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土の民



 手土産を持ってワイバーンに乗り込み、さらに二日間の旅程をこなす。


 法国最辺境の都市、貿易都市アハレイムが見えたところで、俺は街道の途中に降りて、『次元転移』でみんなを連れてきた。


 ……いや、ね?

 気づかれたんだよ。


 俺が、一度行った場所にみんなを連れて瞬間移動できるんなら、別にみんながワイバーンに乗る必要無くないか? って。


 つまり、お前だけ先に行って、後で他のメンバーを連れてきてね、という方針である。

 おのれ。


 これに気づいて言い出したのはシノさんと倉科さんで、俺がワイバーンに乗って寒い寒い空の旅をしている間、屋敷の中でぬくぬくと、使用人さんたちにカードゲームを教えていたらしい。

 それでも仲間か。『魂の絆』どこに行った。


 いや、気持ちはわかるけどね?

 シノさんはともかく、倉科さんやかねやんは、貴重な休暇を空の上でじっとワイバーンに掴まって過ごすなんて、もったいないわけだし。


 ワイバーンが群れて、大量に法国領に越境しても問題になりかねないわけだから、相手の反応を考えても、渡りに船だった提案ではある。

 少人数の移動の方が目立たないし。


 でも、理屈では合理的なんだけど、それとこれとは別なんでないかい?

 俺も屋敷でみんなとカードゲームしたかったよ。

 ちくせう。


「――どーだった、時田。途中でなんか、珍しいもんでもあった?」


「いやー、大空の上じゃ何も無かったスね。ワイバーンの身体がデカすぎて、地上の景色が見下ろせるわけでもないし。シノさんらの提案が正解だったスわ」


 飛行移動で疲れ果てた時田が、肩を落としながらシノさんに報告している。


 むろん、全員が屋敷で遊んでいたわけじゃない。

 俺と、案内役の所長、付き添いのアシュリー、それに加えて、道中に何か商売のタネがないかと期待していた時田。

 この四人で、空の旅をしていたわけだ。貧乏クジとも言う。


 ナトレイアやクリシュナ、ノアレックさんなんかは、ワイバーンでの移動をすでに経験しているので、あっさりと屋敷で遊ぶ側に回っていた。


「グリフォンに乗るなら、私も喜んで付き合ったのだがな。……ワイバーンよりは、カードゲームの方が面白そうだった。すまん」


「カネヤンたちに教えてもらって、わらわも『かーどげーむ』の遊び方を覚えたぞ! 今なら、きっとコタローにも負けはせぬな!」


「ええやん。コタローはんらも、夜は屋敷で寝とったわけやし」


 そうですね。まぁ、俺らも夜は『次元転移』で屋敷に帰って、翌朝に野営地点まで転移し直してたけどさ。


 瞬間移動って、改めてチートな能力だよね。野営いらないや。


「いやー。何だか申し訳ないねぇ。わたしの魔力がもう少しだけ高かったら、こんな移動の苦労はせずに済んだんだけど」


「所長が謝ることじゃないよ。……道案内、ありがとう。お疲れ様」


 苦笑しながら所長をねぎらう。

 ラトヴィニアスにコストを2下げてもらっても、『次元転移』に必要な魔力は7だからな。魔力が6しかない所長には使えない。


 もし所長が使えたら、所長はアハレイムには行ったことがあるから直接転移できたんだけどね。


 現状で『次元転移』を使えるのは俺とノアレックさんの二人だけで、ノアレックさんも法国方面には行ったことがなかったから、この旅程は仕方のないことだったのだ。うん。

 屋敷で遊んでたみんなに、納得はしてないけど。


「んじゃ、街に入るか。……所長、馬車も持ってきた方が良かった?」


「良いんじゃないかい? さっきのワイバーンに乗ってきたと素直に言った方が、街もモンスターを警戒せずに済むだろう」


 ちなみに、『次元転移』は、物品も対象に取れる。


 判定は「ひとかたまりになっていること」で、手土産なんかの荷物を持っていれば「ひとかたまり」にみなされるし、馬車に馬をつないでいれば「ひとかたまり」に見なされる。


 マジックバッグがあるから必要ないけど、何だったら、木箱の山を大きな布で包めば、それも「対象の一つ」になっちゃうのだ。


 空間系の魔術だから、人や物一つ一つじゃなくて、空間座標か何かがごそっと対象に取られてるんだろうな。

 高コストなだけあって、融通が利いて非常に便利だ。


「はーい、はぐれるなよー。とりあえず、貴族用の街門に行くからなー」


 陛下公認の書状をもって、貴族門ツアーふたたび。


 革鎧の衛兵さんたちにオーゼンさんからの書状を渡して、中身を確認してもらう。


 うちの王国の貴族だよ。侵入じゃないよ。観光訪問だよ。法国政府にも知らせてるけど、移動手段がワイバーンなんで、たぶん上からの連絡より先に本人たちが到着するよ。


 ものすごく雑にまとめると、だいたいそんな感じの書状だ。


 押印されてる紋章が王国王家のものだったので、照会して入市の許しを得る。

 街長や領主を呼ぼうか、なんてことも聞かれたんだけど、時間がかかりそうだったんで丁重にお断りした。


 目的地はこの街じゃなくて、法国の首都だからね。


 一応、時田の仕入れ目的で、宿を取って市場は覗くつもりだ。


 監視を兼ねた観光案内人をつけられたので、それはありがたく受けておく。


「法国の貨幣は、普通に金貨や銀貨なんですね」


「……? どこでもそうだと思いますけど。金銀が使えない地域でも、あるんですか?」


 入り口で両替した法国の貨幣を見ながらつぶやくと、案内人さんが不思議そうに尋ねてきた。


「いや、事前に聞いてた話だと、金銀は好まれないそうなので」


「あはは。それは、『人間の装飾品としては』ですね。財貨以外の金銀は、大霊峰のエルダードラゴン様に捧げるにふさわしいものです。それを、人の身でまとうというのは大霊峰に対する不敬であり、身の程をわきまえぬ虚栄の象徴として、良い目では見られません」


 なるほど。

 あくまで神聖な相手に捧げるべきで、世俗で身につけるのは身の程知らずだ、と。


 魔道具に金銀が好まれない理由も同じらしく、他の地域では普通に使われている貴金属よりも、水晶や宝石類が主に魔道具の要として組み込まれているらしい。


 そんな使用素材の違いのせいか、法国の魔道具は特殊な効果を持つものも多いのだとか。


「――それらもすべて、大霊峰の恩寵です」


 そう言ってうやうやしく祈りの仕草をする案内人さん。

 うん、宗教国家だね。


 ……でも、そうか。エルダードラゴンは金銀の光り物が好きなのか。

 オルスロートは、帝国の帝城をあまり飾り立ててなかったけどな? 何でだろ?



******



 ――宗教国家、法国クルヴァリスタ。


 その最辺境の街、王国との貿易で賑わうこの都市、アハレイムの街は、異世界と言うことを差し引いても異国情緒に溢れる街だった。


 街並みは、木枠に日干しレンガの建物が建ち並んでいる。

 街行く人々にも装飾品を身につける人は多いが、そのほとんどが細かな刺繍の入った布製で、女性は薄いヴェールを被り、同じく口元を隠している。


 女性が口元につけるヴェールは、アラブ地域のように素顔を隠すためかと思ったけど、レース地のように透けて見えていることから、その用途は薄そうだ。


 アラビアン・ナイトと、どこかの中央アジアを舞台にしたお嫁さん物語を掛け合わせたような、エキゾチックな文化模様だった。


 大霊峰のふもとだと言うから、水源の豊富な多湿な国を想像したんだけど、空気はカラリと乾いている。


 王都や帝都と緯度はそう変わらないはずなんだけど、これだけ気候が違うのは面白いな。

 まぁ、地球とは違うわけだし、東西南北と緯度が連動してるのか、そもそもそんな概念があるのかどうかもわからん。


 王国風の西洋的な貴族服を着ている人間は一人もおらず、普通人も獣人も、アラビア風なシルエットの衣服を着て歩いている。


「おおー、良いね、良いね。こういう服装は、愛好家が結構いるんだよ」


 民族衣装的な雰囲気を漂わせる文化に、時田が目を輝かせている。


「日干しレンガの建物ってのは珍しいですね。王国じゃあまり見ません」


「木材は貴重なものでして。あれは、我が国の伝統的かつ、一般的な建築様式になりますね」


 案内人さんの説明を聞きながら、市場を見渡していく。

 商店街もあるようだけど、やはり食料や雑貨を売る露店が並ぶ、市場通りのような場所があった。


 ずらりと並ぶ品物を、時田が順にのぞき込みながら品定めしている。


「おや? あれはなんじゃ? 土を売っておる。腐葉土か肥料かの?」


 クリシュナが、露店の一角に興味を示していた。

 その先には、うずたかく積まれた、四角く切り出された土の固まり。

 他には並んでいるものもなく、どうやらそれが商品らしい。


「あれは……? ――そうか、大きな山があるのに森林が少ないのは、そのせいか?」


「知ってんの、倉科さん?」


 倉科さんが何かに気づいた素振りを見せたので、尋ねてみる。

 すると、一拍遅れて、シノさんも声を上げた。


「――あっ!? そういうことか! てことは、『アレ』が作られてるかもなのか!?」


 何だろう。日本人二人が反応している……けど、時田とかねやんは目を瞬かせている。

 酒飲みの二人が反応してるってことは、もしや、酒に関係するものか?


 そう思って尋ねてみると、


「コタロー、正解。――案内人さん。あれ、『泥炭』でしょ?」


「でいたん、とはなんじゃ?」


「燃える土だよ、お嬢ちゃん。あれで薫香を付けて寝かせた酒が美味くてな」


 二人の説明に、案内人さんは嬉しそうに破顔した。


「ご存じでしたか。そうです、そうです。我が国は質の良い泥炭が大量に取れる、泥炭地が広がっておりまして。……燃料には事欠かないのですが、農作地や森林が少ないのが、少し辛いところですね。泥炭地では作物が育ちにくいので」


 泥炭……ああ! ウィスキーの香りの元になってる、ピートのことか。

 シノさんが言ってる『アレ』って、ウィスキーのことか!


「『命の水(アクアヴィット)』のことですか? はい、蒸留酒を作る際に、穀物を乾燥させるのに使います。そのときに良い香りがつくと評判です」


「やっぱりか。――アクア()ットは、『向こう』だと芋を使ったスピリッツなんだけどな」


「語源的な意味だろ。『ウィスケ・ベサ』みたいなもんだ。原語はたぶん、『命の水(アクア・ヴィタエ)』辺りの意味を翻訳してるんじゃないか?」


 なんでそんなの知ってるの、と聞いたら、バーなんかで飲むときに話題として結構出るらしい。

 さすが社会人の酒飲み。酒の苦手な俺には、さっぱりわからなかったよ。


「でもさ、倉科さん。ウィスキーって、イギリス近辺だろ? 北の方の、寒い土地のもんなんじゃないの?」


「いや、泥炭は、炭化した植物が積み重なった地層だから。沼地とか湿地とか、水気の多い国や地域なら割とあるよ」


 たぶん、大霊峰から流れる水で湿地が形成され、大規模な泥炭地が形成されたんだろうということ。


 なるほどね。


「法国のアクアヴィットは、強くて美味しいお酒なんだけどね。法国内で消費される上に、宗教的な儀式にもしばしば使われるから、他国じゃなかなか手に入らないんだよね。わたしは、祝祭でごちそうになったけど」


 所長の説明に、へぇー、とうなずく。

 この世界にも蒸留酒があったのね。


 でも、王都でも酒場の主役はエールやワインなんかの醸造酒だったから、蒸留酒はたぶん滅多に飲めない高級品なんだろうな。


「コタロー、せっかくだから酒も仕入れようぜ。代金はオレが出す!」


「シノさんさぁ、売り物にする気ある?」


 時田が呆れた声で尋ねると、「売るわけないだろう!」と胸を張るシノさん。

 自分たちで全部飲む気だね?


 しかし、泥炭地か。

 これだけ空気がカラリとしてるのに、国土的には湿地が多い国なんだな。


「それは、泥炭地は日干しレンガの家を作るのに向かないからですね。こういった乾燥地域を中心に住居が――ひいては、街が作られているんです。水源は、地下水も含めれば、国土のほとんどどこにでもありますから」


 水の豊富さは、やっぱり大きな山があることに由来してるんだろうなぁ。


「土で家を作り、土を燃やして生きるのか……まさに、大地の民じゃのぅ」


「はい。我らの宗教は、この世界そのものを崇めております。なので、世界の中心たる大霊峰を神聖なものとし、古来そこに棲まうエルダードラゴン様たちを、心より崇拝しているのです」


 クリシュナの感嘆に、案内人さんが誇らしげに答える。


 法国は一神教でも、多神教でも無いのか。

 いや、神という概念はあるんだろう。でも、本質的に自然信仰的な教義を持っているようだ。




 うーん、異変の様子を探るのは良いけど、宗教的な話は苦手だよ?










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― 新着の感想 ―
[一言]  瞬間移動って、改めてチートな能力だよね。野営いらないや。 ↑ 下位互換の空間転移は出ないかも?(´・ω・`) 他の仲間たちがレベルアップするならその際にバリエーションを増やしてくれるかもだ…
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