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一狩り行こうぜ



 式典も終わり、翌日には辺境伯邸を辞して街の中へ拠点を移すことに。

 クリシュナの話を聞いたのか、故郷の話をもっと聞きたいからこれからも遠慮無く屋敷に顔を出せ、と言われた。

 それ自体は光栄なことなんだけど、掘り返してもこれ以上何も出ないよ。


 宿に荷物を置いて、とりあえず伸びをしながら一息つく。


「さて、やーっと自由行動だな」


「今までも自由と言えば自由だったけどね」


「監視付きのだろ?」


 荷ほどきを先に終えて俺の部屋のベッドに腰掛けていたアシュリーが、事もなげに言う。

 ナトレイアも荷物が少なかったらしく、すでに作業は終えてデルムッドにエサをやっていた。


「結局、この街に残るの、コタロー?」


「そうだな。何か魔術的なものでも調べられないかと思うけど」


 故郷に戻る方法は、一つは当てがある。階位(レベル)の上昇だ。

 おそらくレベルが十を超えると日本に戻れる魔術も使えるようになると思われる。

 が、そのためにはあと七回も死線をくぐらなきゃいけないわけで。

 できることなら、この世界の魔術で日本に帰れるかどうかも調べたい。


「空間系魔術とかあるのが、定番なんだけどなー」


「何の定番なのかは知らんが、空間系の魔術は逸失魔術だぞ。再現できる者が少なすぎて、使い手が断絶した魔術だ。一応、資料は残っていると思うが」


 む、使い手がいないのか。だが、存在自体は今も伝わっているらしい。

 使い手がいないと、俺が見てコピーすることもできないのだが、資料があるのならそっちを当たる方が先か。


「冒険者がそんな資料を気軽に閲覧できるわけないでしょ。魔術を研究する魔導研究所か、王立図書館辺りにしか無いと思うわよ。……どっちもこの国の首都、王都にあるわね」


「辺境伯領には無いのか?」


「あるかもしれんが、辺境伯閣下との話の中に出てこなかった以上、期待はしない方が良いだろうな。むしろ魔道具関係を当たってみるのはどうだ?」


 空間魔術の魔道具とかあったら、夢が膨らむな。

 もし実用化できたら、トリクスの街にも行きやすくなるだろう。


「アシュリーの持ってるマジックバッグも空間系だよな?」


「マジックバッグは結構数があるわよ。まだ逸失されてない時期に、たくさん作られたからね。あたしが持ってるのもその一つ」


「高位の冒険者や貴族なら持っているのは珍しくないが、確かに、アシュリーが持っているのは珍しいな。冒険者の家系だったのか?」


「まぁ、そんなところよ」


 ナトレイアの質問に、淡々と返すアシュリー。

 そういえば、アシュリーの家の話は聞いたことが無いな。

 まぁ、そのうち聞くこともあるだろう。


「とりあえず狩りにでも行くか? この先何があるかわからんから、手札は増やしたい」

「そうよね。ナトレイア、この近くの狩り場は詳しい?」

「一時期、滞在していたことはある。が、案内役(ガイド)を雇った方が良くないか?」


 冒険者ギルドで申請すると、若手冒険者や引退した冒険者など、自分では充分にその狩り場で稼ぎを挙げられないが、狩り場自体には詳しい、という人材に案内を頼むことができるらしい。

 ギルド側はたくさんの冒険者にモンスターを間引いてもらいたい、若手や引退組は実戦は辛いが収入を得たい。

 そうした需要の合致だな。


「能力を隠すのが難しくならない?」

「そうだな。最初に案内だけしてもらって、後で自分たちだけで狩りに戻るか」


 俺の意見に、ナトレイアが、はぁ……とため息を漏らす。


「やめておけ。モンスターの生息区域では何があるかわからん、案内役の意見は重要だぞ。お前に聞く限り、私たちが召喚された武器で倒せばいいのだろう? なら、他の魔術は使用場面にさえ気をつければ問題はあまり無さそうだが」


 うーん。俺としては、ナトレイアとアシュリーの三人で連携する実戦は初めてだから、何があるかわからん以上周囲に手札を晒すリスクは抑えたいんだが。

 しかし、情報が大事だというのも納得だ。


「あたしとナトレイアがいれば充分よ。デルムッドもいるし。コタローはあたしたちに養われてなさい」


 男前に言い切るアシュリーに、俺はおとなしく、へい、とうなずいた。

 女性陣が強すぎる。


「何を狩りたいか、要求はあるか?」

「飛行系! 飛んでる奴!」


 飛行ユニットが欲しい! トリクスで貴重なアサシンメイビスを取り損ねた以上、飛んでるアバターは確保したい。ドラゴン見た後だと、『飛行』は有用な能力だし。

 トリクス近辺には、鳥型のモンスターいなかったんだよな。


「となると、森か? 王都近くの魔の森では無いが、この近くの森もかなり強力なモンスターがいるぞ」

「いや、平原が良い。広い場所なら、いざとなればグラナダインを召喚して、飛んでる獲物は全部地面に墜とせる」


 だいたいそういう辺りで方針は決まった。

 んじゃ、冒険者ギルドに行くか。



******



「なぁんや、早速狩りに行ってくれるん? 良かよ、良かよ、とっておきの案内役つけちゃるけんねぇ!」


 領都の冒険者ギルドで俺たちを出迎えてくれたのは、まさかの狐耳ギルマス、ノアレックさんだった。

 相変わらず微妙な方言ではしゃいでらっしゃる。


「そやったら行こか! 領都近くの大平原やったら、うちが案内しちゃるけんね!」


「はい!? ノアレックさんが案内するんですか!?」


「いかんと? 領都近くのモンスターの分布やったら、うち以上に知っとる人間はおらんばってん。こう見えて、うちも戦えるとよ!」


 そりゃ職員だから、領都近辺の狩り事情には詳しいでしょうが。

 くっ、これ、どう考えても俺の能力探る気満々だな!?


「安心せんね。知った情報は他には漏らさんけん。他の冒険者や職員に着いてこられるより、まだウチの方が良かろ?」


 耳元に小声でささやかれる言葉に、俺はがっくりと肩を落とす。

 ぽん、とナトレイアが後ろから下がった俺の肩に手を置いた。


「諦めろ。この人が一度言い出したら、トリクスのギルマスの比ではないほど引かん。それに、言われるとおり他の冒険者や職員に広まるよりマシだ」


「まぁ……そりゃそうだけどよ……」


 辺境伯の監視が解けたと思ったら、今度はギルドの監視付きかー。

 仕方ない、ギルマスには力を借りることもあるだろうし、ここは折れるしかないか。




 というわけで、やってきました大平原。

 まさしく見渡す限りの平原で、背の高い草や木立が多少ある他はだだっ広く見通しがきいている。

 街道から離れたところに草食らしきモンスターの姿も、ちっこくちらほら見えている。

 向こうの牛っぽい群れは、肉の美味しかったクロスブルさんかな。


「のどかだなー。モンスターは頻繁に出るんですか?」


「街道近くはあんま出らんねぇ。だいたい護衛の冒険者が近寄ってきたモンスターば討伐するけん、草食はあんま近寄らんごとなって、それをエサにする肉食モンスターも街道から離れとる。言うても、肉食モンスターが街道を襲うこともあるばってん」


 モンスターにとって、身を隠せない街道は良いエサ場ではないから、街道は逆に安全になってるってことか。それも冒険者の働きありきだな。


 なら、街道から離れた草原に向かうか。

 その前に召喚獣を喚んで部隊編成しないと。

 能力を隠す必要が無くなったから、全力編成で行こう。


 召喚枠は九枠。

 まずアシュリーとナトレイアの装備で二枠使う。

 デルムッドを喚んで、いざというときのグラナダイン用に一枠取っておいて計四枠。


 壁として『ボアオーク』を喚んで、鋼の剣を装備させて3/3を一体作る。これも二枠。

 『ゴブリンの擲弾兵』で飛ばすことも考えて、残りはゴブリンにするか。

 鋼の剣を装備させて、これも二枠。これで八枠。

 後は緊急時に『ゴブリンの擲弾兵』を喚ぶのと、普通に『ゴブリンアサシン』を喚び出す用を兼ねて一枠空けて、これで九枠で良いか。


 喚び出せる枠が増えてはいるんだけど、装備品で強化すると結構枠を使うな。

 ゴブリンアサシンとグラナダインの二枠が緊急召喚用ってことで、とりあえずこれでいいだろう。


 さ、狩りだ狩りだ!

 鳥型モンスター狩るぞ!










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