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トワとイツカの魔法司書  作者: 玖月 泪
神保町編
36/106

七星アヌビス(2)

 午後の授業も終わり、放課後の図書室。

 今日もたくさんの生徒達が利用、自習を粛々としている。

 カウンター奥の作業室ではトワとハルとウララ、そして九重がいた。今日の図書室業務は他の図書委員の生徒達がおこなっている。


「じゃあ、今日はエーテル書誌を実際に作ってもらうわけだが」

 九重がソファの上で寝そべりながら説明を開始する。

「まず書誌とは何なのか、片桐、説明してみ」

「はぁーい。本の情報のことでしょ? タイトルとか書いた人とか出版社とか大きさとか厚さとか、そういうのをぜーんぶまとめた情報」

 ハルが呑気な声で答える。

「まあ、大体そんなもんだ。じゃあその書誌を集めたもので、この国で一番使われてるのは何だ? 柳葉」

「はい。国会図書館が作成、提供している日本全国書誌です」

 今度はウララが明瞭な声で答える。

「そう、それを元に全国の図書館が選書をおこない、受け入れ、所蔵をつけ管理するわけだ。昔は全国書誌は紙で提供されていたが、今はインターネットが主流だ。国図がウェブ上で提供している書誌情報を検索、ダウンロードできるんだから便利な時代になったもんだ」

 説明する九重を見て、トワはちゃんと教師してるなあと思いつつ、寝そべっていなければもっと格好いいのにと思った。


「で、エーテル書誌だ」

 九重はそんな尊敬と残念なものを見る目をしているトワに、びしっと指差した。

「っ!」

「電子版とエーテル版の違い、説明してみ」

「はっ、はいっ!」

 咄嗟に当てられたトワをウララは興味深げに見つめ、ハルは既にうつらうつらと首を傾け始めた。

「えっと、エーテル版は内容全てを記憶させます。電子版は書誌だけです」

「うーん。五十点だな。それじゃあ電子ブックだって内容全部だぜ?」

「あっ」

 九重の反応にトワはしまったといった顔をする。

『エーテル書誌はそもそもエーテイライズで分解した現物図書を、正しく再構成するためのガイドだからな。そのデータベースであるエーテルキャットと図書館の書誌データベースは似てるようで違う』

 腰のイツカが助け舟を出すように答える。

「そうだ。だがそのままだと各魔法司書のエーテルキャットそれぞれが独立したデータベースを持つことになるので、統一しようってことになったわけだ」

「それがお父さんのいる――」

「そう、国図のエーテル資料課だ。そこで魔法司書が作ったエーテル書誌を収集している。お前の相棒もそこのデータベースと定期的に同期してるだろ?」

『はあ。まあ……』

 九重の問いにイツカは曖昧に答えた。

 というのも、トワが作成したエーテル書誌は国会図書館が必要としている情報量を軽く上回ってしまっているため、同期は全くしていなかった。具体的には本の汚れや紙の劣化具合、果ては触れた人間の記憶までも含まれる。とてもじゃないが提供はできなかった。


 また、これはトワにも言っていないことだが、最近はトワが触れた本の情報はすぐに全て『思い出せて』しまう。

 これはオルトラルで神の目録に接続した後遺症だと考えていた。一度人間の身体に戻った際に切り捨て、再び本の身体に戻ったことでアクセス経路のみが残ったのだと。


「次に、エーテル資料の複製について確認しておく。おーい片桐寝るなー。禁則事項について言ってみ」

「ふぁい? んーと、エーテルキャットの書誌データ使って同じ本をたくさん作っちゃいけないんだよね」

 ハルは抱きかかえたゴンタの両腕をバンザイさせながら眠たげに答える。

「そうだ。エーテライズは一対一対応が原則で、現物資料の修理及び、保管のための書誌変換が基本となる。まあ複製できるほど濃いエーテルが、そんなほいほい集められることもないがな」

 九重の説明にトワはウララの方を見た。

「うん? ああ、この前すずらん通りの街灯を直した時の?」

 ウララはその意図に気付いて、懐から御朱印帳を取り出す。

「これは一枚一枚かなり情報が詰まってて、大概のものなら直せるくらいの濃いエーテルが出せるの。趣味で集めてるものだから、あんまり使いたくはないんだけど……」

 御朱印帳には様々な神社の御朱印が集められていた。それぞれから神憑り的な力をトワは感じた。確かにこれならできても不思議ではなかった。


「じゃーはじめっぞ。後は彩咲先生よろしく!」

 九重はそう言って手を振ると、新聞紙を被って眠りに就いた。

「えっと、今日はこれらの本をエーテライズで分解、エーテル書誌の登録、そして修理した上で再結合をおこないます」

 トワは机の上に並べられた修理対象の本を指して説明を始める。これらの本は既にエーテル書誌は作られているが、実際に作業を行い、その正確性を試す練習である。

「はぁーい!」

「はい! お願いします!」

 ハルとウララは元気よく返事をすると、早速作業に取り掛かる。


 二人が作業をしている間、トワも別の修理本のエーテライズを淡々とこなしていると、九重が思い出したかのように新聞を退けて話しかける。

「彩咲、お前ら文化祭のステージに出るの?」

「はい。一応わたしも出ていいって実行委員会には許可が出ました」

 トワは九重の方は見ないまま次々と本をエーテライズしていく。

「それはいいんだが、図書委員の方の仕事の準備は大丈夫か?」

「えっと、日本図書館協会の講演の手伝いでしたっけ」

「ああ、魔法司書委員会の人が来て、講演と実演を行う。それをうちの図書委員と一緒に手伝ってもらうことになる。他にも何人か魔法司書の生徒はいるが、みんなまだ目覚めて間もないからな」

 九重の説明にトワは先日ウララがすずらん通りで保護した生徒のことを思い出す。彼女も何度か図書室で魔法司書の講習を受けている。目覚めたばかりの者を野放しにするのは危険だからだ。

 適性が高ければハルとウララのように正式に魔法司書の資格取得に向けて研修を行い、そうでない又は本人が希望しない場合は暴発しないよう制御の仕方の指導のみに終わる。大半の場合は後者というのが実情だ。


「できたよー」

「できました」

 十五分ほどしてハルとウララはそれぞれ一冊の本を仕上げる。

「はい。おつかれさまです。見ていきますねっ」

 トワは自分の作業を止め、二人の元へ向かう。

『(やけに楽しそうだな)』

 乗り気のトワを見てイツカ苦笑した。よほど先生扱いされるのが嬉しいらしい。


「……はい、えっと……だいたい出来て……いや、うん……でもこれはこれで……」

 ハルの仕上げた本を手に取り、トワは何とも言えない言葉を続ける。

「だめだだめだ。適当すぎんだろ。片桐、お前はまずそのまま写すことを意識しろ。アレンジすんな。そういうのは完コピできるようになってからだ」

 対して九重はばっさりと切り捨てる。


「……うん、よく出来てると思います。あっ、でもここ……あれ? ここも……」

 次にウララの仕上げた本を手に取るが、色味や文字の擦れなどまだ荒削りながらも、実用レベルにあと一歩というところだったが、所々に猫のような足跡の影が付いている。

「こら! ウカ! また!」

 ウララは足元のウカに怒鳴る。ウカはつーんとそっぽを向いた。

「ウカちゃんが勝手にやった……?」

「そうなんです。自分がやったというサインを入れたがるみたいで。御朱印使った時はこんなことにはならないのに」

 トワの問いにウララが恥ずかしそうに答える。

「そいつじゃあるまいし、エーテルキャットが勝手にやるわけないんだがな……」

 九重はイツカの方を見てぼそりと呟く。

『……』

 イツカは何も言わなかった。おそらくウララ自身の願望がウカを通して漏れ出ているのだろう。自分で気が付くまでは言わないのも優しさか。


「わたしが治しときますんで、二人は次の本に挑戦してくださいっ」

 トワは不満を垂れる二人を励まして、次の作業に駆り立てる。

「これでも大分マシにはなった方なんだぜ。去年なんてそりゃもう……」

『ははっ……』

 九重のぼやきにイツカも三年前のまだ不慣れだったトワの醜態を思い出して笑う。

「しゃー」

 ずっと窓際で傍観を決め込んでいたデューイは、時折不敵な視線を飛ばしてくるゴンタとウカをずっと警戒して唸り声を上げていた。


 その後一時間ほど作業を行い、今日の委員会活動は終了となった。

 結局二人が実用レベルの本をエーテライズするには、まだまだ時間がかかりそうだった。

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