信仰のドラゴン
「エミル、撃つぞ! ――『鑑定』!」
『――シュート!』
放たれた『鑑定』が彼方の、森の中心にそびえる「災厄の大樹」の情報を読み取る。
ステータス
名前:ギンヌンガガァプの破片
階位:7
HP:18/18
魔力:0
攻撃:7
スキル
『混沌の裂け目』・混沌を生産する。
『陣地作成』・混沌を生産する場を作成・拡張する。
『融合』・生産した混沌を捕食する。
『高速再生9』・時間経過とともにHPが9ずつ回復する。(三十秒にX)
表記が人類ともモンスターとも違う!
やっぱり俺と同じ、世界の外来種――『魔法』か。
しかも、俺より階位が高い!
「ヤバいな……モンスター生産スキルを持ってやがる。たぶん、俺の召喚枠と違って制限がない。このままだと、無限にアビスエイプが沸き続けるぞ」
「HPは、コタロー?」
「18だ。だけど、高速再生能力で三十数える間に9ずつ回復する。一斉攻撃でしとめるしかない」
「――魔術の一斉砲撃ならば?」
「デカいから大きく見えてるだけで、この距離だと届かないだろうな……届くのはエミルのスキルくらいだろうけど、俺の魔術だけだと圧倒的に火力が足りない……!」
アレを倒すには、まず攻撃が届く位置まで近づかなければいけない。
それ以前に、そもそも攻撃されているのはこの王都の方だ。
押し寄せる、一面のアビスエイプの群れを蹴散らして、本体に近寄る。
できるのか、そんなこと……?
「考えるのは後だ、コタロー! まずは増援を喚べ、兵士が討ち漏らした魔物が、次々に王都の中へ入り込んでいるぞ!」
まずい、兵士たちが多勢に無勢すぎて押し切られそうだ!
街門を守る兵士たちの間をすり抜けて、アビスエイプが街中へ散っていく。
くそ、追わないと、街の人たちが――
「総員、抜剣! 友軍を救えぇぇぇぇいッッッ!!」
突然に響き渡る大声。
街の中を振り返ると、大量の騎馬兵と歩兵が王都の通りを埋め尽くしていた。
「我ら、王国騎士団の心意気を見せよ! 野生のモンスターのくぐれる街門など、この国には有りはしないッ!」
王国騎士団!
初動は間に合わなかったが、ハイボルト王が手配してくれたのか!
昨日の今日で準備期間もろくに無かったろうに、やるじゃねーか、王様!
雄叫びを上げ、援軍の騎士たちが街門へ押し寄せるアビスエイプの群れに突撃していく。
それまで数部隊でこらえていた守備兵と騎士たちは、歓声を上げて指揮を取り戻した。
街門の援護をする本体と、街中に侵入した魔物を追討する部隊に別れ、騎馬兵と歩兵が散開していく。
その中から、街壁上の俺たちに声をかける人がいた。
「おぅい、ナギハラ騎士爵! そこにおるのか!」
エルキュール所長を背に乗せて乗馬した、貴族服のオーゼンさんだった。
甲冑姿でこそ無いが、帯剣している。
アシュリーたちと一度顔を見合わせ、全員で街壁の階段を駆け下りる。
途中、メガロドレイクを召喚して加勢と護衛を兼ねた増援を増やしておく。
「オーゼンさん、所長!」
「おお、やはりおったか! お主なら駆けつけておると思ったぞ!」
オーゼンさんと所長は馬から降り、俺たちに笑いかける。
騎士団の展開する、いわば陣地内とは言え、戦場で軽装でいるのはすげぇな。
「オーゼンさん、どうしてこんな前線に?」
「なに、送迎役じゃ。こんな老いぼれでも馬くらいは操れる。所長が、騎士爵は必ずここに来ていると言うのでな、騎士団に同行して送り届けたのじゃ」
「助かりました、先代。騎士団には同乗を断られましたからね。王城から速駆けしてもらってすみません」
「なんの、王都の危機じゃ! 引退したわしでは魔物に力及ばぬとは言え、馬があれば市民に避難を呼びかけて回るくらいはできるじゃろう。騎士団では間に合わぬでな、戦力にはなれずともできることはある!」
そう言ってオーゼンさんは、拳で自分の胸をドンと叩く。
騎士団じゃ、間に合わない?
「オーゼンさん。騎士団も街中に散りましたよ? 魔物は掃討されるんじゃないんですか?」
俺がそう尋ねると、オーゼンさんの表情が難しいものになる。
眉間にしわを寄せ、オーゼンさんは小さく頭を振った。
「いや、奴らは猿の魔物じゃ。少しずつじゃが、街壁をよじ登って各所に侵入し始めておる。騎士団だけでは手が回らん。住民を避難させねば」
「騎士団だけ、って……貴族たちの兵士はどうしたんです? 国中の大貴族とその軍が王都に集まっているはずでしょう」
「もちろん、総勢で守っているよ騎士爵。――貴族街区を、ね」
横から教えてくれた所長の言葉に、俺は絶句した。
平民街区に、展開してないのか!?
それじゃ、一般市民たちは――
「彼らを責められはしない。彼らはそれぞれ自分たちの主人を持っていて、その主人たちは国を支える重要人物だ。万が一にも失うわけにはいかない。兵力を密集させて重要な区域を本陣として守るのは賢明な判断だよ」
「でも! そんなの、一般市民を犠牲にするってことじゃないですか!」
主人や重役が無事なら、平民たちはどうなってもいいのかよ!?
「――だから、わたしはきみに会いに来た」
憤る俺をいさめるように、エルキュール所長は、真剣なまなざしで俺を見た。
そして、彼女は祈るように厳かに、言葉を続ける。
「街壁を守る王国騎士団は敗れる。兵力が足りないからだ。そうなれば、平民街区の住民たちは蹂躙される。――だが、きみならば何とかできる、わたしはそう『信じた』から、きみを探して王城から駆けてきた」
俺なら――
俺は――
「押し寄せるモノたちと同じく、この世の人知を超えた『外』の存在――人類の味方である、きみならば。この国を守れる手立てがあるのではないかと」
俺は、ただの普通の人間だよ。
俺は、ただのそこらのカードゲーマーだよ。
俺は――
でも、俺は。
――『魔法』なんだ。
「……所長。『鑑定』させてくれ」
「……? ふふ、いいとも」
俺はカードを起動する。
エルキュール所長のステータスが表示される。
名前:エルキュール
種族:普通人
0/2
魔力:6/6
『魔力同調』・魔力の質を変化させる。他者や物品の魔力に干渉できる。
このステータスなら。あるいは――
俺は、一枚の『カード』を取り出し、エルキュール所長に向けて差し出す。
「……騎士爵、これは?」
「……このカードを使ってくれ。今の俺じゃ喚べないが……たぶん、所長なら喚べるんじゃないかと思う」
俺の手の中にあるカードのテキストに目を通して。
エルキュール所長は、ゆっくりと、その場に片膝をついて深く頭を下げた。
その恭しい振る舞いに、俺は思わずうろたえる。
「しょ、所長? いきなり何を――」
「当然だ。『神』から賜るならば、その信徒はひざまずくものだよ。言っただろう。――わたしは、きみを『信じて』いるとね。だから、ひざまずくのだよ」
そうして彼女は、頭を下げたまま、俺の手のカードを受け取る。
従者が主から手渡される剣を拝領するように。
その場の騎士たちが、一瞬戦う手を止め、権威ある伯爵がひざまずく姿を見ていた。
――神授拝領。
彼女は受け取った『カード』を掲げ、おもむろに立ち上がる。
誰にも見えないはずの一枚のカードを手に、彼女は高らかに喧伝した。
「聞け、王国の騎士たちよ! ――これなるは、『神』より授かりし救国の奇跡なり! 我、エルキュール・ロムレスの賜りし奇跡をもって、この国を襲う災厄を打ち払おう! とくと見よ、これこそが、我ら人類に味方する『カードの神』のみわざである!」
そして、彼女は掲げた『カード』を起動する。
その持ち得るすべての魔力を注ぎ込んで。
「召喚ッ! ――『ガラクラン山脈のドラゴン』!!」
まばゆい朝焼けに照らされ。
突如として『夜』が現れた。
戦場に落ちる大きな陰に、騎士たちのみならず、アビスエイプの群れもその存在を見上げていた。
鋼の鱗に覆われた巨体、天にひるがえる一対の翼。
この世の最強を語るとき、必ず一角に上げられる種族。
「ふ、フレアドラゴン……ッ!」
『ガラクラン山脈のドラゴン』
6:6/6
『飛行』・関連する負傷を負っていない場合、地上からの直接攻撃を回避する。(『射撃』等は除く)
『甲殻3』・3点以下の攻撃を無効化する。
『火炎のブレス』・広範囲に3点の炎の射撃を行う。
沈黙の中で騎士の誰かがうめく中、空に浮かぶドラゴンがその手を伸ばす。
エルキュール所長は、当然と言った様子でその手へと足をかけ、手のひらへと上がった。
巨大な竜種を従え、エルキュール所長はドラゴンの手の上で声高らかに宣言する。
「行くぞ、諸君! ――竜は我らとともに在り!」
膨大な歓声が巻き起こる。
誰もが知っている、何も知らずとも、見れば誰もがそれを知る最強の存在。
その強大な援軍に、雄叫びを上げない騎士など、その場には誰もいなかった。
ドラゴンの手のひらの上で、エルキュール所長の口が動いたのが見えた。
その口の動きは、こんなことをつぶやいているように見て取れた。
「……さぁ、騎士たちよ。ここに『信仰』を始めようではないか――」




