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異世界人との第三種接近遭遇



 デルムッドの案内どおりに森を歩くと、傾斜をさらさらと流れる小川があった。

 水量はかなり豊富で、水質も澄んでいる。


 数時間ほど森の中を歩いていて、今にも飛びつきたいほどのどが渇いていたけれど、すぐに水を飲むのはためらわれた。

 なんせ天然水とはいえ生水だ。

 天然水にはいくつか性質があり、山中などで砂や土にろ過された飲める湧き水もあれば、バクテリアや細菌が繁殖して飲むと腹を壊す水もある。

 流れているからマシとはいえ、自然の水をそのまま飲むのはリスクが大きい。


 そんな風に俺がためらっていると、デルムッドが水流に近寄り、口をつけてごくごくと飲み始めた。

 ゴブリンズもサラマンダーを抱えて駆け寄り、手で水をすくって浴びるように飲んでいる。

 デルムッドが俺を振り返り、わふ、と促すように吼えた。


 人間も飲める水だってことかな?


 俺は恐る恐る小川に近寄り、洗った手で水をすくって口をつけた。

 美味い。

 すくった清水はひんやりと気持ちよく、渇いた身体に染み込むようだった。

 俺はリスクなんて頭から吹き飛び、夢中で水分を補給した。


 まさか、ただの水がこんなに美味いなんて。

 水と安全はタダ、なんてうそぶかれてた日本じゃ考えられない気分だ。

 俺、本当に異世界に来ちまったんだなぁ。


 そんなことを考えていると、プチサラマンダーがちょこりと俺を見上げていた。

 俺の腰に縛って吊るしてある、血抜きしたウサギと俺を交互に見比べているようだ。

 たぶん「焼く? 焼く?」と聞いてるんだろう。


 そうだな。

 水場のそばなら火を使うのも怖くないし、そろそろ腹ごしらえもしておくか。


 ゴブリンたちと一緒に、焚き木になりそうな乾いた枝を拾い集め、川のそばで焚き火をする。鹿の角で不恰好に解体して枝に刺したウサギ肉を火の回りに並べて、焼けるのを待った。

 塩が欲しいけど、無いものねだりをしても仕方ないな。


 水場を確保して、喫緊(きっきん)の問題が片付くと、肉が焼ける間、今度は現状に思いを馳せるようになる。

 なんで異世界なんかに来ちまったんだろうか。

 それは、車に轢かれて死ぬよりは良かったのかもしれないけど。

 でも、帰りたいと思う。日本に。


 会いたいなぁ。会いたいよ。

 かねやん、時田、シノさん、倉科さん、飯山店長……

 楽しい時間を一緒にすごした、昔の仲間たちに、もう一度会いたい。


 そのためには、何としてでも日本に帰る手段を探さなくちゃ。

 レベルが上がったら、日本に帰れるスペルカードでも手に入ったりしないかな?


 そもそも、このカード召喚って能力は、いったい何なんだろうな?

 これは、本当にこの世界の仕組み(まほう)なのか?


 答えの出ない自問にふけっていると、近くの茂みから音がした。


 最初に反応したのはデルムッドだった。すぐに顔を上げ、音のした方を振り返る。

 ゴブリンズとサラマンダーも、次いで立ち上がって警戒した。

 俺はその後ろで、緊張した面持ちで、すぐに移動できるように腰を浮かせる。


 距離の離れた茂みから現れたのは、何と――


「ひ、人……?」


「……あなた、何者?」


 女の子だった。

 栗色の短い髪に、勝気そうな大きなとび色の瞳。日本だと、女子高生くらいか。

 肌の出ない服の上に革らしき胸当てや肩当をつけ、弓を背負っている。手には小さな短剣を持っているが、こちらに向けて構えようとはしておらず、武器なしで焚き火をしている俺と、俺を取り囲むゴブリンたちの姿に困惑しているようだった。


「人がゴブリンに捕らわれているのかと思って様子を見てたけど……どういうこと? どうして、そのゴブリンたちはあなたの言うことを聞いてるの?」


「もしかして、こいつらから、俺を助けようとしてくれたのか?」


「ええ。その必要は無かったのかしら」


 女の子は手にしたダガーを構える。

 戦闘の気配に、デルムッドやゴブリンたちが牙を剥いて威嚇したが、俺はそれを手で制して、女の子に話しかけた。


「ありがとう。このゴブリンたちは俺が召喚してるんだ、俺の言うことを聞く。野生と違って人を襲うことはないから、武器を下ろしてくれないか? きみと話がしたい」


「召喚? あなた、召喚術士?」


 この世界じゃ、召喚術士は普通の職業なのかな?

 ステータスにもそう記述してあったし、名乗っても問題ないだろう。


「そうだよ、俺はコタロー、召喚術士だ。森の中で迷って、困ってたところなんだ」


「えっと……召喚術士って、同時に一体しか呼び出せないんじゃなかったかしら? それに、森の中でゴブリンなんて弱い魔物を呼び出してるし……」


 うん? なんか、信ぴょう性に疑問を持たれてる様子。

 魔力がもったいないけど、俺は仕方なく、ゴブリンの一体をカードに戻した。

 すぐに呼び出しなおすと、ゴブリンは元気に「グギャ!」とポーズを決めている。

 相変わらず緊張感のない仕草をするなぁ、こいつら。


 その様子に、お互いに毒気が抜かれた気がした。

 緊張していた空気がほんの少し、緩む。


「……とまぁ、こんな感じで呼び出してる。こいつらが狩ったウサギ肉を焼いてるから、良かったら一緒にどうだい? もし塩とか持ってたら、わけてもらえると嬉しいんだけど」


 戦隊物の特撮のように三体集まって、ビシリとドヤ顔でポーズを取るゴブリンズに、彼女も警戒しているのがばかばかしくなったようだ。

 だからお前ら、どこでそんなポーズ覚えた?


 ひとまず、焚き火と肉を囲んで、彼女と話をすることになった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み途中だが、将来性が見える。 [気になる点] もう少しチートの匂いを漂わせて欲しい。 [一言] まだ6話目!期待を込めて星4つ!
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