風雲急を告げる
アシュリーに連れられて、ギルドの二件隣にある防具工房へとやってきた。
店主は不精ヒゲを生やしたムキムキのおっちゃんで、いかにも職人然として愛想悪くカウンターに腰かけている。
「……らっしゃい」
うお、すげぇ迫力だな。
体格的にドワーフってわけじゃなさそうだが、炭鉱夫か山賊と言われてもおかしくない強面だ。
だが、そんな店主の迫力にも負けず、アシュリーは明るく店内に踏み込んでいく。
「おじさーん、こいつの防具見繕ってあげて! 力は無いけど、狩りに行きたいんだって!」
「……力が無いのにどうやって狩るんだ? 弓か?」
怪訝そうな顔で俺を見るおっちゃん。
気を取り直して、俺は店主のおっちゃんに要望を伝えた。
「えーと、俺は召喚術士なんで狩るのは主に召喚獣です。治癒術が使えるんで、役割的には後衛になります。要望としては、魔術を使いたいので右腕を空けられる装備だと嬉しいですけど」
「ふむ……」
おっちゃんは俺の身体をじろりと見回して、しばし何事かを考えていたようだった。
「そうだな。体力が無さそうだから金属製の防具はやめとけ。重い。前衛じゃないんなら、軽くて丈夫な皮鎧や皮の篭手を身につけて、基本は逃げながら要所だけそれで防ぐのがいいだろうな。どれ、適当な奴を探してきてやる」
おっちゃんは的確な判断を聞かせてくれて、店の奥に引っ込んでいく。
持って来てくれた装備は、アシュリーの身に着けているような、なめし革の一式だった。
「小僧。予算は?」
「え? あ、小僧って俺か。そうですね、銀貨十枚から十五枚くらいに収まると」
「意外と持ってるか、それならこれだな。ハードボアの胸当てに、ブラッドオーガの肩当てと篭手。金が出来たら、ひざを守るスネ当てか脚甲も買うといい。ブーツでもある程度は代用が効くがな」
おお、それはありがたい。
胸当てを初めとする装備は、革のベルトでサイズを調整する方式だった。
基本的に胸当ては最後の保険で、肩当てか篭手で相手の攻撃を逸らすのが主な身の守り方になるだろうな。
それにしても、このブラッドオーガってもしかして俺たちが狩ってきた森の主か?
「見たところ丸腰だな。一応、ナイフくらいは持っておけ。森の中だと戦闘以外でも役に立つ、俺の仕事用の予備で手入れしてあるからそのまま使えるぞ。防具と併せて、締めて銀貨十二枚でいい」
「あ、すみません、武器まで用意してもらって」
「ふん。まともな武器なら二つ隣の武器工房を薦めるがな、小僧の細腕じゃ、武器らしい武器は使えんだろう。それはただの気休めだ。間違っても自分で斬りかかろうと思うな」
態度は無愛想だが、至れり尽くせりの親切さだ。
結構良い人、というか仕事に対して真面目な人なのかもしれない。防具屋ってくらいだから、冒険者の身を守る装備を売る場所だもんな。
客の安全には敏感なんだろう。
「コタローもやっと、冒険者っぽくなったわね!」
「お、そうか? 有り金の大部分使った甲斐があったな!」
「身体はすっごい細いけどね」
上げて落とすね、アシュリーさん。
「……防具に金をかけない奴は早死にする。てめぇの命の値段だ、惜しむもんじゃねぇ」
ぼそりと、おっちゃんがそんなことを言った。
おっちゃん……
身を守る装備に、最初から金をかけられる俺は、冒険者として恵まれてるんだろうな。
俺は武器を使えないし、使う必要も無いから防具に金をかけられたってのもあるけど。
支払いを済ませ、アシュリーとおっちゃんに着け方を教えてもらいながら、装備を身につける。
おまけでもらった革の鞘にナイフを収めて、腰にくくりつければ完成だ!
「よし、結構金使っちまったし、また稼がないとな!」
「明日にでもあたしと森に入りましょ、コタロー!」
和気藹々と盛り上がる俺とアシュリー。
そのとき、店内に飛び込んでくる白い影があった。
猛烈な吠え声で、俺を呼ぶ声。
「うお、何だ、この白い犬は!? 小僧の連れか!?」
「デルムッド!? ギルドで何かあったのか!?」
驚く俺に吠えかけ、呼びかけるデルムッドの姿。
いかん、何だかヤバそうな予感がする。連絡役のデルムッドがこれだけ慌てているのはただ事じゃない。
「急いで戻るわよ、コタロー!」
「おう! おっちゃん、防具ありがとう、大事に使う!」
目を瞬かせる店主のおっちゃんを後目に、俺たちは防具工房を飛び出した。
*****
冒険者ギルドは、さながら野戦病院のようだった。
先ほどまでは影も形も見えなかった負傷者たちが、何十人も大挙してギルドのそこらに寝かされている。
そのあまりの急変振りに、俺は受付で冒険者たちから聞き取りをしているファリナさんに駆け寄った。
「何があったんですか、ファリナさん!?」
「コタローさん! それが……モンスターの大移動らしいんです。森の中で探索していた冒険者たちが、多数のモンスターに襲われたらしくて。被害者の話によると、モンスターたちが駆り立てられたように大移動をしているところに出くわした、と」
駆り立てられた……
その言葉に、俺は森の中でオーガから逃げていたオークの群れを思い出した。
あのとき、狩る側であるオーガがすぐ後ろにいたためオークたちは俺たちを振り返る余裕が無かったが、もし同じ状況で戦闘になっていたら。
ゾッとする。
その状況に巻き込まれた姿が、この惨憺たる負傷者の数だ。
ベテランならまだなんとかなるかもしれない、だが、なかには負傷した駆け出しの初心者も、重傷者も大量に運び込まれていた。
「何とかしてくれ、ゾッツが死んじまう!」
「アムド! しっかりして!」
パーティの仲間の出血を抑えている若い冒険者たちが、悲鳴を上げた。
ギルドの広間のそこかしこで、似たような重傷者がうめき声を上げている。
「コタローさん……どうにか、なりますか?」
「コタロー……この人数……」
「話は後です、ファリナさん、アシュリー」
四の五の言ってる場合じゃない。
まずは時間的に猶予の無い重傷者を選別して、軽傷者はその後だ。
俺は、カードを呼び出しながら言った。
頼むぜ、『治癒の法術』。
「全員、治してやる」




