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悪魔使いの落第者  作者: Bros
第三章 白の陰謀と黒の愚策
68/201

#67 レッツラン、レイン組!

レイン組の組員視点のお話です。


六十七話です、よろしくお願いします

『あさだよ~起きて~』


間延びしたアニキの声を聞いて私は最高の気分で起きる。


私はレン、双子の兄バンと共にレイン組に所属している。


アニキと言うのはレイン組のレインさんのことであって兄の事ではない。

兄はバンと呼ぶので、特にややこしいことにはならない。


さっきの声はヴァイス”様”に頂いた目覚まし時計で、ヴァイス”様”をアニキが起こすときに掛ける声をヴァイス”様”が録音魔法で録音して時計に付与してくださったのだ。


この優しさと少しの親愛を添えた声に堕ちない組員はレイン組ではない、そう思わせるほど私達には効果抜群だ。


ちなみにこういったグッズをヴァイス”様”から頂く時は皆必ずスイーツのお礼を渡すのでヴァイス”様”は結構すんなり言うことを聞いてくれる。


「さて、今日も頑張るかー!」


背伸びをして寝巻きを脱ぎ、ジャージに着替える。

靴下を履いてランニングシューズを履くと寮の玄関まで急ぐ。


私達レイン組には幾つかの習慣がある。

1つは訓練だ。

モストロと呼ばれる怪物と戦う為にはたゆまぬ努力が必要だ。

あのアニキも『ファントムサモナー』という強力な道具を使えるにも関わらず日々のバイトに特訓をしくんでいらっしゃる。

それなのに私達が訓練しない選択肢があるだろうか?いや、無い。


なので私達は朝から集まってランニングに勤しむのだ。


時刻は5時半、少し空が青くなってきた頃。

私達は学園の正門前に集合していた。


「お前たちも知っていると思うが、リーダーは傷心でどっかいっちまった。暫くは俺が仕切る」


「「「押忍!!!!」」」


「よし、いくぞ!!」


「「「応!!!」」」


副総長のテリアさんが先頭に立って走り出す。

私達もそれに続いて走り出す。


ランニングコースは王国で一番大きい川、タンス川を沿って走っていく。

往復で大体10キロだ。


「おはようレン、良い夢は見れたか?」


兄のバンが話かけてくる。

私はポケットからアニキの写真を取り出してヒラヒラと見せる。


「当然、今日も最高の目覚め」


「だよなぁ、俺もだ」


ちなみにバンは私以上にアニキに陶酔している。

この前部屋に入った時にアニキの観察日記が束のようにあって軽く引いた記憶がある。


私はお頭のカフさんとアニキの決闘の時から取り巻きをやっていたレイン組の中でも古参の部類に入るらしい。


私達は最低な事をアニキにしてきた。

私自身は殴ったり蹴ったりしたことはないけれど、他の者がやっているのを見て何とも思っていなかったので同類だ。


本当にクズだったと思う、今昔に戻れたら自分を殴り殺すかもしれない。


あの時私達にはアニキが情けない男にしか見えていなかった。


いつもいじめられているのに反撃もせず笑って痛みを誤魔化していたのが意気地無しにしか見えなかった。


だけどあの日、初めて私達がモストロを見た日。

お頭の攻撃が全く効いていない事に私達は完全に戦意を失った。

今まで自分のやりたいことをやり通してきたお頭の絶望の表情と声。


私達はあれだけアニキに情けないと言っておきながら、体が動かなかった。

目の前の強敵に恐れをなして、動けなかった。

絶対的なリーダーが揺らいだ事で私達の無敵感は完全に崩れた。


でも、アニキは違った。

いつも事なかれ主義なのに、誰よりも弱いはずなのに、前に出て最低な私達をかばってくれた。

『ファントムサモナー』があるからと思うかもしれない。

でも使ったところで体力切れになったら?倒しきれなかったら?

いくら道具が強力といっても相手の力は未知数だ。


それまで素手で抑えていたアニキは私達を守るためにリスキーな手段を選んで、戦った。


あの瞳に惚れない者は人間じゃないだろう。


そこから私達は目が覚め更正した。

今まで迷惑をかけたお店や施設に出向き片っ端から謝罪をしに回った。

学園で見下していた生徒たちに謝りに回った。

教官にも謝りに回った。


自分達でもビックリだった。

元々社会に不満があって集まったのに、1つのきっかけで心が入れ替わった。


心のどこかにあった良心をアニキが目覚めさせてくれたのかどうかは分からない。


だけれど、私達に新しい景色を見せてくれたのはアニキだ。


だから私達はアニキに付いていく。

バンもきっとそう思っている………はず。


「おいレン!遅れてるぞ!」


怒られた!少し自分の世界に入り込みすぎたか。


私はスピードを上げてまた集団の先頭の方に入る。


「あら、今日も頑張ってるわね。」


犬の散歩をしているおばさまにあった。

毎日ここら辺で会う人だ。


「「「「おはよぅございますっ!!」」」」


私達はランニング中にすれ違った人には必ず挨拶をするようにしている。


「今日も元気ね~おはよう」


おばさまはニコリと挨拶を返してくれる。

やはり挨拶と言うものは気持ちが良い。


この川の流れを聞き、汗を流し、気持ちの良い挨拶をするとあらゆる不安やストレスが消えていく。


それからも私達はすれ違う人たちに挨拶を続ける。

最初は返してくれなかった人もだんだん挨拶をしてくれるようになる。

その時が堪らなく嬉しいから私達はこれを止められない。


そして暫く走り、折り返し地点に着いたときだった。


「あれぇ?皆だぁ!おはよう!」


この少し訛ったお声は!!


「「「「おはようございますっ!!アニキ!!」」」」


「ふぇ?!う、うん、おはよう!」


驚きながらも挨拶を返してくれるアニキ。

荷物を見る限り新聞配達だろう。


「今日も皆げんきだねぇ」


ニコニコと嬉しそうにはにかむアニキ。

早起きして良かった。


「あ、でもこのまま止まっちゃうと間に合わないなぁ………じゃあおいらはもう行くね、頑張ってねぇ!」


アニキは手をフリフリしながら物凄いスピードで走り去る。


アニキは郵便配達と甲冑を身に纏っている時だけ脚が何故か速くなるらしい。

日常では全力を出してもあまり速くないのだとか。


「皆エールをもらった分残りも全力で行くぞ!」


「「「応!!!」」」


私達はまた走り出す。

既に5キロをかなりのスピードで走ったのに足取りは軽い。

今日も爽やかな学園生活を送れそうだ!

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