表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/173

戦いの嵐




 法国領内で、空中に出来た空間の亀裂。

 そこからしたたる黒い流入物によって地面の大湿地が沸き立ち、『魔界』の封印が解かれようとしていた。


「全員、警戒! 今のうちに喚べるだけの飛行アバターを喚んでくれ!」


「わかった! 戦いになるか、コタロー!?」


 遠距離通信スペル『微風のささやき』を複数起動し、それぞれのワイバーンの背に乗る仲間たちと連絡を取り合う。


 このスペルの持続時間は最大三分間。複数起動することによって、複数人で戦略会議を行うことも出来るが、それでも方針は早く決めなきゃいけない。


「できることなら、撤退したい。が……!」


「ここで撤退したら、法国内がムチャクチャになるだけだよ。幸い、まだ敵影は無い。少しは準備の時間が取れるからねぇ。立ち向かうなら、この大魔術士は全力を尽くすよ?」


 自前の魔力で割り込んできたラトヴィニアスの進言に、腹をくくる。


「わかった! みんなの力を貸してくれ、ここで迎え撃つ!」


「応ッ!」


 俺の宣言に、全員から意気に満ちた返事が返ってくる。

 時間は限られている。

 ギリギリまで時間をかけて、喚べて、フレアドラゴンを三体くらいか?


 今、飛んでいるワイバーンは俺が喚んだものを含めて五体。

 その周囲に、それぞれが喚び出した追加のワイバーンや『クリムゾンガルーダ』が召喚されていく。


 みんなの最大HPは、それぞれ10。

 俺の能力がリンクして、みんなも一人当たり十体のアバターを喚べるけど、フル召喚できる時間は無いだろう。


 それでも、足場やおとりの数を増やすのも兼ねて、空中戦力は確保しておきたい。


 ドラゴンで倒せるユニットなら良いけど、『災厄の大樹』が生み出した防衛ユニット、アビスガーディアンのスペックを思い出すと、フレアドラゴンでも心許ない、というのが本音だ。


『マスター、ご用意を!』


 戦闘態勢のエミルの警告に、亀裂の様子を確認する。


 亀裂と湿地は黒い流れのようなもので結びつき、不気味にうごめく一本の柱のようにそそり立っていた。

 周囲の湿地帯からは、黒い泡沫のようなものが浮かんでは消え、『陣地』を構築されたのだとわかる。


「エミル! 『鑑定』だ、撃つぞ!」

『アイアイ、マスター! ――シュート!』


 エミルの魔術砲身から、射程距離を無視した『鑑定』が放たれる。


 が、その結果は、俺には届かなかった。

 反応が無い。『鑑定』を撃ち込んだはずなのに。


「なんでだ? ステータスがわからない。今までこんなこと、無かったのに……」


『マスター。魔術が対象を捕捉できず、立ち消え(フィズル)しました。あの柱は、「災厄の大樹」とは違い、個体ではありません。ただの現象です』


 現象。つまり、今回に限って言えば、ただのエフェクトだ。

 魔術は対象を意識的に捉えなければ発動しない。今回は敵の対象ではなく、竜巻のような自然現象的なものに撃ち込んだから、『鑑定』できなかったのか。


 これだけの規模のエフェクトが起こってるのに、まだ本体が『封印』から解き放たれてない。マジかよ。

 これから、どんなデカブツが出てくるってんだ。


 まるで、地獄の釜のフタが開いたようなその光景に、俺は圧倒されていた。


「――ッ! コタロー、何か来るわ! 複数!」


 地面の大湿地に広がった黒く巨大な穴から、黒い柱を通って、何かが複数体、上空へと舞い上がった。


 黒い結晶のような、無機物めいたシルエットだ。

 本体は四角錐を上下に貼り合わせたような角張ったフォルムをしており、その周囲に、四つの黒曜石じみた結晶のトゲが分離して浮遊している。


 親機に付随して攻撃してくる、子機(ビット)か?


 攻撃機関とおぼしきパーツがあるってことは、アレは敵ユニットっぽいな。

 浮遊する結晶体は、自分の出てきた黒い柱の周囲を取り囲んで浮遊し、守っているようにも見える。


「コタロー、少しずつ数が増えてる! 先制攻撃させるぞ!」


 空を挟んで、『微風のささやき』で時田が断りを入れてくる。

 前方ではその通りに、始めは四体だった浮遊結晶体が、黒い柱から後続が出てきて総数を七体まで増やしている。


 マズい、あのユニットを無限生成されると、こっちが取り囲まれる!


 増援を喚ばれると危険だと判断したのだろう、時田やシノさんたちの喚んだクリムゾンガルーダたちが、群れを成して浮遊結晶体へと突撃していく。

 数を減らすつもりだ。



『クリムゾンガルーダ』

5:3/4

 『飛行』

 『高速連撃2』・一度の攻撃時間で2回攻撃できる。



 与えられるダメージはフレアドラゴンにも劣らない、時田たちの魔力5で喚べる最強の飛行アバターだ。

 移動速度に長けたワイバーンよりも、攻撃力のある戦闘向きのスペックと言える。


 並大抵の相手なら、クリムゾンガルーダの連撃で沈む。

 時田たちの向かわせたガルーダたちが、柱の周囲を浮遊する結晶体に襲いかかる。


 だが、その攻撃は、一撃たりとも通らなかった。


「――なっ!?」


 巨大な爪で襲いかかったガルーダのガタイが、結晶体の前に大きく弾かれた。


 攻撃したガルーダが、付随している子機(ビット)に突き刺されて、カードに戻る。


 まるで通じてない! あれは『甲殻』か『肉壁』を持っているのか!?


「エミル! あれに『鑑定』を撃つぞ、何か能力を持ってる!」

『アイアイ、マスター! 今度は成功させます――シュート!』


 撃ち込んだ『鑑定』が直撃し、今度は無事に情報が手に入る。


 その情報(ステータス)は、野生のモンスターでは、決して持ち得ないものだった。



『アビスナイト』

4/4

 『飛行』

 『負傷無効』・このモンスターは、ダメージを受けない。(『貫通』を無効化する)

 『異形』・このモンスターは、混沌の一部である。



 ――『負傷無効』!


「みんな、気をつけろ! こいつら、ダメージ無効の能力を持ってやがる! 戦闘だと倒せないぞ!」


 途切れてしまった『微風のささやき』をつなぎ直し、全員にステータスを伝える。


 やっぱり厄介な能力を持ってやがった!

 しかも、特記が無いってことは、通常のダメージだけじゃ無いな。

 たぶん、攻撃だけでなく、魔術のダメージも受け付けないはずだ。


 攻撃力もかなり高いのに、攻撃が通じない飛行ユニット。

 それが、現状でも七体!


 おまけに『貫通』が効かないんじゃ、王都防衛戦みたいに、ナトレイアの持ってる創国の王剣(アルストロメリア)に頼るわけにもいかない!


 浮遊する結晶体、アビスナイトたちは、動きを変えた。

 ガルーダをけしかけたのが俺たちだと理解しているらしく、柱の周囲を浮遊する動きから、俺たちに向かって出撃してくる。


 マズいな、相手の能力を考えると、ハンジロウに斬り伏せてもらうのも無理だ。

 グラナダインを召喚して、地面に落とすか?

 いや、それだと後続を出されるだけでキツいな――


「コタローはん! みんなも! 距離を取ってんね! デッカいの一発いくけん!」


 そのとき、『微風のささやき』に割り込んできたのは、ノアレックさんの声だった。


 共有している通信で、全員のワイバーンが反射的に回避行動を取る。


 繋がったままの通信で、ノアレックさんの行使した魔術の名がわかった。



「いくばい! ――『トルネードウォール』!」



 その宣言とともに、吹き荒れる魔力が周囲の大自然へと干渉する。

 気流が荒れ、旋風が吹きすさび、複数の竜巻を形作った。


 複数の暴風の柱が、空を迫り来るアビスナイトどもを飲み込んだ。


「――すげぇな、ノアレックさん!」

「の、ノアレック殿は、これほどの魔術を持っていたのか……!」


 暴れる気流の余波に乱される髪を抑え、同乗している所長が感嘆している。

 さすが、ギルドマスター。仲間たちの中で最大の魔力量を誇るだけある。


 光が集まり、俺の手元にカードが現れた。



『トルネードウォール』

 5:広範囲に小型の竜巻を複数発生させる。



 以前鑑定したときにも見た、ノアレックさんの持つ最大の魔術だ。

 周囲の自然現象を限定的ながらコントロールする、大規模魔術。


 『飛行』を持って空を飛んでいる以上、竜巻に飲み込まれれば行動の自由を失う。

 普通は吹き上げられた障害物にぶつかったり、気流にもまれたりして多大なダメージを負うもんなんだろうが、そこまで甘くはなかった。


 さすがの『負傷無効』というべきか、竜巻に巻き込まれたアビスナイトたちは、うまく行動こそできないものの、ダメージを負っている様子は無い。


「……ごめん、時間稼ぎにしかなっとらん!」


 息を荒げるノアレックさんの声が届くが、これだけやってくれればありがたい。

 仮にも竜巻だ。少なくとも数分は維持されるし、余波も残るとのこと。

 それだけあれば、魔力も回復する。


「……でも、どうすんの、コタロー!? どうやっても攻撃が通らないんじゃ、勝ち目なんか無いじゃない!」


「逃げるべき……なのかい、コタロー殿? しかし、逃げても討伐できなければ、周囲の国が滅びて、我々も追いつかれるだけ……どうすれば……!」


 アシュリーと所長が、顔を青ざめさせながら俺を見る。

 そうだな。今までにも『甲殻』や『肉壁』なんかのダメージ軽減能力を持ってる敵と戦ってきたけど、完全な『無効』は初めてだ。


 ダメージ自体をまったく受け付けない相手。ちょっと考えただけでは、絶対に倒せないようにも思える。


「なぁ、コタロー、魔力は足りてるか?」


 繋がったままの通信で語りかけてきたのは、倉科さんだった。

 慌てず騒がず。余裕を持った落ち着いた声に尋ねられ、俺も頭を鎮めて冷静に返す。


「はい、あと三十秒くらいで全快です」


「そうか。――ダメージ無効とは恐れ入ったけどな。ファンタジー世界じゃあ無敵なんだろうけど、カードゲームじゃ、残念ながらそういう能力を持ったユニットは腐るほどいるもんな」


 対処方法は、ある。

 混乱するアシュリーや所長には、俺たちカードゲーマー五人の反応は、とても奇妙なものに映ったろう。


「コタロー。……やり方は、お互いにわかってるよな?」


「もちろんですよ、倉科さん。――しばらく魔力が無くなっちまうんで、『トドメ』は、みんなに任せますよ?」


 おう! と、みんなの頼もしい返事が届く。


 全快した魔力で、俺は『対抗手段』を召喚した。


「行くぞ! 召喚――『悪竜の暴君、オルスロート』!」


 強風の中で飛ぶワイバーンの背に、一人の少年が召喚される。

 少年は俺を見上げ、眼を細めて低い声で言った。


「――ふん。余の力が必要になったか。頭を下げて頼めば、手伝ってやらんことも無いぞ?」


「後でデルムッドに叱られたくなきゃ、さっさと行けよ。出番だぞ、元皇帝」


 軽口を叩きながら、お互いに皮肉げな笑みを見せ合う。

 ふん、とオルスロートは気を害した様子もなく、自分から歩いてワイバーンの背を飛び降りた。


「ふん! 相手が『魔界』ならば、余も戦ってやるわ! アビスナイト? 異界の騎士を名乗るとは片腹痛い、雑兵らごときが図に乗るなよ!」


 そう叫ぶ少年の姿が光に包まれ、『人化』のスキルが解かれる。


 空中に現れたのは、ワイバーンよりも、護衛のフレアドラゴンよりもなお巨大な、知性ある竜の姿。


 エルダードラゴン・オルスロートの巨体が、暴風吹き荒れる大空へと見参した。


 やがて弱まり始めた竜巻の中で、アビスナイトたちがオルスロートに狙いを定め、気流に揉まれながらも攻撃を加えようと迫る。


 しかし、オルスロートは意にも介さず、そのスキルを発動した。


『――()が高い! ひれ伏せ、下郎どもッッ!!』



『悪竜の暴君、オルスロート』

7:12/12

魔力:4/8

 『名称』・同じ名称を持つアバターは、一体しか召喚できない。

 『甲殻4』『肉壁4』『飛行』『人化』

 2:『モルフスキン』

 4:『覇者の威圧』・三分間、広範囲の敵対する対象すべてに-2/-2の修正を与える。(この効果は重複しない)



 スキルの影響を受け、甲高い悲鳴を上げながら、アビスナイトたちの動きが鈍る。


 ダメージを受けない相手。アビスナイトの4点の攻撃を通さない『甲殻4』のオルスロート。一見では、勝負が付かないようにも見える。


 けれど。


「みんな、頼んだ!」


「おう! 任せろッ! ――『筋力の縮退』!」


 シノさんの使ったスペルで、アビスナイト三体の動きがさらに弱まる。

 そこへ重ねて、倉科さんの乗ったワイバーンが宙を駆けた。


「破壊できない相手は、死なない相手じゃないんだなぁ。――『筋力の縮退』!」


 二人の放ったスペルを、三体のアビスナイトが重ねて受ける。


 甲高い、断末魔の悲鳴が聞こえる。


 スペルが届いた瞬間、ダメージ無効能力を持っているはずのアビスナイトたちは、息絶えて空中で霧散した。


「え、なんで……? ど、どうやって攻撃したんだい!?」


 霧散したアビスナイトを目にして、所長が驚きの声を上げる。

 違うよ、所長、アシュリー。ダメージじゃないんだ。



『筋力の縮退』

4:最大三体を対象とする。それぞれの対象は三十秒間、-1/-1の修正を受ける。



 そして、オルスロートのスキル。


 4:『覇者の威圧』・三分間、広範囲の敵対する対象すべてに-2/-2の修正を与える。(この効果は重複しない)



 二人が使ったスペルで、HPへのマイナス修正が2点。そして『覇者の威圧』がかかっているので、さらにHPがマイナス2点。


 これらの弱体化(デバフ)に、HPを4しか持たないアビスナイトは耐えられない。


 倉科さんの声が、通信に乗って届いた。


「ダメージの通らない相手は、マイナス修正(デバフ)で倒せ、ってね」


 俺一人だと召喚とスペルの連続行使が出来ず、もう少し手こずったろうけど。

 今は、俺以外にも『カード』を使える仲間たちがいる。


「どんどん行くぜ! かねやん、時田! お前らも手伝え!」


「なるほどねぇ。なら、この大魔術士もお手伝いしよう!」


 俺の能力をリンクしている四人だけでなく、スキル『魔力高速回復』と『スペル使用』を持つラトヴィニアスも一緒に、『筋力の縮退』でアビスナイトたちにトドメを刺していく。


 オルスロートも参加できたら良かったんだろうけど、魔力を持っていても『スペル使用』スキルを持ってないので、アバター化したときに俺の『カード』は使えなくなったらしい。

 ラトヴィニアスいわく、実質は不死身であるアバターに課せられた制限なんだと。


 ともあれ、オルスロートのスキルを軸に、アビスナイトたちを刈り取っていく。

 アビスナイトの増援ペースは緩やかで、このままだと先に狩り尽くせそうだな。


 ただ、問題は根本的には解決していない。


「お館様。……来るようです」


 大気が鳴動する。

 アビスナイトは防衛ユニットとは言え、所詮は手駒だ。


 大地に開いた巨大な黒い穴から、本体が、来る。


「あ、あれは……!」

「なに、あれ……!」


 所長とアシュリーが、驚愕に目を見開く。

 大湿地を飲み込んで開いた黒い穴から這い出してきたものは、




 一本の、巨大な『腕』だった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ダメージの通らない相手は、マイナス修正デバフで倒せ、ってね」 ↑ 防御力マイナスみたいな感じでしょうか(^_^)v 生物相手で使うなら細胞同士の結合をグズグズに分解して殺したのかな?Σ(゜…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ