王都到着!
はるばるやってきました。
マークフェル王国の首都、王都エルケンスト。
その街門の前に立ち、やはりここにもある巨大な街壁を見上げる。
デカいなー。
石造りの壁は見慣れた気がしたけど、どんどん規模がデカくなってるもんな。
この国の一番の都市なんだから、そりゃ辺境伯領都よりデカいか。
「コタロー、なに一般の列に並んでんのよ」
「貴族用の通用門に行くぞ。早く到着したとは言え、悠長に並んでいたら日が暮れる」
アシュリーとナトレイアに促され、一般の列から外れる。
そうか、そういやそんな特権あるんだった。
辺境伯にもらった、騎士爵位様々だな――
ラージグリフォンによる飛行移動は予想以上に早く、徒歩で二十日かかる道のりを三日で到達してしまった。
俺としては途中で手札を増やすための狩りをしたかったのだけど、グリフォンを駆るナトレイアさんのテンションが三日間天元突破し続けたので、休憩もそこそこに昼間中ぶっ通しで飛び続けたのだ。
ほんと飛ぶの好きだな、ナトレイア。
何でも、森の中の里出身で、冒険者時代も召喚術士なんていないソロ活動ばかりだったから、空を飛ぶ生き物に騎乗することに長年憧れ続けていたのだそうだ。
エルフの寿命で長年と言うくらいだから、相当夢見続けていたものと思われる。
王都に入るとグリフォンに乗れなくなる、としょんぼりしていたけど。
いや、辺境伯も言ってたけど、乗って戦うよりグリフォン単体の方が強いからね?
そのグリフォン、ナトレイアが『精霊の一撃』使った状態と同じスタッツだからね。
例外的に、空中からの射撃は有効なので、アシュリーはこれから乗る機会も多そうだ。
という話をしたら、グリフォンにしがみついて泣きわめいて懇願されたので、俺としても深くはツッコミづらい。
ほんとこのエルフ、剣の腕前以外はポンコツだな。
最初に会ったときのクールな評判はどこに置いてきた?
そんな珍道中を繰り広げながら、強行軍で到着した王都。
人目を避けて、街門のかなり手前でグリフォンから降りて徒歩でたどり着いた。
一般の街門の横に作られた貴族用の通用門は、誰も並んでおらず、身分証になる騎士勲章を見せるとあっさりと街の中に通された。
「いやー、楽で良いわね騎士爵。しかも、あたしたちには貴族の責任無いし」
「毎回、この行列に並びたくないからここには来たくなかったのだがな。こんなにすんなり通れるなら王都も悪くないな。よくやった、騎士爵」
「お前らさ。建前的には一応、俺の従者だからな?」
両手を挙げて背を伸ばしながら、二人が清々とした表情で勝手なことを言っている。
こんな自由な従者ども、いんの?
いや、俺自身が自由な身分の特殊な騎士爵だから、文句も言えないけど。
「まずは宿でも探すか。二人は、良い宿に心当たりあるか?」
「そうだな。以前来たことはあるから、そのときの宿がまだあれば良いが」
「宿って言ってもピンからキリまであるわよ。あんまり高級すぎる宿だと、高位貴族とカチ合うことになるから、そこそこの宿が良いと思うわ」
ピンキリって花札用語が由来だと覚えてたんだが。
翻訳能力高いな、『異世界言語』。本当は何て言い回しなのか気になる。
「ふむ。ならば以前私が使った『太陽の泉亭』という宿がちょうど良さそうだ。宿代が高めな割に部屋の設備はそうでもないのだがな。水と火の魔道具を使った、『大浴場』という設備がなかなか――」
「風呂! 風呂入ろう! そこ行こう!」
風呂! マジか、入りたい!
こっちの世界に来てから、お湯を含ませた布で身体を拭くだけだったんだよ!
辺境伯邸に泊まったときには、浴室があると言うからもの凄く期待したのに、蒸し風呂というかサウナ方式で愕然とした記憶がある。
温かいお湯に肩までつかろう!
そういうわけで、ナトレイアの記憶を頼りに宿を探すことにした。
******
たどり着いた『太陽の泉亭』は、部屋は若干狭かったものの、俺には文句が無い。
久方ぶりに風呂に入れたのだ、何を不満を言うことがあろうか。
水の魔道具で満たした浴槽を、火の魔道具で沸かす。
単純な仕組みだが、維持費が高くて高級宿以外だとなかなか無いらしい。
水の魔道具は湯に対流も起こしていて、浄化の魔道具に流し入れてお湯の濁りを取ってくれる。
その心遣いも憎らしい。おかげで、いつ入っても綺麗な湯に浸かれるわけだ。
なんでも、この大浴場を作ったのはこの宿が王都初らしく、今でも入浴と言えば、辺境伯邸のようなサウナ形式のところが珍しくないんだそうだ。
何だろ。昔のヨーロッパみたいに、『水に浸かると病気にかかる』とか迷信が流行ってたのかな。もしくは、単に水がもったいなかっただけか?
え、ラッキースケベ? ありませんよ、そんなの。
男湯は独立した大部屋になってたからね。女湯もおそらくそうだと思われる。
ただ、アシュリーもナトレイアも大浴場は気に入っていたので、長く逗留すればそんなこともあるかもしれないね?
あったらたぶん、流星弓と『精霊の一撃』が飛んでくるけど。
「覗いたら射貫くって言った目はマジだったな」
自分の部屋で、独りごちる。
一部屋一泊銀貨一枚なんだけど、一人一部屋取る念の入れ用だからな。
辺境伯からの報奨金と、装備に使う金が俺の召喚で浮いたせいで、二人ともお金持ってるんだよね。
……そんなわけで、俺は現在、部屋で一人カード情報の整理中である。
領都で獲得したパックのカードは五枚。
『銀のハルバード』
2:装備品:+1/+1の修正を受ける。
『仕組まれた決闘』
4:二体を対象とする。二つの対象は、お互いに自分の攻撃力に等しい
ダメージをそれぞれ相手に与え合う。(対象が二体いない場合、使用できない)
『束の間の翼』
3:三十秒間、対象は『飛行』を得る。
『魔獣の力』
6:一分間、対象に+3/+3の修正を与える。魔力を1回復する。
『懸命な守備兵』
4:0/4
『誘導』・敵の攻撃を、このアバターに誘導する。
『甲殻2』・2点以下の攻撃を無効化する。
――詳細は以上。一部はかなり豪華な内容だ。
装備品の『銀のハルバード』は斧付きの長槍だな。
HPも上がる防御面も強い装備品なんだけど、ナトレイアは剣を使うのでアバター専用の装備品かな。
グリフォンに騎乗してるときは、リーチの関係で使ってもらっても良いかも。
次の『仕組まれた決闘』は、かなり強い。
一見すると離れた距離で敵味方で攻撃し合う遠距離攻撃用に思えるが、そうじゃない。
これは、『敵同士』を対象に取れるのだ。
つまり、同じスタッツの敵が二体いたら同士討ちでしとめられる、強力なスペルだ。
『束の間の翼』は飛行付与呪文。
こういった特殊能力系は、今までの経験上、戦闘以外の場面で役立つことが多いかな。
ナトレイア辺りは喜びそうだ。
『魔獣の力』は、毎パックでお約束、コスト高くてまだ使えない系の一枠だな。
ただ、修正値がとんでもないんで、使えるようになったら強そうだ。
そして、本命のアバター、『懸命な守備兵』!
なんと『スモールウォール』さんと同じ『誘導』で敵の攻撃を引き寄せてくれる上に、まさかの『甲殻』持ち!
堅すぎる。
安全面で心強すぎて震える。きみのようなカードを待っていた!
ここまでの旅路では使う機会が無かったんだけど、良いカードを手に入れた。
領都で手に入れた各飛行アバターと合わせて、戦力はかなり強化されたな。
使うときが、若干楽しみになってきている俺がいる。
いや、身体張ってるんで、危険は無いに越したことはないんだけどね?




