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第十五話

 幼女達との思わぬ出会いからもうすぐ一月が経とうとしている。時が経つのは早いものだが、俺と幼女達との関係性も少しずつ変わっていっている。たまに週末に公園で遊ぶのは前と変わらないが、実はお店兼住居に二度ほど遊びに来ているんだ。勿論お母さん達も同伴しているので子供だけで来ている訳では無いのでそこは安心して欲しい。ちょっと話が逸れたが俺がbarを経営しているのは伝えていなかったのでお店に来た際には大層驚いていたし、どこぞの御曹司ではないかと聞かれたりもした。あくまで一般人でお店は色々と縁があって開業する事が出来たと伝えたけどやや訝し気だったのは気のせいでは無いだろう。だが、そんな雰囲気も子供達がキャッキャッと物珍し気にはしゃいでいた為すぐに雲散霧消する事になったが。

 とまあ、そんな感じで楽しい日々を過ごしつつ今日もお仕事に励むわけです。――とはいえ開店してすぐは相も変わらずお客様はこないので暇なんだけど。いっその事十八時OPENから十九時OPENに変更しようかなとも考えている。以前は無暗に営業時間を変更する事は悪手だと考えていたが、流石に数ヶ月経っても変わらないなら多少なりとも思う所は出てくるわけで。うーん……と悩んでいるとドアベルが涼やかな音を立てる。一瞬で頭を切り替え仕事モードへ。

「いらっしゃいませ」

「こんばんは、拓真さん」

「こんばんは。こちらの席へどうぞ」

 軽く挨拶を交わした後カウンター席へと案内する。本日最初のお客様は雪音さんだ。というか俺の事を名前で呼ぶのは今の所雪音さんと菫さんしかないので呼ばれた時点で誰かはすぐに分かる。他のお客様はマスターだったり、佐藤さんと呼ぶから尚更ね。

「今日はいつもより来店されるのが早いですね」

「はい。お仕事が早めに終わったので、拓真さんに会いに来ちゃいました」

「有難うございます。――では、お飲み物はどう致しましょうか?」

「それじゃあ、ベリーニをお願いします」

「畏まりました」

 ベリーニはスパークリングワインのマルティーニプロセッコと冷やした白桃ピューレ、グレナデンシロップで作るアルコール度数が低めで甘くて飲みやすいカクテルだ。その口当たりの良さと桃色の見た目から女性が好んで飲むカクテルでもある。

 最初の一杯に丁度良いなと思いつつ作ったカクテルをコースターの上に置く。

「頂きます。……んっ、美味しい」

「お口に合ったようで何よりです」

 一口、また一口と飲んだ後ふぅ……と一つ息を吐いた後雪音さんがこちらに視線を向けてくる。

「最近調子はどうですか?寝不足だったり、どこか身体の調子が悪かったりはしませんか?」

「睡眠時間は七時間は確保していますし、体調も問題ありませんね」

「そうですか。それは何よりですが睡眠時間が少し短いような気がします。拓真さんは夜型の生活なので出来れば八時間は欲しいですね。あ、あと一日十分で良いので日の光を浴びると良いですよ」

「分かりました。ちょっと疲れが残る事も多かったので寝る時間を早めてみます。あと、日光浴に関しては……頑張ります」

「ふふっ、はい。応援しますので頑張って下さいね」

 うーむ、こうして誰かに心配して貰ったり気遣って貰うのって素直に嬉しいな。しかも『頑張って下さいね』って言いながら小さく両手でガッツポーズをするとか可愛すぎかよ。更にその際両腕で胸をギュッと挟むものだから、第三ボタンまで開けたシャツからたわわな谷間とベビーピンクのブラジャーが見えてしまうというね。仕事中だし見てはいけないと思いつつも、つい視線は胸の深い谷間へ向かってしまう。本当に男の性というのは度し難いものだなと内省しつつもチラリチラリと見ていると、不意に雪音さんが顔を赤らめながら恥ずかしそうに言の葉を紡ぐ。

「あ、あの。みっともないものをお見せしてすみません。すぐにボタンを閉めますので」

「いえ、是非そのままでお願いします。それにみっともなくなんてないですよ。とても素晴らしいと思います」

「そうでしょうか?ただ大きいだけなので私としては恥ずかしいのですが」

「何も恥ずかしがることはありません。男にとってはとても魅力的ですし、女性の象徴とも言える部分ですからもっとアピールしても良いんですよ」

「その……拓真さんにとってはどうなのでしょうか?」

「最高です」

 無駄な言葉などいらない。虚飾に塗れた戯言をいくら言おうとも相手の心には届かないし、意味が無いのだ。であれば、心の奥底で感じたパッションに任せてたった一言を伝えればいい。そう、最高と。

「嬉しいです。今まではただ大きいだけで邪魔だと思っていましたが、拓真さんにそう言って貰えて私にとって大切なものになりました。有難うございます」

「いえ、私はなにもしていませんよ」

「………………もし良かったら触ってみますか?」

「ふぁ!?えっ?」

 俺の耳が突如としてぶっ壊れてしまったようだ。ありもしない幻聴が聞こえるとか末期だろ。この前の定期健診では至って健康でどこも悪い所は無いと言われたんだが、得てして病魔というのは突然襲い掛かるものだ。雪音さんのおっぱいが魅力過ぎて脳がイカれてしまった結果おっぱい触ってみますか?なんて聞こえたのだろう。――だがしかし、念の為に確認はするべきだろう。うん。

「あの、聞き間違いだと思うのですがもしかして胸を触ってみませんかと仰りましたか?」

「は、はい。拓真さんがお嫌でなければですが♡」

「嫌な訳ないです。というか雪音さんこそ本当に良いんですか?」

「勿論です」

 きたぁーー!まさかの女性の方からお誘いきたぁーー!相手は超美人でスタイル抜群、女医さんでおっぱいブルンブルンのセクシーな女性だぞ。そんな人が耳まで真っ赤にしながらウルウルとした目でこちらを見ているんだから、遠慮はいらないよな。仕事中?んなの他にお客様がいないんだしちょっとくらいなら大丈夫だろ。なんなら二時間程ドアプレートをclosedに変えても良いしさ。ふふっ、もしかすると今夜童貞を卒業しちゃうのか?あっ、でもコンドーム持ってないけどコンビニに売っているだろうか?無かったら生中という事に……ふぅ、落ち着け俺。まずは場所を移動しなくては。

「それじゃあ、ここではなんですしバックヤードにいど――」

 移動しましょうかと半ばまで言いかけた時、カランカランとドアベルが店内に響く。思わず殺気立った目で入り口に目を向けそうになったが必死で抑え込み若干引き攣った笑顔でお客様を出迎える。

「いらっしゃいませ。雪音さんすみません。少し席を外します」

「はい」

 雪音さんに一言断ってからお客様を席へとご案内する。席に座って一息ついたタイミングで注文を聞きカウンターキッチンへと戻りオーダーの品を作り始める……んだが、先程の事がどうしても頭から離れない。悶々とした気持ちを抱えつつ出来上がったカクテルを持ってお客様の元へと行く。

 そうしてようやく終わり雪音さんの元へと戻ると寂しそうな表情でカクテルを飲んでいた。

「今戻りました。すみません、お話の途中で抜けてしまって」

「いえ、お客さんが来たなら仕方ないですよ。拓真さんが置きにやむ必要はありません」

「有難うございます。それと先程の話の続きなのですが他のお客様がいらっしゃるのでバックヤードに移動するのは難しいですね」

「そうですね。では、またの機会にという事で。今度は休日にゆっくりと誰にも邪魔されない日にしましょうか」

「はい、是非お願いします」

「ふふっ、楽しみにしていて下さいね♡」

 妖艶な微笑を浮かべつつ流し目で言ってくる姿は男心にグッとくるものがある。いっそ何もかもを捨て去り欲望の赴くままにたわわな胸に顔を埋めてしまいたくなるが、ここで我慢すればいざその時が来たら得も言われぬ快感を得られるのは間違いないので必死で堪える。そうと一度決めてしまえば心なしか大分楽になったような気がする。よし、このまま煩悩を霧散させていけば問題無いだろう。

「すみません、次のお酒を頼んでも良いですか?」

「勿論です。何に致しましょうか?」

「それじゃあグランドスラムでお願いします」

「畏まりました」

 このタイミングでグランドスラムを注文するとは、さては雪音さんカクテル言葉を知っているな。グランドスラムとはスウェディッシュ・パンチ、ドライ・ベルモット、 スイート・ベルモットを浸かったカクテルでスパイスが効いた刺激的な味わいが特徴だ。そしてカクテル言葉は二人だけの秘密。先程の魅惑的なお誘いは途中で断念となり、次の機会になったがこの事は二人だけの秘密ですよとカクテルを通して伝えてきたのだ。なんとも粋であり、バーテンダーの事をよく理解しているからこそ出来るアピールだと思う。当然それを伝えた本人は意味を分かっているので、チラリとこちらに視線を投げるとさり気無くおっぱいをアピールしてくるというね。形が良く、むにゅりと柔らかそうな胸をチラチラと見つつも手は休むことなく動く。そうして出来上がったカクテルを雪音さんに渡すと一口飲んだ後ふぅと小さく息を吐く。美人な大人の女性だからこそこういったさり気無い仕草でもとても絵になる。普通の女性だと酒臭い息を吐いているなと中々に辛辣な感想しか出てこないが、人によってこうも変わるとは思わなんだ。

 ――さて、このまま無言でいてもいいが何となく話をしたそうな雰囲気を雪音さんが醸し出しているのでこちらから話題を振ってみる事にした。

「お医者さまって凄く大変というイメージがあるんですが、実際の所どうなんでしょうか?」

「やはり命を預かっている以上どんな些細なミスも許されないのでプレッシャーが途轍もないですね。特に外科医はどれだけ完璧な手術をしても、術後の経過が悪いだけで医療ミスでは無いかと攻められたりもしますし。急患が来れば休日も関係なく呼び出されますし、お年寄りなどは寂しさを紛らわす為に長時間居座ったりするので診察時間が長引いてお昼が食べられない事もあります」

「聞いているだけで眩暈がしそうです。特に精神的にかなりキツイ仕事ですものね。俺には到底熟せそうにありません」

「そうですね。勿論どの科に勤めているかによっても忙しさはかなり変わりますが、総じて大変です。それと拓真さんが仰っていたように精神的な負担が大きいので心を病む人が毎年一定数いるのも事実です。精神科の先生が精神科を受診するなんて笑い話にもならない話があるくらいですから」

「いや、それは本当に笑えませんね。雪音さんは大丈夫ですか?悩みやあるなら聞きますし、辛かったら言って下さいね」

「はい、その時は拓真さんにお伝えしますね。でも今は非常に充実していますし、仕事の方も拓真さんの専属医になったのでかなり負担が軽減されたので問題ありません」

「そうですか。それは良かった」

 雪音さんの顔を見てみるが肌艶も良いし、目の下にクマも出来ていない。何かしらの問題を抱えている人特有の雰囲気や喋り方もしていないし本当に充実しているのだろう。長い事接客業を続けているとそういったものも分かってくるんだよね。それにお酒を飲むと心の裡を曝け出しやすくなると言うのもあるし、気も緩むから尚更ね。

 まあ、何にせよ雪音さんが笑顔で過ごせているなら万事問題無しってね。

「そういえば前々から雪音さんに聞きたい事があったんです」

「なんでしょうか?なんでもお答えいたしますよ。スリーサイズでもOKです」

「実に魅力的な提案ですがそれはまたの機会にお願いします。――雪音さんはなんで医者になろうと思ったんですか?」

「んー、そうですね……。単純な理由なのですが私の家って医師の家系なんですね。なので幼い頃から医師になる為に徹底的に教育されてきたので必然的にという感じです」

「凄いですね。ということは病院を経営されていたりするんですか?」

「総合病院を二つほど。本当は私も今勤めている病院では無く実家が経営する総合病院に就職する予定だったのですが職場まで親と一緒というのは嫌で……。それで、今勤めている所に就職したんです」

「あー、親と一緒に仕事をするのは私も嫌ですね。一人暮らしならなんとか我慢できるのかもしれませんが、実家に住んでいたら気が休まる暇が無いしちょっとあれですね」

「拓真さんの言う通りで今は一人暮らしですが、実家が経営する病院に勤めていたら絶対に一人暮らしなんて認めてくれなかったと思うのでこれでよかったと思います。それに、こうして拓真さんと出会うことが出来ましたし」

「そうですね。これも巡り合わせと言うものかもしれませんね」

「はい。私はそう思います」

 あくまでたらればの話だがもし雪音さんが実家の病院に勤めていたら並行世界に転移してきた俺は今こうしてbarを経営する事も無く野垂れ死んでいたかもしれないし、軍警察に逮捕されて厳しい監視下の元種馬として生きていたかもしれないんだよな。当然菫さんとも出会うことは無かったし、何となく運命めいたものを感じる。果たして俺をこの世界に転移させた神なのか、それとも超常的存在なのかは分からないがそういった未知なる者が介在している可能性も否定は出来ない。だが、なんにせよ俺からコンタクトを取ることは出来ないんだから深く考えてもしょうがないだろう。

 それよりも今は雪音さんとの会話を楽しもう。

「少し話を戻しますが、医師になる為の勉強ってやっぱり大変ですよね?」

「うーん、私の場合はですが朝三時間勉強してから学校に行って、帰ってきてから夕飯まで勉強、その後は深夜二時くらいまで毎日勉強していました。三~四時間程しか睡眠時間を確保できなかったので毎日寝不足で辛かったです」

「滅茶苦茶ハードスケジュールですね。そんなに勉強したら俺だったら一日で音を上げますよ」

「ですよね。寝ても疲れは取れないし、かと言って授業中に居眠りする事も出来ませんから兎角睡魔との戦いの連続で……。それに友達とも碌に遊べなくて少しづつ疎遠になっていくのも精神的に辛くて」

「そこまでいくと流石に体調を崩しそうだし、まともな人間関係も構築できない上に精神的にも大きな負担を負うとなれば全てを投げ出して逃げてしまおうとは思わなかったのですか?」

「何度も考えました。でも、幼い頃から医師になる為にあらゆる事を叩きこまれていましたし、母や祖母も同じような生活をしていたと聞かされていたので、私だけがここで逃げ出すのは駄目なんじゃないか?と半ば強迫観念じみたものがあったので決行には至りませんでした」

「それは……凄まじいですね。私には到底真似できないし、改めて雪音さんは凄い人だなと思います」

「有難うございます。拓真さんからそう言って頂けるだけで全てが報われた気持ちです」

 医者になると言うのは大変だし、それこそ幼い時から全てを投げうって勉学に励まなければいけないと言うのは当然だろう。それでも医師になれるのはほんの一握りであり、無事就職しても激務と精神的重圧で潰れていく人が後を絶たない。兎に角仕事漬けで碌にプライベートな時間を取る事も出来ないし、家に帰れない事も当たり前だし何の為に生きているんだろうとふと心に影が差してそのまま自殺……なんて言う事例もあるくらいだ。給料は良いし社会的地位も上位と言って過言では無いだろう。だが、先に挙げたような事例があるくらいだし、まともに仕事を続けられる人は肉体的にも精神的にも超人レベルなんだろうな。――雪音さんも見た目は華奢で性格も温和で気遣いが出来るこれぞ大人の女性って感じだけど俺以上にタフなんだろうなぁ……。思わず遠い目をしてしまう。

 そんな俺を見て雪音さんが心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫ですか?お疲れでしたら少し休憩して下さい。他のお客さんには私からお伝えしますので」

「すみません、少しぼぉーっとしてました。休憩は適度に取っていますので大丈夫ですよ」

「それなら良かったです。拓真さんに何かあったら私……」

「本当に大丈夫ですからご心配なく。それに、体調面には気を使ってますし少しでも異変を感じたらすぐに雪音さんに連絡しますから」

「うぅ~、約束ですよ?」

「はい」

 涙目になりながら少し子供っぽい言い方で聞いてくるので、安心させる為に微笑みながら答える。それにしても『拓真さんに何かあったら私……』って言った後、今にも死にそうな顔色だったのはビックリしたよ。すぐに大丈夫って伝えたら多少顔色が悪いくらいに戻ったけど今後は発言に気を付けよう。男性――というか俺の事になると雪音さんも菫さんも異常なほど過保護になるからな。出会った当初は世話焼きレベルだったんだけど交流が深まってからは……ねっ。でも、必要以上に干渉してこないし節度を守った範囲でのお世話だからこちらとしても不快に思ったりは一切無いんだよ。そこら辺のさじ加減が非常に上手で、このままいけば二人が居ないと生きていけない体になってしまうんじゃないかと不安になったりもする。けど、存外それも悪くないと感じる俺も居たりで中々難しい所です。なんて少し回想に耽っていると雪音さんからオーダーが入った。

 頼んだのはX・Y・Z・カクテルだ。ラム、コアントロー、レモンジュースをベースにしたカクテルで、さっぱりとした味わいが特徴で最後の一杯として有名なので知っているという人も多いだろう。そしてこのカクテルを注文したという事はこれを飲んで終わりにしますよという合図でもある。

 雪音さんとの楽しい時間ももうすぐ終わりかと思うと一抹の寂しさを感じるが、それを面に出すのはしてはいけない。黙々と注文の品を作り、コースターの上にカクテルを置く。

「頂きます。……んっ、美味しい」

「アルコール度数が高いのでコアントローを多めに入れて飲みやすいようにしてみました。少し甘さ強いかもしれませんが大丈夫ですか?」

「はい。このくらいの方が私は好きです」

「分かりました。次回ご注文された時は今のレシピでお作りしますね」

「お願いします」

 なんてやり取りをしつつ、時間はゆっくりと流れていく。BGMとして流しているジャズが耳に心地よく響き、木材を基調とした店内からは木の香りが微かに鼻孔を擽る。先程までとは打って変わり、会話は無いがそれで気まずくなることも無く心地よい雰囲気だ。

 そうして幾分か時間が経った時雪音さんが俺の方へと目線を送ってきた。

「それじゃあ今日はこれでお暇しますね。沢山拓真さんとお話しできて楽しかったです」

「私も楽しい時間を過ごせました。それに雪音さんの事を色々と知れてよかったです」

「ふふっ、私の事でしたら遠慮せず何でも聞いて下さいね」

「分かりました。その時は遠慮なく聞きます」

「はい。では、お会計をお願いします」

「畏まりました」

 二人揃ってキャッシャーへと移動した後、端末を読み取り会計を済ませる。そして普段はしないのだが相手が雪音さんという事もありお見送りする事にした。

「では気を付けてお帰り下さい」

「はい、有難うございます。拓真さんもお仕事頑張って下さいね」

「無理をしない程度に頑張ります」

「あっ、そうだ。バックヤードで二人で過ごせなかったお詫びに……んっ」

 言葉を紡ぎつつ雪音さんが俺の手をギュッと握りつつ胸元へと移動させると、胸の谷間へIN。細くてスベスベの小さい手と、ふかふかで柔らかくて暖かいおっぱいが同時に襲ってきて俺の思考は一瞬でショートした。ブラウスの上から挟み込まれているし、ブラジャーもしているのになんだこのマシュマロみたいな感触は。服の上からでも至極の触れ心地なのに、これが生になったら昇天してしまうんじゃないだろうか?それと雪音さんの手もふにふにとして触り心地が良く、ずっと握られていたいと思わせる究極のおててだ。

 至高の感触と快感にずっと浸っていたいがそれは許されない。時間にして二・三分だろうか。すっと雪音さんが離れ、お互いの顔が見える距離になる。お互い顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているが、この光景を他人が見たら中学生かよってツッコミを入れられるだろうな。だが、それでも恥ずかしものは恥ずかしいんだよ。うぅ、このまま無言でいるのもあれだし何か言わなくてはと口を開きかけたその時目の前の彼女から言の葉が紡がれる。

「ど、どうでしたか?」

「あの、その……凄く気持ちよかったです」

「よかった。拓真さんが喜んでくれてなによりです。それではこれで失礼します」

「はい、お気をつけて」

 手を振りながら歩いて行く彼女の後姿を見ていると、手に鮮明に残っている感触を思い出す。うぅ、これは少し時間を置かなきゃお店には戻れないなとテントを張っている下半身を見て思うのだった。

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