領都への旅立ち
二日の休養を挟んで、俺とアシュリーとナトレイアは、領都に赴くことになった。
帰還するアランさんたちに馬車に乗せてもらって、片道十日で着く予定だ。
勲功第一位はナトレイア。
ファーストアタックを決めたのと、トルトゥーラの扱いを話し合う必要がありそうだったので、俺が辞退した形だ。
勲功第二位は俺。
ドラゴンを地上に墜としたこと、ラストアタックを取ったこと。
どちらも召喚獣の成果なのだが、その召喚獣二人のことを権力者に相談して、俺に害が及びそうにないなら周知してもらうことになっている。
辺境伯様の人柄なら無茶な沙汰にはしないだろう、と上級騎士の三人から勧められた結果だ。
その俺を補佐するパーティメンバーのアシュリー。そしてデルムッド。
同行者は他に、ギルマスが着いてきている。
冒険者を統率して、アタッカーの俺とナトレイアを支援した指揮を評価されてのことだ。冒険者ギルドの長らしく、防衛戦に参加した冒険者たちの代表として赴く感じか。
冒険者たちの加勢あっての成果でもあるので、ぜひ報奨されて欲しい。
道中の面倒はアランさんたち領主軍が見てくれることになっているが、補給物資と、念のために俺たちも非常用の保存食料などを買い込んで出発した。
そんなこんなで、今は領都への道中。
領主軍の荷馬車の中で揺られている。
******
「何してんの、コタロー?」
馬車の幌に背を預けて流星弓の手入れをしていたアシュリーが、俺に声をかけてきた。
ちなみに、流星弓は独立した装備品なので、アシュリーがこれを装備していても、グラナダインを召喚すればグラナダインもまた自分自身の弓を持ったまま。
古代の宝弓が二つ同時に存在することになるんだが、いいんだろうか?
相変わらずこのカード化システムは不思議だ。
「いや、ドラゴン戦で新しい魔術とか覚えたんでな。確認してる」
他の同乗者には見えていないが、俺の手の中には新しい五枚のカード。
内容はこうだ。
『光の聖鎧』
3:三十秒間、対象に+1/+2の修正を与える。魔力を1回復する。
『靴妖精の工具』
2:対象の道具や武具を修復する。生命を持つものは修復できない。
(大きなものや複雑なものは修復に時間がかかる)
『筋力の縮退』
4:最大三体を対象とする。それぞれの対象は三十秒間、-1/-1の修正を受ける。
『勇気の絆』
3:一分間、対象一つが何かにダメージを与えた場合、
その対象は与えたダメージに等しいHPを回復する。
『ゴブリンの擲弾兵』
3:1/3
ゴブリン・アバターを一体投擲する:対象一つに、X点の射撃を行う。
Xは投擲したゴブリン・アバターの攻撃力に1を足した値に等しい。
(投擲されたゴブリン・アバターはカードに戻る)
以上。
今回は強化・弱体化が中心の構成のようだ。
これは嬉しい。使いどころは考えなきゃいけないけど、前衛のナトレイアが参加してくれたしな。『勇気の絆』の回復効果が三十秒じゃなく倍の一分なのも嬉しい点だ。
あと、なんか変なゴブリンが出てきた。
投擲する、ってなんだそれ。ゴブリンを投げるのか?
よくわからん。道中で機会があったら使ってみるか。
飛行アバターが無いのが残念だなぁ。森にいたっていう毒ツグミ、アサシンメイビスでも狩っておけば良かったかもしれない。でもアシュリーの狩り場じゃなかったしな。
「コタローよ。グラナダイン殿は召喚しないのか?」
俺の呼び方を召喚術士から名前呼びに改め、ナトレイアが尋ねてくる。
グラナダインには、一応出たままついてくるか聞いたんだけどな。
自分が表に出たままだとトルトゥーラが話題にならないってことで、気を遣ってくれて引っ込んだままだ。
「グラナダインは召喚してる間じゃなくて、『召喚した時』が一番強いんだよ。それに一応、本人にも聞いたんだけど、ナトレイアの里に覚えてもらってたから出ずっぱりじゃなくても良いそうだ。重要な話し合いになったら喚んでくれってさ」
「むぅ……昔のエルフの暮らしや文化など、聞きたいことは多かったのだが……」
「焦らなくても、そのうち聞けるんじゃないか?」
日本人に例えてみりゃ、いきなり戦国時代の武将が現代に蘇ったようなもんだしな。
そりゃ、エルフのナトレイアにしてみりゃ聞きたいことは山のようにあるだろう。
エルフ歴女か。業が深いな。
「後衛ばかり増えてもどうしようも無いけど、馬車の道中は護衛になるんじゃないの?」
「そのためにアシュリーに流星弓渡したんじゃないか? あと、追加で弓兵喚んだ方が良いかって上級騎士のアランさんに聞いたら、軍隊を護衛するって何の冗談だって笑われた。余計に食糧使うだけだって」
アシュリーが尋ねてくるが、今回俺たちは護衛依頼じゃなくて客人だしな。
弓聖がいるから道中の警備は任せろ、なんて言ったら、軍をなんだと思ってるんだと怒られそうだ。意外に使いづらいな、弓聖。
「コタロー。回復と召喚の他に、どんなことができるのだ?」
興味津々といった様子で聞いてきたのは、ギルマスだ。
長く生きてたくさんの冒険者を見てきたギルマスからすれば、俺ほどに多様なことができる人材は希なのだそうだ。俺自身の真偽はまだ見定めかねているんだろうけど、悪印象は持たれていないように思える。
俺を何かに利用する気、という老獪さがあってもおかしくないけどな。それでも憎めないのは、この人が市民や冒険者のことを真剣に考えているのが伝わるからだろう。
「道具や武具の修復とかですかね。専門の鍛冶士には及ばないでしょうけど。後は喚び出せる召喚獣が増えたり」
「解毒や、相手の情報を文章化できる『鑑定』なども希有な能力なのだがな……ちなみに、わしの力はどのくらいなのだ? 比較対象もあれば助かる」
「見て良いんですか? 冒険者は手の内を晒さないもんだと聞いてますけど」
「こんな経験、なかなかできんでな。頼む」
楽しそうですね、ギルマス。
そういやギルマスの『鑑定』は後回しにしちゃってたな。老齢だし、指揮するのが主だったから直接的な戦闘力は確認してなかったしな。
で、『鑑定』した結果がこちら。
名前:クリストフ
種族:普通人
3/3
『高速連撃2』・一度の攻撃時間で2回攻撃できる。
強ッ! 二回攻撃って何、そんな能力あんの?
あ、でも攻撃力3か。ドラゴンの甲殻は抜けなかったな。
「こんな感じですね。――普通の衛兵さんや冒険者は攻撃力もHPも2前後です。参考までに、上級騎士の皆さんはこんな感じ」
差し出された紙片と木炭で、結果を書いて渡す。
ギルマスは自分のこれまでの鍛錬の結果を見て、「おお……」と感嘆していた。
「うむむ。やはり現役には体力で劣るか……老いには勝てんな。この数値でドラゴンと戦うと、どうなる?」
「ドラゴンの鱗をギリギリ抜けないですね。倍速で攻撃できるのはものすごく強いんですが、威力が足りないです。ナトレイアの能力を使って何とかってとこですね」
ドラゴンのステータスも紙片に追記する。
『甲殻3』さえ無ければギルマスも一人で討伐できる数値なんだけどね。
「こうして文面に表すと、ドラゴンの鱗がいかに堅いかよくわかるな……よく討伐してくれた。改めて、心から感謝する」
「ドラゴンの素材も領主様に納められるし、万々歳ですね。ただ、ドラゴンの鱗が鎧とかに加工した後も同じ堅さなのかは、できたものを『鑑定』してみないとわかりませんが」
「たぶん、ここまでの堅さは無いだろうな。モンスターは身体に魔力を通して強化しているという説が主流だ。死後の素材はおおむね、生きていたときより性能が劣る」
そうなのか。
ジョアンさんの装備してた蟻の盾なんかは『甲殻1』を持ってたけど。
複数体分のキラーアントの素材を使ってるからかな? もしくは魔力なしの素でそれだけ堅いとか。
その後は、興味を持ったナトレイアやアシュリーが参加してきて、『鑑定』結果の披露会となった。
ステータスはやはり、元々この世界では確認できないらしく、自分の力を数値化できるということに全員興味を持ったようだ。
ただ、同じ数値でも技量や威力に幅がありそうなので詳細では無いと断っておく。
騒いでる俺たちの馬車の様子に、アランさんたちまで加わってきて大賑わいだった。
なお、俺の攻撃力がゼロだということはみんなに納得された。
ちくせう。




