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第十六話

 時刻はまもなく二十三時に差し掛かろうという所。この時間になるとピークも過ぎ店内のお客様も六~七割ほどがお帰りになっている状態だ。ここから二十五時――深夜一時――くらいまでは客足も落ち着いて来店する人はかなり少なくなる。また、締めに一杯ひっかける感じで飲みに来るので長居はせずすぐに帰ってしまう。つまりは結構暇な時間帯なのだ。今店内にいるお客様はボックス席に二組のみでお話をしつつしっとりと飲んでいる。カウンター席には誰もいないのでひたすらにグラスを磨いたり、カウンターキッチンを整理したりと動いてはいるが手持ち無沙汰感は否めない。誰か来ないかなぁ~と入り口に視線を送っているとカランとドアベルが音を立てた。

「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」

「お久し振りです、拓真さん」

「お久し振りです、菫さん。以前いらっしゃったのは先週の頭でしたので、割と期間が空きましたね」

「はい。本当は先週末にお伺いしようと思っていたのですが、仕事で……」

「お疲れ様です。――お飲み物はお決まりですか?」

「ウィスキーをロックでお願いします」

「畏まりました」

 初手からウィスキーを頼むとはかなり疲れているのだろう。最初はアルコール度数が低いお酒から飲んで、二杯目以降から度数が高い物を飲むと言うのが一般的だがもちろん例外もある。例えば嫌な事があった時やむしゃくしゃしている時、精神的に辛くてお酒に逃げたいとき等は一杯目から強いお酒を選ぶ傾向にある。つまりは菫さんも先に挙げた例に該当する可能性が高い訳だ。

 グラスに氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。そしてマドラーでかき混ぜながらそれとなく愚痴を聞いてあげようと心の中で思いつつ出来上がったお酒をコースターの上に置く。

「お待たせいたしました。オンザロックでございます」

「頂きます。……んっ、ふぅ」

 カランと小気味いい音をグラスの氷が奏でる。美しい琥珀色の液体がグラスの半分ほどまで減っているのを見て、良い飲みっぷりだと感心してしまう。人によっては一気に煽るなんてウィスキーの飲み方を分かっていないと怒るかもしれないが、飲み方は人それぞれであり他人を不快にさせる様な事をしないならば好きに飲めばいいと個人的には思う。なんて少し感心しながら菫さんを見ていると、短く息を吐きだした後口を開く。

「はぁ~。職業柄多忙なのには慣れていますが、ここ数週間は異常だと思います。お布団で一日中寝たいなぁ」

「そんなに忙しいんですか。家には帰られているのですか?」

「一応帰れてはいますが、日付が変わって暫くしてからようやくという感じなので帰っても数時間寝るだけなんです」

「それはまずいですね。精神的にも肉体的にも睡眠不足は悪影響ですし、お昼寝とか出来ればいいんですけど難しいですよね?」

「はい。仕事をしながらお昼を食べているのでちょっと無理ですね。でも、半月もすれば落ち着くとは思います。外国との折衝や転属に関する審査も一段落するはずなので」

「えっと……今の話は私が聞いても大丈夫なのでしょうか?軍警察内部の重要な情報なのでは?」

「問題ありませんよ。というかこの件に関しては拓真さんが大きく関わっていますので」

「えっ、私がですか?」

「はい」

 ちょっと待って欲しい。外国との折衝が必要な案件や軍警察内部の転属に俺が関わっているっておかしくないか?一般人であり、ただのバーテンダーがそんな危険な匂いのする厄介事に頭を突っ込むはずが無い。というか関わる機会が全く無い。……いや待てよ。もしかして懇意にしている幼女三人組の母親が実は海外の重要人物だったりとか?あとはスーパーでよく話をする女性が軍警察の関係者で何かしらの思惑があり動いているとか?思い当たる可能性はそこら辺しかない。が、うーん……。二つとも少し現実的ではない様な気がする。

 あれこれ考えても答えは出ずモヤモヤとした気持ちでいると、菫さんが答えを教えてくれた。

「まず、外国との折衝に関してですね。拓真さんに関するあらゆる情報は厳重に管理されて他国へは知られないようにしていたのですが、どうやらスパイが潜り込んでいたみたいで男性がお店を経営して働いているとバレてしまったのです。そこで終わればどうとでも誤魔化せたのですがお宅の国は男性を無理やり働かせて女性の見世物にしてるのか!と猛烈な抗議が来まして……。当然事実無根であり悪質な言いがかりなのでこちらとしても厳しい対応をもってあたっているのですが難航していまして」

「成程。こちらの世界では男性が働くなんて有り得ないですものね。ましてや接客業ともなると異質に過ぎるし他国が抗議するのも分からなくはないです」

「仰る通りなのですが、普通に事実確認すれば良いものを勝手な思い込みで抗議してくるのは止めて欲しいですね。……まあ一番大事な拓真さんの精子と受精すると男児が生まれる確率が向上するというのは知られていないので傷は浅いと言った所かな」

「もしその情報が漏洩したらどうなるのでしょうか?」

 半ば答えは予想出来ているが、念のため確認してみる。俺の言葉に菫さんは一度ウィスキーを飲んで口を潤してから重い口調で話し始めた。

「拓真さんを巡って世界戦争が勃発します。物理的な攻撃や軍事行動はしないと思いますが、それ以外のありとあらゆる手段を使うでしょう。経済制裁、輸出制限、スパイの流入、誘拐や拉致、二十四時間の監視、拓真さんの好みに合わせた選りすぐりの美女・美少女を使っての籠絡等々挙げればキリが無い程ですね。それらを世界中の国が日本王国へ向けて行う事になります」

「もし、もし私が捕らえられたら悲惨な事になるのは間違いなさそうですね」

「一生種馬として飼われるのは確定として、特権階級向けに人工授精ではない受精を強制される事になるでしょう。毎日毎日数十人の相手と延々と……ね」

 恐ろしい話だ。ただ種馬として生きるだけではなく見知らぬ女性とSEXし続けるとか恐怖以外の何ものでもない。――一応補足として言っておくが普通であれば成人男性が一日に射精できる回数は平均三~四回である。ただし、一回目以降は精子の量が激減し精液だけを放出している状態になるので相手を妊娠させる可能性を挙げるなら一日一回が限度となる。

 以上の前提を踏まえるならば毎日数十人の妊娠希望の女性とSEXなど出来るはずも無いが、そこは科学技術が発展しているこの世界だ。体内に特殊なナノマシンを入れればあら不思議!精嚢での精子と精液製造スピード数千倍にも増加し、何十回と射精をしようが問題無くなるというね。当然の話だがそういったナノマシンは国で厳重に管理されており普通であれば使用する事は無いし、一般人は元より権力者であろうと使用許可は下りない。だけど男児の出生率が上がるとなればそんなものは一切関係無くなるし問答無用で使うだろう。どれだけSEXが好きだろうと毎日数十人の女性とするとなれば背筋が寒くなること間違い無し。俺としてもそんな事は絶対に避けたい。

「菫さんにお願いがあります。俺に出来る事は何でもしますから他国の脅威から守って下さい」

「な、なんでもですか?」

「はい」

「………………うぅ、拓真さんにあんな事やこんな事をしてもらえるというのは大変嬉しいですが、母や同僚に袋叩き似合うので我慢します。それと拓真さんの事は何があろうが私がお守りしますし、国も動いているので安心して下さい」

「そうですか。分かりました」

 菫さんの言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。それこそ他国がいきなり戦争を吹っかける等の頭おかしい行動をしない限りは大丈夫だろう。ふぅ、俺の貞操は守られたわけだ。――童貞なんかいらないだろうという意見は却下で。俺は大切な人に捧げるって決めているからな。彼女が居た事が無い寂しい男の強がりでは決して無いから。なんて内心で安堵していると、菫さんの話にはまだ続きがあったようでこちらを見ながら口を開く。

「では二つ目の転属に関する審査についてですね。こちらは至極単純な話で私が所属している特別警護対象保護課に転属したいと全国から届け出が来ているんです。今は人材が不足気味ですし、将来的に見ても増員は早めにしたいので嬉しいのですが動機に問題がありまして」

「というと?」

「拓真さんとお近づきになりたい、あわよくば親密な関係になれたらというのが見え見えで審査や選考に難儀しているんです」

「あー、そう言う事ですか。菫さんが所属している課は軍警察の選りすぐりのエリートが所属しているんですよね。男と仲良くなりたいから転属しますなんて余りにも安易に過ぎるのでは?」

「私もそう思います。あくまで拓真さんは警護対象であり仕事なのですから私情は挟んではいけないんです。……まあ仕事上付き合いは発生しますのでそれは仕方ないと思いますが、出会い目的で来られてもこちらも困るんですよね」

 菫さんの言っている事は正論であり、一切否定できる要素が無い。警護や警備という仕事は過酷だし、対象に何かあった場合は自身の命を懸けて守らなければいけない。その覚悟も無く男と親しくなれるかもという理由のみで来られても使い物にならないよな。俺もそんな人に守られても不安だし正直やめて欲しい。まあ、そこら辺に関しては菫さん自身が言っていたように審査や選考の段階ではじいているんだろうけど。しかしもってこれは大変だな。

「何回も篩に掛けて残った上澄みだけを取ろうとすると時間を掛けるしかないので、増員はもう少し先の話になります。その点に関しては拓真さんにご迷惑をお掛けして申し訳なく思っています」

「いえいえ、お気になさらず。今の所平和に暮らせていますし、急ぐ必要はありませんよ。将来結婚して子供が生まれたらまた違うと思いますが、まだまだ先の話ですし」

「………………拓真さんは結婚するつもりがあるのですか?」

「ありますよ。生涯独身は寂しいですし、愛する人と一緒になれたらなという思いはあります。とはいえ彼女を作る事が先なんですけどね。ははは」

「今お付き合いしている方は居ないんですね」

「はい。女性と出会う機会は多い――というか周りには女性ばかりなので当然ですが会ったら話す程度で親しくしている人はいないんですよ。出会いはあれど進展は無しという悲しき状況です」

「よかった。まだお付き合いしている人が居ないなら私にもチャンスはある。頑張らないと」

 小声で囁いたため何を言っているのかは分からなかったが、悪口とかでは無いだろう。何となく決意を秘めた表情を見てそう思う。

 そう言えば菫さんは結婚願望とかあるのだろうか?男性との出会いが皆無に近いこの世界では恋人はおろか結婚するなんて端から頭になかったりして。ちょっと聞いてみようか。

「菫さんは結婚願望はあるんですか?」

「勿論です。男性と結ばれたい、好きな人と一緒になりたいと子供の頃から神様にお祈りしているんですよ。私旦那様には尽くしますし、家事全般も卒無く熟せて、子育てについても学校で教育を受けていますから家庭の事は全部任せてもらって構いません。料理の腕にも自信がありますし、軍警察勤務ですから腕っ節も強いですよ。も、もちろん夜のお相手も精一杯させて頂きます。自分で言うのもなんですが割と優良物件だと思いませんか?今なら無料、かつ無条件で手に入れることが出来ます!いかがでしょうか?」

 早口で一気に言い切ったな。肺活量凄いな~とか完璧超人じゃんとか割とどうでもいい事が頭を過るが最後の言葉がインパクトあり過ぎてもう……ね。美人で完璧でエリートな女性をゲット出来るとかマジかよ!?と言いたくなるが、ちょっと待って欲しい。ここで『じゃあ、俺が貰います』と一言言ったが最後恋人関係をすっ飛ばして即結婚となる可能性が高い。菫さんと出会って数ヶ月しか経っていないし、お互いの事をもっと深く知って、その上で恋人になり結婚するという段階を踏みたいんだよ俺は。だから菫さんには申し訳ないけどお断りするしかない。そう思い口を開きかけた所で菫さんが顔を真っ赤にしてアワアワしだした。

「あ、あの、その。もう、私何を言っているの。えっとですね、さっきのは想いが溢れてしまったと言うか、口が滑ったと言うか。でも、嘘じゃなくて本心からの言葉なので――ってえっと……」

「菫さん。一旦深呼吸しましょうか。吸って、吐いて、吸って、吐いて。落ち着きましたか?」

「はい。ご迷惑をお掛けしました」

「いえいえ。菫さんの想いを聞けて良かったです。――ですが、先程の菫さんを手に入れる云々については今はまだ答えることは出来ません。もっとお互いの事を知って、決心がついた時に改めて私から伝えます。それまで待っていてもらえませんか?」

「はい。答えを頂ける日までいついつまでもお待ちしています」

 これから先親交を深めていった結果どうなるかは分からないが、菫さんを悲しませるような事にはならないだろう。どんな形であれ上手くいくと良いなとグラスを拭きながら思う。


 なんとなく先程までの甘ったるい空気が残っているがこういうのも悪くは無い。ボックス席から微かに聞こえる話し声と店内に流れるBGMだけが耳に入り、俺と菫さんは無言のまま時を過ごしている。無理に喋る事も無いし、こういう雰囲気もbarらしくて俺は好きだ。それにあまりお喋りが好きでは無い人も居るし、こちらから無理に話題を振る事も無い。しっとりとお酒を楽しむのも乙なものだ。なので菫さんが話しかけてくるまでは仕事に没頭することにしよう。

 そうして黙々と作業を熟していると、不意に菫さんが声を掛けてきた。

「そういえばお店のお休みは土日でしたよね?」

「はい。場所柄週末はお客様があまり来店されないのでお休みにしています」

「そうですか。あの、一つご相談というかお願いがあるのですが」

「私でお力になれるのであれば何なりと仰って下さい」

「えっと、来月の十五日か十六日は空いていますか?」

「特に予定は入っていませんね」

「では、どこかに遊びに行きませんか?その頃には私の仕事も一段落していると思うので」

「おお、良いですね。菫さんのお疲れ様会も兼ねて行きましょう」

「有難うございます。どこに行きたいとかの希望があれば仰って下さいね。あと、雪音も一緒でも構いませんか?」

「大丈夫ですよ。では雪音さんも含めた三人でお出かけという事で。それと希望については何か思いついたら連絡します」

「分かりました。お願いします」

 来月半ばという事は今日から数えて約一月後か。うーむ、仕事でへとへとになっている状態で繁華街でぱぁーっと遊ぶと言うのはキツイだろうし、リラックスできる場所が良いだろう。温泉とか、森林浴とかそんな感じのをネットで調べてみようか。ついでに食事できる場所が近くにあればいいんだけど、無かったらどうしよう。スーパーで出来合いの弁当とか総菜を買っていくか?それもなんだか味気ない気がするが。そんな事を考えているとまるで俺の思考を読み取ったかのように菫さんがこう言ってきた。

「お食事については私と雪音が用意するのでご心配なく。あっ、もしお店で食べたいなら言って貰えればありがたいです」

「菫さんと雪音さんが作ってくれる料理はとても美味しいので店で食べるという選択肢は無いですね。それに病院で作ってもらったお弁当の味が今でも忘れられなくて恋しいくらいですから願ったりです」

「まあ。言って下されば何時でもお作りしましたのに」

「流石にお二人とも忙しいでしょうし、週に一・二回とはいえ弁当を作るのは大変じゃないかと思いまして。それに受け渡しがお店になるのでわざわざ来るのも面倒かなと」

「全然大変じゃないですし、寧ろ拓真さんの為にご飯を作れるなんて凄く嬉しいんです。ですので遠慮しないで下さい。あっ、そうだ。今度からお店に来るときに日持ちする料理をタッパーに入れて持ってきましょうか?」

「おぉ、それは有難いです。是非お願いします」

「ふふっ、任されました。雪音の方には私から連絡しておきますね」

「お願いします」

「拓真さんの好みは以前お聞きしましたし、好物をたくさん作りますよ~。勿論栄養バランスも考えて味良し、見た目良し、ボリュームも満点のご飯をご用意するので楽しみにしていて下さい」

「いや、ほんとうに嬉しいです。一人暮らしだとどうしてもズボラになってしまって適当なご飯で済ませがちなんですよね。身体には悪いと思いつつもカップ麵とかお菓子で済ませてしまったり……」

「それはいけませんね。私と雪音で拓真さんの食生活改善に取り組まないと」

「なんかすみません」

「いえいえ。こうして拓真さんに尽くせるというのが本当に幸せなんです。少し前までだったら男性にご飯を作ったりなんて考えられませんでしたから」

 病院でお弁当を作ってもらった時もそうだったが、この世界の女性は男に尽くす事に喜びを感じるみたいで、何かにつけてお世話しようとしてくる。勿論無理やり何かしようとしたり、自分本位で行動する訳では無くこちらに気を使いながらさり気無く色々としてくれるので俺としても大変有り難い。そこら辺のさじ加減が絶妙なのは本能がなせる業なのか、将又大人になるまでに身に着けた業なのかは分からないがどちらにせよ凄いと言わざるを得ない。しかも総じて作るご飯が滅茶苦茶美味いって言うね。もし結婚したらついつい食べ過ぎてしまって太りそうでちょっと怖いし、体型を崩してしまったら愛想を尽かされそうでもある。そうでなくても貴方が若い頃はあんなにスリムだったのに今は見る影も無いわねなんて言われたりして……。うん、運動は欠かさずに続けるとしよう。

 将来に向けて固く決意を固めた所で、お酒が回ったのかほんのりと頬を赤らめている菫さんがこちらをジッと見ている事に気付いた。

「えっと、私の顔に何かついていますか?」

「いえ、何も無いですよ。ただ、拓真さんが格好良いなと思って見惚れていました」

「そ、そうですか。有難うございます。自分で言うのもなんですがそこまで顔の作りは良くないし、ジッと見られると恥ずかしいですね」

「そんな事はありませんよ。お店に来た事がある私の友達も拓真さんの事を格好良いって頻りに言ってましたし、仕事柄数回ほど男性の写真を見た事がありますがその~、バランスがあまり良くないと言いますか……」

「あー、言わんとしている事は分かりました。でもそこまで酷いんですか?」

「体型はふっくらしていて、服もピチピチになっていましたね。お顔の方は愛嬌がある顔立ちで世界には好きな人も居るのでは?という感じです」

 かなり濁して言っているが、単刀直入に言ってしまえば滅茶苦茶太っていて、顔は不細工。分かり易くイメージするならばファンタジーによく出てくるオークに近いんだろう。俺の居た世界ではそんな男は女性に微塵も相手にされないどころか近づく事すら躊躇う素振りを見せるだろうし、話しかければ嫌悪感丸出しの表情で冷たくあしらわれるのがオチだ。翻ってこちらの世界ではそんなオーク男性でもモテる!超美人で性格も良く、料理の腕もプロ並みで家事全般を卒無く熟す完璧超人が群がるのだ。末恐ろしい世界である。因みにこの世界の女性の顔面偏差値はネットでAI 画像 美人 で検索すると出てくる画像よりも上と認識して貰るといいだろう。つまりは人間を超越した美しさという訳だ。

 少し話が逸れたがそれら一般男性と比べると確かに俺は格好良い部類に入るのだろう。嬉しいんだけど比較対象がオークだとなんともモヤモヤした気持ちになってしまう。そんな俺の内心を知ってか知らずか菫さんが話を続ける。

「拓真さんを狙う女性は多いですから気を付けて下さいね。世の中には悪い人も居ますし、強引に肉体関係を結ぼうとする人も居ますので」

「分かりました。事が起きてからでは遅いので普段から気を付けたいと思います」

「はい、お願いします」

 その後もしばらく真面目な話をしつつゆっくりと時間が過ぎていく。こういう風に菫さんと一対一で長い間話した事が無かったので話題は尽きる事なく続いて行く。

 それは閉店間際まで続くのだった。

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