではなく、男性がテレビに出演し嫌悪感や忌避感を一切感じさせずに女性と普通に会話をする。これは男女比率が1:50になった時代から途絶えた事なんです。大昔には当たり前だったそうですが、今では眉唾物の話で誰も信じてなんて居なかった所にこれですから。好機と捉えるのも仕方ないかと」

「そういう事ですか。じゃあ、この一件で少しでも男性が外に出る可能性があるかもしれないっていう事ですよね。あとは、私みたいな女性を毛嫌いしない男が居るって言うのが分かっただけでも何かしら心に響くものがあったかもしれないし」

「拓真さん仰る通りです。これを機に少しでも外の世界に目を向けてくれる人が居るかもしれませんし女性の方も今まで男性を見る事すら人生であるか無いかだったのが、多くの人が拓真さんのお姿を見ました。そして街に結構遊びに行くと仰っていたのでもしかしたら生でお姿を見たり、声を聞けたりするのではないかという期待が生まれます。結果男性、女性共に少なくない意識変化が起きたのは間違いないでしょう」

「その変化を一過性のものではなく、確りと根付いたものにしようという事ですね」

「その通りです」

 成程ね。こんな機会はもう二度と無いかもしれないし絶対にものにしようとするのは当然か。となれば軍警察だけではなく国も動くだろう。切っ掛け一つで物事が大きく動くことは稀にあるし、それが良い方向ならば俺も協力するのも吝かでは無い。とはいえ俺に出来る事はなにか?と考えると……すぐには思いつかないな。一応菫さんには一言伝えておこう。

「私にできる事があれば言って下さいね。出来る限りお手伝いしますので」

「有難うございます。その時は宜しくお願い致します」

 かなり真面目な話になってしまったが、良い話し合いが出来たと思う。俺も得るものが多かったし一つお礼として飲み物を奢ろうかな。三人の好みと二杯目という事を考慮して作っていく。そうして出来上がったのはモヒート、シャンディガフ、ニューヨークの三種類のカクテルだ。これらを雪音さん、菫さん、小百合さんの前に置いてから一言。

「タメになるお話を聞けたのでお礼として作りました。どうぞお飲み下さい」

 少しだけ驚いた顔を見せたが、有難うございますとお礼を言ってから飲み始める。こういう時に変に遠慮したり、そう言うのを期待していた訳ではありません等と言われるとこちらとしても気まずくなってしまうので、素直に受け取ってくれて良かった。

 その後少しの間無言の時間が続いたが、それもまた良し。なんとも言えない微妙な空気になる事も無いし、逆にこうしたしっとりとした雰囲気はbarらしくて良いと思う。グラスを拭きつつそんな事を考えていると、雪音さんが俺の目を見ながら声を掛けてきた。

「拓真さん、少し顔色が悪いみたいですがちゃんとご飯は食べていますか?」

「あー……その、最近は忙しくて食事を抜くことが多かったです」

「それはいけませんね。ご家族が居れば作ってもらう事も出来たのでしょうが、拓真さんは独り暮らしですし。毎食コンビニ弁当やスーパーのお惣菜というのも身体に悪いし栄養が偏りますから難しいですね」

「忙しくても自炊しようとは思ってはいるのですが、疲れていると面倒になってしまってつい……。家事とかも億劫になってやらない日があっていけないとは思っているんですけどね。なのでいっそ家政婦さんでも雇おうかなと考えているんですけど男の一人暮らしだとサービス拒否されそうで踏ん切りがつかず。如何ともし難い感じなんです」

「「「駄目です!」」」

 ここ最近の私生活の問題を吐露したら三人から思いっ切り否定されてしまった。確かに二十代半ばにもなって自分の事すらまともに面倒を見れないなんて大人失格だよな。忙しい、疲れている、大変なんて仕事をしている人なら誰でも同じだ。それらを言い訳にしてサボって良いわけではないし、事実雪音さんや菫さんは俺よりも多忙なのに身の回りの事は完璧に熟している。こりゃ、駄目ですと言われても仕方ない。内心で深く自省をしていると、雪音さんが重い口調で話しかけてくる。

「男性の家、それも一人暮らしの家に見ず知らずの女性を招くなんて絶対に駄目です。確実にトラブルが起きます」

「そうね。雪音の言う通りだわ。私物を盗んだり、過剰な接触をしたり、最悪レイプされる可能性もあります。自衛の為にも絶対に控えて下さい」

 菫さんが雪音さんの言葉に同意した後恐ろしい事を言ってくる。

「でも依頼するのは家政婦サービスを提供している会社ですよ?雇われている人も確りと教育を受けているでしょうし、犯罪を犯すとは思えませんが」

「それは甘い考えです。拓真さんの様な魅力的で、女性に優しい男性と密室で一対一で数時間一緒に過ごすんですよ。悟りを開いてあらゆる欲求を捨て去った僧侶ですら、肉欲に目覚めて凶行に及ぶこと間違いなしです。それが一般人ともなれば考えるまでもありません」

「それじゃあ止めた方が良さそうですね。でもそうなると頼める相手がいないし八方塞がりですね」

 家政婦は駄目となれば、今の生活を続けるしかなくなる。食事は宅配弁当を頼めばかなり割高になるがなんとかなるだろう。だが、家事の方はどうしようもない。正直かなりしんどいし頑張らなければいけないが休日に一気に終わらせるしかないか。最近来店されるお客様もかなり増えてきたし、この忙しい生活は当分続くだろうから覚悟を決めるしかない。と覚悟を決めた所で小百合さんが衝撃発言をしてくる。

「拓真さんさえ良ければ私が食事を作ったり、家事をしましょうか?学生なので時間には余裕がありますし、大抵の事は出来ますので」

「そう言って頂けるのは嬉しいのですが、問題はありませんか?男性の家に娘を一人で行かせるというのはご両親が心配するのでは?」

「大丈夫です。お母様も心配どころか喜んで賛成してくれるはずです」

 満面の笑みで言われてしまうと、反論しずらい。それに娘である小百合さんが言うなら、その通りなのだろう。うーん、でもトラブルになるのは避けたいし小百合さんのお母さんに俺から了承を取るべきなんだろうが、国家元首に簡単に会える訳も無いし。うーん……。

「小百合だけズルイです。そういう事なら私も拓真さんの生活を支えます」

「勿論私も参加します」

 悩んでいると雪音さん、菫さんも手を挙げて参加表明をしてきた。二人に関しては大学生である小百合さんと違って社会人なので両親の許可を取る必要は無い。その点は安心なんだけど、物凄い美人が身の回りの世話をしてくれるってなると俺の理性が持つか心配だ。一人暮らしの男の家に女性が一人で来るんだぞ!それも自分に少なからず好意を持っている人がだ。普通の男なら間違いなく美味しく食べてしまうだろう。勿論性的な意味でだ。だからこそ、非常に悩む。せめて恋人だったらSEXしても問題は無いんだけど友人だしなぁ……。女友達に手を出すというのは俺に矜持に反するし、避けたい所だけど男の本能を抑え込めるかと言われれば難しい。取り敢えずは言葉を濁して気持ちを伝えてみようか。

「あの、気持ちは大変嬉しいのですが菫さんと雪音さんはお仕事をしていますし難しいのでは?」

「流石に毎日というのは厳しいですが、定時に上がればご飯は作れますしお掃除も出来ます」

「私も菫と同じです。家事に関しては洗濯や簡単な掃除等は毎日出来ますが、本格的なお料理や家中の掃除などは休日にさせて頂ければ嬉しいです」

「その案は良いですね。休日であれば普段手が届かない所も掃除出来ますし、ご飯も手の込んだ物を作れそうですね」

 雪音さんが菫さんの言葉に賛成し、更には小百合さんまで乗り気と来た。だがしかし、ここで怯んではいけない。身の危険があるんだぞと伝えなければ。

「でもですね、男の家に上がり込むというのはその~、危険もありまして。お三方とも綺麗な女性ですし密室で過ごせばひょんな拍子で私の(たが)が外れてしまう可能性もありまして……」

 迂遠な表現で伝えてみたが意味が分かっただろうか?もう少しストレートに言った方が理解出来るとは思うが、今は他のお客様も居るし難しいんだよな。少し不安になっていると、三人揃ってポッと頬を赤らめて嬉しさと恥ずかしさが混ざった表情を浮かべる。そして声を揃えて俺に向けて言の葉を紡ぐ。

「「「寧ろ大歓迎です!」」」

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