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未確認飛行物ロマンス



 人里から離れた山間の丘に、人間が集団でいることで数体の大型魔獣が様子をうかがいに近寄ってくる。

 中には襲いかかってくる気の短い個体もいて、護衛の兵士や冒険者と戦闘になっていた。戦力的には、歩行モンスターは撃退できるな。加勢は必要なさそうだ。


 展開してる戦力は、護衛の領主軍百名と、冒険者二十人。

 領主軍百人のうち十人は荷運びや器具設営の後方支援部隊だから、百十人が護衛か。

 冒険者が少なく見えるが、いずれも腕利きが揃っている。むしろ、大規模依頼じゃないのにこれだけ集まったのは、頭数が多い方だそうだ。


「募集をかけたら興味持つ連中がえらいおってねぇ。人が飛行モンスターの襲ってくる中で空を飛ぼう言うんやけん、ぜひ立ち会いたいって、熟練組が格安で志願してくれたんよ」


 とはノアレックさんの言。

 たとえ召喚術士でもおいそれと空を飛べないこの世界じゃ、やはり『飛ぶ』ということに興味を示す連中は一定数いたんだろう。

 俺たちだって、その中に入ってる。


 俺の召喚枠は、流星弓とナトレイアの剣で二枠。警戒用のデルムッドで一枠。

 緊急枠を一つ空けて、リトルグリフォンを三体と索敵用に足の速いパックドファルコンを二体喚んでいる。


「あの器具が空を飛べば、飛行モンスターも寄ってくる。コタローくん、最初はきみは戦わずに、きみのスキルでモンスターの戦力を数値化してくれないか。その数値を元に戦力を割り振って指揮する」


「寡兵ですしね。わかりました、アスタルさん」


「きみの相棒も良い弓を見つけたみたいだけどね。僕にもこの、名匠イクトラの作った剛弓があるからね。飛行モンスター相手でも、遅れは取らないよ」


 そう言ってアスタルさんは弓を掲げ、ニッと笑う。


 お言葉に甘えて、俺は戦況分析だ。

 何しろここは山の中、モンスターの巣だ。街道に出てきたモンスターよりも一回り以上でかい奴らがうじゃうじゃ寄ってくるとのこと。


 気合い入れてかかんねぇとな。




 先発の冒険者勢が集まってくるモンスターを捌いている。

 獣型の魔獣はこちらを警戒したのか一度離れ、ゴブリンやオークなどの人を狙うモンスターが数体襲いかかってきていたが、冒険者と陣形を組んだ兵士の前に倒れていた。


 時間が経てば立つほど、モンスターの死骸をエサにする大群が集まってくる。

 そんなプレッシャーの中で、ウォルケス親方たち職人組は必死に、若い兵士にグライダーの操縦法を伝授していた。


 覚悟を決めた魔術兵がグライダーの器具を装着する。


「――飛びます! 全兵、滑走路を切り拓きなさい!」


 アスタルさんの号令に応えて、冒険者と兵士たちが前方にいるモンスターたちを駆逐していく。

 人の壁が領土を広げるように安全圏を展開していき、充分な広さの無人地帯が確保された。


 若い魔術兵が、グライダーのハンドルバーを握って草原の丘を駆け出した。


「ナスル魔術兵、行きますッ!」

 

「頼んだぞ、若造ッ!」

「行くのじゃ、辺境軍の名にかけて!」


 ウォルケス親方やクリシュナの声に背を押され、魔術兵が走る。

 その背中に接続され、大きく広がった三角形の帆布が風を受け、張力を押しのけてわずかに膨らんだ。


「行きやい!」

「行けッ!」


「――飛べッ!!」


 周囲の声が飛び交う中、魔術兵の足が大地を離れる。

 ふわり、と。


 風を受ける巨大な人工の翼が、人の身体を空に運んだ。


「うおぉぉおお――――ッ!!」

「飛んでる! 本当に飛んでるぞ!」

「人がッ、魔術なしで空を飛んでやがるッ!」


 護衛の冒険者たちから大きな歓声が上がる。

 悠々と、それでいて確かに。

 ナスルと名乗った若い少年兵の小柄な身体は、ハンググライダーという人が造った翼によって、大空へと飛び立った。


 その姿に、誰もが見入っていた。

 誰もが、空を見上げていた。


 泳ぐように悠然と、堂々と空を舞うその器具が太陽の光を受けて輝く様に、誰もが感慨を抱かずにいられなかった。



 人が、魔術では無い――「技術(アーティファクト)」で空を飛んだ、歴史的瞬間だ。



「のんびり感動してられる状況じゃねぇぞ! アシュリー! ノアレックさん! 準備してくれ、護衛のグリフォンたちを飛ばす!」


 俺の声に、呆けて空を見ていたアシュリーとノアレックさんが我に返る。

 護衛のグリフォンは三頭。

 アシュリーと、ノアレックさん。それにギルドから依頼を受けてくれた攻撃魔術士の女の子が一人、乗り込んで遠距離攻撃で護衛する。


 三人はあらかじめ準備を終え、急いでグリフォンに乗り込んだ。


 リトルグリフォンたちを先に空に飛ばして空路を確保しなかった理由は簡単だ。


 しなかったんじゃない、できなかった。


 この丘に出てくる飛行モンスターのサイズを考えると、グリフォンの子どもでさえ、『エサにされかねない』からだ。


 大人のグリフォンが平気でのさばっているような場所じゃ、リトルグリフォンやデトネイトイーグルたちは充分な護衛戦力とは言いがたい。


 騎乗してる弓士や魔術士の攻撃、そして地上からの援護が頼りだ。


「行くでぇ、みんなぁッ!」

「よ、よろしくお願いしますっ!」

「行ってくるわ、コタロー!」


「アシュリー!」

 弓を背負ってグリフォンの背のたてがみを掴むアシュリーに、俺は声をかけた。

 アシュリーがこちらを向く。


「――頼んだ!」

「任せなさい!」


「大暴れの時間よ、腕の見せ所やけんねッ!」


 ノアレックさんの号令の元、三体のグリフォンが護衛を乗せて飛び立った。


 風に乗って滑るように高空を舞うグライダーに追いつき、その進路を阻害しないように三体が護衛配置につく。


 索敵用に周囲を旋回していたパックドファルコンが、甲高い鳴き声を上げた。


「アスタルさん!」


「弓兵隊、総員準備! 飛行モンスターに見つかった、ここからが正念場だぞ!」


 大空の彼方から迫る巨影。

 加速できず滑空する大型のグライダーを適度な獲物だと捉える、大型飛行モンスター。

 その最初の一体だ。


「コタローくん、分析ッ!」


「はい!」


 その姿が視界に入ると同時、『鑑定』をかける。



『クリムゾンガルーダ』

3/4

 『飛行』

 『高速連撃2』・一度の攻撃時間で2回攻撃できる。



 二回攻撃の大型飛行モンスター。俺が召喚できるレベルの飛行モンスターとは比較にならない重量級だ。

 だが、ドラゴンに比べりゃまだ戦える!


「全兵、行くぞ! 構えッ!」


 俺からの報告を受けたアスタルさんが弓兵たちに指示を出す。


 ドラゴン戦と違うのは、敵はこの一体だけじゃ無い。

 この一匹は皮切りだ。ここから、この周辺のモンスターが次々と押し寄せてくる。


 今まで、この辺境の空を支配していた、獰猛な飛行魔獣たちが。


 敵が不特定多数な以上、戦いの鍵はグラナダインじゃない。

 装備品の『流星弓』だ。



 ――頼んだぜ、アシュリー!









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