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第十七話

 忙しい日々を過ごしていると、日付を忘れてしまう事がある。お客様との会話の中で何日にどこかに行くんですよとか何曜日に何をするんですという話はしないし、店内にはカレンダーも無いので尚更日付や曜日を意識する事が少ない。因みに部屋にもカレンダーはないので小型端末で確認するしかないのも一因だろう。さて、ここまでである程度察した人も居るかもしれないが、今日は雪音さんと菫さんの二人と出掛ける日なのだ。朝起きてコーヒーを啜りながら何となく小型端末を眺めていたらふと表示されている日付が目に入り大慌てしたというね。てっきり来週だと思っていたので本気で焦ったし、何も準備していなかったので急いで服を用意したり、出掛ける支度を整えたんだけど滅茶苦茶疲れた……。もう朝から疲労困憊ですよ、主に精神的に。とはいえ待ち合わせ時間までは少し余裕が作れたのでそれは良かったんだけど。取り合えずこのままじゃ朝の通勤電車で揺られる中年サラリーマン男性みたいな疲れた顔で二人に会う事になるので、元気になる秘密のドリンクをグイッといきたいと思う。

 冷蔵庫からとりだしたるは銀色のラインと紫のラインが重なっていて中央にリアルな髑髏が描かれている三百五十mlの缶。見るからにヤバそうな一品だと見た目で分かるし、これを手に取る人は少ないだろう。いかにも怪しげで裏で取引されていそうだが実はコンビニで普通に売っている。お値段はなんと一缶三百円。これを高いと見るか安いと見るかは人それぞれだが、俺は相当安いと思う。なんせ効果が洒落にならないレベルで高いからだ。以前見た目に惹かれて買ってみたんだが、飲んだ瞬間から気力が溢れ、思考が冴え渡り更には身体の奥底から沸々と活力が漲って来る。今ならなんでも出来そうな全能感も合わさり仕事が捗り過ぎて吃驚したくらいだ。しかも休憩なしでぶっ通しで働いたにもかかわらず疲労と言うものが一切無い。

 フハハハハハ!俺は無敵だ~!なんて思っていたらいきなりプッツリと糸が切れた様に意識が途切れ、気がついた時には一日半が経過していた……。結論から言えば一時的に肉体精神共に限界を超えた力を出せるようになるが、時限式で効果が切れたら物凄い反動で意識を保っていられなかったという訳だ。正に諸刃の剣であり、市販していい代物ではない。まさか違法な成分でも入っているのかと製造会社のHPを覗いてみた所全て合法な成分であり、特殊な組み合わせで混合する事により今までにない効果を発揮する……らしい。食品安全保障省の審査も通っており、国からのお墨付きもあるのでコンビニで売られていても何ら問題は無い。がしかしだ、こんなヤバい物を年齢制限も無しに売ると言うのは拙いのではないのだろうか?大人なら自己責任で摂取すればいいだけだが、子供が誤って飲んでしまった日には大惨事間違い無しだろう。そこの所どうなの?と思いつつ腰に片手を当ててグビグビと半分ほどを一気に飲み干す。全部飲んでしまえばお出かけ所ではなくなるので、程々の効果を得られるように半分しか飲んでいない訳よ。それでもすぐに活力が湧いてきて先程までの疲れが吹っ飛んだので恐ろしい効果だ。

 まあ、これで今日一日は元気一杯で過ごせるんだから安いものだと自分に言い聞かせつつ、端末で時間を確認するとそろそろ出発する頃合いだったので最後に鏡で身嗜みを確認してから家を出た。


 今回の待ち合わせ場所は俺が住んでいる家の最寄り駅となっている。以前三人で出掛けた時は電車移動だったが今日は車で行く予定だ。とはいえこの世界では交通網が発達しており、自家用車を一般人が持っている事は殆ど無い。雪音さんと菫さんも車は所持しておらず、今日使うのはタクシーだ。完全自動運転なので運転手がおらず、男の俺が居ても好奇の視線に晒される心配は無い。今回訪れる場所がやや遠方という事もあり、電車移動では何かと大変だろうと二人が気を使ってくれた結果だ。

 その心遣いには感謝しかない。と同時に男と一緒に行動するという事は女性側にも制約や負担があるのだと改めて感じた。などと色々と考えている間に待ち合わせ場所に到着。二人の姿を探すまでもなくこちらに歩いてくる人影が目に入る。

「おはようございます」

「「おはようございます」」

「今日は一日よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。天気も快晴ですし絶好のお出かけ日和ですね」

「そうですね。これで雨だったら計画が台無しでしたし良かったです」

 二人に挨拶した後、何気ない会話をしているが真面目な話雨に降られたら行く場所が無くなっていた所だ。傘をさして強行する事も出来なくも無いが、果たしてそこまでする意味があるのかと問われれば無い。なので晴れて良かったですよ。

 さて、ここで突っ立て居ても目立つだけだしさっさとタクシーに乗りますか。

「そういえばタクシーの予約をしていなかったですね。今配車手配するので少し待ってもらっても良いですか?」

「それなら私の方で予約しておいたので大丈夫ですよ。あっ、丁度来たみたいです」

 菫さんが目を向けている方を見るとこちらに向かってくるタクシーの姿が。次第に速度を落とし俺達の前で停車すると、自動ドアが開き車から自動音声で『お待たせ致しました。どうぞお乗りください』とアナウンスが流れる。その声色は人間が喋っているのと何ら変わりなく、俺が居た世界で聞いた事がある合成音声丸出しの棒読み音声とはまるで違う。実に近未来的だなと思いつつレディーファーストということで菫さんから先に乗り込む事に。次いで雪音さんかなと思ったら『どうぞお先に』と促されたので車内に乗り込む。最後に雪音さんが乗り込んだらドアが閉まりシートベルトをした所で発進。

「改めて思ったんですけどここまで全自動というのは凄いですね」

「私達にとってはこれが当たり前なので実感はありませんが、拓真さんがいらした世界では人間が運転しているんですよね」

「はい。タクシー運転手さんに行き先を言ってそこまで連れて行ってもらうのですが、最近ではナビに頼りっきりで工事中の道路に引っ掛かって回り道をしなければいけなかったりとかもあって昔と違って逆に不便だったりするんですよね」

「ナビってナビゲーションシステムの事ですよね?」

「はい。あれ?この世界では使われていないんですか?」

「五十年くらい前までは使われていた……と思います。今はRTNというシステムが使われていて日本中の交通状況をリアルタイムで更新しているので先程言われたような事は絶対に起こらないんですよ」

「へー、滅茶苦茶凄いですね。タクシーにそんな技術が使われているとは」

 雪音さんの話を聞いていてそういうシステムの構想だけなら何となくできそうだけど、実際問題それを形にするとなると技術的にも法律的にもかなり難しいだろうと感じる。というかどういう風にすれば日本中の交通状況をリアルタイムで確認することが出来るのだろうか?全くもって謎技術だし、改めて科学技術が進んだ世界なんだなと思わさられる。なんとなく並行世界の格差と言うものを感じていると横合いから菫さんが話しかけてきた。

「でも、拓真さんが住んでいる世界にもレトロ感があって楽しそうです」

「あっ、確かに。菫が言う通り昔懐かしい感じで新鮮な気持ちになれそうね。なにより拓真さんが生まれ育った場所がどういう所か気になるし」

「この世界と比べると拍子抜けすると思いますよ。科学技術も然程発展していませんし、不便な事も多いですから」

「それでも一度は行ってみたいです。でも、唯一にして最大の問題は世界間移動の方法が分からないって言う事ですね。軍警察でも調べているのですが、手掛かりすら掴めていない状況で……」

 菫さんの最後の言葉は力がなく、何となく言い淀んでしまっていた。これ程にまで科学技術が発展していても世界間移動なんて御伽噺だし、ほとんど手掛かりが無い状態で模索していくとなれば尚更難しいだろう。仮に意識がある状態で転移していたのなら何かしらの情報は得られていたのだろうが寝ている間にこの世界に飛ばされたので何も分からないし、覚えていないのが悔やまれる。そもそもの前提として本当にここは並行世界なのだろうか?俺が居た世界の遥か未来という可能性もあるし、逆に日本と似ているだけで完全な異世界という線も捨てきれないだろう。一番最初の取っ掛かりの部分からして不透明である以上仮説に仮説を重ねて何とか進めていかないと何時まで経っても前には進めないから、なんともまあ難しい問題である。

 うーんと眉間に皺を寄せてつい考え込んでしまっていると、横から心配そうな声が届く。

「拓真さん、もしかして体調が優れないのですか?」

「ああ、すみません。菫さんが言っていた世界間移動について考えていました」

「そうでしたか。……難しい問題ですし余り悩まない方が良いですよ。日本王国を代表する方々が研究していますし、何かしらの手掛かりは掴めると思うので」

「ですね。――果報は寝て待てという諺もありますし気長に待つ事にします」

「はい」

 一旦帰還の方法については置いておこう。今は二人とのお出かけを楽しまなきゃな。心の中で一呼吸おいてから気持ちを切り替える。そういえば菫さんに聞きたい事があったんだ。この機会に聞いてみようか。――そうして他愛無い話で盛り上がりつつ目的地へ向けて進んで行く。

 そうして四十分程車に揺られて辿り着いたのは国立自然公園。面積は十万haとかなりの規模を誇り、公園内にはレストランや宿泊施設、キャンプ場、移動用バス等が完備されている。また、この公園の目玉は雄大な自然を堪能できる遊歩道だろう。ルートは八本あり、子供でも楽しめるルートからちょっとした登山を楽しめるルートまで幅広くあるので老若男女問わず楽しめるだろう。また、併設されているアトラクションスペースでは大人でも楽しめる遊具が設置されており、この公園の人気に一役買っているみたいだ。……とここまでが公式HPに書かれていた内容になる。

 では、実際に訪れて自身の目で見た感想はと言うと。

「うわぁー、滅茶苦茶広い。そして空気が美味しい」

「確かに空気が澄んでいますし、緑の香りが心地良いです」

「はぁ~、癒される。仕事で溜まったストレスが一気に抜けていく気がする」

 雪音さんは俺の言葉に同意を示し、菫さんはどことなくスッキリとした表情を浮かべている。前に話した時は目の下のクマも酷くて疲れ切った感じだったし、数週間はハードスケジュールが続くと言って悲壮感を漂わせていたなぁ。でも無事乗り切りこうして少しでもストレス解消出来たのなら良かったよ。

 なんて考えつつ三人揃って暫し自然を堪能してから、この後どうしようかという話になった。

「雪音さんと菫さんはどこか行きたい場所や見てみたい所はありますか?」

「では、遊歩道に行ってみたいです。ここに来るまでずっと座りっぱなしだったので少し身体を動かしたいなと思いまして」

「うん、良いんじゃないかな。私も雪音の意見に賛成です」

「それじゃあ最初は遊歩道で自然を楽しみましょうか」

「「はい」」

 三人揃って目的地に向かって歩き出す。今回選んだのは大人であれば四十分~一時間程で完走出来るコースで道も整備されている為ゆったりと歩けるので女性にもピッタリだ。……というかこの世界では男性は殆ど外に出ないから先の言葉は語弊があるか。この場合には出不精な男性でも無理なく完走できますよが正しいのか。という益体も無い事を思いつつ、暫し歩いた先に見えてきたのはコース三と書かれた立て看板と十数人の人達だった。何となくこれから起こる出来事を予測しつつ入り口に近づいて行くと俺達の話声が聞こえたのかこちらを一斉に振り向く女性達。その一糸乱れる振り向きざまは一種の恐怖を感じる程。そして俺を凝視しつつ固まり微動だにしないのもお決まりと言えよう。

 そんな光景を見つつ流石にもう慣れたので、このままスッと移動しようと菫さんと雪音さんを促して入り口を潜り抜ける。少し歩いた所で後ろから『男性が居た!見間違いじゃないよね?』、『えっ、えっ?私幻覚でも見たのかな?』、『これも天のお導きだわ。私の一度で良いから男性を見てみたいという願いを神様が叶えてくれたのね』等々興奮した声が聞こえてくる。……うん、このまま素知らぬ振りをして自然を満喫しよう。暫くは彼女達も興奮冷めやらない状態だろうし、すぐに後を追うとかはしないはずだから多分大丈夫だろ。

 今は雄大な自然を堪能しようでは無いか。深く深呼吸すると新鮮な空気が肺を満たし、緑の香りが鼻孔を擽る。どことなく頭もスッキリとし、心が軽くなる感じがするな。ふと隣を見ると俺と同じように深呼吸をしている姿が目に入る。その様子を見て思わず声を掛けてしまった。

「やっぱり街中とは全然空気が違いますね」

「ですね。埃っぽさやどことなく淀んだ感じが無くて心地良いです」

「詳しい事は分からないんですがマイナスイオンとかが働いてたりするのかな?」

「うーん……拓真さんには申し訳ないのですがマイナスイオンは人体に特に影響は与えないんですよ」

「えっ!?そうなんですか?」

「はい。マイナスイオン――正確には空気マイナスイオンと呼びますがただの大気中に存在する負の電荷を帯びた分子の集合体であり、健康になるとか食品の鮮度を維持するといった効果はありません。数十年前に流行ったらしいのですが、すぐに科学的根拠が無いとして廃れてしまいました」

「うぅ、そうなんですね。俺の居た世界では未だにマイナスイオン効果が信じられていて、色々な商品に搭載されているんですがまさか全く意味の無い物だったなんて……」

「で、でもですね。信じる者は救われるという言葉もありますし、あまりお気になさらない方が良いかと。思い込み効果で少しは何かしらの改善はされる……かもしれませんし」

「有難うございます。そう言って貰えて少し気持ちが楽になりました」

「それに自然の中を歩くと言うのはストレス緩和にもなりますし」

「ですね。菫さんの表情も生き生きとしていますしね」

 そう言いながら雪音さんと同時に菫さんの方へと目を向ける。朝会った時はどことなく疲れた雰囲気を漂わせていたが、今は大分スッキリとした表情を浮かべている。やはり森林浴は確かな効果があるみたいだ。菫さんは軍警察勤務で雪音さんは医師という多忙を極める職業に就いている為ストレスや肉体的な負担が大きいし、運動する時間すらあまり取れないかもしれないから改めてこういう機会を設ける事が出来て良かった。気の使い方がお母さんか彼氏みたいな感じだけど、二人には何時までも元気でいて欲しいし、何より俺が二人とデートしたかったと言うのもある。だって両脇に美人を連れて歩くとか男なら誰だって憧れるものだろう?だから例え余計なおせっかいだったとしても後悔はしていない。

 男なら己の欲望に忠実であるべき!などと下らない事を考えつつ遊歩道を進んで行く。

 リラックスしているとどうしても言葉少なめになるが、気まずさを感じる事も無くただ歩く。爽やかな風が吹き抜け草木がサワサワと音を奏でる。鳥の鳴き声が耳に心地よく、木々の隙間から太陽の光が降り注ぎ俺達の進む道を照らす。その光景は一枚の絵画の様であり、だけれど誰も見ることは出来ない。三人だけしかいないのではないかと錯覚させるほどの静寂が辺りには漂い、この時がずっと続けばいいのにと思ってしまうが永遠は存在しないものである。そう、出口が見えてきたのだ。このまま進めば五分程で到着するだろう。名残惜しさを感じるが、別にこれが最後という訳でも無いしまだまだ遊ぶ所や見る場所も沢山ある。――さて、次は何処に行こうかと考えつつ森林浴は終わりを告げた。


 小一時間程歩いていたので少し休憩しようかという話になり、今は公園に併設されている休憩所で一休みしている所だ。椅子に座りペットボトルのお茶を飲みながら一息つきたいんだけど、周りからの視線が凄くてそれどころではない。結構広い施設で俺達が居る場所は端の方なんだけど他の休憩している人達がジーっと俺を見ている。こういう視線にも慣れてきてはいるのだが、何も言わずに凝視するのは怖いので止めて欲しいです。これじゃあ休まるものも休まらないよと内心で少し辟易としていると、菫さんと雪音さんが徐に立ち上がり、俺の前に菫さんが座り横に雪音さんが座った。一瞬どうしたんだろうと疑問が浮かんだがすぐに理由が分かった。こうすることで前と横からの視線が多少は遮られるのだ。

「お気遣い頂き有難うございます」

「いえ、こういう事も私達の役目ですから。ねっ、雪音」

「そうですね。男性が気兼ねなく過ごせるように配慮するのは女性として当然の事ですので拓真さんはお気になさらずに」

「分かりました」

 こういう風に当たり前のことを当たり前に出来るというのは中々に難しい。男性だから、女性だからという前提があるにしてもごく当たり前にできる人はそう多くはいないだろう。だけどそう言った優しさを当然として受け入れるのは絶対にしてはいけない。俺の居た世界でも男性は女性に配慮すべきでありそれは女性の当然の権利だと主張する人達がいたが、それこそ勘違いも甚だしいというものだろう。それは権利はなく男性の優しさで成り立っている物であり、享受する側が声を大にして言うものでは無いし、ましてやそういう扱いをされなかったら文句を言うなんてもってのほかだ。

 だからこそ、雪音さんと菫さんの優しさが身に染みるし、本当に有難いと思う。だからこそ、感謝の気持ちを忘れずにそして言葉にして伝えなければいけないと強く思う訳で。なんて考えつつお茶を飲みながらゆっくりとした時間を過ごす。

 そうして三十分程休憩した所で、そろそろ行きましょうかという話になり移動する事に。次の行き先はアトラクションスペースだ。三人とも動きやすい格好をしているし、全力で遊ぶことが出来る。ふふふっ、日ごろ鍛えている成果を見せる時が来たな!と張り切りながら目的地へ向けて歩いて行く。

 えー、一時間程アトラクションを楽しんだ結果疲労困憊で暫く動けそうにありません。俺の見せ場が来たと張り切って最初から全力で楽しんだんだけど、ペース配分を間違った上に朝飲んだエナジードリンクが良い感じに効果を発揮した事でかなりの無茶をしてしまった。そして御覧の有り様という訳よ。今は芝生の上に敷かれたレジャーシートの上で大の字になって寝転がっている。そんな俺を心配そうに上から覗き込んで声を掛けてきたのは菫さんだ。

「拓真さん、大丈夫ですか?」

「ご心配をお掛けしてすみません。少し休ませてもらったお陰で大分楽になりました」

「そうですか。どこか痛い所や違和感がある場所はありませんか?」

「ん~……、特に無いです。ただ、起き上がるにはもう少し休憩してからじゃないと無理そうです」

「分かりました。では、拓真さんがお休みしている間にお昼ご飯の準備をしてしまいますね」

「すみません。お願いします」

 いい大人が遊び過ぎて心配されるとか恥ずかしい限りだし、今度からは気を付けよう。それと俺も早く体力を回復させてお昼の準備を手伝わないと。

 暫く休んでいたら動けるくらいにはなったので、もう終わりかけの昼食の準備を少しだけ手伝った後お昼ご飯と相成った。食事は全て雪音さんと菫さんの手作りで、どれもとても美味しそうだ。量も身体を動かすのが事前に分かっていたのでいつもより多めなのが嬉しい。

「それじゃあ、頂きましょうか」

「はい。ではいただきます」

 手を合わせていただきますをしてから食事に手を付ける。空腹、そして身体を動かした後という事で滅茶苦茶美味しい。ついつい無言で黙々と食べてしまう。

「ふふっ、お口に合ったようで良かったです」

「ねっ。頑張って作った甲斐がありました」

「本当に美味しいです。こう、疲れた体に染み渡ると言うか元気が出てきます」

「ありがとうございます」

 とても良い笑顔をお礼を言われてしまった。つい、恥ずかしくなって何となく視線を上へと向けるとどこまでも続く青い空と、優しく降り注ぐ陽光が目に入る。その時不意に胸に去来したのは『ああ、幸せだ』という想い。これから先も菫さんと雪音さんと一緒に居られたらと心から願う。

「拓真さん?どうかしましたか?」

「いえ、ただ幸せだなと思いまして」

「私も同じ気持ちです。こうして拓真さんと過ごせる時間が、日々がとても幸せです」

 そう言う彼女の笑顔はどこまでも素敵で見惚れてしまう程だ。だからもっともっと彼女が楽しく、そして幸せになれる様に頑張らないとなと改めて決意を固める。午後からも彼女達の為に頑張ろう!

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