この鳥なんの鳥、気になる鳥
獲物を探して東へ西へ。
街道から離れて、草原の中を進んでいるのだが、背の高い草が地味にあちこちに生えていて、街道から眺めたときより遙かに見通しが悪い。
下手すると、トリクスの森の中より視界が効かないな、これ。
空から見渡せる飛行アバターが欲しい。
「もうちょっと歩いたら、獲物が一匹潜んどるねー。この移動の早さは、クラッシュガゼルかソニックチーターやろか」
聞いたことのないモンスター名が出てくる。
案内役のノアレックさんが、狐耳をぴこぴこ動かして周囲の気配を探ってくれていた。
狐ってそんなに聴力高かったっけか。
デルムッドの索敵にも引っかかったらしく、草をかきわけたところでデルムッドが飛び出して先行した。
草を抜け出した先にいたのは、メタリックな角を生やしたガゼル。
まずは『鑑定』と。
『クラッシュガゼル』
3/1
『敏捷』
おっと、『敏捷』持ちの攻撃力3か。
ハウンドウルフより強いのは良いな。どうやってしとめるか。
と、見定めている間にアシュリーが流星弓でガゼルを射貫いていた。早い。
カード化されたテキストは、コストが3ということ以外は『鑑定』した通りだ。
ボアオーク戻してこいつを護衛にするか?
いや、でもオークの体格は肉の壁になるしな。このままで行くか。
「おっと、ちょい待たんね。大物の鳥型モンスターば狩りたいとやろ? そのガゼルを回収するんはもったいなかよ?」
ノアレックさんから待ったがかかる。
「撒き餌にするってこと?」
「そーよ。そのまま置いとったら、ここら辺を回っとる肉食の猛禽型モンスターが寄ってくるけん。そのまま放たっとって、茂みの中で待っとった方が良かよ」
肉食の鳥とかをおびき寄せるわけね。
なんでも猛禽型のモンスターは大型のものが多く、飼い慣らす先としても人気が高いそうだ。
たまにワイバーンみたいな野生の飛竜もやってくるとのこと。
意見もまとまって、草の拓けた草原にガゼルを放置することしばし。
血の臭いを嗅ぎ取った肉食獣を二・三匹狩ったりもした後、お待ちかねの巨鳥の姿が彼方の空に見えた。
ていうか何か足が付いてませんか。
四本足ですよね、どう見ても。
いや、頭は猛禽なんだけど。何というか、鳥って言うか、
「――グリフォンじゃねーか!?」
「おお、よー知っとんなぁ、自分。にしても、なかなか大物が釣れたもんやねぇ」
のん気にそんなことを言うノアレックさん。
そして動じずに流星弓で射かけるアシュリー。
装備品の効果で墜ちるグリフォン。
着地点に走り寄り、『精霊の一撃』を発動させるナトレイア。
流れるような動きで、襲来した飛行モンスター、グリフォンは肉塊に変わった。
何これ。
「お前ら、ためらいなさ過ぎやしませんかねぇ!?」
「当たれば墜ちるってわかってんだから、撃つでしょ。普通」
「墜ちたから斬った。問題ない」
あかん、パーティに脳筋しかいねぇ。
ちょっとビビった俺の驚きを返せ。
カード化した結果はこちら。
『リトルグリフォン』
3:2/3
『飛行』・関連する負傷を負っていない場合、地上からの直接攻撃を回避する。(『射撃』等は除く)
「ちょっと型が小さいなぁ。巣立ちするかせんか辺りの、若いグリフォンやろうねぇ」
結構デカいんだけど、これで小さい方なのね。
成長してると、人の手に負えないんじゃないか、これ。
まぁ、今の魔力で喚べるコストだったから、結果的にはありがたいけど。
「喚べそう、コタロー?」
「何とか喚べる。これより大きかったら無理だったな」
「あの大きさだと、もしかして背に乗れたりするか?」
アシュリーとナトレイアが、わくわくした瞳で俺を見てくる。
乗りたいのね、二人とも。
てかお前ら、そんなストレートに聞くなよ。ノアレックさんいるだろが。
話すつもりではあるので機密保持は諦めて、『リトルグリフォン』を召喚する。
「キュピェ」
うーん、ゴブリンくらい軽かったら乗れそうだけど、ボアオークは重くて無理か。俺も攻撃力ゼロなだけあって男としては細い方なので、無理すればいけるか? でも乗って戦うのは無理そうだな。
アシュリーとナトレイアの女性陣二人は、召喚したグリフォンに頼み込んで順番に背に乗せてもらっている。
二人とも無事に乗れたようだ。
ただ、アシュリーはともかく、ナトレイアは装備と鋼の剣が重すぎて、俺同様、空を高速で飛び回って戦うのは無理っぽい。
戦闘手段じゃなく、こりゃ移動手段かな。
長距離飛行はグリフォンがへばりそうだけど。
「ふぅーん、なるほどなぁ?」
何かを察したように、ノアレックさんがこちらを見てニヤニヤしている。
ですよね、バレますよね。倒したモンスターが召喚できるようになる、って。
あえて明言はせずに、ノアレックさんの無言の追求を無視する。
聞かれたら答えるけど、相手が無理に聞き出す気無さそうなんで便乗するよ。
「コタロー、コタロー。オークよりグリフォンを多く召喚した方が良くないか?」
楽しそうに提案するナトレイア。
その提案を受けて、護衛役のボアオークがしょんぼり落ち込んだ。
いや、確かに召喚コストが同じでスタッツも同じなのにグリフォンには『飛行』がついてるけどね?
二足歩行のボアオークには、空いた手に装備品を持って強化できる、という裏ステータスがあるのだ。だから、ケースバイケースでどっちも役に立つんだよ。
「だが乗って飛びたい」
「あ、はい」
ナトレイア様は折れませんでした。
やむなくボアオークに謝ってカードに戻ってもらい、装備品も含めて空いた二枠でグリフォンをもう二体召喚する。
肉食獣を二体狩ったのも含め、本日の戦果は上々。
『ソニックチーター』
3:3/1
『奇襲』・このアバターは、敵に攻撃した状態で召喚される。
『グラスラプトル』
2:2/2
小型の二足歩行恐竜、グラスラプトルは微妙な感じ。『敏捷』はないけど足は速い。
もう一匹のソニックチーターは、念願の『奇襲』持ち!
コスト1のゴブリンアサシンと、大砲のチーターとして使い分ける感じか。
同じ3コストスペルの『ファイヤーボール』との差は、撃った後も戦えるかどうかだな。
良きかな。
収穫もあったので街に帰ろうとすると、街道で異変があった。
「「うわぁぁぁぁ――――ッ!!」」
何事だ!?
街道から複数の悲鳴が聞こえ、急いで茂みを抜ける。
背の高い草をかき分けて街道に出ると、そこには逃げ惑うドワーフや兵士の姿があった。
その中に混じる、見知った幼女の姿。
「クリシュナ!? ウォルケス親方まで! なんでここにいるんだ!?」
状況を見渡すと、人の背丈ほどもありそうな猛禽型モンスターが、複数でクリシュナたちを襲っていた。
「グリフォン、行け! ――アシュリー!」
「任せなさい!」
三体のリトルグリフォンが牽制に向かうと同時、アシュリーが流星弓を構える。
撃ち放たれた三本の矢が、三体の飛行モンスターを同時にしとめた。
「こ、こ、コタロー? お主、なぜここにおるのじゃ!」
「そりゃこっちの台詞ですよ、クリシュナ……様。とりあえず、もう大丈夫です」
慌てる兵士さんや親方たちをなだめ、一息ついてもらう。
グリフォンに周囲を警戒させながら、何があったのかを聞こうとすると、聞くまでもなく親方の持っているものが目に付いた。
糸巻きから伸びた、長いヒモ。
視線でたぐると……その先には、三角形の凧らしきものが地面に破れ落ちていた。
「お、おう兄ちゃん。兄ちゃんの言ってた模型を作って見てな。た、確かに飛びはしたんだが……モンスターをおびき寄せちまってな。このザマだ」
もう模型を作ったのか、仕事早いな!
でも、飛行モンスターに狙われちゃ、どうしようもないか。
ホントに物騒な世界だな、おい。
とりあえず。
ケガをした人たちに『治癒の法術』を使い、詳しく話を聞くことにした。




