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大戦略会議



 街の手前でグリフォンから降り、徒歩で街門へ。

 クリシュナの護衛を待たねばならないので衛兵詰め所でしばらく待たせてもらった後、無事に合流して領都の中へと戻った。


 そして場所は冒険者ギルドである。

 応接室らしき広い部屋に、クリシュナと俺たちパーティ、ノアレックさん、ウォルケス親方が一つのテーブルに集まって会議開始である。


「つまりは、鳥じゃ」

「鳥かー」


 クリシュナの発言に、俺は思わずオウム返しにつぶやく。

 地球でも航空機などの飛行物は、飛んでる鳥に追突したりエンジンに巻き込んだりする、いわゆる「バードストライク」という事故がたびたびある。

 が、ここは異世界。

 ぶつかるとか巻き込むとかじゃなく、襲ってくるのだ。

 それも、ハンググライダーサイズの巨鳥やモンスターが、うじゃうじゃと。


「飛行中の安全を確保せんと、実験どころやなかですけんねぇ」

「故に、冒険者ギルドに実験中の護衛を頼みたいということじゃ」

「良かですよ? 高ぅつきますばってん」


 巨乳狐耳ギルマス、ノアレックさんの眼鏡がキラリと輝く。

 税金使う公共事業だと思って搾り取る気だな、このお稲荷様。


「実験中だけで良いのか、クリシュナ嬢。本番で人が飛ぶとなれば、襲われて空から落ちたら、ケガをする程度では済まないぞ」


「その辺りは、魔術士を乗せるなり、弩弓などの攻撃手段を設置するしかあるまいて。大きな飛行器具に掴まってでは、通常の弓も剣も使えんでな」


 ナトレイアの意見に、眉尻を落としながら答えるクリシュナ。

 俺も、気になったことを尋ねてみた。


「そもそもの話なんだけどよ。なんで、あんな巨大な鳥型モンスターが領都に入り込まないんだ? 空からだと、街中を襲い放題だろ」


「そのための街壁やけんねぇ。迂闊に飛んでくるモンスターは見張りに射かけられるぅけん、よう近づいてこようとせんよ。巣からも遠いやろうし、街の人間捕まえて外に飛び立とうとしても、飛ぶ速さが落ちるけん、衛兵の良い的やね。割に合わんっちゃろ」


 モンスターもそれはわかってるってことか。

 街道に近づいてこない草食モンスターと言い、この世界のモンスターは地味に学習能力高いな。いろいろな点で、割と賢い。


「なら、解決案は一応出てるわね。その、ぐらいだー? に近づくモンスターを根気よく全滅させて、近づいちゃいけないもの、って覚えさせれば良いんじゃない?」


「簡単に言うがの、お嬢ちゃん。飛んでいるモンスターは、地上のものより遙かに強い。覚え込ませるほど確実に殲滅するには、どれだけの人手がいることか……」


 難しそうに渋るウォルケス親方。

 基本的には、アシュリーの案で解決しそうな気もするな。

 ちょっと期間が必要だろうけど。


 グライダーの開発と実装にかかる期間を思えば、ちょうどいいくらいか。

 その間近づくモンスターは見敵必殺して、「人間の乗ってる飛行物は手を出すと危ない」って覚え込ませるか。


「アシュリーがグリフォンに乗って片っ端から撃ち落とすのが、一番まともか?」

「そうね。空を移動できれば、矢が届かないってことも無いだろうし」


 その提案を受けて、ナトレイアが身を乗り出す。


「ならば、私がグリフォンに騎乗して、襲い来るもの全てを斬り伏せよう!」


「無茶言うなよ、ナトレイア。重たい装備抱えて飛んで近づいて、とか子どものグリフォンにできるわけないだろ。お前ら乗せて街まで帰ってくるのだって大変そうだったじゃねぇか」


 幼いだけあって、そんなに力持ちではないリトルグリフォンでは、剣戟の衝撃や、『精霊の一撃』の反動なんかを背中に受けたら墜落しそうだ。


「アシュリーを背中に乗せて弓を撃つくらいが限界だろうな。それでも、たぶん、長い間は飛び続けられない」


「襲われる感覚が短いと、馬みたいにグリフォンを替えなきゃいけなくなるから、コタローはそばにいないとダメね。ナトレイアは、その護衛になるかしら」


 あんまり大量に襲ってきた場合は、グラナダインという最終手段もあるのだが。

 あいつ出すとすごい目立つからな。

 騒ぎになったり、クリシュナにこれ以上目をつけられるのは極力避けたい。


「グラナダインもグリフォンに乗れそうなら、流星弓二人で護衛する手もあるけど?」


「細いから乗れなくもないだろうけど、そうすると、いざというときに再召喚したら、空中からいなくなるぞ。突然撃ち手が一人消える」


「……やめときましょうか。それなら最初から一人でやった方が気が楽だわ。色々と」


 最初から出しておけば、助っ人だ、の一言で済むんだけどなぁ。

 召喚時能力が飛ぶ相手に対して強すぎて、どうしてもそちらを目当てにしてしまう。

 再召喚で突然姿が消えて目の前に現れたら、何が起きたと大騒ぎになるだろうしな。


「何の話なーん?」


「秘密です」


 ノアレックさんがすごいイイ顔で俺たちの密談に首を突っ込んでくるが、これも冒険者の手の内と言うことで黙殺させてもらう。


「というか、コタロー。騎乗できるグリフォンを五体も喚べるなど、なぜ先に言わんのじゃ! 父上や軍の者が知っておったら、街に降ろさずに屋敷に留まらせ続けたぞ!」


 いや、ついさっき喚べるようになったんですよ。

 とは言わないでおく。魔力が上がればドラゴンですら喚び出せるだなんて知られたら、せっかく受けた無害判定が覆されて危険人物認定されてしまう。

 わたしは草。野の草です。そっとしておいて。


「幼いグリフォンだから、重さ的に武装兵は無理なんだよ。軽装兵が飛べれば良いんなら、それこそ今話し合ってるグライダーを完成させれば良いじゃないか」


「むぅ、それはそうじゃが……」


 召喚という個人の技術に頼らずに、誰でも使える器具で飛べるなら、そちらの方が軍備に向いてるだろう。軍用装備には汎用性も重要なのだ。


「というか、一パーティで飛行モンスターを苦もなく対応できるとは、どうなっとるんじゃ、こ奴ら……」


 ウォルケス親方が、呆れ混じりに感嘆している。

 流星弓を持ったアシュリーが頼りになりすぎるのです。


「とりあえず俺らでやってみますよ。足りなかったら、ノアレックさんに任せましょう」

「そうやね。一応、ウチも付き合いましょか。戦力として数えてもらって良かけん、他の冒険者には話せんこともあるっちゃろ?」


 ある程度察してくれて、それでいて直接は聞かないようにしてくれているようだ。

 冒険者ギルドの流儀かな。ありがたい。


 でも戦力的にはどうなんだろ。一度『鑑定』してみるか。



名前:ノアレック

種族:狐獣人

2/3

魔力:7/7

2:『ゲイルスラッシュ』・最大二体を対象とする。それぞれの対象に2点の風の射撃を行う。

5:『トルネードウォール』・広範囲に小型の竜巻を複数発生させる。



 風魔術使い!


 狐獣人だから、狐火みたいな炎の能力を持ってるのかと思ったけど。

 魔力は今まで見た中で一番高いし、二つ目の魔術はかなりの大規模魔術だ。

 表記がシンプルで今までのパターンに即してないけど、効果は大体想像できる。というか、自然現象を広範囲に起こせる魔術って何それ。


 ノアレックさん、ギルマスを務めるだけあって、かなりの実力者なんだな。


「頼りにしてます、ノアレックさん。もしものときはお願いします」

「んんー? もしかして、ウチの手の内もわかるんかなー? ま、その辺はおいおいやね。とりあえず、よろしく!」


 ノアレックさんなら、一部以外軽いからグリフォンにも乗れる。

 空を飛んで護衛できるメンバーが二人いるなら、多少は何とかなるかも。


「なら、わしは新しい模型を組んでみるかの。コツさえ気にかければ、単純な作りじゃからな。明日には代わりを作ろう。それでいいか?」


「頼んだぞ、親方。それと、人を乗せたり弩弓などの武装をつけることも考えて、重りも用意してくれぬか?」


「かしこまった。どの程度の大きさでどのくらいの重さまでなら平気か、比率を出してみんといかんの。重りは複数用意しよう」


 クリシュナと親方の話し合いもまとまり、明日からの方針が決まった。

 この世界では前人未踏の、モンスターや魔術に頼らない有人飛行計画。


 その一歩目が、本格的に動き出した。









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