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ギルドのお稲荷様



 領都の冒険者ギルドは、トリクスの街とあまり変わらなかった。

 掲示板のある広間に受付、多数の冒険者の姿。

 建物自体もだいたい一回り大きいくらいか。その程度の差で、中身は大して差が無い。やることが同じだからだろーな。


 昼下がりを過ぎた辺りということで、依頼を終えた冒険者に混じって列に並ぶ。


 三人で列に並んでもなんなので、俺は途中で抜けてケガをしていた冒険者に営業をかけていた。治癒術使えるから治療するよ、お代は治せたら要相談、的な。

 結構深くやられてた人もいたんで治療は喜ばれた。

 四人でしめて銀貨十五枚なり。トリクスほど重症じゃなかったんで、こんなもんだろ。


 領都でも治癒術士でやっていけそうだな。


「コタロー、アシュリー、行くぞ」


 時間が来たのでナトレイアに呼ばれていくと、頭にゲンコツを落とされた。


「あまり目立つな。お前の力は、あまり他人に言いふらせるものではない」

「いてて。だ、だから治療すんだよ。召喚術士ってより、治癒術士って言った方が冒険者ギルドにいる理由になるだろ?」


 隠したいというか、騒ぎになるのは召喚術だしな。

 まぁ、体の良い隠れ蓑だ。


「あと、デルムッドのエサ代とかも稼がにゃならん」

「コタロー、結構貯めてなかったっけ……?」


 回復と武器にお金使わないからね。そこそこあるけど。

 使うと無くなるのがお金なので、稼げるときに稼いでおいて損は無い。


 ナトレイアに連れられて、広場の奥にある階段に向かう。


「どこに行くんだ、ナトレイア? 報告は済んだんだろ?」

「いや、まだだ。領都のギルマスが直接会ってくれるらしいんでな。執務室に行くぞ」




「入るぞ」

「構わないよ、どうぞ」


 ノックもそこそこに、執務室のプレートがかかった部屋に入る。

 応接室じゃ無くて良いのかな?


 中に入ると、大きな文机に座っていたのは、狐の耳をした女性獣人だった。

 椅子の後ろに、大きな尻尾が四本見える。


「領都の冒険者ギルドのマスター、ノアレックだ。ようこそ、トリクスの冒険者たち」


 狐耳に眼鏡をかけた美女は、俺たちを座るように促した。

 その表情には、底知れない不敵な笑みが浮かんでいる。


「トリクスの冒険者、ナトレイアだ。久しぶりだな、ノアレック殿」

「そうだね。今回はまた、大した勲功をあげたもんだ。ドラゴン殺しとはね」


 そして、ノアレックは俺を見る。


「ドラゴンを殺せる冒険者に、召喚術士……興味深いね」


 ――ッ!? 俺のことを知ってる!?

 俺の表情の変化に、ニィ、とノアレックの口の端が歪む。


「そのくらいの情報網は持っているよ。そこの召喚術士クンに関しては、クリストフからの説明も聞いてないからね。辺境伯様からの発表を待とうとでも思っていたよ」


「ならば、そうしてくれ。さすがにこの領都で、領主たる辺境伯様のご意向も聞かずに迂闊なことは言えない」


 ナトレイアが無表情で流すと、ノアレックはぷっと噴き出し、緊張した空気を霧散させた。


「んもー、そんな警戒せんでよ。さすがに領主様から人材かっさらおうと思うほど、うちのギルドはメンバーに困っとらんけん。そんなしかめっ面しちゃりなさんな」


 打って変わって、ノアレックが砕けた口調になる。

 というか博多弁に聞こえるのですが。異世界言語の不調かな?

 もしくはこの世界にも方言とかあんのか。


「で? 騎士爵にでも叙任されて、冒険者ば引退すると? ――あ、でもパーティで連れだってここに挨拶に来たってことは、まだ冒険者続けるっちゃねぇ」


「その通りだ。私たち三人は、しばらく拠点をトリクスからこの領都に移すつもりなのでな。その報告に来た次第だ」


 ははぁ、とノアレックは大仰に驚いた様子を見せる。

 その後、にんまりと口に手を当ててほくそ笑み、顔を俺たちの方へ寄せた。


「良かよ、良かよ、実力ある冒険者は、どんだけおっても助かるけんねぇ。それに、例のきみは、回復魔術も使えるらしいやん? ギルド近くで治癒術士もやるとね?」


「そうですね。さっきもちょっと営業しちゃったんですけど。――ギルド内でちょっと場所でも借りて、狩りに行かないときは冒険者の治療ができれば、と」


「良かよぉ、良かよぉ! うちの冒険者ども、数が多いだけに仕事が雑なヤンチャもんも多かけん。いっつも生傷ば作ってきよるし、うちも気になっとったっちゃんねぇ! 治療に金かけたら、もうちょい慎重になるっちゃないかな! 期待しとるよぉ!」


 あらら。ケガ人多いのか。

 トリクスの街はそうでも無かったんだけどな。

 冒険者の絶対数と、どれだけ指導が行き渡ってたのか、ってことかな。

 トリクスのギルマスや職員さん、やっぱり優秀だったんだな。


「ふふふー。単純に実力者のナトレイアに、治癒術士までうちに移籍やなんて、こら小憎たらしいあのクリストフの坊主がイイ顔してくれるやろねぇ。いやー、楽しみやねぇ!」


 仲悪いんですか、ギルマス二人。

 というか、あの初老のギルマスを「坊主」って、ノアレックさんっていくつだ?

 狐の獣人も、もしかして寿命が長いのか。


「乙女の歳ば気にしたらあかんよぉ、お兄さん?」


 そう言って唇に指を当て、腕で胸を寄せてくる。

 ゆったりした服のはずなんですが、良いものお持ちですね、ノアレックさん。


 そう思った瞬間、隣からアシュリーの肘打ちを食らった。

 くぅ、そこは急所!


「まぁ、あんたらのことはうちが太鼓判押しちゃるけん、好きに活動しぃ!」


 太っ腹な笑顔を見せてくれるノアレック。

 この際だから、疑問に思ってたことを聞いちゃうか。


「ちなみに、冒険者ギルドって、国の中でどういう立ち位置なんですか? 国が運営してるとか、独立して運営されてるとか」


「なんね、知らんとね?」


 呆れたようなため息が聞こえ、隣のアシュリーが答えてくれた。


「冒険者ギルドは国から独立した権限を持ってるわ。運営は独自、地域によっては多少補助金を出されてる街とかもあるけどね。基本的には冒険者っていう個人単位の集まりの互助組織で、その仕事をやりやすくするための組合よ」


 民営だったのか。

 補助金出てるところがある辺りは、日本の大企業みたいな扱いなんだろうな。


「その割には、衛兵さんの手伝いとかしてますよね?」


「そらそうやろ、互助組織言うても招集して指揮執ったら私兵団と変わらんけん。領民や領のためにならんことする私兵団とかおったら、統治者からしたら目の敵やろ」


 そうですね、ただの暴力集団ですね。

 なるほど、それで公共に助力して、目をつけられないようにしている――と。

 そのための冒険者の倫理であり、民兵としての助太刀なのだろう。

 つまり民間委託された警備会社的な立ち位置だ。


 ヤのつく暴力団的なものではなく、自警団みたいな役割を持つ狩人集団なのね。

 その分、冒険者には節度が求められてる、と。


「一般人にオイタする冒険者がおったら、同じ冒険者が真っ先にシバくのが鉄則や。普通に衛兵にもしょっぴかるぅけどな? あかんことしよったら、ギルド敵に回すと思いぃ」


 それだと、公権力が横暴になったとき、歯止めが効かない気がするが。

 そんな疑問を抱いたとき、アシュリーが付け添えた。


「貴族にも遵守する法があるって、上級騎士が言ってたでしょ? あれは、冒険者がギルドを組んだから立法されたのよ。だから貴族も平民に無体なことはできないの。貴族が自前の兵力で横暴を通そうとすると、領地を越えて冒険者が立ち上がるからね」


 つまり、権力には兵力がある。民衆にはギルドがある。

 お互い内乱にならないよう抑え合ってるし、何も無ければ協力する。ってことか。

 官民ずぶずぶなのかと思いきや、それでバランスを取ってる面もあるんだな。


「この辺境やと辺境伯閣下ができたお方やからねぇ、協力することが多いんよ」


 土地によっては、バランスが崩れてるところもあるんだろうな。

 転移先としては治安の良いところに降り立って幸運だったってことか。


「治療スペース作りたいときは、職員に声かけりぃ。椅子一つと、あとは患者並べる人一人くらいで良かろ? 大した手間やないけん、一言言ってくれたら手伝わすけんな!」


「そりゃ助かります。ありがとうございます」


 これで、領都での生活もなんとかなりそうだな。

 ナトレイアたちの報奨式典までに、試したいことを色々やっておくか。








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