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森の中のカード使い



『……新しいシステムをダウンロードしています……』



 遠い、誰かの声に目を覚ます。

 俺は、大型車に轢かれたはずじゃなかったのか?


 目を開き、周囲を見回すと、そこは森の中だった。

 樹齢千年はあろうかという大樹に背を預け、俺は気を失っていたらしい。


 なんだ、ここ。自然公園?

 こんな大きな樹は普通、都会には無いぞ。

 それに、周囲の森も間伐(かんばつ)されていないのか、木々が密集してほの暗い。

 長い間、人の手が入ってない森林か。本当に日本か?


「神隠し……? そうだ、GPS……」


 立ち上がり、スマホを探そうとポケットを探る。

 しかし、スマホは見つからなかった。車に轢かれたとき、手に持っていたからな。落としたか、車に轢かれて壊れててもおかしくない。


 自分の様子を確認すると、休日の書店帰りの服装のままだった。

 ただ、手には何も持っていない。

 ポケットをあさっても、財布も家の鍵も、スマホも無い。


 辺りを探ると、買ったはずの書店の袋も無かった。

 ただ、見覚えのある形の、小さな白いパックが目に入った。


「カードの……パック?」


 そう、本と一緒に買ったTCGの小売(ブースター)パックだ。

 けれど、デザインがおかしい。ゲームメーカーの作ったイラストもロゴも何も印刷されておらず、形だけパックを模した白い包装に変わっている。


 本当に自分が買ったものか? と首を傾げつつ、何気なしに開封した。

 すると、開いたパックが突然に淡い光を放ち、手の中から消える。


「うわっ!?」


『新規カードを入手しました。カード一覧画面で確認してください』


 驚いた。

 目の前に、SFでよくあるホログラムのようにウィンドウが開いている。

 メッセージログの欄の上にはいくつかタブが並んでおり、俺はおそるおそると指でタブに触れてみる。


 表示されているのは、【メッセージ】【状態確認】【カード一覧】の三つ。

 【状態確認】を選択する。



名前:コタロー・ナギハラ

職業:召喚術士

階位:1

HP:5/5

魔力:1/1

攻撃:0


スキル

『アバター召喚』『スペル使用』『装備品召喚』

『魔力高速回復』『カード化』『異世界言語』



 ちょっと待て。

 これは、ス、ステータス……

 まさか。ウィンドウの時点で薄々気づいてたけど。


「――ここ、異世界かよ!?」


 おいおい、よりにもよって剣と魔法のファンタジー世界に突入ですか!?

 何でそんなことになってんだよ。車に轢かれたけど、トラックじゃねーぞ!?


 暴走車に轢かれて、生きてるだけマシなのかもしれないけどさ。

 これ、元の世界に帰れるのか?


「かねやん、時田、シノさん、倉科さん、飯山店長……みんなぁ……」


 懐かしい友人たちの顔が脳裏に浮かび、泣きたくなる。

 せっかく、会いに行こうとしたのに。みんなにはもう会えないのだろうか?


 両親たち家族は、一人暮らしをしてた関係ですぐには心配されないだろう。でも、無断欠勤で会社をクビになったり、住んでる部屋が家賃未納で解約されたりすると連絡が行って、すぐに失踪が知られることになる。

 そうすれば捜索願も出されるだろう。

 そうなったらどのツラ下げて帰れるのか、という気分にもなるけれど、家族や仲間たちを安心させるために、できることなら元の世界に帰りたい。


 上司? いや、十把一絡の新入社員の俺には特に興味なさそうだったから、失踪というより無断退職扱いで心配されないだろ。


 それより、今はどうやってこの世界を生き延びるか、が問題だ。

 何しろ食料ナシ水ナシGPSナシの、ベリーハードな遭難状態。

 スキルに『異世界言語』があって言語の心配は無さそうだけど、それ以前に現地人と会えるのかすら見通しが立たない。


 気をしっかり持とう。

 とりあえず、確認するべきはスキルか? 今、何ができるか、を把握するか。

 アバター召喚とか、どうやって使うのか。


 そう疑問に思うと、突然、手の中に五枚のカードが現れた。

 これは、さっき開いたパックから出てきた奴か。

 試しにその中の一枚を掲げてみる。


「召喚!『ゴブリン』!」


「――グギャッ!」


・『ゴブリン』

1(召喚コスト):1(攻撃力)/2(HP)


 カードが光に変わると同時に、目の前に小さな緑色のモンスターが現れた。

 手に木製の棍棒を持った、尖った鼻と耳を持つハゲ頭の凶悪な小人――

 お、おう。

 まさしくゴブリンだ。間違いない。


 アバターっていうのは、このカードから生まれるモンスターのことだろう。

 もしや、TCGみたいにこのカードを使って戦うってことか?


 全身に気だるさを感じ、ステータスを確認してみると、魔力がゼロになっていた。

 魔力1って。少なすぎるだろ。普通、RPGなら十くらいあっていいよね?


 ゴブリンは棍棒を手に、じっとその場を動かない。

 俺の命令を待っているんだろうか。「グギャ?」と小首を傾げていた。


 周囲の森からは小鳥の鳴き声に混じって、猛禽らしき不吉な鳴き声や、猛獣の唸り声が遠くかすかに聞こえてくる。

 人の手が入ってない原生林だけあって、野生の獣がうようよしてそうだ。

 その中を、このゴブリンなんかで切り抜けていくことになるわけだけど。



 俺、生き延びられるのかねぇ……?




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