セーブとロードはナシ
違う違う。
確かにこの世界にゲームはないかもしれないが、考え方を変えれば私自身が主人公となってゲームをやっていると捉えられなくもない。
物事をマイナスに考えていては損だ。
ポジティブに考えよう。
しかし……しかしだ。
いくら私がこのゲームをプレイ済みである程度知識を持っていたとしてもそれが役に立つとは限らない。
現に私というイレギュラーがこの世界にいる以上、原作通りにはならないと考えてもいいはずだ。
「はあ、まさか起きたらこんなことになってるなんてね。いくら私がゲーム好きでもこんな急展開は望んでなかったよ」
考えることは山積みだ。
私がゲームの世界に転生して、ゲーム内のキャラであるクラリスになってしまったことはまあいいとしよう。
だってあれだけ頬を強くつねっても夢から覚めなかったわけだし、きっと私が元の自分の家に帰れる可能性は低いはずだ。
色々と気になることはある。
だが私の目の前に立ちはだかる差し当たっての大きな問題が一つ。
「ここがクラリスの家で周りが迷いの森…………あれ? これ、もしかしなくても詰んでる?」
迷いの森はストーリークリア後に訪れることのできるいわばエクストラステージ。
その迷いの森に出現するモンスターを倒すための必要レベルもそれなりに高い。
つまりこの家を一歩出てしまえば危険とエンカウントする可能性が大いにある。
それもクラリスならば問題なかっただろう。
もとよりこんなところに住居を構える変わり者だ。彼女にとってこの森に出入りすることは散歩するかの如く容易いことに違いない。
だが、この身体に宿った私――――如月瑠那はどうか。
「むりむりむりむり……! 絶対無理! 戦えない私がここから出たら終わりだよ」
日本という比較的平和な国で戦闘とは無縁な生活を貪っていた私が、いきなりモンスター蔓延る危険な森に単騎で突撃なんて無駄に残機を一つ散らすようなものだ。
なんてゲーム感覚で話をしているが、きっとそんな甘い認識ではいけないのだろう。
ここはゲームの世界。だけど私にとっては新しい現実。
こまめにセーブすることも、セーブ地点からやり直すこともできない。
一つしかない命は大事にしなければいけない。
「ひとまずこの私――――今のクラリス・ノワールのスペックを把握するのが先か……」
ゲームの序盤は辺りの散策がセオリーだろうが、今の私にそれは自殺行為だ。
まずは情報収集。
そして役に立つか分からないけど、一つでも多くのゲーム原作知識を思い出しておかないと。
「いきなりハードモードだなー」
とかなんとかぼやいている私だが、実はワクワクしていたりしなかったりする。
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