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伝説のルール



 ようやく宿屋、星のしっぽ亭に戻ってくることができた。

 戦勝の雰囲気や討伐後のドラゴン素材の取り扱いなどを話し合ってかなり時間をとられたけど、逆に良かったようだ。

 宿屋のニーナさんとネネちゃんは、すでに避難から戻っていて、俺たちを出迎えてくれた。元々、宿泊してる冒険者を送り出すために避難を遅らせてたそうだから、ほとんど街から離れてなかったんだそうだ。

 ドラゴンを倒せていなかったら、二人も危険にさらしていたかもしれない、と思うとなんとかなって本当に良かったと思う。


 そんなこんなで、自分の泊まってる部屋で身体を拭いて、一段落。

 部屋に一人、俺はとあるカードを召喚した。


「――待たせたな、グラナダイン」

「やあ、主。待ちわびたのは貴方だという表情をしているけれど?」


 今回は対象がいないので、召喚時能力は発動しない。

 問題はそこでは無く、俺は色々と聞きたいことがあったのだ。


「今日はありがとう、助かったよ。お前たちは、外の世界の様子がわかるのか?」

「まだカードになっていない者は、貴方を通して世界を見ているよ」

「それでか。一番良いタイミングだったな」


 グラナダインは苦笑しながら肩をすくめた。


「狙ったわけじゃないんだけどね、主。我が身にはドラゴンを直接倒せる力は無いから、他の者が出た方が良いか考えていたんだ。貴方の魔力で喚べる中で、あの場面では我が身が最適だったということで他の者に推されて出たんだよ」


 そうか、召喚に必要な魔力か。

 こいつら『伝説』もカードである以上、俺の魔力が足りなければ召喚することはできない。俺の魔力が少ない以上、一人が呼び出されれば、それで終わり。

 誰が出るかの話し合いなんかがあったんだろうな。


 それはそれで納得するとして、俺は単刀直入に、最も気になっていることを聞く。


「グラナダイン。――俺の階位(レベル)は、どんなときに上がるんだ? お前ら新しい『伝説』を呼び出したときか?」


 グラナダインは、少し考えた後、ふ、と表情を緩めた。


「それは正しくもあり、正確ではない」


「なら、どんな条件で? 俺は、この街に来てからずっと、それを探り続けてきたんだ」


 日本に帰るためには、レベルを上げる必要がある。

 カードを何度使用しても、狩りを続けても上がらなかったが、ドラゴンやオーガと戦って伝説のカードが召喚されたときにはそれぞれレベルが上がった。

 その差は?

 俺を構成する分身であるこいつらなら、知ってるんじゃないか?


 果たしてグラナダインは、答えてくれた。


「強いて言うなら、狩りが近いね。でも、ただ狩るだけじゃダメだ。――貴方自身が死の危機に瀕したとき、貴方の召喚したアバターや装備品が強力な敵を打倒したとき、など。つまり、経験によって階位は上がる。貴方自身の内面の成長を示しているんだ」


「カードの使用回数は?」


「関係ない。使い方に熟練する必要はあるけど、回数が多くても少なくても、問題は何回使ったかより『どう』使ったかの方が重要だ」


 惰性じゃ経験値は稼げない、ってか。

 俺は頭を抱える。またこんな死地に毎回飛び込まなきゃいけないのか。


 一番当たって欲しくない答えを言い渡された俺に、グラナダインは微笑みかける。


「貴方は他人の身を案じて、自分の意志で危機に挑んだ。我らの力に頼らずに。――だからこそ、我らは貴方に手を貸す」


 どういう意味だ?


「我らにも誇りはあるのだよ、主。道理の通らない行いに貴方が手を染めるなら、もしくは貴方が我々に頼り切り、すがるだけで成長しなかったなら。我らは手を貸そうとはしなかったよ。いくら世界に蘇りたくとも、貴方に従い、使われる立場となるのだからね」


「俺は、カードが無きゃ何もできないぞ。頼り切ってる」


「では、カードがあるから他人を思うのか? カードがあるから危険の前に立つのか? それは違うと、我らは思っている。何ができるかより、何をしようとしているか。我らカードは力であり、力をどう使うかは他ならぬ貴方自身が決めることなのだよ」


 俺がカードを使うんじゃない。

 カードが、俺を見定めている。


「英雄になれ、と言っているんじゃない。貴方には、貴方なりの『自分の姿』が見えているはずだ」


 そんなの決まっている。俺は、どこまでいってもただの、


「俺は、カードゲーマーだ。カードに顔向けできない使い方はできねぇよ」


「それで充分だ」


 満足そうに、グラナダインは笑ってくれた。


 と、それまで傍らで眠っていたデルムッドが、起き出して一声吠えた。

 何だ?


「――コタロー? 入るわよ?」


 扉がノックされる。アシュリーか。

 今さら、わざわざ断って入ってこなくても良いような気はするが?


 扉が開くと、そこには、アシュリーだけでなく意外な姿があった。


「あんたにお客さんよ、コタロー」

「やぁ、召喚術士。夜分に急ですまないが、尋ねさせて貰ったよ」


「――ナトレイア!?」


 そこに立っていたのは、エルフの剣士『剣姫』ナトレイアだった。


 ナトレイアは室内に入ると、俺に向かい合っていたグラナダインに向けて、なぜだか黙して頭を下げた。


「召喚術士。この方は、きみが召喚した召喚獣……なのかい?」


「ああ、そうだけど」


「エルフと契約して召喚する者など、聞いたこともない。きみは一体何者だ? それに、ドラゴンを射落としたあの弓……父祖から伝え聞いた、遠い昔話に出てきた『流星弓』の逸話にそっくりだ」


 流星弓? それは、さっきグラナダインから貰った弓じゃないか?


「どんな話なんだ、ナトレイア?」


「私の里に古くから伝わっていた、天を舞うもの全てを射貫いたという、いにしえの弓使いが持っていたとされる弓だ。その弓使いの名は伝わっていないし、弓自体も遠い昔に失われてしまったと聞く。だが、その矢に射貫かれたものは地に縛り付けられ、二度と飛び立てなかったとか」


 その話を聞いて、俺は隣のグラナダインを見た。

 グラナダインは、驚きに目を見開き、わずかに身体を震わせていた。


「だとよ。良かったな、弓聖」

「ああ……ああ、我が名は失われども、我が生涯の成果を語り継ぐ者がいたか……」


 エルフは人間の何倍かの寿命を持つらしいしな。

 世代交代も緩やかだ。

 人間と比べて、昔の伝説もそう気の遠くなるような過去のことじゃないんだろう。


 グラナダインは、自身の携えた弓に目をやり、ふっと表情を緩ませた。


「その弓は我が愛弓だ、エルフの剣士よ。我が名はグラナダイン、遠い昔に星を墜とすことにエルフとしての生を費やした、今は我が主によって召喚された流星弓の主だよ」


 驚くのは、ナトレイアの番だった。

 グラナダインに向かって片膝をつき、頭を垂れる。


「我らが祖なる英傑とはつゆ知らず、名乗りが遅れましたこと、お詫び申し上げます。マークフェルのエルフの里が一子、今は冒険者をしておりますナトレイアと申します」


「我らが末裔が息災ならば、それに勝るものは無いよ。我が身のことも伝えていてくれたのだしね」


 仰々しく挨拶を交わすエルフの二人はさておいて。

 俺は、隣で所在なさげに取り残されているアシュリーに向き直った。

 グラナダインに貰った、装備品の『流星弓』を召喚して手渡す。


「そうそう、アシュリー。グラナダインが弓くれたから、良かったらこっち使ってくれ。渡してた木の弓よりよっぽど強いぞ」


「あらほんと? ありがと、良い弓ね。でも、あたしの手になじむかしら」


「ちょっ! 待て、それ、良い弓というか、我が里に伝わる古代の宝弓!」


 ナトレイアが慌てて声を上げる。


「いや、そう言われても。ナトレイアの里の宝はもう失われたんだろ? こっちの流星弓は俺が召喚してるものだしさ。召喚した武器は使わないと、枠がもったいないわけで」


「しょ、召喚術士! なんとかその弓を譲って貰うわけには!?」


 無理だろ。アバターと同じで、実在はしてるけど実物では無いわけだし。


「譲っても、後世に伝えるのは無理だと思うぞ。たぶん、俺が死んだらこの弓も消える」

「そ、それでも! 我らが父祖の誇りを、軽々しく外の者に渡されるわけにはいかんのだ!」


 軽々しくないぞ。パーティメンバーの強化は、俺の命にも関わるからな。

 なんせ、アバターを召喚してない俺自身は攻撃力ゼロなわけだし。


 という話をすると、ナトレイアは意を決したように俺に詰め寄った。


「わかった! ならば、私もきみたちのパーティに加えてくれ! どのみちドラゴン討伐の件で領都にも一緒に赴くわけだし、いいだろう!?」


「だとさ。どうなんだ、アシュリー?」


「んー。まぁ、前衛は欲しいわよね。あたしもコタローも後衛だし。でも、前衛ならデルムッドとか換えが効くコタローの召喚獣の方が良いかも?」


「わ、私も役に立つからぁ!」


 必死にすがるナトレイアがあまりにもかわいそうだったので、パーティを組むことになった。

 戦力的には申し分ないんだけど、俺の事情を話して理解してくれるかなー。

 なんか、日本に帰っても流星弓だけは置いてけ、と言われそうで怖い。



 何にせよ、そんなこんなでエルフの剣姫がパーティに加わった。







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