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星々を墜とす者



 我が渾身(こんしん)の一矢、この世に射抜けぬものなし――

 かつて、世界の片隅に、弓の高みを目指した男がいた。

 その望みは果てなく、森羅万象、天地の全て。夜空の星々すらをも墜とすことを夢見て、不乱に腕を磨き続けた。

 エルフという長命種の、悠久の生涯その全てを弓に捧げ、天の星々に挑んだ愚か者。

 今は語る者も無き、忘れ去られた――


 ――天を射貫(いぬ)く、不屈の弓聖。  



******



『我が名を呼べ、編纂者! この一矢をもって、天の星々をも墜としてみせよう!』


 俺の中から聞こえるその声に。

 俺は、俺を形作るその一つの名を叫ぶ。

 朽ちた神格。一つの伝説の名を。



「召喚――――『流星の聖弓、グラナダイン』!!」



 現れたのは、エルフの男だった。

 革鎧に身を包み、森の若葉のような新緑の長髪をたなびかせ、天に向けて装飾の入った長弓を引き絞っている。

 二本の足で街壁の足場を踏みしめ、その男は蒼天に向かって一本の矢を放った。


「我が研鑽、我が生涯! 天地万物、墜とせぬものはなし!」


 その矢が真っ直ぐに空に吸い込まれていったか、と思った瞬間――


 今にもブレスを吐かんと空を舞っていたドラゴン。

 その巨体に、天空から無数の光の矢が降り注いだ。



「グギャォオオオォォ――――――――――ッッッ!!!」



 猛烈な地響きとともに、空を舞っていたドラゴンが地表に激突した。

 無数の光の矢に縫い止められるように、竜の巨体が地に叩き落とされる。


 ドラゴンの身体が、爆炎に包まれる。

 地に墜とされ、放てなかったブレスが閉じた口の中で暴発したのだ。

 もがきながらも、地に伏せていたドラゴンが、燃え上がる炎の中で飛び立とうとする。が、両翼に突き刺さった無数の矢がまるで縫い止めるように翼の動きを阻害している。


「――我が弓の前に、天を舞えるものなどありはしない」



『流星の聖弓、グラナダイン』

2:2/2

 『名称』・同じ名称を持つアバターは、一体しか召喚できない。

 『射撃2』・2点の射撃を行う。

 ・このアバターが召喚されたとき、望む数の対象は、

  このアバターを召喚している限り『飛行』を失う。



 トルトゥーラと同じ、『伝説』のカード!

 ――召喚時能力! しかも『飛行』阻害!


 召喚されたエルフの男――グラナダインは、俺を振り返り、言った。


「今ならば貴方の手が届く。征くのだろう、主よ?」


 グラナダインはスタッツこそ平凡だが、今この場においてはそんなのは些細なことだ。この能力こそ、状況を打開する値千金の一手!


「――ぬぉっ!?」


 意気込む俺の襟首を、誰かが掴んで引っ張った。

 剣を携えたナトレイアが、俺の身体を引き寄せながらニヤリと笑っていた。


「大したものだ、召喚術士。覚悟は決めているな? 約束通り、連れて行こう。きみと私ならば立ち向かえるならば、今戦場に立たずして何とする!」

「ちょ、ちょっと待て! 引っ張るな、首が絞まっ――あああぁぁぁっっ!?」


 ナトレイアは俺を抱えたまま、高度のある街壁から飛び降りた。

 人間の飛び降りて無事で済む高さじゃない。にも関わらず、砂煙を巻き上げながら、ナトレイアは俺を受け止め戦場に着地した。

 HP4――鍛えた常人のさらに倍を誇る体力は、こんなことまで可能にするのか。


「そこの兵士、馬を借りるぞ! 召喚術士、きみは私の後ろで掴まっていろ!」


 街道に展開する騎馬兵から馬を奪い、俺を後ろに乗せて手綱を鳴らす。

 目指すは一つ、駆け向かうは倒れ伏したドラゴン!

 殺到する領主軍に、ナトレイアは名乗りを上げるように大声を張り上げる。


「下がれ、下がれ! その鱗には尋常の刃など通じぬ! 何人かかろうと意味は無い、猛者の剣のみがその刃を通す! 我らが一撃、ここに在り!」


 戦場を駆ける中、指揮を執っていたアランさんとすれ違う。

 俺はとっさに、アランさんに語りかけた。


「アランさん、効くのは俺たちの攻撃だけだ! 兵を下がらせて、一緒に行こう!」


 騎乗して指揮を執っていたアランさんが、その言葉に表情を引き締め、剣を手に執り俺たちに併走する。


「下がれ、皆の者! 我らはこれより――竜を討つ!」


「アランさん!」


 号令をかけるアランさんに、俺はナトレイアにしがみつきながら、声を絞り出した。

 こんなときに言わなきゃいけない台詞なんて、一つしかない。


「追っ払うなんて言ってたけどさ――倒しちまっても、いいんだろう?」


「無論だ! 征くぞ!」


 アランさんの表情にも笑みが宿った。意志猛る、闘志の笑みが。


「竜が立ち上がるぞ!」

 兵士たちのどよめきが上がる。

 ドラゴンは飛び立つことを諦め、二本の太く短い足で立ち上がろうとしていた。

 距離は十分。

 俺はナトレイアに引きずり下ろされ、二人で馬から飛び降りる。


 地面の上を滑るように降り立ち、俺はカードを選択した。

 グラナダインの召喚で消費した魔力は、すでに満ちている。

「ナトレイア! アランさん! 喚ぶぞ!」

 ドラゴンを見据え、叫び声とともに召喚を行う。


「来い! ――『狂気の悪魔、トルトゥーラ』!」


『――出番か! 相手にとって不足はねぇ!』


 戦場を二足で踏みしめる、黒い獣。

 同時に、俺の中からごっそりと何かが抜けていく感じがする。HPが下がったな。


『狂気の悪魔、トルトゥーラ』

1:4/4

 『名称』・同じ名称を持つアバターは、一体しか召喚できない。

 ・このアバターを召喚している限り、あなたの最大HPは3になる。

 ・あなたのHPは、時間経過(三十秒)とともに1ずつ失われる。


「行けぇ、トルトゥーラ!」

『応よ!』


 ナトレイアとともに駆けていく黒い巨躯。

 その二人に向けて、ドラゴンが動き出す。地上をなぎ払おうと振るわれる巨大な尾。千年樹の丸太のような、背丈を超える太さの鋼の硬度の尾が、向けられる。

 まずい、ドラゴンのスタッツはHP、攻撃力ともに6。

 HP4しかないナトレイアとトルトゥーラじゃ、まともに食らえば一撃でやられちまう!


 そのとき、振るわれるその尾に向けて、飛びかかる影があった。


「領民を守るは、騎士の務めよ!」


 鋼の竜尾に向けて、アランさんが横から剣の一撃を叩き込んだ。

 竜鱗を破れる威力の一撃は、ドラゴンの攻撃を相殺するには至らなかったが、見事にその軌道をそらした。

 ナトレイアたちに届くことなく、尾は傍らの大地を抉る。

 地響きを立てる尾をかいくぐりながら、二人はドラゴンに接近した。


 ドラゴンが二人を見据える。今度は爪か、それとも牙か。

 攻撃を繰り出そうとするドラゴンに、矢の雨が降り注いだ。

 振り返ると、街壁の上で、グラナダインに並び立つアシュリー、そしてギルマスに指揮された冒険者たちが弓を構えていた。アスタル率いる弓兵たちも、ドラゴンの気をそらそうと援護射撃を行ってくれている。


 ドラゴンの首が街壁の方を向いたのを好機と、ナトレイアが剣を振るい巨体に飛びかかる。その剣に魔術の光を宿して。


「行け、ナトレイア!」

「この一撃、耐えきれるものなら受けてみよ!」


 ――『精霊の一撃』。


 倍加されたナトレイアの攻撃力がドラゴンの巨体を斬り伏せる刃となって、鱗を破り、肉を裂く。

 ドラゴンの苦渋の咆吼が天に響く。

 けれど、それだけでは倒しきれない。竜鱗を破って一撃を与えても、ドラゴンのHPは6。ナトレイアの一撃だけでは足りない。だからこそ、


『――お仕置きの時間だぜぇ?』

「トルトゥーラぁ! 時間は気にすんな、ぶちかませ!」


 トルトゥーラの活動には、俺のHPという限界がある。

 けれども、このカードがあれば、その限界は自在に伸ばせる。


「――『治癒の法術』!」


 回復スペルが俺のHPを補充し、トルトゥーラの活動限界を伸ばす。

 ナトレイアに続き、トルトゥーラの追撃がドラゴンを狙う。


 情熱とも悪心とも呼ばれた、狂気の黒い獣。

 かつて民衆に語られたおとぎ話が、『竜』を(ほふ)る。

 それは、流星の聖弓とともに、忘れられた伝説たちがこの世界に蘇る瞬間――


『――オラァっ!!』



 駆け上がったトルトゥーラの黒い爪が、ドラゴンの頭を粉々に吹き飛ばした。









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