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モンスターよ、ここに宣戦布告する!



 翌日、親方が組み直した模型カイトを持って、街道へと出直した。

 場所は風の吹き抜ける、街道そばの大草原。

 森が近いと墜落したとき木に引っかかるからね。


「親方、それが新しい模型ですか。よく一日で組めましたね」


「うむ? 上下左右の重さを合わせて、風を逃がさずに受けることで舞い上がる、と聞いたからの。木工細工も覚えはあるし、重心を真ん中に合わせて組むくらいは簡単じゃ。複雑な形の部品は無いからの」


 ウォルケス親方が自慢げに、大きなカイトを準備する。

 結びつけられているのは、森に住むグランドスパイダーの糸。タコ糸代わりですね、わかります。


「で、なんで私が揚げるのだ?」


 口をへの字に曲げて抗議するナトレイア。

 風にカイト持ってかれても困るから、とりあえず腕力のある奴に揚げてもらおうという人選だ。


「まぁ、構わんが……」

「それに、こういうの好きだろ?」

「まぁな。嫌いではない」


 ナトレイアって、結構こういうアウトドアな趣味好きそうなんだよな。

 グリフォンにも乗りたがったし。


 前回というか昨日はウォルケス親方が揚げたらしいが、そこは長身エルフとドワーフの体格差。歩幅の違いで、ナトレイアが走り出すとあっさりカイトが揚がる。


「おー、揚がった揚がった」

「へー。結構綺麗に昇っていくのねぇ」

「やっぱ上の方が風吹いとるっちゃね。見る見る上に行っとるばい」


 アシュリーやノアレックさんと一緒に、揚がるカイトを見上げる。

 カイト模型は張られた布に風を受けて、糸の伸びるままにぐんぐんと高度を増していく。

 なお、ナトレイアには適当なところで、手元の糸巻きを握って高度を止めてもらうように伝えてある。


 カイト実験は成功だね。

 昨日も成功したらしいし、作ったことない細工を一発で作れるのは、さすがドワーフだなウォルケス親方。素直にすげぇ。


 ナトレイアが糸巻きを親方に渡している横で、ぽつりと物憂げなつぶやきが聞こえる。


「まだじゃ。ここまでは、昨日も成功した。ここからじゃ……」

「森の方が騒がしくなっとるねぇ」


 ノアレックさんが、狐耳をピコピコ揺らしながら眼鏡を光らせる。

 四本の大きな尻尾もふわりと持ち上がり、臨戦態勢だ。


 飛行モンスターに見つかったか。


「地上から狙えるなら、地上からしとめたいけどね……あの模型の飛んでる高さだと、それを狙うモンスターには矢が届かないわ」 

「んじゃ、グリフォン喚ぶか。アシュリー頼んだ。ノアレックさんの分は、ちょっと時間くれ。――ナトレイアは、糸巻きを親方に渡したから、俺とクリシュナの護衛頼むな」

「任された」


 役割を割り振り、リトルグリフォンを召喚する。

 草原のモンスターを刺激するのは得策ではないので、喚ぶタイミングを計っていたのだ。

 目的は「グリフォンの獲物だから近づかない」と思わせることじゃなく、「飛行物を狙うと人間に倒されるから近寄らない」とモンスターに覚えさせることだからな。


 流星弓を携えたアシュリーがグリフォンにまたがり、準備は万端。

 馬具もない不安定な背の上だが、アシュリーの技量と召喚されたグリフォンの気配り頼りだ。


「来よったよ」


 やや置いて、騒がしくなった森の方から、二羽の大きな影がこちらに向かってやってくる。両方ともデトネイトイーグルかな。


「行ってくるわ、コタロー!」

「キュピェ!」


 背中に掴まったアシュリーを乗せて、グリフォンが飛び立つ。

 高空のカイト模型に迫ろうとするデトネイトイーグルたち。

 グリフォンは、獲物目がけて大きく螺旋を描くように上昇し、アシュリーを大空へと運んだ。


「どいたどいた! これをエサと狙う奴は、餓えようが乾こうが容赦しないわ! 一羽残らず、撃ち落とす!」


 口上も声高に、アシュリーが流星弓でモンスターを射貫く。

 放たれた二条の矢に、デトネイトイーグルたちは模型に近づく間もなく貫かれた。


「おー、アシュリーの声、よく通るなぁ」

「ああして口上叫んどかんと、人間に撃ち落とされたってモンスターは理解せんけんね。グリフォンに倒されたと勘違いされたら、やっとる意味自体無くなるけん」


 宣戦布告みたいなもんだな。

 モンスター相手にどこまで通じるかって思いそうだけど、ああして人間が倒したって主張しとかないと、俺がいなくなってグリフォンが同行しなくなったら途端に襲われました、なんて事態になりかねないからな。

 ちゃんと周りに声出してかないと。歌舞伎みたいなもんだ。


「見世物としても迫力があるのぅ。貴族辺りを同行させたら金が取れそうじゃな」

「アランさんとか喜びそうだよね、こういうの」


 感心したように見上げるクリシュナのつぶやきに、同意する。

 弓使いの上級騎士、アスタルさんとかも参加したがりそうだなぁ。

 でも筋肉付いてる上に武装までしてる男性兵士は重いから、たぶんグリフォンが乗せて飛べないんだよな。見るだけで我慢してくれ。


「もう少し来よるね。コタローはん、ウチも行けるか?」

「あいよ、もう一匹喚ぶわ」


 アシュリーの口上に、騒がしくなり出した森の木々が揺れている。

 魔力が回復するのを待って、もう一匹リトルグリフォンを喚び出すと、ノアレックさんが間髪入れずにその背にまたがった。


「さぁーて! ウチもいっちゃるけんね、よぅ見ときぃね! ――出陣ッ!」


 飛来してくる四体の中型鳥モンスターに向けて、ノアレックさんが飛び立つ。

 あのモンスター見たことないな。どんなモンスターだろ?


 って、あああ、しまった! ノアレックさんがしとめたらカード化できないじゃん!


「あーっはっはっは! 近寄るもんはなますに切り刻んじゃるけんね! 心してかかってこんね! ――『ゲイルスラッシュ』!」


 ノアレックさんの風魔術で、鳥モンスターが撃ち落とされていく。

 と、俺の手元に光が集まった。



『ゲイルスラッシュ』

2:最大二体を対象とする。それぞれの対象に2点の風の射撃を行う。



 おお、モンスターはカード化できなかったけど、ノアレックさんの魔術をコピーできた。とりあえず収穫があったから良しとするか。

 モンスターの方は、そのうちアシュリーに撃ち落としてもらおう。


 空中のノアレックさんは、ノリノリで鳥モンスターを二体ずつ撃ち落としていく。

 楽しそうだな。


 やがて、追加のモンスターがおびき寄せられたりもしたけれど、とりあえず耐久実験を終えて、アシュリーとノアレックさんたちのグリフォンも一時帰投することになった。


「あー、恥ずかしい。あの口上、やっぱ言わなきゃダメ?」

「なんね、ウチはめっちゃ楽しかったばい! なんなら休んどくね? ウチがもっと狩っちゃるけん!」


 帰ってきてげんなりしているアシュリーと、はしゃいでいるノアレックさん。

 なんかアシュリーが精神にダメージ食らってるけど、きみにはカード化という重要なお仕事があるのだよ。


「ありがとう。ばんばん口上叫んで撃ち落としてくれ、アシュリー。――俺のために」

「あんたの額に流星弓撃つわよ、コタロー」


 暴力反対。


「とりあえず、この仕組みで飛ぶことはわかったの。後は、大型化したときに人を乗せられるか、かのぅ」

「重りを乗せてみましょう。どれだけの重さを持ち上げられるか、試さねば」


 クリシュナとウォルケス親方が、次の段階を話し合っている。

 模型に取り付ける重りの量を増やしつつ、何回か飛ばすようだ。

 弩弓――クロスボウなんかの装備も取り付けたいって言ってたからな。上手くいくといいんだけど。


「アシュリー、召喚枠余ってるんだけどよ。ゴブリンに弓持たせてグリフォンに乗せるのと、デトネイトイーグル喚び出すの、応援はどっちが良い?」


「デトネイトイーグルの方が、小回りきいて獲物を足止めしやすいかしら。でも、あたしたち二人で何とかなりそうよ?」


「そっか。一応、見張りも兼ねて喚び出しておくか」


 索敵のノアレックさんが出陣しちゃうので、周囲索敵用のデトネイトイーグルを数体喚び出して警戒に当たらせる。


 そんなこんなで、初日の実験はつつがなく進んでいった。









書きため分が尽きたので、これからは2~3日に一度の更新になると思います。

すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 3割目の63行目の 「どいたどいた! これをエサと狙う奴は、餓えようが乾こうが容赦しないわ! 一羽残らず、撃ち落とす!」 渇くです。
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