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第十四話

 その後お母さんが買ってきた飲み物を頂きつつ暫しの休憩と相成った。子供と遊ぶのは体力が居るってbarに来ていたお客さんが言っていたけどマジだわ。一人なら日々身体を鍛えている事もあって問題は無いんだけど三人ともなると体力の減り方が半端ない。十数分遊んだだけでゴッソリ持って行かれてしまった。だが、楽しそうにしていたしなにより天使のような笑顔が見れたので後悔はしていないし、満足している。だが、もう少し休まないと駄目だなと座りながら思っていると、美穂が俺の服の裾を引っ張ってきた。

「んっ?どうした?」

「あのね、ジュースのんだらおしっこしたくなっちゃった」

「そっか。えっと、美穂のお母さん。美穂がトイレに行きたいみたいです」

「あら、そうなの。じゃあ、お母さんと一緒に行きましょうか」

「やだ!おとうさんといっしょにいく!」

 そう言いながら腕にヒシッとしがみ付いてくる。さて、どうしたもんかとお母さんの方を見ると申し訳なさそうな顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。

「佐藤さん、すみません。こうなるとこの子は意地でも私とは行かないと思うのでお願いできないでしょうか?」

「分かりました。えーと、女子トイレは何処にあるか分かりますか?」

「この道を真っ直ぐ進めば東屋があるので、そこを左に曲がった所にあります」

「有難うございます。よし、それじゃあトイレに行こうか。凛と友香はトイレに行かなくて大丈夫?」

「「だいじょうぶ」」

「了解。それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 美穂と手を繋ぎながらトイレ目指して歩いて行く。幼い子とこうして歩いていると本当に父親になった気分になるから不思議だ。今日会ったばかりで、少し一緒に遊んだばかりなのにそう思うのは父性が刺激されたからなのか、若しくはペドフィリアの素質が隠されていたのか……。将又子供は無条件で愛されるような振る舞いをするという情報をどこかで見た覚えがあるのでそのせいかもしれない。まあ、どんな理由であれ可愛いから全て良し。可愛いは正義であり、絶対だからな。隣を歩く美穂を見ながらそう思う。本当に顔が整っているし、俺が居た世界の子役なんか足元にも及ばない程だ。

 ついつい見入ってしまっていると、小首を傾げながら美穂が不思議そうな顔で話しかけてくる。

「おとうさん、わたしのかおをみてどうしたの?」

「んっ、美穂は可愛いなと思ってな」

「ほんとう?わたしかわいい?」

「ああ、目に入れても痛くないくらい可愛いよ」

「えへへっ~、おとうさんにほめられた!」

 ニッコニコでクルクル回りながら喜んでいる。正に嬉しさ爆発といった感じで微笑ましいが、歩きながら回転していると危ないのでそっと肩を掴み動きを止める。

「危ないから回るのは終わり」

「はーい」

 元気よく返事をした後再び手を繋ぎながらトイレを目指す。目印である東屋を左に曲がって少し歩けば目的地が見えてきた。そのまま少し歩いた所で到着。

「じゃあ俺はここで待っているから一人で行って来てね」

「ううぅぅー、ひとりでおしっこできないからおとうさんもいっしょにきて」

「へっ?」

 まてまてまて。幾ら子供連れとは言え女子トイレに男が入るのはマズイ。もし中に入って他の人が居たら一発アウト!言い逃れなど出来るはずも無いし、軽犯罪法違反で拘留または罰金が科せられる事になる。軍警察に勤務している菫さんの力をもってしても現行犯ではどうしようもないだろう。――以前男性は凶悪な重犯罪を犯した場合を除き捕まる事は滅多に無いと言っていたが、今回は大丈夫だろうか?そんな風に頭の中であれこれ考えているとモジモジしながら美穂が追い打ちを掛けてくる。

「あのね、おしっこもれそうだからおとうさんついてきて。おねがい」

 下腹部に手を当てながらモジモジしつつ上目遣いで言ってきた。これは一刻の猶予も無い感じだし、美穂も一人でトイレに行けないとなれば最悪ここでお漏らしする事になる。そうなれば目も当てられない惨状の出来上がりだ。辺りを見回した所近くに人は居ないし短時間でサッと入って戻ってくればなんとかなるか。もし他の人に見れたらその時は大人しくお縄に付こう。覚悟を決めて美穂の手を取り緊張しながら女子トイレへと入る。幸い中に人はおらず、そのまま一番近い個室へと向かう。

 扉の前で用を足すのを待っていようと思ったが、そのまま美穂に手を引かれて個室の中へと連れ込まれてしまった。……嫌な予感に背筋に冷汗が流れるが現実とは無情なものである。

「おとうさん、ぱんつとって~」

「………………」

 うん、ひとりでトイレに行けないって言ってたもんね。心を無にしてスカートをたくし上げてパンツまる見え状態で待っている美穂に近づき下着を下ろす。その後は脇に手を入れ持ち上げて便座へと下ろしたら後は一人で大丈夫だろう。腰を下ろして僅かな時間を置いてすぐにチョロチョロと水音がなり、同時に気持ちよさそうな声が聞こえてくる。

「ふあぁあぁ~、おしっこきもちいい」

 幼女の放尿シーンを目と鼻の先で見ているこの状況はその筋の人には堪らないだろうし、ツルツルの股間とピッタリと閉じた一本筋は誰も踏み入れた事の無い新雪の如き美しさがある。ロリコンやペドフィリアという幼い子を性的に見る性癖を理解する事は無いだろうと思っていたが、今まさにその考えが崩壊しつつある。もう僅かの時間で俺の中の大事な物が塗り替わってしまうというその時カラカラとトイレットペーパーを巻き取る音と共に美穂の声が耳朶を打つ。

「おとうさん、おわったよ」

「そ、そうか。じゃあパンツを履こうな」

「うん」

 下着を履かせた後、水を流して手を洗い女子トイレから出る。その瞬間誰にも見られずに済んだという安心感と、もっとあの光景を見ていたかったという思いが心の中に過った。心の中の大事なナニカは僅かに侵食され、俺の性癖に黒い染みを作ってしまったのだと理解してしまう。このまま何もしなければ外道畜生にも劣る存在に成り下がる事は明白なので心に鉄壁の防衛ライン敷くことにしよう。先ほど見た光景は一旦忘れてしまうのが一番だ。美穂も頬を赤らめて少し恥ずかしそうにしているし尚更ね。

 そう考えを纏めた所で行きと同じく手を繋ぎながらみんなが待つ場所へと戻る。


 美穂と他愛も無い話をしつつ歩いているとあっという間に到着した。まずは何事もなく戻ってこれた事を報告しないとな。

「ただいま戻りました」

「お疲れ様です。美穂がご迷惑をお掛けしたりしませんでしたか?」

「とてもいい子にしていましたよ。こちらの言う事も良く聞いてくれましたし」

「それはよかったです。美穂。一人でちゃんとトイレ出来た?」

「ひとりじゃできなかった。でもおとうさんにてつだってもらったからだいじょうぶだよ」

「えっ!?」

 お母さんが驚きの声と共に俺の方に視線を向ける。終わった……俺の人生終わったわ。ここからの流れは凡そ予想出来る。蔑む視線と共に罵詈雑言が飛んできて軍警察に連絡。そのまま性犯罪者として一生消せないレッテルを貼られる事になるんだ。さようなら、今日までの自分。こんにちは、犯罪者の自分。最早一巻の終わりだと諦めて無になりかけていたが、美穂のお母さんがボソッと呟いが言葉が不意に耳に届く。

「佐藤さんにおしっこするのを手伝ってもらうって……なんて羨ましい!こんな事なら私も一緒に行けばよかったわ。そうすれば佐藤さんに私のあられもない姿を見て貰えたのに。一生の不覚だわ」

 ………………えー、無罪で宜しいので?というか大人の放尿シーンとか完全にプレイじゃないか。一児の母とは言えスタイル抜群で美人なお母さんのおしっこしている所を見るとか理性蒸発待った無しだぜ。呟いた内容を鑑みると間違いが起きても問題無し――いや、寧ろ間違いが起きる事を期待している感じだしヤバイですよ。美穂と二人で行って良かった……のか?どちらにせよ危険な綱渡りを強いられていただろうしどっちもどっちか。まあ、先の呟きは聞かなかったことにしよう。

「すみません。美穂がどうしても一人じゃできないと言うもので。私としてもどうかと思ったんですが限界ギリギリだったようなので仕方なく」

「そうだったんですね。佐藤さんにご無理をさせてしまって申し訳ありません」

「いえいえ。お気になさらないで下さい」

 ふぅ、なんとか丸く収める事が出来た。ホッと安堵の溜息を一つ付いた後時間の確認をするために端末を取り出し見てみる。なんだかんだで二時間程子供達と遊んでいたのか。このままだと、またハプニングが起きるかもしれないしそろそろお暇しようか。お母さん達に伝えようと口を開いた矢先に凛がこちらに向かってきて一言。

「ねぇ、おとうさん。おなかすいたぁ~」

「そっか。一杯遊んだしお腹も空くか。でも、おやつは持ってないしどうしよう」

「それでしたら、近くにファミレスがあるので休憩も兼ねてどうでしょうか?」

「いいですね。凛、ファミレスに行くまで我慢できる?」

「だいじょうぶ。ねっ、はやくいこう」

 こうして凛のお母さんの提案の元おやつを食べにファミレスへと行く事になった。えっ?帰ろうとしてたのに良いのかって?凛の小さい手でギュッと服の裾を握られて『ねっ、はやくいこう』なんて言われたら断れるはずないだろう。という事でおやつタイムが終わったら帰る事にします。

 そうしてゾロゾロと連れ立って目的の場所へと移動する。

 公園から歩いて十五分くらいの所に全国展開しているファミレスがあった。この辺りはあまり来た事がなかったので知らなかったな。家からは少し歩かなきゃいけないけど二十四時間営業しているみたいだし夜ご飯を食べに来るのも良いかもしれない。良い場所を見つけられてラッキーなんて思っている間に入り口を潜り店内へ。

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」

「七人です。出来ればボックス席がいいのですが、空いていますか?」

「確認しますので少々お待ち下さい」

 そう言ってから店員さんが端末で確認をしている。以前菫さん、雪音さんと一緒にご飯を食べた時は滅茶苦茶驚かれたし、時を止めたりと色々あったがしていたが今回はこの通り何の問題も起きていない。店員さんが男性慣れしているとか、他にお客さんが居ないとかではなく単純に友香のお母さんが話していたからだ。俺は残りの二名のお母さんの後ろに居たので店員さんが気付かなかっただけなんだよね。さて、ここでひょっこりと顔を見せたらどんな反応をするのかな?と悪戯心が湧いてくるがグッと堪える。どうせ席に着いたら分かる事だしその時を楽しみにしていよう。

「お待たせ致しました。ボックス席は空いておりますのでそちらにご案内しますね」

「お願いします」

 案内の元席へとゾロゾロと連れ立って移動する。その際他の客席に座っている人が驚いた表情と共に固まっているのが目に入った。まあ、そうなるよなと思いつつ通り過ぎる。そして辿り着いた席は通りに面した場所で窓から外の様子が見える。これはちょっとマズいかなと考えもしたが、それぞれ席に着き始めているので今更変更して下さいと言い出せずに俺も座る事にした。

「えっ!?だ、男性……」

「こんにちは」

 俺の姿を見てプルプルと震えながら吃驚している女性店員さんに笑顔で挨拶してみる。果たしてどんな反応が返って来るかな?

「こ、こんにちは。結婚して下さい!」

「えっと……はっ?」

 挨拶したらいきなり求婚されたんだが。この世界ではこんにちはという言葉はプロポーズの意味を持っているのか?だとしたら女性の反応も納得でき――るわけないだろ。今まで普通に挨拶していたし返事もこんにちはと返ってきた。そしてこの女性と俺は初対面であり付き合っている訳じゃない。じゃあ何故にいきなり突拍子も無い事を言い出したんだ?頭の中が疑問で一杯なんだが。

「あっ、すみません。男性から挨拶して貰えるなんて初めてで、このチャンスを逃したら一生後悔すると思って求婚してしまいました。ごめんなさい」

「あー、そう言う事だったのか。吃驚したけどまあ、理由があるなら仕方ないですね」

「有難うございます。――んんっ、それでは注文はお決まりでしょうか?」

 俺はコーヒーに決めているが子供達はどうだろうか?聞いてみるか。

「美穂、凛、友香。食べたい物は決まった?」

「うん。いちごのけーきにする」

「えっとね、チョコレートパフェがたべたい」

「プリンにきめたよ~」

「了解。お母さん達はもうお決まりですか?」

「「「はい」」」

「それじゃあ、俺はコーヒーをお願いします。子供達は――」

 それぞれ注文をした後到着するまで少し時間が掛かる様なのでお喋りでもしようか。なんかいい話題は無いかな?子供にも大人にも通じる話ってなると結構難しいんだよな。うーん……取り敢えず当たり障りのない話題でも振ってみるか。

「そういえばこんな所にファミレスがあるなんて初めて知りました。近所に住んで数ヶ月経つのに周りに何があるか知らないってちょっと恥ずかしいです」

「ふふっ、そんな事はありませんよ。私も時間があるときに散歩した時に初めて発見するお店とかもありますから。ところで佐藤さんにこの辺りに住んでいらっしゃるんですね」

「そうなんですよ。と言っても最近引っ越してきたんですけどね」

「へー。この辺りって家賃も高いし大変じゃないですか?」

「持ち家なのでその辺りの心配は無いですね」

「えっ!?凄いですね。家の大きさにもよりますけど土地代を合わせて最低でも一億円は掛るのに。流石です」

「あー……なんといいますか、複雑な事情がありまして土地建物に関しては便宜を図ってもらったと言うかまあ、その……」

 転移してきた際に建物も一緒で自身の所有物では無く叔父に権利があって、土地も購入した訳でなく国営地を諸々の条件を飲む事で貸し出して貰えたとは流石に言えない。なので誤魔化すしかないんだけど上手い言い訳が出てこずしどろもどろになってしまった。こりゃ怪しさ満点だし、不審がられても仕方ないと思っていたが相手の反応は予想とは違った。

「ご事情がおありなのですね。それではこの話は終わりにしましょう」

「有難うございます。――そういえば美穂達はこの近所に住んでいるんですか?」

「私達は公園から地下鉄で三駅離れた場所に住んでいます。家の近くに公園が無いもので、時たま足を伸ばして遊びに来ているんですよ」

「そうだったんですね。小さい子を連れて移動するのは大変じゃないですか?」

「あちこちに興味を持ってフラフラと歩いて行ったり、手を繋いでいても駅ではぐれそうになったりと大変ですね。でも、聞き分けは良いので私が何か言っても素直に従ってくれるのは助かっています」

「確かにこちらの言う事は素直に聞いてくれますね。勝手なイメージで幼い子は大人の言う事なんて聞く耳を持たないと思っていたので少し驚いています」

「ふふっ、それは佐藤さんが言う事だからというのも多分にあるのではないかと」

「そうですかね?そうだと嬉しいんですが」

 高校を卒業してからというもの子供と接する機会なんて皆無だったからな。叔父は結婚しているけど子供はいないし、年末年始も仕事で実家に帰ってないから親戚に会う事も無い。なので子供との接し方については聞きかじった知識をフル動員させているんだが、今の所なんとなっている。そこに俺というか男性というアドバンテージが加わった結果幼女三人が懐いてくれているといった所だろうか?なんにせよ子供達に嫌われなくてよかったし、母親達からも不審者扱いされなくてよかったよかった。

 なんて考えている内に『お待たせしました』という声が耳に入る。どうやら話している内に頼んでいた料理が到着したみたいだ。

 それぞれ注文した品を受け取り、手を合わせていただきますをする。早速コーヒーを飲んでみたが可もなく不可もなくと言った味だ。専門店の味を期待していた訳では無いし、一杯二百円だしこんなものだろう。そんな普通のコーヒーを啜りながら何とはなしに子供達の方へと目を向けてみる。

「美味しいかい?」

「うん!あのね、あのね、おとうさんといっしょだからいつもよりおいしいの~!」

「そうかそうか。そう言ってくれて俺も嬉しいな」

 にぱっと笑顔で俺を喜ばせる言葉を言ってくれるなんて、良い子だな。頭を撫でてあげよう。

「えへへ~、おとうさんのナデナデきもちいいー」

 うーん、なんとも和むな。お母さん達も微笑ましい様子でこちらを見ているし、なんというか本当に家族団欒をしているみたいな気になって来る。まあ、今日初めて会った人達なんだけど、相性が良いと言うか波長が合うんだよね。だからこそ短時間でここまで仲良くなれたのかもしれない。

 それにニコニコしながら美味しそうにおやつを食べている姿は可愛いし、天使だよ。――他の席に座っているお客さんも優しい目でみているし、子連れの人達も……あっ、子供が物凄く羨ましそうな表情をしている。それとお母さんは嫉妬と羨望が混じった視線を美穂達のお母さんに送っている。父親と一緒に出歩くなんてお伽噺の話だし、精子提供を受けて人工授精で妊娠・出産する為父親という存在は知っていても見る事も触れ合う事も無いんだから先に挙げたような感情を抱くのは当たり前か。だからと言って俺が何か出来る訳でも無いし、美穂達は運が良かっただけなんだよな。

 そんな風に改めて今の状況を振り返りつつ、コーヒーに手を伸ばす。が、いつの間にか飲み干していたようでコップの中は空っぽだった。お代りする程では無いのでカップをソーサーの上に置き、お母さんと子供達へと目を向けてみる。お母さん達は俺と同じで飲み物はすべて飲んでおり、子供達もおやつは食べ終わったみたいだ。良い感じに休憩も出来たし、ここらでお開きにするのがベストかな。

「それじゃあ、食べ終わったみたいですし外に行きましょうか」

「分かりました。ほら、お店を出るから準備して」

「「「はーい」」」

 それぞれの準備が済んだ所でレジへと行きお会計を済ます。この時俺の分も含めてお母さん達が払おうとしたが、楽しい時間を過ごせたお礼として俺が払う事にした……んだけど男性にお金を払わせる事なんて出来ません!って猛反発されてさ。でもそう言ってくることは予想出来ていたので、用意しておいた決め台詞でなんとか言い包めて無事支払い完了。

 その後は店外へ出て、お別れだ。

「今日は有難うございました。とても楽しい時間を過ごせました」

「いえ、こちらこそ私にとっても娘にとっても一生忘れる事が出来ない日になりました」

「それはなによりです。――では、私はこれで失礼しますね」

「はい。お気をつけてお帰り下さい」

 別れの挨拶をして踵を返そうとした時三人の幼女が一斉に脚にしがみ付いてきた。そして涙を浮かべながら口々に声を上げる。

「おとうさん、かえっちゃやだ!」

「わたしもおとうさんといっしょにかえるの~」

「おとうさんのいえにいくー」

「こら、我儘言わないの。佐藤さんも困っているでしょう。ほら、脚から離れなさい」

「「「いやーー」」」

「もう、いい加減にしなさい」

「ううっ~、おとうさん……」

 ポロポロと涙を流しながら俺の事を見上げて懇願する姿を見て何も思わないはずもなく。俺としてもこの出会いを今日限りのものとするのは嫌なので一つ提案をしてみようか。

「あの、もしご迷惑でなければ今後も子供達と遊んであげたいと思うのですがどうでしょうか?」

「勿論大歓迎です。でも本当に宜しいのですか?」

「はい、問題ありません。あっ、そういえば連絡先を交換していませんでしたね。今端末って持っていますか?」

「はい」

「えーと、データ交換の方法は……」

「横から失礼します。――ここをタッチして下さい。はいOKです。私達も準備が出来ていますのでこのExchangeという所を押して下さい。それで連絡先交換は完了します」

 ポチッと画面をタッチするとデータ交換は一瞬で終わり相手の連絡先が表示されたので、知人のフォルダに移動しておく。よし、これで何時でも連絡できるようになったぜ。

 大人の遣り取りをジッと見ていた子供達だが、なんとなく俺とまた会えると分かったのだろう。嬉しさ半分、不安半分といった感じで友香が声を掛けてきた。

「ねぇ、またおとうさんとあえるの?」

「ああ、また会えるし一緒に遊べるよ」

「やった~!おとうさんだすきー」

 喜色満面で小躍りしそうな程喜んでいる。この笑顔を見れただけで満足だし、悲しいお別れにならなくて良かったと本当に思う。さて、何時までもこうしている訳にもいかないし改めてここでさよならだ。

「じゃあ、俺は家に帰るね。美穂、凛、友香も気を付けて帰るんだよ。あぁ、そんな泣きそうな顔をしないで。またすぐに会えるからさ。その時までお母さんの言う事を聞いて良い子にしているんだよ」

 順番に頭を撫でながら優しく言葉を掛ける。三人ともうん、うんと頷いてくれているし大丈夫だろう。

「それじゃあ、さようなら」

「「「ばいばい、おとうさん!!」」」

「さようなら」

「お気をつけてお帰り下さい」

「今日は有難うございました。さようなら」

 子供達に続いてお母さん達からも声を掛けられながら帰途に着く。思わぬ出会いと、新しい発見があったなんとも充実した休日だったな。こんなに濃い時間を過ごせたのは随分と久し振りだが、疲れよりも心地良さが勝っている。

 気分も良いし今日の夕飯はいつもより豪勢にしようかなと等とどうでも良い事を考えつつ家路へ向かって歩を進めていく。空を見上げると茜色に染まりつつあった。

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