デルムッド統率、狼部隊出陣!
ギルドで大量のケガ人を治療した翌日、ファリナさんにアシュリーとのパーティ登録を処理してもらうことにした。
告知との順序が逆だったけど、これで名実ともにアシュリーとコンビを組むことになったわけだ。
で、俺の目下の課題として、狩りに出かけなきゃいけない。
もちろんアシュリーの本職だからという目的もあるが、一番は俺の階位上げだ。スラムでも昨日のギルドでも『治癒の法術』や『解毒』を使いまくったのに、まったく上がる気配が無い。
RPGよろしく、何か生き物を狩らなきゃ上がらない可能性が大きくなったので、そのことをアシュリーにも話して狩りに出かけることになった。
「そうね。まずは差し当たって、コタローの護衛を考えなきゃいけないわ」
「それは任せてくれ。考えてたことがあるんだ」
俺自身は有効な攻撃手段を持たない。
ここは当然アバター召喚で戦力を編成することになる。
同時に呼び出せる召喚枠は七つ。
まずは、最強戦力デルムッドで一枠は確定。
予備枠で一つは空けて、これで残り五枠。
そのうち四つを、俺は同じアバターで固めることにした。
「召喚! 『ハウンドウルフ』!」
・『ハウンドウルフ』
2:2/1 敏捷(・関連するケガを負っていない限り、高確率で攻撃を回避する)
デルムッドと同じ『敏捷』持ちの狼四体が街の入り口に勢ぞろいする。
どこかの日光のお猿さんたちのように行儀良くお座りで整列する様は、何ともモフモフしい。ネネちゃん辺りは喜びそうだな。
「デルムッド。お前にこの群れを任せる。上手く統率してくれ」
オン! とデルムッドが答え、四匹のウルフに向かって一声吠える。
ハウンドウルフたちはいっせいにガウ! と答え、揃って頭を垂れた。
「というわけでアシュリー、こいつらに戦闘と索敵を任せよう。『探知』持ちのデルムッドが指揮してくれる形なら、森の中でも機敏に動けると思う」
「そ、そうね。狩猟には元々猟犬を連れて行くことも多いし、いい判断だと思うわ」
残り一枠は、荷物持ち兼近接護衛のゴブリンを呼び出して、編成完了。
今回は一体だけだったが、相変わらずゴブリンはノリ良く大鹿の角を振るう。その動き、初代無双ものゲームの武将の演舞だよな? なぜにお前が知っている?
「それじゃ行きましょっか、コタロー」
「あいよ」
*******
というわけで森の中。
この世界に飛ばされた直後、俺がサバイバルした森林に俺たちはもう一度やってきた。
アシュリーいわく、この森を狩場にしている冒険者はそれなりの数いるらしい。
ただ、食料や獲物の運搬などの問題で、深く立ち入る者は少ないとのこと。
魔法のかばんを持っているアシュリーにとっては、森の奥は獲物を占有できる絶好の狩場に違いない。
「デルムッド、頼んだぞ」
ワウ、と吠えてデルムッドは配下のハウンドウルフたちと森の奥へ進んでいく。
「いい、コタロー。絶対に前に出ないでね? なるべく獲物にも近寄らないこと」
「わかってるよ。――あと、大群の気配を感じたら引き返す、だろ?」
「そうよ。昨日冒険者たちがやられた大移動が、すぐに収まってるとは思えないんだから」
そうなのだ。
多くのケガ人を出した、原因不明のモンスターの大移動。
その詳細な原因がまだ判明していないので、アシュリーにはもちろん、ギルド受付のファリナさんからも森の中に行くのは止められた。
冒険者ギルドの本音としては、調査が終わるまでは森や同じく狩場である平原には立ち入らないで欲しい、というのが正直なところだ。
だが、狩りを中断すると生活が成り立たない冒険者も多数いる。
俺の場合は戦うのが主に召喚獣だから、という理由で半ばゴリ押しする形でファリナさんを納得させている。
何せ、どうすれば階位が上がるのかわからないのだ。
俺にとっては階位上げは日本に帰還できる唯一の光明、多少の無理はしてでも、早くその指針を確立させたい、という気持ちが強い。
何とか、法則を解明しなければ。
「ところでアシュリー。森に住んでるモンスターの種類は、この間出会ったので全部か?」
「そうね、だいたいは初対面のときの狩りで遭遇してるけど。別の縄張りに行くと、毒を持ってる奴がいるから気をつけてね。『ポイズンバイパー』とか、『アサシンメイビス』とか。人食い植物の『エビルヴァイン』とか」
この世界はツグミまで毒を持ってんのか。
どこまで好戦的なんだ。
話しながら森の中をかき分けて進んでいると、召喚したハウンドウルフが一体戻ってきた。どうやら伝令役らしい。
「獲物を見つけたのか?」
オン、と一声鳴き振り返って先導するウルフ一号。残りは獲物を追いかけているんだろう。俺とアシュリーは、護衛のゴブリンを連れて急いで後を追った。
「――いた!」
案内された先では、デルムッドたちが大角鹿――『ブレイドスタッグ』を三匹包囲している場面だった。
周囲を囲み、威嚇して逃がさないようにしている。
「よくやった、デルムッド! ――アシュリー!」
「言われなくても! やっぱりデルムッドたちは頼りになるわね!」
弓に矢をつがえ、狙いを定めるアシュリー。
威嚇されて動けない鹿たちはアッと言う間に次々に矢の餌食になった。
獲物をバッグに収納する間も、ウルフたちは周囲の警戒を怠らない。
一匹が俺たちの元に留まり、残りは周辺を散策して危険や獲物の存在が無いかを確認している。
「これだけの猟犬が揃っていると壮観ね」
「そうだな」
能力的には『探知』を持たなくても、やはり嗅覚は鋭いのだろう。
森の中にも関わらず、視界の悪さを苦にしている様子は無かった。
周囲の木には鹿の角の跡らしき傷が刻まれて、交戦の跡が見られるものの、ウルフたちが負傷した様子はまったく無い。
どうやら、俺の思っていた以上に『敏捷』を持つウルフたちの集団は、戦力として頼もしいもののようだった。




