先行き暗し、我が歩む道
「とりあえず分かったことだけどこの世界にレベルとステータスという概念はなさそうだね。もしそういう概念があったら能力を数値化したものがどこかで見れるはずだけど…………パッと見そういうシステムは見当たらなかったし」
私は自分のステータスを調べようとしたけれど、ゲームでよくあるメニュー画面やステータス画面をみるといった行為はできなかった。
何も無い虚空に向かって思いつく限りのステータスウィンドウを開くための合言葉を口にしたのだが、正直恥ずかしかった。
それだけで断定するのはいささか早計かもしれないが、こういうのは見れるなら本人の意思で見れるはず。
見れないということはないものとして考えた方がいいだろう。
「でもあのゲームで裏ボスとして勇者に立ちはだかる力は健在……なんだよね?」
クラリスの能力はコピー。
ゲームでは仲間として連れて行った誰かになっていた。
強い仲間を連れて行けばその強さをまるまる利用されて、いいようにやられて腹を立てた記憶がある。
だが、その力はいま私にある。
かといって使いこなせるかはまた別の話なのだが。
「ゲームの時は連れて行った仲間にしかなってなかったけど、もしかして目に映る人にしかなれなかったりするのかな?」
ゲームでは勇者である自分自身が操作していたキャラや連れて行った魔法使いや僧侶などの力をパクられて使い回されてボコボコにされたけど、逆に言ってしまえば連れて行った仲間にしかなっていなかった。
ちらりと覗いた攻略サイトには、一人だけ育てていない弱いキャラを連れて行ってクラリスがそのキャラをコピーしている間に攻め立てるといった攻略法があったくらいだ。
もしかしたらそのような制限があってもおかしくはない。
「あ、でも目に映る相手にしかなれなかったら、こんなところに住んでない……かな? ステータスの概念がなかったからクラリスのスペックも分からないけど、設定集でもコピー能力以外に特筆された力があるような記載はなかったし……」
コピー元が手元にない時のコピー能力ほど貧弱なものはない。
力のストックはできるが引き出せる力の違いとかコピるのに必要なエネルギーが違うとかで勘弁してほしい。
勘弁してほしいのだが……。
「引き出せる力もない私はどうすればいいんですかね!?」
自分についての理解や考察が進んだところで根本の問題は未解決のままだ。
ここから移動できないのだ。
家の中を調べてみた感じだと食料はあるがそれも数日分しかなさそうだ。
食料があるうちはここにひきこもって大人しく生活していればいいかもしれないが、その後は野生のモンスターを狩るなり町に買い物に出かけるなり自分で食料を調達しなければならない。
「困ったな……」
私はこれからどうすべきか考えて顔を曇らせた。
クラリスと私に顕れる違い。
ゲームの知識があっても役に立たないとはまさにこの事だ。
「どうしよう。何とかマップはだいたい覚えてるからそれを頼りに近くの町に行く? でもゲームに表示されるフィールドマップをどこまで当てにしていいかも分からないし……」
まさかね……。
私のストーリー、初手で詰むなんて事ないよね。