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辺境伯との面談



 筋肉三号が召喚術士だったと知って、全身の力が抜けた俺は軍宿舎でその日を過ごすことにした。

 ナトレイアやギルマスも、領都のギルドに挨拶に行くのは翌日にすると言っていたので、休養日と言うことで良いだろう。



 そんなこんなで一夜明けて、翌日。

 宿舎のベッドでたっぷり寝て、身体の疲れもとれた。


 朝食の席で、今日の予定を話し合う。

 軍の食糧を使ってるからか、朝食の味はそこそこだ。あんまり普段の食事がおいしいと、行軍中に保存食料が食べられなくなるからだそうな。後で街で買い食いしよう。


「何も無ければ、私はギルマスについて領都の冒険者ギルドに到着の挨拶に行くが。コタローとアシュリーも来るか?」


 かったいパンをミチミチとむしりながら、ナトレイアがそう言う。

 このパン、スープにつけても噛み応えあるな。


「そうだなぁ。街の屋台でものぞいてくるかな?」

「いいわね、領都は甘い物も確か売ってたわよ、高かったけどね?」


 いいね、甘い物。こっち来てからあんまり食べてないしな。

 俺は酒もタバコもあまりやらないんで、甘い物が食べられるのは嬉しい。

 肉食圏で、肉が安く大量に食べられるだけでも悪くないんだけどな、この世界。


「予定が無ければ構わんと思うが、一応少しは待っておいた方がいいぞ。一応我らは招かれている身だ、辺境伯様がお会いになられるかもしれんでな」


「まだ着いたばかりでしょ。昨日の今日で?」


 ギルマスの刺した釘に、アシュリーが意外そうに返す。

 ギルマスは、口元を拭きながら答えた。


「普通ならそうだ。辺境伯様の予定を調整するので、時間がかかる場合が多い。――だが、今回は事情が少し特別だろう。コタローの件もあるし、早馬で連絡もしておった。急いで会おうとなさっても何もおかしくない」


 あー。召喚獣二人のこととかね。

 どう説明しようかな、と思うんだけど、本人たちの目標がこの世界への復権なので、黙ったりごまかしたりするわけにもいくまい。

 俺自身のことは何か上手いことごまかすとして、どう話したもんかな?


 そんなこんなで食事を摂っていると、兵士さんが用件を伝えに来た。


「辺境伯閣下が、午後一番で皆様にお会いになられるそうです」


 あらま。ギルマスの予言が当たったよ。

 辺境伯、会うってよ。



******



 街外れの軍庁舎から、中央の辺境伯様の屋敷へは馬車での移動だった。

 案内は一兵卒ではなく、なぜかアランさんが請け負ってくれる。

 馬車内で向き合って乗っていると、不意にアランさんが口を開いた。


「なぁ。ドラゴンを倒すとき、私に『一緒に行こう』と言っただろう? 私なら竜の鱗に刃が通る、と。あれは、なぜ誘ったんだ? 結果的にはお前たちだけで倒せたろう?」


 唐突に問われて、俺はきょとんとした顔になる。

 なぜも何も。


「何でって、倒せる人がいるんだから声かけるのは当たり前でしょう」


「それだけか?」


 まぁ……それだけじゃ無いかもしれないけど。


「うーん……本当のことを言えば、仲間の仇だから倒したいだろうなって。そう思うと、騎士の人たちにも声をかけずに自分たちだけで、ってのは気が引けましたね」


 俺がそう言うと、アランさんは「そうか」と屈託無く笑ってくれた。


「自分たちだけの功績にしようとは思わなかった、か。――本当のことを言えば、感謝しているよ。私のあの一太刀が、竜を倒すことにつながったと思えば、我々領主軍の面目も立つ。仲間にも顔向けできよう」


 アランさんの一撃がドラゴンの尾を逸らしてくれたから、ナトレイアたちの攻撃が通った。それは事実だ。

 何かしら活躍せずに冒険者たちに手柄を取られて、なんてことにはならなかったから、まぁ、丸く収まったんだろうな。本音は自分がトドメを刺したかったろうけど。


 そんな俺に、アランさんは目を伏せて微笑んでいた。


「功績で身を立てる冒険者らしからぬ考えだ。なのに、我々に取り入ろうとしているわけでもない。不思議な人物だな、お前は」


「冒険者になって日が浅いんですよ。冒険者としての常識とかは学んでる最中です。それに、そういうことはこれから説明しに行くんでしょう?」


「そうだな。だから、忠告しよう。聞いておけ」


 アランさんはそう言って区切り、俺の目を見て真摯な口調で言った。


「疑うな。――お前自身が後ろ暗いものを抱いていない限り、臆するな。今から何があろうと、お前自身にやましいと思える理由が無ければ胸を張って相対しろ。それが一番良い結果につながるだろう。私に言えるのは、それだけだ」


 何だろう。貴族と会う心構え、かな。

 プレッシャーに押しつぶされて卑屈になるな、とか?


「ありがとうございます。意識するようにします」

「それがいい」


 アランさんは、そう言って笑っていた。



******



 たどり着いた辺境伯邸は、何というか宮殿だった。

 いや、建物の作り自体は四階建ての屋敷なのだが、規模が馬鹿でかい。

 都市の行政庁舎も兼ねてるんだから仕方ないけど、タージマハールとかの歴史的建造物を思わせるサイズの敷地と建物だ。


 棟数自体も多くて、たぶん、使用人宿舎とか行政庁舎が混じってるんだろうなと思わせる。

 上流階級の屋敷、なんて生易しいものにとどまらず、完全に都市機能の中枢だ。

 市役所的な分所は街中にあるらしいけど、いかにもここが本拠地です、という威容をしている。


 そんな圧巻の外見にビビる俺を、慣れているのか先導のアランさん含め他の面々は平然と歩いて行く。来たの初めてじゃないんだろーな。


 大理石か知らないが、光沢のある石床に厳かな調度品の並べられた邸内を延々と歩いて行くと、応接間のようなところに案内された。


「辺境伯様はすでに中でお待ちだ。皆、心得られよ」


 厳粛なアランさんの注意。

 通常、目上の人間は先に室内で待たない。待たされるのは格下側の方だ。

 異世界では礼儀が違うのか、とも思ったが、ギルマスやアシュリーも驚きを隠せずに表情を引き締めているので、異例の扱いなのだろう。

 そうして俺たちを迎える理由は何だ?


 その理由は、すぐにわかった。


「な……っ!」


 ソファに座る老人の周囲を、騎士たちが取り囲んで警護していたのだ。

 その数は五人。その中にアランさんも進み加わって、六人。

 アスタルさんやクルートさんの姿もあり、全員武装している。

 こんなの、『鑑定』しなくてもわかる。


 武装した上級騎士が、勢揃いで俺たちを待ち構えていた。


「よく来た。座るが良い」


 ソファに座る老人が、俺たちを促す。

 もちろん、俺たちの武装は、宿舎に置いてきて解除している。

 俺たちは言われるままに室内に入り、相対するように向かいの大きなソファに腰を下ろした。


 厳かに、しかし迫力のある声で、老人が告げる。


「マークフェル王国辺境伯爵家当主、ロズワルド・フェン・グローダイルである。我が領都エイナルへの帰参、足労であった」


 その威厳と、周囲の上級騎士の気迫に、俺たちは誰も声が出ない。

 何かが起これば、六人の上級騎士たちが俺たち全員の首を獲る。


 そんな状況で、ロズワルド辺境伯は、眼光鋭く目を細め、俺を見た。



「さて。――『悪魔』を召喚し、操ったという召喚術士は、きみのことかね?」



 馬車内でアランさんが忠告してくれた意味。

 警戒心むき出しの辺境伯のこの威迫。絶体絶命で問われているこの状況。



 こ、こういうことか――――っ!!








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