表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/173

キルマーク



 街道は、竜の討伐という偉業に歓声が巻き起こっていた。

 展開していた領主軍の兵士のみならず、支援していた冒険者たちまでもが街壁から降りてきて、横たわる竜の死体に興奮している。


 その中で、俺は一人、手の中に現れた白いカードパックを開封していた。

 カードが五枚現れ、消える。テキストの確認は後にしよう。

 ステータスを見る。


ステータス

名前:コタロー・ナギハラ

職業:召喚術士

階位:3

HP:9/9

魔力:3/3

攻撃:0


 ようやくレベルが上がったか。

 攻撃力は上がらないらしい。鍛えてないせいか、それともカード能力の制限にでも引っかかってるのか。両方ありそうだな、とは思う。

 ラストアタックがトルトゥーラだったので、ドラゴンもカード化できた。


『ガラクラン山脈のドラゴン』

6:6/6

 『飛行』・関連する負傷を負っていない場合、地上からの直接攻撃を回避する。(『射撃』等は除く)

 『甲殻3』・3点以下の攻撃を無効化する。

 『火炎のブレス』・広範囲に3点の炎の射撃を行う。


 テキストは野生を『鑑定』したときと変わらない。

 召喚コストは6か。喚べるのはいつになるやら、見当もつかないな。


 そのカードと、横たわる巨体を見比べて――


「――っし!」


 俺は、ひそかに拳を握りしめた。

 ニーナさん、ネネちゃん、防具屋のおやっさん、無事だろうか。

 スラムのガキども。なんもしてやれねぇけど、元気でいるか?


「少しは……がんばれた、よな?」

「何言ってんのよ、コタロー!」


 突然、背中をバンと叩かれた。

 振り返ると、弓を携えたアシュリーがニッと笑っていた。


「あんたの召喚獣でドラゴン倒しちゃったんでしょ、大金星よ。ドラゴンスレイヤーなんて称号が付いちゃうんじゃない?」


「あのな。倒したのは俺だけじゃないんだが……領主軍やアシュリーたちがドラゴンの気を引いてくれたから上手くいったわけであって。ナトレイアだって……」


「それに、あんたエルフまで召喚できたのねー。これホントに召喚獣?」


 その言葉に続いて見えた姿に、俺は息を呑む。

 新緑色の長髪をした、エルフの男。――弓聖グラナダイン。

 俺の召喚した、初めてとも言える、『話のできる』伝説のカード。

 トルトゥーラはデメリットがキツすぎて、ゆっくり話すなんてできないからな。


「我が主、編纂者よ。話したいことはいくつもあるだろうが……それは、折を見よう。狂気の悪魔共々、我らのことを語るかどうかは貴方に任せる」


「わかった。後で別の場所でもう一度召喚する。トルトゥーラもカードに戻したし、周りに説明しろって言われるだろうけど、話が長くなるしな」


「それが良いだろう。我々としては、一刻も早く我らの存在を示したいところだが、我らはすでに長い時を待った。あと少し待つくらいは、何でもないさ」


 そう言って微笑むグラナダイン。

 イケメンだなー。さすがエルフ。こんな美形で弓の名人でも人から忘れられたりすんのか、歴史の流れはむごいな。


 ふと、グラナダインは自分の持つ装飾入りの長弓を差し出してきた。


「そこの弓士が持っている『木の弓』は貴方の召喚物だろう? そんなものより、これを使うと良い。我が生涯をともに歩んだ愛弓だ、きっと役に立つ」


 弓が光に包まれ、俺の手元に一枚のカードが現れる。

 カード一覧、っと。


『流星弓、グラナート』

2:装備品:対象に2点の射撃を行う。

 『名称』・同じ名称を持つ装備品は、一つしか召喚できない。

 ・この装備品の射撃でダメージを受けた対象は、『飛行』を失う。


 2コスト召喚の、飛行阻害と名称付きの弓か。これは助かる。

 グラナダインの召喚時能力と違って、攻撃を当てないと飛行を無くせないみたいだけど。威力も高いし、命中率の高いアシュリーに装備してもらえれば戦力が上がるな。


「ありがとう、助かるよ」

「それでは、また。――我が身のことに、思い当たる輩もいるようだからね」


 思わせぶりな視線を周囲に向け、グラナダインはカードに戻った。

 なんだ? 忘れられた伝説の存在を、覚えてる奴でもこの中にいるのか?


「ここにいたか、コタロー」

「ギルマス」


 ギルマスと、なぜだか一緒にいる上級騎士三人が俺を見つけて声をかけてきた。

 四人は周りで盛り上がる兵士たちと同じように上機嫌だ。


「やぁ、治癒術士改め、召喚術士殿。大した召喚獣だったな。ギルマスに聞くに、呼び出している間は命を削る、きみの切り札だそうだが。――様子を見るところ、体調は問題無さそうだな」


 そう言って俺を心配してくれたのは、アランさんだ。


「ああ、自分で回復したんで大丈夫です。それより、ありがとうございました。アランさんがいなかったら、俺の召喚獣もナトレイアもドラゴンの尻尾に潰されて終わりでしたよ」


「できることならこの手で倒したかったところだが、なに、討伐さえできたなら辺境伯閣下も文句は言わんさ。散っていった者たちにも、良い報せを届けられるよ」


「何よりです。亡くなった方々のご冥福をお祈りします」


 つかの間の黙祷の後、ギルマスが歩み出た。


「よくやってくれた、コタロー。――ときに、衛兵隊から聞いたが、お前は他の国の出なのだとか?」


「そうですね、ギルマス。ちょっと事情が事情なので、全部信じてもらうのは難しそうですが」


「いいんだ。お前はこの街のために尽力してくれた。治癒術士としての功績も信用に値する。そこでな、お前に領主軍から誘いが来ているんだが、興味はあるか?」


 ギルマスの言葉に、俺は思わず目を見開いた。

 ヘッドハンティングですか。身元も定かじゃない、他国人なのに?

 その話を裏付けるように、上級騎士のアスタルさんとクルートさんが笑顔を浮かべる。


「出身は確認できなくとも、行いに怪しいところは無いと聞いていますよ。僕ら上級騎士並みの召喚獣を喚び出せて、回復魔術も一級品。軍人ならば、是非とも欲しい逸材です」


「もちろん、待遇は保証するぜ? 危険は多少あるが、後方支援部隊の正規兵待遇だから比較的安全でもある」


 奇貨居くべし、ってか。しまった、目をつけられたな。

 領主軍ってことは、公務員相当だろうから、生活は安定するんだろうけど。


「すみません、この街の衛兵さんには話したんですが、俺は自分の国に帰る方法を探してまして。迷子みたいなもんなんで、ちょっと公職には就けないです。いずれこの国を離れる身なので」


「もったいないな。いっそこの国に骨を埋めちまう気は無いか? 割と良い国だぞ?」


 狼獣人のクルートさんがなおも誘ってくれる。

 確かに、いい人は多いんだけどなー。領主軍の人たちも人当たり良いし。


「いくら良い国でも、変に上を目指して縛り付けられる気は無いですよ。貴族とかに目をつけられて、囲われて逃げられなくなっても困るし」


「あはは。それなら、半分手遅れですね」


 弓士のアスタルさんが苦笑する。どういう意味だ?


「僕たち上級騎士も一応貴族ですよ。騎士爵という、一代限りで一番下の爵位ですけどね。――アランだけは、子爵でまっとうな貴族ですが」


 げっ。この人たちも貴族かよ!

 ってか、そうか、領主軍にも六人しかいない幹部なんだから、平民なわけないのか。

 『鑑定』で家名が出なかったから油断した。苗字は出ない仕様なのか?


「って、てことは、こうして頭を上げて話してると、不敬罪で打ち首とか……?」


「そんな無体な真似ができるか。逆に、私たちが貴族法で罰せられてしまうわ」


 うろたえる俺に、アランさんが呆れたような目を向けてくる。


 貴族にも貴族として遵守すべき法が定められているらしく、生産者兼納税者である平民相手に、不条理な難癖はつけられないらしい。

 無論、法を悪用する小悪党や裏の権力を持つ大貴族もいるにはいるようだが、大多数は整備された法律に従って粛々と領地運営してるとのこと。

 意外とまっとうな国なのね。


 アランさんたち子爵以下の下級貴族なんかは、領地も小さいし領内の人手も少ないので、領民である平民階級の作業を手伝ったりすることも多いそうな。

 でもって派閥上位の貴族からの命令には逆らいがたい、と。

 それ特権階級とは名ばかりの社畜じゃないですかやだー。


「どうした、微妙な顔をして?」

「いや……どこも世の中は世知辛ぇなぁ、って」


 強く生きてください、上級騎士の皆さん。


「まぁ、事情が事情だからな、勧誘は諦めよう。その代わり、領都には一度来てもらうぞ? 今回の勲功の報奨もあるし、そちらも領都になら故郷へ戻る手がかりもあるかもしれんだろう」


「ギルドの依頼だったから、報酬は冒険者ギルドから貰うんじゃないですかね?」


「あのエルフの剣士もそうですが、ドラゴンの討伐者を表彰もせずにお金を渡して終わり、じゃ怯えさせられた領民が納得しませんよ。それに、あの黒い召喚獣とどうやって契約したのか、とかも詳しく聞きたいですしね」


 ああ、危機は去ったと領内を盛り上げたいのね。

 こりゃ逃げられないか。でも、この世界の作法とか全然わからんぞ。


「……あのー、アシュリーさーん……?」

「はいはい、パーティ組んでるんだから、ついてって教えてあげるわよ」


 こっそり隣のアシュリーに目をやると、頭を抱えながらアシュリーが請け負ってくれた。


 ありがとう、アシュえもん。頼りにしてます。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ