記憶喪失!?
……ここはどこ、私は誰?
記憶喪失などでよく聞くお決まりの台詞。
だけど、私の今の心境はこの言葉以外で言い表せない。
まずは状況を整理しよう。
私の名前は如月瑠那。
日本で生まれて日本で育った普通の女の子。
年齢は十六。華の女子高生だ。
残念ながら恋人はまだいない。というかしばらく作る気はない。
その理由は私の趣味。
何を隠そう、私はゲーム大好き人間なのだ。
どんなジャンルのゲームだってこよなく愛しているし、どれだけのやりこみ要素があろうとすべてやりこむそれが私の信条だ。
だから恋人にかまけている時間は私にはない。そんな時間もお金も私には存在しないのだ。
おっと話がずれちゃったね。
そういうわけでゲームに情熱を注いでいた私だけど、昨日も例の如く夜更かしをして深夜の三時半くらいまでゲームを楽しんだ。
本当はもっとやっていたかったけど明日……というか今日も学校に行かなければならないから仮眠をとるつもりで自室のベッドで目を瞑り、夢の世界に旅立った……はずなんだけど。
「知らない天井だ」
なんと目を覚ましたら知らない天井がまず目に入ってきた。
寝ぼけて見間違えたのかと思い、目を閉じて深呼吸をして体を起こして辺りを見回すとそこは知らない部屋だった。
そしてその見知らぬ部屋の机にに置いてあった鏡に顔が映り私は身体を硬直させる。
なんとそこには自分がよく知る顔ではないものが映っていた。
(ここはどこ? 私は誰?)
もう一度言おう。
私は記憶喪失などではない。
だが、これが今の私が直面している状況で、私の今の心情をもっとも言い表すことのできる言葉だった。
◇
◇
混乱している頭を落ち着かせて私は考える。
やはりこれは現実なのだろう。
夢ならば覚めるかとも思ったが、頬を思いっきりつねってみても痛みを感じるだけ。
ならば、この姿をした私は誰だ。
綺麗な金色の髪。ボブカットの髪型。
燃え上がるような赤い瞳。白磁器のような肌。
整った顔は美少女といっても差し支えないだろう。
だが、私の自慢の長い黒髪や、少し茶色身がかかった黒目などの日本人要素はまるでない。
ということは別人になってしまったと考えるのが妥当だろう。
鏡に映るではない私の動きに遅れることなく付いてくる。
これが私の身体なのかと調子を確かめるように手を握ったり、肩を回したりしていると机の上て開きっぱなしの本が目に付いた。
「これは……日記? でもこんな文字、私は知らない……」
日付やその日の出来事などが書かれていることからそれが日記であることは推測できるが、大事なのはそこではない。
その日記に使われている言語が明らかに日本語ではないのだ。
かといって英語やその他の私が知っている言語でもない。
それなのに書いてある内容を理解できてしまうことに、一種の不快感を覚えているのかページをめくる手は止まらずとも、日記の内容は頭にまるで入ってこない。
そうして遡るようにしてめくられた日記は初めのページへとたどり着きそのままぱたんと閉じられる。
そしてその表紙に書かれている文字を目にした私は首を傾げた。
「クラリス・ノワール……?」
私はその名前に聞き覚えがあった。
なんとなく、薄ぼんやりと知っているような気がした。
でも、すぐには思い出せない。
どこで聞いたんだっけ、と思考を巡らせているとふと鏡に映りこんだ瞳と目が合った。
赤い瞳がまばたきの隙間から輝いている。
そんな吸い込まれるような瞳に渦のような模様が見えたとき、私は「あ」と小さく声を漏らした。
バラバラだった歯車がかちりと噛み合ったような感覚。
すぐそこまで出かかっているのに引っかかって出てこないようなもどかしい感覚が取り除かれると同時に、私は鏡に映る自分を指さして絶叫した。