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護衛対象、「辺境の発展」



 飛び立ったグライダーに、飛行型モンスターが迫る。

 街道に出てきたものよりもずっと大きい、大型飛行魔獣だ。


 だが、心配はいらない。


 リトルグリフォンに騎乗したアシュリーが迫り来るモンスター、クリムゾンガルーダに狙いをつける。

 引き絞られた矢が流星のように一瞬の軌跡を残し、巨大なガルーダの胴体を貫いたかと思った瞬間。その巨体が高度を失い、地面に墜落した。


「今だ! 地上部隊、討ち取ってくれ!」


 俺の声に、地上で護衛していた兵士や冒険者たちが墜落した巨体にとどめを刺すべく向かっていく。


 ――この装備品の射撃でダメージを受けた対象は、『飛行』を失う。


 狙撃した飛行モンスターを地上に墜とす装備品『流星弓、グラナート』の特殊効果だ。

 アシュリーの脅威の命中率をもってすれば、グラナダインの能力に負けない、いや分割して連発できる分だけ強力な飛行阻害効果となる。


「しとめたぞ!」


 クリムゾンガルーダの断末魔の声が響く。

 地上にあってなお攻撃力3の二回攻撃という強力な化け物だったが、矢傷で手負いの上、熟練の冒険者たちの総攻撃がその息の根を止めた。


 このやり方だとカード化できないが、仕方ない。

 優先順位は実験の成功と、モンスターの殲滅だ。機会は一度ではないし、今は考えてる場合じゃない。


 そうこうしているうちに、索敵のパックドファルコンが二体とも高く鳴いた。


「――来る!」

「報告! 右手から二体、左手からも一体大型飛行モンスターが接近!」


 すかさず『鑑定』を連発する。



『メガロドレイク』

4/2

 『飛行』『敏捷』



『ラージグリフォン』

4/4

 『飛行』



 出やがったか、成体のグリフォン!

 同時に二匹現れた恐鳥も『敏捷』持ちだ。流星弓が当たれば一撃で墜とせるが、動きが速いのが厄介だ。


「うちもおるけんね!」


 メガロドレイク二匹の群れに、ノアレックさんが嬉々として急行する。

 リトルグリフォンの背から放つのは、風の魔術――


「『ゲイルスラッシュ』!」

「キュアァァァッ!」


 すれ違いざまに放たれた二つの刃、最大二体を同時に対象に取れる『ゲイルスラッシュ』がメガロドレイクを二匹とも撃ち落とす。


 一方で、現れた成体のグリフォンには、アシュリーの流星弓がヒットした。


「どけどけどっけぇぇぇぇぇ! それは、私の獲物だァ――――ッ!」


 叫びながら突進したのは、ナトレイアだ。

 俺の召喚した『鋼の剣』を手に、グリフォンの墜落予想地点に猛スピードで走り寄り、その勢いに土煙を上げながら鬼の形相で剣を構えた。


「この手で! この剣でッ、叩き斬るッ!」


 『精霊の一撃』が、落下してくるラージグリフォンを両断した。


 召喚物がとどめを刺したことにより俺の手に光が集まり、カードが現れる。



『ラージグリフォン』

4:4/4

 『飛行』



「ナトレイア!? お前は俺の護衛だろ!?」

「コタロー! どうだった、どうだったのだ!?」


 興奮しながら俺に駆け寄ってくるナトレイア。

 魔力不足で喚べません、と小声で告げると、彼女は両手を地に着き、がっくりとヒザからくずおれた。


 そんなにグリフォンに乗って戦いたかったんかい。

 気持ちは買うけど、ポジション放棄すんなよ、危ねぇ。


 でもカードが手に入ったのはファインプレイかな。そのうち喚び出してやる。


「コタロー! グリフォンをもう一体喚べる!?」


 そうこうしているうち、上空からアシュリーの声が聞こえた。

 滑空し、地上に降り立つアシュリーのグリフォン。着地する勢いそのままにアシュリーはこちらに向かって走ってくるが、グリフォンはその場にうずくまってうなだれてしまう。


 リトルグリフォンの体力切れか!

 子どものグリフォンじゃ、人間を乗せて戦うのはやはり無理があるらしい。


「わかった、あと少しだけ待ってくれ! すぐに喚び直す!」


 『鑑定』を二連発で使って、微妙に魔力が回復しきってない。

 召喚し直すとHPがリセットされる、体力も同様だから、この状況だとマメに召喚し直さないといけない。

 疲れ果ててへばっているリトルグリフォンをカードに戻す。


 上空のノアレックさんたちの様子を見ると、そちらはまだ大丈夫そうだった。

 アシュリーのグリフォンは身につけた装備の重さもあるし、標的を絞る分他の個体より動き回ってたからだろうな。


 パックドファルコンの鳴き声が、何度も響く。


「召喚、『リトルグリフォン』! アシュリー、行けるか!?」

「――ぷはっ、どんと来なさいってのよ!」


 わずかな間に水分補給をしていたアシュリーが、口元を拭いながら再召喚されたグリフォンに飛び乗る。


 この戦いは一体倒せば終わりじゃない。

 モンスターが、人工の飛行物を襲うことを恐れて近寄らなくなるまで相手を狩り尽くす、マラソンレースだ。


「画期的に思えたグリフォンの騎乗だけど、長く背に乗せて戦うのは無理なんだね」


「まだ子どもですからね、成体なら別なんでしょうけど。そもそも、野生のモンスターは普段は背に生き物乗せて生きてなんてないわけで、訓練不足もありますよ」


 アスタルさんの感想に、当たり前と言えば当たり前のことを返す。


 軍馬や荷駄とは違うんだ。背に何も乗せないで動くことに最適化されてる野生の生物に乗って、長時間素早く動き回るなんて、訓練なしじゃ無理がある。


飛行器具(グライダー)が飛び続けてくれてるのが救いだけどね。コタローくん、あれは、どれだけの間飛び続けられる?」


「風に乗って滑ってるだけですからね。風が適度に吹き続けて、それに乗り続けてられる間はいくらでも飛べますよ」


 俺がそう答えると、アスタルさんは「ふむ……」と考え込むように口元を手で覆う。


「そうか、動力で飛んでるわけじゃないから……なら、問題は、襲われる早さに討伐する速度が追いつくかどうか、か……」


「アスタル隊長、続々と寄ってきます!」


 後続のモンスターが襲ってくる。彼方の空にも、各方向に敵影が見えた。


 まずいな、敵が遠いし散らばりすぎてる。


 まとめて叩き落としても、地上部隊がとどめを刺しに行けない距離だと、再召喚でカードに戻したときに『飛行』が復活しちまう。

 落とし直すときに対象から漏れたら終わりで、ちょっとリスクがある。


「モンスターをしとめればしとめるほど、その血肉を狙って他のモンスターが集まってくる。まだまだ続くよ、コタローくん。きみは護衛のグリフォンの交換に備えてて」


「……はい!」


 アシュリーやノアレックさん、地上弓兵の護衛たちに任せるしかないのか。


 グリフォン組だけでなく、アスタルさんたち弓兵隊の弓も飛来するモンスターを墜としていく。


 どこにこんなに潜んでいたのかと思うほど、飛行モンスターの死体が積み重なっていく。

 まるで、山中の飛行モンスターが集まってきてるかのようだ。


 その肉を求めて地上モンスターも増えてきた。

 増え続ける敵に、次第に護衛の手が回らなくなってくる。


「コタローはん! 新しいグリフォン頼むわ!」


 ノアレックさんのグリフォンが、体力切れで地上に降りてくる。

 空中にはまだ敵影があり、アシュリーが流星弓で狙いを定めていた。


「わかった、ノアレックさん! 今喚び出す――」


「うわぁぁぁ――ッ!」


 その瞬間、空から悲鳴が聞こえた。

 グライダーに乗っていた魔術兵だ。

 見上げると、巨大な鷹がグライダーに迫っていた。


 ザッパーホーク!

 『奇襲』持ちの、補足されにくい飛行モンスターか!


「ふ、ふ――『フレイムボルト』ッ!」


 魔術兵が炎の魔術を放つと、グライダーに襲いかかったザッパーホークは悲鳴を上げて怯み、空中で減速する。


 その隙を見逃すアシュリーじゃない。寸分違わず、空中で止まったザッパーホークを流星弓の矢が射貫く。


「や、やったッ!」


 魔術兵の機転に、地上で喜ぶクリシュナ。

 けれど、その油断が致命的な隙になった。


 墜ちるザッパーホークの影から、もう一つの影が飛び出したのだ。



『ザッパーホーク』

3/3

 『飛行』

 『奇襲』・このモンスターは、攻撃するまで高確率で補足されない。



 ――二体いたのか!


 それはつがいか群れだったのか、『奇襲』で地上部隊の攻撃を逃れたもう一体のザッパーホークが、グライダーに向けて鋭い猛禽の爪を振るう。


「そ――そんなッ!?」


 一転して、悲壮なクリシュナの悲鳴が聞こえた。

 兵士や冒険者たちの中からも、同時に嘆きの声が漏れ聞こえた。


 まるで、時間が止まったかのような空白があった。


 そのくらい、誰もが目の前の光景を信じられなかった。

 信じたくなかった。



 モンスターの爪に翼膜を引き裂かれ、グライダーは空中から地面に墜落した。








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