夢の撃ち放つ魔弾
撃沈したクリムゾンガルーダに、アシュリーも、ノアレックさんも言葉を失っていた。
遙か遠方でのできごとだ。
だが、それは確かにその場の誰の目にも届き、誰も考えすらせぬ常識外の結果をもたらした。
「コタロー、今のはあんたの魔術!? それとも、新しい召喚獣なの!?」
「両方だ、アシュリー! 次はもう少し引きつけて撃つ!」
攻撃魔術の超長距離狙撃は強力だけど、今のは遠すぎて、モンスターに人間の攻撃だと認識されたかどうか怪しい。
次は明確に狙われるまで引きつけてから撃たなければならない。
『魔術戦なら、おっまかせだよー! 射撃サポートはエミルちゃんの得意技ッ!』
新たな『伝説』、狙撃妖精のエミルは自信満々に薄い胸を張る。
近距離も行けるのか、本当に心強いな。
パックドファルコンの鳴き声が聞こえる。
同時に、ノアレックさんが叫んだ。
「接近! 多いよ! 右手にデトネイトイーグルが二体、左手にメガロドレイクが二体や!」
「メガロドレイクをくれ! イーグル二体は任せた!」
「あいよぉ!」
先行するノアレックさん。
右方向から接近するデトネイトイーグルを、『ゲイルスラッシュ』で二匹まとめて撃ち落とす。
一方で、左に向かって旋回した俺とアシュリーは、メガロドレイク二匹と相対した。
飛行の他に『敏捷』を持つ厄介なモンスターだけど、こっちには新しい戦力がいる。
「エミル!」
『アイアイ、マスター! ――照準補足。弾道計算。準備完了です、マスター!』
目元のスコープに数値と標的を表示させ、エミルが展開された魔術砲身を調整する。
「『ゲイルスラッシュ』!!」
『――シュート!』
二発の風の砲弾が、『必中』の効果かエミルの照準か、相手に回避を許さない。
中距離狙撃は、接近するメガロドレイクを無事に両方とも斬り裂いた。
『着弾! 目標、二体とも行動不能!』
「よくやった、エミル!」
足場の不安定な空中で、照準を合わせてくれるのはとても助かる。
狙えば当てられる。
長距離攻撃に関して、これほど頼りになることがあるだろうか。
「コタロー! そろそろグリフォンが持たないわ、いったん地上に帰還する!」
「わかった、俺も進路変更する! ――ノアレックさん、地上に降りるぞ!」
そこから数体を墜としたところで、アシュリーが報告してきた。
自分もコントロールバーを引き寄せ、体重を傾けて進路を変更する。
地上で待つ、クリシュナやクルートさんたち支援部隊の方へと高度を下げていく。
眼下の丘では、大歓声が俺たちを迎えてくれようとしていた。
皆の声援を受け、俺とアシュリーは丘に着地する。
途端に、クリシュナがグライダーに駆け寄ってきた。
「バカ者! 最初っから喰われるかと思ったぞ、コタロー!」
「すまん、とちった。いきなり死にかけたな」
「すまんで済むか――ッ!」
丘の上に立った俺に、クリシュナがぼふりと頭を埋めてくる。
「夢を叶えろと言うたではないか。助けると言うたではないか。心配させるでない、この大バカ者……」
「悪い悪い。でも、その後はちゃんとやったろ? って、まだ終わってないんだけどな」
『このエミルちゃんの活躍も、おっ忘れなく――ッ!?』
顔の周りをエミルが飛び回る。
その姿を見上げて、クリシュナが目を瞬かせた。
「なんじゃ、この小っさいのは? 噂に聞く、妖精というものか?」
『エミルちゃんを小っさいって言うな――ッ! あんただって人のこと言えないじゃないのよ、このちんちくりん!』
「ち、ちんちくりんとは何じゃ! これでも育っておるわ!」
ぎゃーぎゃーと俺を挟んでケンカし始めるエミルとクリシュナに、頭を抱える。
グリフォンから降りて水分補給しているアシュリーと顔を見合わせ、思わず苦笑した。
そうこうしているうちに、パックドファルコンの鳴き声が聞こえる。
全員が振り返ると、空の彼方に巨大な翼長が三体見えた。
クリムゾンガルーダ? にしては、羽毛の膨らみが見えないような……
「報告、丘の正面より三体接近、あれは――野生の飛竜です!」
「何と!? この辺りに生息しておったのか!?」
飛竜、ワイバーンか!
連絡手段に飛竜便が使われるって言ってたしな、やはりこの世界にはいるのか。
ドラゴンほどじゃないが、デカいな、しかし。
「エミル!」
『アイアイ、マスター!』
呼び声に応え、魔術砲身が展開する。
周囲の人間が呆気にとられる中、エミルがスコープで照準を補足した。
「エミル、攻撃魔術以外も撃ち出せるか?」
『可能です、マスター』
なら、今使うのは攻撃魔術じゃない。
使うのは、
「行くぞ、エミル! ――『鑑定』!」
『シュート!』
見えない砲弾が、撃ち放たれる反動があった。
エミルのテキストに書かれているのは『呪文カード』の射程の限界が無くなる、だ。
予想は当たり、ややおいてワイバーンの情報が手に入る。
『グリードワイバーン』
3/5
『飛行』
『甲殻1』・1点以下の攻撃を無効化する。
『甲殻』を持ってんのか、ブレスは無いけど、プチドラゴンって感じだな。
さすが飛竜。
「ワイバーンには並の弓矢は効かぬ。ノアレックの魔術でも、三体は難しかろう。撤退するか、アスタル?」
「そうですね、僕の矢だと通りますが、三体相手だと少し厳しい」
うろたえながら、クリシュナとアスタルさんが相談している。
顔の横で、エミルが進言してきた。
『ワイバーンを一撃で倒せる火力は手持ちにありません。距離がある内に、狙撃して数を減らすことを進言します、マスター』
空中のノアレックさんも、一人で相手するのは分が悪いと見たんだろう、グリフォンを引き返させている。
そうこうしているうちに、ワイバーンたちが迫ってくる。
改めて見ると大きいな、やっぱり。
「こ、コタロー! 何をぼぅっとしておるのじゃ、逃げるぞ、早く!」
「心配ねぇよ、クリシュナ」
慌てる必要は無い。
体力切れのアシュリーのリトルグリフォンをカードに戻す。
お前が、逃げる理由は無い。
夢を叶えると、この少女はそう言った。
なら――
小さな子どもの夢一つ!
「叶えられなきゃ、『伝説』だなんて言えねぇだろ! なぁ、そうだろ――『流星の聖弓、グラナダイン』ッ!!」
「待ちわびたぞ、主よ!」
呼び声とともに光が放たれ、古きエルフの弓聖が、天へと向けて一矢を放つ!
矢の吸い込まれた蒼天から、天を舞うものを地に伏せる、光の矢が降り注いだ。
「ギョアァァァァ――――ッ!!」
三つの悲鳴が響き渡り、三体の大きなワイバーンは地に縫い止められた。
「地上部隊、頼むぜ! 狩りの時間だ!」
その声に応え、冒険者や兵士たちが、おのおのの武器を手に持ち、雄叫びを上げた。
グラナダインの弓術を初めて目にし、呆然とするクリシュナを振り返り、俺は笑う。
「――な? 心配いらないだろ?」




