冒険者たち
「ん? どうした、デルムッド?」
森の中を散策して、そろそろ帰還しようかと言うときに、俺のそばを歩いていたデルムッドが様子を変えた。
森の奥を凝視して、低い唸り声を上げている。
「なんだ、獲物がいるのか?」
「森の主はコタローが倒したから、そんなに強いモンスターはいないはずだけど……?」
敵の存在――
と考えたところで、とある可能性に思い至った。
モンスターの大移動だ。
原因がそこにいないにしても、昨日冒険者たちを襲ったモンスターの群れがこの先にいないとも限らない。
「どうする、アシュリー? 退くか?」
「そうしたいのは山々だけど、できることなら数を減らしておきたいのも確かなのよね。この弓なら矢の数を気にする必要も無いから、何とか数を減らせないかしら」
そりゃそうだ。
またあんな被害が出たら、今度は死人が出る。一人や二人じゃ済まないだろう。
かと言って、俺たちがその一人二人になってしまっても論外だ。
「仕方ないな。デルムッド、ハウンドウルフたちに指示して、モンスターの群れがいるなら場所を特定してくれ。近づき過ぎないように数を減らそう」
バウ、とデルムッドはうなずいてくれた。
安全第一だ。
*******
とは、いかなかった。
茂みをかき分けて進むうち、俺たちの耳には予想もしなかった音が飛び込んできた。
金属のぶつかる音――剣戟音だ。
「コタロー、向こう! 冒険者が、モンスターに囲まれてる!」
「やっぱ大移動か……にしても、まずいな。数が違いすぎるぞ!」
ボアオークとハウンドウルフ、そしてポイズンバイパー併せて二十体あまりの群れに囲まれているのは、わずか三人の冒険者たちだった。
一人は金属鎧に身を包んで大きな盾と長斧を構えた戦士風の男。タンクだろう。
もう一人軽装の身軽そうな冒険者も前衛に加わっているが、残る一人は女性だ。それも、武器らしき武器を持っていない。大きな杖だけだ。治癒術士か?
男二人が女性を守る形で前後を守り、その周囲をモンスターに囲まれている。
どう見ても、多勢に無勢。そう長くは持ちそうに無い。
「どうする、コタロー!?」
「アシュリーはここから弓で援護してくれ、ゴブリンはその護衛! ――デルムッド、ハウンドウルフ隊、集合!」
四の五の言っている間に前衛の男たちに傷が増えていく。
強襲して、群れの注意を分散させないとまずい!
「ハウンドウルフ隊、行くぞ! 全員突撃! 襲われてる人たちを救い出せ!」
いくつもの雄叫びが重なり、『敏捷』の狼たちが駆けていく。
突然戦場に現れた四つの影に、モンスターたちも冒険者たちも混乱をあらわにした。戸惑うボアオークの前に囮のウルフが駆け回り、横からデルムッドが喉笛を咬み切る。
新手のモンスターだと誤解されないよう、俺は茂みから身を乗り出して叫んだ!
「待て、俺も冒険者だ! その狼たちは俺の召喚獣だ、加勢する!」
「すまん、誰だか知らないが助かる!」
盾役の注意がこっちに向いた隙を狙って、ボアオークが女性を狙おうとする。
させるか!
「召喚! 『スモールウォール』!」
俺のそばに、地面から生まれたかのような石壁が現れた。
囮に最適、『誘導』持ちのスモールウォールだ。モンスターども、てめぇらはまずこっちを攻撃しやがれ!
『誘導』の効果はてきめんだったようで、女性を襲いかかろうとしたボアオークや周囲のモンスターの視線がいっせいにこちらを向いた。
「うおぉぉぉ、俺んとこに来んな!」
巻き込まれる形でしっかりそばに立つ俺も狙われているわけだが。
飛び掛ってくる野生のハウンドウルフは、その牙を届かせること無く地面に落ちた。どのウルフの額にも、背後から飛来した木の矢が突き立っている。
アシュリーの狙撃だ。
「ナイス、アシュリー! ――デルムッド、ウルフ隊、かく乱しろ! スモールウォールに気を取られてる奴らの隙を突け!」
「俺たちもいるぜ!」
襲われていた冒険者たちも攻勢に回った。
召喚したハウンドウルフたちと一緒に、スモールウォールに向かっていくポイズンバイパーなどの背を切り裂いていく。
ウルフ隊の活躍もあって一瞬で半数を片付けたところ、冒険者たちの攻撃を潜り抜けたボアオークが、俺とウォールの前に槍を構えて立ちはだかった。
あ、これアカン奴や。
「い、いや、あの……話し合いませんか? 話せばわかると思うんだよね」
ダメです。
そう言わんばかりに野生のオークは首を振った。ですよね。
ヤバい! いよいよ、おやっさんに見繕ってもらった防具の出番か!
そんな風に思ったとき、
「撃ち放て! 『ファイヤーボール』!」
突如、ボアオークが炎に包まれた。
悲鳴とともに崩れ落ちる焼けオーク。
背後を見ると、冒険者の女の子が手に持った杖をこちらに向けていた。
今のはあの子が? ってことは、治癒術士じゃなくて攻撃魔術士か!
思わず『鑑定』を試みる。
名前:ミリィ
種族:普通人
1/2
魔力:3/5
3:『ファイヤーボール』
魔力が減ってる。たぶん間違いないな。
女の子に親指を立てて礼をする。と、同時にウォールのそばから退避。
ウォールは壊されてカードに戻るが、女の子には盾役が護衛に回っていた。
モンスターの数もだいぶ減った。ここからは相手が逃げるまで殲滅あるのみ!
「召喚! 『ゴブリンアサシン』!」
ゴブリンアサシンの『強襲』で、ウルフ隊の援護をする。
気がつくと、俺たちの周囲には動くモンスターはアバター以外残っていなかった。
「あ、あの、さっきはありがと。俺を助けてくれたのは、魔術か何か?」
「は、はい、そうです! 私、これしかできなくて……一度に二回しか撃てないんで、当たってくれて良かったです」
女の子――ミリィは恐縮しながらも、杖を握り締めて俺に頭を下げてくる。
なるほど、やっぱり魔力を使って撃ってるのか。
そう思っていると、俺の目の前に光が集まる。
新しいカードだ。
『ファイヤーボール』
3:対象に3点の炎の射撃を行う。魔力を1回復する。
おお、攻撃魔法!
まだ俺には使えないが、なるほど。ミリィの魔力は5。3使って1回復して、残りは3。二回は撃てるが、撃つと魔力切れになる計算か。
3点の火炎攻撃は結構強力だな。ボアオークのスタッツが2/3だから、一撃で倒せる威力だ。
そうこうしていると、冒険者たちのリーダーらしき盾役が武器をしまって俺に近寄ってきた。
「すまない、助力ありがとう、助かったよ」
間近で見ると、屈強で真面目そうな人だな。
いかにも冒険者って感じだ。
無事そうなら良かった。




