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集う国々



 この世界が『封印』を維持し続けるには、限界がある。

 その限界は間近に歩み寄ってはいるが、今少しの猶予はあるだろう、とのこと。


 これは第一法則『根源』の声を聞ける聖女エスクレイルだけでなく、『根源』に繋がるバルタザールたち『伝説』の存在たちも口を揃えていた。


 俺たちは、そのわずかな時間に、この大陸の各国家の意思統一を達成しなければならない。


 生活に浸透した『宗教』の権威を使って法国が主導して連絡を取ってくれるが、あくまで宗教は宗教。各国家に確固とした強制力があるわけでもない。


 連絡手段として、最速モンスター『グリードワイバーン』を俺が召喚して時間を短縮するにしても、多少の時間がかかる。


 距離の近い王国や帝国から、瞬間移動スペル『次元転移』で移動して、法王猊下の書状をもった使者を飛ばすことにして、さらにハイボルト陛下やクロムウェル皇帝は俺が直接連れてくる。

 そうすることで、最短で各国の国家元首を招集できるプランを採った。


 改めて便利だな時空間魔術。法国の後押しがあるので、もう時空間魔術の存在を秘匿しないで済むのも大きい。


 しかし、招集と交渉はなるべく潤滑に行いたい。


「エスクレイル。この世界の宗教は、神を祀ってたり、死後の楽園を約束してたりはしないのか?」


「死後の楽園の話はありますよ。神々のおわす神の園――という、おとぎ話です」


 おとぎ話なのか?

 ということは、北欧ヴァイキングの信じていた神の館(ヴァルハラ)みたいな、強烈な殉教信仰は持たれてないんだろうか。


 それに答えるべく、エスクレイルは続けた。


「神々のおわす場所は、『世界』のみもととわかっておりますので。この『世界』を構成する一部となる、と大陸最大宗教の上層部が理解しておりますので、エルダードラゴン様方の手前、そのような楽園が実在するという『ウソ』は口にできません」


 あ、そりゃそうか。

 死後の世界というより、法則として昇華されるだけなので、死後の安寧な暮らしなんて、存在しないものは掲げられないのね。

 身もフタも、というより、夢が無いなぁ。


 神が実在した世界ならでは、というか。


「ですから、この世界の人々は、親類や親しい人々――周囲の愛する誰かや、現在の暮らしを守るために生き抜くのです。子が、孫が、生きやすいようにと。その想いが根底にありますので、神に殉教するよりは父祖を大切にする傾向が大きいですね」


 確かに、エルフの里も祖先を大切にしてたもんな。

 あれはエルフ独特の考えってわけじゃなく、この大陸じゃポピュラーな考えなのか。

 王国や帝国も、先人の名前を民衆が暮らす街の名前に採用してたのはそういうことか。


「そういう意味では、今回の国家元首の招集は、宗教の権威で呼びつけるわけではありませんね。世界の調停者として、世界全体。引いては各国の存亡に繋がるので、その点で呼びかけます。応じられる可能性は……高い、とは思うのですが……」


「絶対ではない、ってことだな」


 宗教的権威で頭ごなしに強制的に挙兵する、十字軍的な行動はできないってことだ。


 ある意味では、『伝説』たちが死後の世界の住人ということになるだろうけど、俺の能力が根底にあるから宗教上の奇跡として祭り上げるには、普遍性が無いもんな。


「今回の戦いでは、各国の『封印』が一斉に解かれることが考えられます。『災厄の欠片』たちは、一つに戻ろうとする意志を持っていますが、できることならばそれを成し遂げさせたくはありません」


「強い本体に集結する前に、『欠片』の段階で、各国で封印された場所の近辺で叩くのが理想、ってことだな。一まとめで叩く方が楽なのは楽だけど、その分相手が強くなりすぎて、リスクが高くなりすぎる可能性がある」


 俺の意見に、エスクレイルが「そうです」とうなずく。


「そのために、各国の協力――当地の兵力が必要になるのです。ですが、人類の今の力だけでは、何をどうあがいても戦力が足りません。カギを握るのは、エルダードラゴン様方と……」



「――各国に分散して協力しに行ける『俺たち』ってことかい?」



 名乗り出たのは、時田たちだった。

 エスクレイルは、俺の日本の仲間たちに向けて、コクリ、とうなずく。


 彼女がその理由を説明するより早く、みんなが口々に続けた。


「オレたちの『カード』――コタローの能力を使って、人類軍やエルダードラゴンの能力を底上げするってわけだな」


「そもそも、僕らは『鑑定』が使えるしね。相手の能力がわかるとわからないとじゃ、戦いやすさが段違いだ」


「『伝説』のカードが喚び出せなくても、使えるスペルはいっぱいありますしね。他に使える人に、供給もできますし、各国に一人は行った方が良いッスね」


 シノさん、飯山店長、かねやんが賛同する。

 俺の能力をリンクしたみんなのカードと、その供給能力があれば、戦況は俄然変わるだろう。


「各国で『欠片』を各個撃破しきるのが理想だ。でも、それじゃ仕留めきれないと想定して、各国で『災厄』を削ぎ落とした後に合流された場合、こちらも合流することになるかな」


「あたしたちの出番は、その後が主になるかしらね」


「そうだな。基本的にコタローのサポートに回るだろうが、私のスキル『精霊の一撃』も、対単体攻撃でもっとも威力を発揮する能力だ。本丸を墜とすために使うだろう」


 アシュリーとナトレイアも今後の予想をする。

 場合によっちゃ、アシュリーは、アビスナイトみたいな飛行ユニットを生み出す地域に出向くことになるかもしれないけど。


 その場合も、俺が出向いた方が良いだろうな。

 より確実なグラナダインの能力は「召喚されたとき」なので、俺がその場にいる必要がある。


「所長にもがんばってもらわないといけないな。これから、王国内外をひっくるめて、俺たちの『カード』を使える人材を増やしてもらわないといけないからさ」


「そうだね。わたしは存じてないけど、各国を見渡せばわたしと同じ『魔力同調』のスキルを持っている人もいるだろうから、情報を共有するのが大事だろうね」


「ウチも、冒険者たちに助力させるよう大規模依頼(クエスト)を発注せんといけんね。他の国にも、ウチと同じ九尾の一族がおるはずやけん。そっちにも連絡取りたいやんね」


 所長だけじゃなく、ノアレックさんも動くようだ。

 そう言えば、『歴史の語り部』ノアレックさんの九尾の一族は、世界中にいるって行ってたな。

 ここの法国にもたぶん、神官として紛れ込んでるのかもしれない。

 獣人の高位神官もちらほら見かけたし。


「うーぬ。こういうとき、わらわ自身の権力の無さが恨めしいのぅ。貴族の子女とは言え、兵を動かせるのは父上のような貴族家当主だけだしのぅ」


「まぁ、無理すんなよ、クリシュナ」


 腕を組んで難しい顔をするクリシュナだけど、さすがに気負いすぎだ。

 クリシュナ自身が幼少だということを差し引いても、クリシュナのグローダイル家が治める辺境伯領は、マークフェル王国の領土だ。

 ハイボルト国王陛下が挙兵の意思を示している以上、辺境伯領の参戦も確約されているようなものなので、クリシュナがそう思い詰める必要は無い。


 本来は辺境伯領で後方待機、なんだろうけど……

 クリシュナの性格からして、俺たちについて回りそうだからな。まぁ、それはそれで何とかしよう。


「コタロー伯爵。ワイバーンを使うと言うが、わしらが乗せて飛んでも構わぬぞ?」


「良いんですか、長老?」


 そこで、意外な申し出が来た。

 長老たちエルダードラゴンが手を貸してくれるのか? 確かに助かるけど、条件達成前なのに力を借りても良いのかな?


「そのくらいは構わんじゃろう。わしらエルダードラゴンの威を借る結果になるやもしれんが、ワイバーンなぞよりわしらの方が飛ぶのは早い。時間が惜しまれるゆえ、そこで変に意固地になっても仕方あるまいて」


「そうだな、長老。集合前に時間切れで『封印』が解けるくらいなら、我々がそれぞれの国に飛んだ方が早いだろう。――ただ、交渉するのはあくまでお前たち、人類だ」


「そりゃもう。交渉は俺たちでやりますが……いや、本当にワイバーンより早いって言うんなら、これ以上ありがたいことは無いです。助かります」


 俺は二人に頭を下げる。

 あとで『竜の谷』に転移して、他のドラゴンを連れてくることになりそうだな。


 人類の助力があっても無くても、戦力的にこの人たちには大差ないんだろうけど。

 それでもこっちの意を汲んでくれるのは、やっぱり人類に対して年長者として甘いところもあるんだろうな。

 あるいは、どうでもいいことに時間を取りたくないだけかも知れないけど。


「まぁ、まぁまぁ。――では、法王猊下に報告して、使者の選抜と書状の発行を急ぐことにいたします。心よりお礼を申し上げます、ありがとうございます、エルダードラゴン様方」


「マークフェル王国とマナティアラ帝国は、俺が直接連れてくるよ。その方が早い。――これで、思った以上に早く会談できるかも知れないな」


 俺が捕捉すると、長老たちも納得したようにうなずいた。



******



 それでも、招集には少しの日数がかかった。


 やはり残った三カ国も、王制とは言えトップダウンの即決というわけにはいかなかった。

 伝説のエルダードラゴンが直接上空に姿を現しても、交渉するのは法国の人間だ。

 直接貴族会議や議会諮問などの、国内での調整が必要となり、数日のラグを置くことになった。


 けれども、結果的には、四日の後には、各国が会談に応じる返答を送ってきた。


 法国側も準備に抜かりは無い。

 会合の舞台となる施設を整備し、法王猊下の予定を調整して、五カ国の国家元首を迎え入れる準備を、急ピッチで整えた。


 法国側からしてみれば、主導国の意地、というよりはここまでは既定路線であるので、あらかじめ関係者の心構えは準備できていた、というのが正しいだろうか。


 無論、破綻すれば人類の立場が無くなるので、国際会議が成立する前提でいなければ、何も成り立たなかったというのもあるが。


 そうして、エルダードラゴンたちから条件を出されて、七日が過ぎない内に。

 法国に、大陸内の各国家元首が勢揃いすることになった。




 のちに、大陸会議と呼ばれる、人類の首脳陣が一堂に会する会談が、始まろうとしていた。







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