第二十一話
小百合さんとの突発デートから幾日か過ぎた今日、この世界に来て初めて自宅に人を招き入れる。と言っても店舗兼自宅なので正確にはプライベートな時間に人を招いたというのが正しいだろう。とまあ、それはさておき今日家に遊びに来るのは大分前に公園で出会った幼女三人組とお母さん達だ。以前の別れ際にまた遊ぶと約束したが、なんやかんやで延び延びになってしまった上に菫さんが所属する軍警察の身元確認に時間が掛かった結果今に至るという訳だ。例え幼女であろうとも身元が不確かなら絶対に俺に近寄らせないという強い意志を感じる。身の安全を確保する為には仕方ない事とは言え、少し息苦しさを感じるのも確かだ。とはいえ、そんなの要りませんと強弁した結果怪我をしたり、最悪死亡したとなっては目も当てられないし必要な事だと割り切るしかないだろう。……なんて考え事をしている内にお店へと続く通りについた。
そこには三人の幼女と綺麗な母親が所在なさげに佇んでいる。
「すみません、お待たせしました」
「「「あぁ~!おとうさん!!」」」
声を掛けた瞬間こちらに振り向き、俺の姿を確認した瞬間に笑顔満面で小走りで来たと思ったらヒシッと抱き付いてくる。前と左右から幼女に抱き付かれるとか凄い絵面だが、可愛いから良し。三人――美穂・凛・友香の頭を優しく撫でながら近づいてきたお母さん達の方へと視線を向ける。
「うちの子がすみません。いきなり抱き付くなんて羨ましい――じゃなくて、すぐに引き剝がしますので」
「いえいえ、このままで大丈夫ですよ。寧ろ元気一杯で微笑ましいと思いますし」
「そう言って頂けるのでしたら、このままにしておきますね」
申し訳なさそうな顔で謝ってきたが子供はこれくらい元気な方が好感が持てる。そう、好感が持てるのだがさっきからグリグリと顔を押し付けたり、ふんすふんすと臭いを嗅いでいるのが気になる。朝シャワーを浴びたし臭くは無いはずだが、こうも勢いよく体臭を嗅がれると流石に……ね。という訳でさり気無く移動を促す為に話しかける。
「それじゃあそろそろ行きましょうか」
「「「はーい」」」
子供達が元気よく返事をするが、俺から離れる様子は一切無い。というか歩き出してからも前と左右に引っ付いているの変わらず、機嫌よさそうにしているのを見ると危ないから少し離れて歩こうねとは言いずらい。まあ、俺が確り周りを見ていれば大丈夫か。店へと続く道は人通りが少ないし、車も通らないから早々危険な目に合う事も無いしね。なんて考えつつ安全確認を怠らずに暫く歩くとお店に到着。
「ここがおとうさんのおみせ?」
「そうだよ。あんまり大きくなくてガッカリしたかな?」
「ううん、そんなことないよ」
友香がそう言ってくれたが、やはり子供なら大きな方が魅力的に映るだろうし格好良いと感じるんじゃないだろうか?飾り気が無く、一見すると民家なのかお店なのか分からない外観だからなぁと思っているとお母さん達は全く違う反応をしている事に気付く。
「シンプルだけど、趣があって良いわね」
「そうね。あえて飾らないからこその良さというか」
「分かるわ。居酒屋みたいな派手派手しい感じではなく、落ち着いてお酒を楽しめる大人の社交場に相応しいわね」
口々に褒め言葉を言うのを見ているとなんというか少しムズムズするな。でも悪い気はしないし、元の世界でお店のオーナーをしていた叔父が拘り抜いて建てたお店だから褒められると嬉しい。だからこそ、お礼を伝えなくては。
「そう言って頂けてとても嬉しいです。有難うございます」
「いえ、こちらこそこんな素敵なお店にお招きいただき有難うございます」
「では、立ち話もなんですし中に入りましょうか」
そう言ってからドアを開けて店内へと促す。営業時間外なので当然店内には誰もおらず、ガランとしていて静寂が満ちている。窓から差し込む陽光がカウンターキッチンにある酒瓶やグラスを照らし一種の写実的な絵画を思わせる光景だが、幼女達にはそんなのは関係無いみたいでわぁ~、すごいすごい!と大はしゃぎで店内を見て回っている。
「あんまりはしゃぐと怪我をするから気を付けるんだぞ。それと、カウンターキッチンの方はグラスとかお酒の瓶があって危ないから近寄らないようにな」
「分かった~」
よし、これでグラスを割って怪我をしたり、棚にぶつかって瓶にぶつかる心配は無くなったな。ホッと安堵の吐息を漏らすと横から声を掛けられた。
「子供達の事は私も見ていますのでご安心ください。あの子達にも事前に危ない事はしない様に言ってありますので」
「すみません、助かります」
そうして暫くはしゃぎまわる幼女三人を見守りながら、お母さん達と他愛無い話をする事に。何気ない日常の話から、子育てに関する苦労話まで色々と聞いたが三人に共通していたのは幼い子供を一人で育てるのは大変という事だ。仕事が終わるまで幼稚園に預けているそうだが、それでもやる事は山盛りだし常に目を向けていないといけないので自分の時間が取れないと嘆いていた。仮に二人、三人となれば最早にっちもさっちもいかなくなるのは明白だし、せめて上の子が小学校高学年くらいであればかなり楽なのですが中々難しいですよねと言っていたな。人口減少に歯止めをかける為にも、また男児を少しでも多く確保する為にも産めよ育てよが推進されているが話を聞く限りだとかなり難しいだろう。
ついつい難しい顔をしてあれこれ考えていると、下の方から服の裾を引っ張られる感触がするのでそちらの方へと視線を向ける。
「おっ、どうした?なにかあった?」
「えっとね、おとうさんがこわいかおしていたからきたの」
「おっと、ごめんね。少し考え事をしていたんだ」
「ほんとうに?おこってない?」
「怒ってないよ。それよりもお菓子があるから食べようか」
「やったー!おかしたべる~」
「それじゃあ、そこのテーブルでお母さん達と待っててね」
「うん」
美穂が頷いたのを確認してからバックヤードにお菓子を取りに行く。どういった物が好みなのか分からなかったので適当にスーパーで目についたお菓子を買ってきたんだが、大丈夫だろうか?俺が子供の頃に好きだったうまい棒やヤングドーナツ、小さい容器に入ったヨーグルト等はこの世界では無かったのが悔やまれる。というか今時の子は駄菓子とか食べるんだろうか?うーん……分からないがもし口に合わない様であればコンビニまでひとっ走りして好みのお菓子を買って来ればいいか。
考えも纏まった所でお菓子を持ってみんなが待っているテーブルへと戻る。
「はい、お菓子を持って来たよ。どれでも好きな物を食べて良いからね」
「「「わぁ~、いっぱいある!」」」
キラキラと目を輝かせながら物色している姿は実に子供らしくて可愛らしい。子供達はお菓子で良いがお母さん達はそうはいかないので、冷蔵庫に保存していたケーキを食べて貰おうと思う。洋菓子に関してはどれが良いのか分からなかったので、ネットで調べて有名店の一押しを早起きして買ってきたんだが果たして口に合うかどうか少し心配である。
「あら?このお店って毎日長蛇の列が出来てなかなか手に入らないと有名な所ですよね?」
「おぉ、凄い。良く分かりましたね」
「箱のデザインが特徴的なのですぐに分かりました。一度で良いから食べてみたいと思っていたのですが、まさかこうして食べられる日が来るなんて」
「店員さんに一押しを聞いて何種類か買ってきたので、お好きな物をどうぞ」
「有難うございます。でも、佐藤さんが最初に選んでください。私達はその後で良いので」
「残り物には福があると言いますし、俺は最後で良いですよ。皆さんの為に用意したものですし、食べたい物を選んでください」
「分かりました。……では、ガトーショコラを頂きますね」
そうして各々好きなケーキをお皿に移した所で、俺は最後に残ったレモンケーキを取る。手を合わせていただきますと言ってからフォークで一切れとり、口に入れると爽やかなレモンの香りと僅かな酸っぱさが口に広がる。と同時に程よい甘さが舌を喜ばせる。店員さんが進めてくれただけあって美味い。飲み物はコーヒーでは無く紅茶が合うんだけど、生憎お店にはコーヒーしか置いていない為少しちぐはぐな感じだ。今度スーパーで茶葉を買ってくるかと心のメモ帳に記入しつつ、お母さん達の様子を見てみると幸せそうな表情を浮かべている。
「お口に合いましたか?」
「はい、とても美味しいです。流石有名店だけありますが、何よりも佐藤さんが用意してくれたというスパイスがより美味しさを引き立たせていますね」
「分かるわ。男性がわざわざ用意してくれたという事実が何倍にも味を引きた立てているわよね」
「こんな美味しいケーキを一度味わったらもう他の物は食べられなくなりそうだわ」
「気に入って頂けたようで何よりです。またこういう機会もあるでしょうし、その時は違うお店のお菓子を用意しますね」
「お心遣い有難うございます。その時を楽しみにしていますね」
そう言って貰えると、次も喜んでもらおうと思えるし早起きして買いに行った甲斐があるってもんだ。嬉しい気持ちで一杯になりながらレモンケーキを頬張っていると隣から何やら視線を感じる。横では幼女三人がキャッキャッ言いながらお菓子を食べていたはずだが何かあったのだろうか?と思い顔を向けると三人がジッーっとこちらを無言で見つめていた。
「うおっ!?吃驚した。――どうしたの?なにかあった?」
「えっとね、おとうさんがたべているのわたしもたべたい」
「うん、いいよ。……はい、あーん」
「あーん。……おいしい~!!」
「それは良かった」
凛がニコニコと微笑みながら喜んでいる姿を見ているとほっこりした気持ちになる。さて、美穂と友香も待ち遠しそうにしているし、食べさせてあげるか。
三人に一口ずつケーキをあげたので、残りは半分以下になってしまった。まだ一口しか食べていないが幼女三人が滅茶苦茶嬉しそうにしていたので良しだ!あと、お母さん達もあーんして欲しそうにしていたが、俺が食べる分が無くなるので次回にして貰ったよ。その際絶対ですよと何度も念を押されて、その時の鬼気迫る感じがちょっと恐ろしかったが男性が少ないこの世界ではそれも致し方無しか。
なんてちょっとしたハプニング?もありつつも楽しい時間は過ぎていく。お喋りをしたり、子供達に抱っこをせがまれたり、トイレに付き添ったり――公園の時と一緒で一人ではおしっこが出来ないというので手伝った――と色々していると幼女達がウトウトとして椅子から落ちそうになっていたので慌てて抱き留める。
「おっと。大丈夫?」
「う……ん」
「お店を探検したり、お菓子を食べたりして眠くなっちゃったかな?お昼寝しよっか」
「する」
目を擦りながらなんとか答えてくれた。時刻は十五時を少し過ぎたくらいだし、お昼寝して夜眠れなくなるという事は無いと思うが一応お母さんに確認しておこう。
「あの、今からお昼寝させても大丈夫ですか?」
「一時間位なら問題ありませんよ」
「分かりました。美穂、凛、友香。ベッドが俺の部屋にしかないからそこで寝る事になるけど良い?」
「大丈夫~」
「おとうさんのおふとんでねる」
「うぅ~、おひるねするの~」
「うん、それじゃあ部屋に行こうか」
三人とお母さん達を引き連れて俺の部屋まで向かう事に。住居部分はお店のスタッフ専用通路から扉を開けた部分になる。決して広い訳では無く、リビングと俺の部屋、客間が一つというシンプルな作りになっている。風呂やトイレも当然完備されているしキッチンだってあるが最近は忙しくて料理をしていないので綺麗なままだ。っとそれは今は置いておいて廊下を歩いてすぐの所にある私室へと着いたので扉を開けて中へと促す。
「ベッドは一つしかないから三人で寝ると少し狭いかもしれないけど許してね」
「だいじょうぶだよー」
ベッドのサイズはダブルなので一応幼稚園に通う子供位なら三人並んで寝ても窮屈では無いと思うが、やや狭さは感じるかもしれない。大丈夫かな?と様子を伺っていると小柄で細身なのもあってか割と余裕がある感じで一安心。
「それじゃあ、電気を消すね。俺達は居間の方に居るから何かあったら来てね」
「わかったー。おやすみなさい」
「おやすみ」
そうして一時間程お昼寝タイムに子供達は突入したので、俺とお母さん達は居間に移動する。
「何か飲みますか?今用意できるのはコーヒーとお茶くらいしかなくて申し訳ないのですが」
「それでしたらお茶をお願いします」
「分かりました。二人もお茶で良いですか?」
「「お願いします」」
キッチンで急須からコップにお茶を淹れて、それぞれに手渡す。その後椅子に座りお茶をズズッと一口飲むと渋みがあり、あまり美味しくない。普段はコーヒーばかりでお茶を淹れる機会なんて無かったので仕方ないとはいえお客様に出せる味では無い。
「すみません。久々に淹れたので美味しくないですよね。コーヒーに変えましょうか?」
「いえ、少し渋みがありますが美味しいですよ」
「有難うございます」
お世辞だと思うが、その厚意は有難く受け取っておこう。――さて、何を話そうか。面白い話題は無いだろうかと頭の中で考えていると、前に座る美穂のお母さんが話しかけてきた。
「子供の為にベッドを貸していただき有難うございます。もしかしたら粗相をするかもしれませんが、その際は弁償いたします」
「そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ。小さい子供がおねしょをするのは自然な事なので。それにシーツを洗えば良いだけですから」
「ですが、一人ならまだしも二人、最悪三人が粗相をした場合ベッド自体が駄目になりますのでその際は私どもで新しいのを買います」
「分かりました。その際はお願いします。――三人とも年齢の割にはしっかりしている印象なのですがその辺りはまだまだなんですね」
「はい。流石に夜泣きはしなくなったのですが、おねしょは週に一、二回はします。小学校に上がる前には直るとは思うのですが……。洗濯も大変ですし早めに改善して欲しい所です」
「それは確かにそうですね。オムツを履かせる訳にもいきませんしね」
「そうですね。親としてはそうしてもらった方が楽なんですが、絶対に嫌がるので」
親目線でこうして欲しいと思っても小さい子供の場合は兎に角嫌がるからな。子育ては本当に大変だと思うし、苦労の連続で精神的に参ってしまってネグレクトや虐待をする人も居るくらいだ。この世界では男児の場合は手厚く保護されて、異常なほど愛されるが女児の場合は俺が居た世界と扱いは大差ないんだよ。男女比が狂っている世界というのは良い面もあれば悪い面もあって中々に難しい。何時か俺にも子供が出来たら今は見えない景色が見えるのかもしれないが、果たしてその時は来るのだろうか……。今まで良い人止まりで彼女いない歴=年齢だからかなり心配ではある。
そんな事を考えていたせいか不安が顔に出ていたみたいで、友香のお母さんが心配そうに声を掛けてくる。
「深刻そうな顔をしていらっしゃいますが、大丈夫ですか?」
「ああ、すみません。子供達の話をしていて果たして俺は将来結婚出来るのだろうかと少々不安になりまして」
「えっ!?ご結婚されていないのですか?」
「はい、未婚です」
「彼女もいらっしゃらないのですか?」
「居ません」
「………………」
三人とも黙り込んでしまった。確かに二十代半ばで彼女が居ないどころか結婚もしていないとかこの世界基準では終わっているよな。男性は早い人だと十代で結婚するらしいし、遅くとも二十代前半で結婚するのが当たり前らしいからそれに照らし合わせると俺は完全に不良物件という訳だ。……考えれば考える程ドツボに嵌まっていく気がする。そしてこの何とも言えない空気が心に刺さるぜ。
「あの、とても失礼な質問なのですが佐藤さんは女性に興味が無いのでしょうか?」
「そんな事はありませんよ。寧ろ大好きです。ただ、女性と知り合っても友人止まりで恋人関係まで発展する事は無かったんです。あれこれ手を変え品を変えアプローチしてみたのですが、全部不発に終わって成功しなかったので今は彼女を作る事は諦め気味です」
「男性からアプローチされたのに袖にするなんて女性の風上にも置けませんね。というかですね、佐藤さんレベルの超優良物件は世界を探しても他に居ませんしお付き合いしたい、結婚したいという人は数え切れない程いると思います」
「有難うございます。そう言って頂けて大分救われました」
こういう会話は雪音さんや菫さん、小百合さんともしたが同じような事を言われたな。けど、人間離れした美貌と非の打ち所が無い性格を持ち合わせたこの世界の女性と果たして俺が釣り合うのかと言われれば確実にNOだ。とはいえ菫さん、雪音さん、小百合さん達から好意を寄せられているのは分かっているし、俺としても憎からず思っているので彼女達に釣り合うように努力はしている。……顔面偏差値だけはどうしようもないのでそこは諦めているが。所謂イケメンではなく、内面が格好良い男を目指して日々邁進しています。そうして考えが一段落した所で今度は凛のお母さんが話しかけてきた。
「それにしても、お店を経営しているなんて凄いですね。お客さんも沢山来ると思いますが、佐藤さん一人で切り盛りしているのですか?」
「今の所はそうですね。ギリギリ一人で回せる来店客数なのでなんとかなっていますが、これ以上増えるちょっと厳しですね」
「男性がバーテンダーをしているとなれば、凄いお客さんの数だと思いますがそれを一人で捌くなんて凄いです」
「あー……、一応来店するには色々と審査を受けなければいけないので、誰でも来れるという訳では無いんです。それでもかなりのお客様が毎日来店されるので大変ですけど」
「そうなんですね。――その辺はあまり詳しく聞かない方が良さそうですね」
「はい。ちょっと面倒な事になる可能性がありますから」
知り合いとは言え国が絡んでいるからな。迂闊に話せば大変な事になってしまう。政財界に身を置いている人とか、親がそっち関係で俺の事情を知っているとかなら話は別なんだけどお母さん達は一般人だからな。彼女達の平穏を守る為にも余計な事は言わないのが正解だ。
そんな空気を読み取ったのかその後は他愛無い話で盛り上がり、気が付けば一時間以上経過していた。そろそろ子供達がお昼寝から起きる時間なので寝室へと行き寝ている子達を起こす事に。
「もう起きる時間だよ」
肩を揺すり目覚めを促すと、瞼を擦りまだ眠そうな表情を浮かべつつも起きて挨拶をしてくれる。
「「「おとうさん、おはよう~」」」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん!お父さんの匂いがずっとしたからたくさんねれたー」
「それは良かった。さて、ベッドから降りようか」
「は~い」
三人とも寝起きは良いみたいで、寝ぼけたりもせずにベッドから降りそのまま居間へと移動する。起き抜けなので水分補給をさせる為にお水を人数分用意して渡すと、勢いよく飲み干してしまった。
「お菓子とかはまだあるけど食べる?」
「おなかへってないし、だいじょうぶ。それよりもおとうさんとおはなししたい」
「そっか。それじゃあお話ししようか」
それから二時間程絶えることなく会話が続き楽しい時間を過ごしたが、そろそろ帰る時間が近づいてきたので伝えることにしよう。
「もう帰る時間だしここら辺で終わりにしようか」
「うぅ~、かえりたくない!おとうさんといっしょにいる」
泣きそうな顔で駄々を捏ね始めたが、お母さん達と俺が力を合わせて何とか宥める事に成功した。が、玄関までずっと俺に引っ付いて離れなかったのは寂しさの表れだったのだろうか。
「それじゃあ、今日は有難うございました。気を付けて帰って下さい」
「こちらこそ有難うございました。色々とご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。また遊びに来てください」
「はい。――それじゃあ、帰るわよ」
「うん……。おとうさん、ばいばい」
「ばいばい。また一緒に遊べる機会はあるから、そんな寂しそうな顔をしないで」
「うん。ぜったいにまたおとうさんのいえにあそびにいくね」
「分かった。楽しみにしているよ」
そうして別れの挨拶をした後帰って行った。
なんとも濃い休日だったがこういう日も悪くない。そんな事を思いながら一日が終わるのだった。




