新しいカード
探していた部屋はアシュリーの部屋の隣だった。
三階か。食事は運ぶのが大変そうだから、受け取りに行った方がいいかな?
アシュリーはとりあえず装備を置きに自分の部屋に向かったので、俺もゴブリンズと用意された部屋に入る。
一人部屋ということでベッドは一つだけだったが、日本のビジネスホテルくらいの広さはある。ベッドの布団は綿製で、これならゆっくり寝られそうだ。
さて、アシュリーが来ないうちに、新しく獲得したカードを確認しておくか。
新しいカードは全部で五枚。
一枚はさっきから使っている『鑑定』だ。
『鑑定』
2:対象の情報を得る。魔力を1回復する。
得られる情報は少ないけど、この世界のことを何も知らない身としてはありがたいな。
人も武器も魔物も、強さの目安を知られるし。
魔物が厄介な能力を持っていても事前に知ることが出来る。
他にも便利なカードが出てきた。
『解毒』
2:対象の毒素を除去し、健全な状態にする。『有毒』を治療する。
魔力を1回復する。(対象の体力は回復しない)
『木の弓矢』
1:装備品:対象に1点の射撃を行う。
解毒できるなら食中毒も怖くない。ウィルス性だとどうなるか不明だけど。
で、新しい単語が出てきた。『有毒』ってことは、毒攻撃してくる魔物がいるのかも。気をつけよう。
木の弓矢は、アシュリーが使っているものと同じだ。
アバターと同じく魔力1と召喚枠を消費して現物が出てきた。
ゴブリンズに渡すと装備して弓の構えを見せたので、現実と同じ装備品を召喚できるらしい。
そういや、スキルに『装備品召喚』ってあったのはこれのことか。
『エクスプロージョン』
X2:望む数の対象と、自分の操るアバターすべてにX点の炎と風の射撃を行う。
Xか。きわどいネタが来たな。
カードゲームだとたまにあるんだけど、これは任意の数の魔力を費やしていいってことだろう。その後の2が基本コスト……火種だな。
X=1なら、3コストで望む数に1点の範囲攻撃。
X=3なら、5コストで望む数に3点の範囲攻撃ってことだ。
魔力をつぎ込めばつぎ込むだけ威力が高くなる。
まぁ、今の俺じゃ魔力が2しか無いので、0点でしか撃てない宝の持ち腐れだけど。
何気に初の攻撃呪文だ、最大魔力が上がれば戦術の幅が広がるだろう。
そして、問題なのが最後の一枚。
『神秘の復帰』
7:対象のHPを最大値まで回復する。全ての傷病と状態異常を取り除く。
魔力を2回復する。
派手すぎるだろう……
この世界の治癒術士の実力はわからないが、何でも治せるなんて奇跡の範疇だ。
下手したら新興宗教を興せるぞ。
たぶん、レアカードなんだろうけど……目立つなんてもんじゃない、コスト的にも、世間的にも、色々な意味で使えないスペルだ。
とりあえず死蔵しとこう。
と、今回の内容はアバター無しの五枚構成だった。
新しいアバターは増えてない。まぁ、森の中の魔物やトルトゥーラとか、色々増えたしな。
ハウンドウルフ辺りが使えそうだし、大丈夫じゃないかな。
カードを確認し終えていると、アシュリーがお金の入った袋を持って部屋に来た。
見つかると面倒なので木の弓はカードに戻す。
「お待たせ、コタロー! さ、取り分数えましょ?」
「おお。今日の成果だな。楽しみだ」
グギャグギャと、たぶん何もわかってないゴブリンズも周りではしゃぐ。
ベッドに腰かけ、袋の中身を分配した。
金貨三枚分の銀貨と小銀貨がざらりと布団の上に広がる。
「ほとんどデルムッドに狩ってもらったから、コタローには多めに渡すね」
「いやいや。こっちは街に案内してもらって、宿まで教えてもらったんだから。そこは均等に行こうぜ。本当に助かったよ」
「待って待って、オーガを倒したのコタローだし……」
「いやさ。でも……」
あーだこーだと譲り合いを繰り返し、銀貨十五枚ずつと、きっちり折半した。
こうして宿に泊まれるのも、アシュリーのおかげだもんな。
「明日も狩りに行くのか、アシュリー?」
「ううん。今日はたくさん稼いだから、二、三日休むわよ。コタローは?」
「俺はギルドに行って、ケガ人を治してこようと思う。治療代って、いくらくらいが相場なんだろうな」
この世界では治癒術士は珍しくはないが、どこにでもいるものではないとのこと。
元の世界の医者と一緒だな。珍しくないけど、誰でもなれるものじゃない。
治療院や教会などで治癒を請け負うことが多いらしく、個人でやる場合は信用商売か出来高払いが基本。
ケガの程度にもよるけど、深めの傷なら銀貨五枚から金貨三枚くらいが妥当だとか。
五万円から三十万円と考えると、かなり高い。
医療保険の無い世界だから、そんなもんか。命の値段だな。
「だから、お金の無い人は回復薬や薬草で治すわね。薬師もいるし」
「そっか、漢方薬が主流なんだな。俺としては、ケガとかで足元見てボッタクリたくはないから安く治療したいんだけど……」
「うーん。あんまり安値をつけると、今度はそれで生活してる人たちが困るわ。ただでさえ命や後遺症の責任を押し付けられやすい職業なんだからさ。安く見られるとめちゃくちゃ言われるわよ」
「過度な値下げは、職業の価値まで落としちまうか。それに、高い金払う側は、それだけの値段を払ったから大丈夫だろうって信用する面もあるしな。安売りしても悪いことにしかならないか」
「そうよ。どうしてもって言うなら、治療院に話して、練習ってことで一日か二日だけ区切って客を取れば? 向こうも、見習いとわかってたらそんなに期待せずに来るでしょ」
そうだな。間の黒男さんが高い金取るのにも理由があるらしい。
一応『解毒』もできる、とアシュリーに教えると、どのくらい効くの? と逆に尋ねられたので、二人して首をかしげる羽目になった。
こりゃ、本職にお願いして誰かの監督の下で練習した方がいいな。
回復チートへの道は険しい。
「治療院には知り合いの治癒術士がいるから、相談してあげるわよ」
「頼む、アシュリー。明日、一緒に付き合ってくれると助かる」
「任せなさい!」
感想で指摘を受けて、『エクスプロージョン』のコスト表記を変更しました。




