表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/173

モンスターの世界



 日本から来た仲間たちは全員『カード』が使えることがわかっているので、冒険者登録をすることにした。


 シノさんが、異世界組の日本での世話は請け負うと言ってくれたので、律儀なナトレイアがモンスター狩りを体験してみないかと誘ったのだ。


 飯山店長、時田、シノさん、倉科さん、の四人をナトレイア一人で護衛というのも無理があるので、普段は屋敷を警備しているアテルカとゴブリン騎士団にも手伝ってもらう。


 冒険者ギルドの受付でみんなの登録をお願いすると、テンプレのような嘲笑が起こりかけたけど、俺と所長の顔を知っている冒険者がいたらしく、あっという間に静まった。


 俺と所長が貴族だって知ってる冒険者がいたのかな。

 王都防衛戦の時に見られたか?


「試験かぁ……ううん、緊張するなぁ」


「魔術士の場合は、実際に戦うんじゃなくて的当てらしいですよ、飯山店長」


 さすがに、一般人丸出しの姿だったので、実力を調べるために軽く試験が行われた。

 全員が『スペル使用』『アバター召喚』『魔力高速回復』をリンクしているので、俺が四人試験を受けるのと何ら変わりなかったけど。


 全員が時田と同じ、魔力5のステータスだったので『フレイムボルト』四連打で的を四つ消し炭にして、短時間で全員無事に合格した。


 よし。これで身分証が出来たから、みんな最悪でも自分たちだけで街門を通れるな。

 一応、俺の家紋入りの短剣を人数分作って、紹介状代わりに渡してはいるんだけどね。



******



「というわけで、久しぶりの『ラージグリフォン』です」


「グリタロ――ッ! 会いたかったぞ――ッ!!」


 王都付近には獲物がいないので、久々に移動用のラージグリフォンを呼ぶと、すかさずナトレイアがグリフォンのもふもふの胸毛に抱きついた。


 ああ、うん。ずっと乗せる機会が無くてごめんね。


「ねえ、コタロー。みんな、ワイバーンまでなら喚べるんだから、そっちの方が早くない?」


「ああ、うん、アシュリー。そうなんだけど。ワイバーンだとスピードが出すぎて、初めての飛行移動でみんなが乗るには危ないかな、って」


 なんせ、アバターにはシートベルトなんて無いからね。

 空の旅の初体験がフルオープンのジェット機、なんて無理だろう。

 ワイバーンは、安全バーなしでジェットコースターに乗るのと何も変わらない。


 ということで、グリフォンに乗って移動。


「うおおぉぉぉ! 飛んでる! 飛んでっぞ、俺!」

「ヤバい、これがグリフォンの背中……もふもふ……ファンタジー……!」

「おいおい。乗り心地は良いんだけど、これって落ちたらどーすんの?」


 空の上ではみんなが、自分が召喚したグリフォンに騎乗しての初飛行に、大騒ぎである。


 グリフォンに乗り慣れていて身体能力も高いナトレイアが、意気揚々とみんなの不安を払拭した。


「なに、落ちても心配するな! 私とグリタローが急行して受け止めるから、ケガなどはさせんぞ!」


「そうとも、落ちては大変じゃ。なので、わらわはコタローにしっかりしがみついておかなくてはの!」


 俺の後ろに乗るクリシュナが、俺の腰に手を回して抱きつきながら叫んだ。

 屋敷で留守番するのはヒマだ、と彼女も無理矢理に付いてきたのだ。


 あ、やめろ、頭をぐりぐり押しつけるな。服の臭いをふんすふんす嗅ぐんじゃない。

 まだ婿取りを諦めてないのか!?


「大丈夫かしら、このパーティ……」


 アシュリーがそんな風に呆れたため息をついていた気がする。

 仕方ないね。俺たちのパーティが珍道中やってるのは、ある意味毎回のことだもの。




 そんな感じで、以前にもオーゼンさんたちと狩りに来た草原に到着。


 戦力編成のついでに、みんなの召喚制限も確認してみる。

 一人十体まで……やっぱり、最大HPと同じだな。

 所長や屋敷のエルフさんたち、この世界の人たちの、最大魔力量の値までと言う制限とは別物のようだ。


 俺も含めて五十八体の軍勢、というのはさすがに呼びすぎなので、空陸合わせてそこそこの数の中級アバターを喚んでおく。


 俺たちの護衛と言えば『ブラッドオーガ』みたいな印象があるけど、みんなが選んだアバターは違う。



『ベルセルクグリズリー』

5:4/5

 『肉壁1』・このアバターへのダメージは、それぞれ1点軽減される。

 『高速連撃2』・一度の攻撃時間で2回攻撃できる。



「ガウ」

「ガウ」


 地上戦に持ち込めれば、フレアドラゴンとも渡り合える巨大熊、ベルセルクグリズリーだ。

 ブラッドオーガが相手でも瞬殺できてしまう強力なアバターである。


 みんなが喚び出した巨大熊たちは、互いにクマ顔を見合わせ、ぺこりとお辞儀する。

 肉球と爪のついた熊の手のひらを挙げて、のんきに挨拶していた。


 紛れもなく、日本人であるみんなの分身だな。空気が平和だ。

 クマー。


「いやぁ、大きいけど、大人しくて可愛いねぇ」

「なんか、ハチミツとか好きそうだなー」

「赤いベスト着た、黄色い奴のことか?」

「シノさんやめよう、そのネタは危ない」


 俺も、おとりの『懸命な守備兵』や斥候用の飛行アバターなんかを召喚して準備していく。

 居並ぶ四頭の巨大熊に、同行してきたクリシュナがおののいていた。


「……こんなのや、ワイバーンなどを一人につき十体も喚べるのかや? コタロー、お前と仲間たちは、国でも興すつもりかの? 全員が喚べば、この国は滅びそうじゃが……」


 うん。俺も散々言われてきたけど、滅ぼさないから。

 戦時中じゃあるまいし、平和ボケのお人好し民族とか言われてる国の人間だから。

 地球の国外の観光地じゃ、無害すぎて妖精(フェアリー)扱いまでされてんだぞ?


「ご主人様とお仲間方の軍勢は、世界の民を救えるのです!」

「おんっ!」


 前衛兼警戒役として喚んだアテルカとデルムッドが、誇らしげに声を上げる。


 特にアテルカは、時田たちが一人三体ずつの『ゴブリン』を召喚しているので、増員された騎士団たちを率いて気合いも入っている。

 増員分は剣術スキルこそ持ってないけど、アテルカの『統率』バフで装備が強化されてる上に、意思の疎通もできるからな。


 しかし、アテルカの言葉に、多少の不安も感じる。


「戦力が増えるのは良いんだけどさ。この世界に来てから毎回、戦力をギリギリまで使う戦いが続いてるからな……増えすぎると、逆にそれが必要なピンチが来そうでイヤだな」


 今は比較的平和なわけだけど、この世界は基本的に超危険だからな。

 モンスターは溢れてるわ、『魔界』なんて物騒な地域は各地にあるわ。


 そうならないと良いな、と思わずぼやいてしまう。


「……自分で口にしたばかりに、本当にそんな目に遭うかもよ?」


「やめろアシュリー。嫌なフラグ立てんな」


 冗談を言って苦笑していたけど、アシュリーが真顔で返してきたので苦虫をかみつぶしたような顔になってしまった。


 ヤダよ、もう目的果たしたんだし。これからは平和に生きていくよ。


 ……もし本当になったらどうしよう。言霊(ことだま)は怖いな。


 そんなことを思って頭を抱えていると、それまで騒いでいた時田たちが、神妙な表情でこちらを振り返った。


「なに言ってんだ、コタロー。それならそれで、俺たちも加勢するだけだろ」


 ……へ?

 時田の、何気なく口にした一言に、思わず目を剥く俺。


 時田は、護衛のベルセルクグリズリーの毛皮に手を置きながら、続けた。


「グリフォンとか、クマとか、こんなデカいバケモンを倒してこなきゃ生きてられなかったんだろ。日本で一度死んだのに、それからもずっと死にそうな目に遭ってきたんだろ。――俺はもう、お前が死んだって聞かされるのは、二度とゴメンだぞ」


「いやぁ、異世界はやっぱパねぇな。倉科、どーする? マジでバケモンが棲んでっぞ、ここ。気ぃ抜くと、簡単に死ねそうだわ」


「いやー、正直逃げますねー、シノさん。現実感なさ過ぎっすわ。――でもほら、『やっぱ帰るわ』ってよりですよ。『ここは俺に任せて先に行け!』って、人生で一回くらい言ってみたくありません?」


 シノさんと倉科さんが、苦笑いしながら軽口をたたき合っている。

 でも、と二人は口を揃えて、同じ言葉で俺に笑いかけてくれた。

 まるで、仕方ねーなぁ、とでも言うように。


「でも、ま。コタローがいる世界なら、『俺たちは見捨てて逃げるわ』とは言えねーやなぁ」


 腕を組んで、うなずき合う二人。

 シノさん、倉科さん。笑顔が、ちょっと引きつってるよ……


 無理すんなよ。俺は、そんなつもりでみんなを連れてきたんじゃない。

 みんなを危ない目に遭わせるために、この世界に連れてきたんじゃないんだ。


「コタローくん」


 愕然とする俺に、飯山店長が歩み出る。


「――きみが、僕らを楽しませるために、この異世界に連れてきてくれたことは、百も承知してるよ。たくさん、夢いっぱいのものを見せてもらってる。本当に感謝してる。……でもね、この危ない世界で、僕らの知らないうちにきみが、もう一度死んだらどうする?」


 俺が、この世界で死んだら……?


能力無し(バニラ)なら無理ゲーだけど、俺らも魔法が使えるってんだからなぁ」

「命懸ける覚悟は簡単には持てねーけど、仲間の命を見捨てる覚悟も持てねーやな」

「しゃーないスよね。身内が異世界転生しちゃったってんだから。巻き込まれ展開もアリだよな?」


 口々に話しかける三人。

 飯山店長が、ふっと微笑みかけてくれる。


「もう、僕らの知らないところで死ぬの、やめてくれよ。……きみが僕らに会いたいと思ってくれてるように、僕らもきみに会いたいと思うものなんだよ」


 時田と倉科さんがシノさんの肩に腕を置き、三人は俺にニカッと、覚悟の笑顔を向ける。



「一人でがんばるな。――お前の物語(じんせい)に、俺たちも混ぜろよ、『主人公』」



 みんな……

 泣くな、と自分に言い聞かせる。


 辛かったよ。怖かったよ。痛かったよ。

 この世界の仲間たちが支えてくれたけど、それでも苦しいことはいくらでもあったよ。

 吐き出したい愚痴や、弱音が、いくらでも溢れそうになる。


 あの頃追い求めていたみんなが、助けの手を差し伸べてくれる。

 その事実が、本当に嬉しかった。


「……へん! 無理すんなよ! 強そうな相手なら、逃げてくれて構わねぇぜ?」


「おー逃げる逃げる、てめーが逃げたら俺らも逃げるわ。そらもう全力でよ!」


 お互いに、ひねくれた軽口を交わし合う。

 大いに笑い合ったところで、俺は狩りの準備を整えるフリをして、くるりと後ろを振り返った。


 俺の背後には、クリシュナが立っていた。

 彼女は俺の表情を見るや、一瞬きょとりと驚いた顔をして、ふふ、と優しく表情を緩めた。

 そして、俺を見上げて、小声でささやいてくる。


 我慢は、できなかった。


「……良い仲間じゃな」

「うん。――自慢の、仲間たち、だ……」


 顔がくしゃくしゃになるのを止められず、うつむく俺を、クリシュナはみっともないとは笑わなかった。

 ただ、うらやましがるような瞳を細めて、微笑んでいた。




 その後の狩りは、やっぱりひとしきり騒ぎながらたくさんのモンスターを狩った。


 時田たちは本物の野生のモンスターの凶暴さにビビりながらも、前衛のアバターのフォローの元に、積極的に魔術を試していった。


 口にしていた感想は、やはり「異世界やべー。モンスターやべー」だったが。

 語彙力とは。


 それでも、それぞれの呪文の効果やアバターの能力を確認しながら、どんな戦術ができるかを真剣に話し合っていた。


 帝国での階位アップで、『次元転移』とともに手に入れた、新しいカードは四枚。

 その新カードなども、カードゲーマーみんなで検討していた。


 新しいカードの内容は、以下。



『天光の箱庭』

7:望む数を対象とする。それぞれの対象のHPを3点回復する。

  (関連する傷病を癒す)


『トリックショット』

4:一分間、対象は『高速連撃2』を得る。

 対象がすでに『高速連撃X』を持つ場合、Xに1が加算される。


『微風のささやき』

1:最大三分間、あなたが会ったことのある任意の相手一人と会話が出来る。

  (距離は問わない)


『永久凍土』

7:広範囲を凍結させる。



 コスト7の、俺にしか使えない呪文が二つあるけど。

 それよりも嬉しいのは、連絡手段である『微風のささやき』だ!

 ぶっちゃけ、無線を手に入れた。


 残念ながら異世界と日本の間での通話は出来なくて、同じ世界間での限定だけど、通信手段は戦術の革命だ!

 これで、ワイバーンに乗りながら、各自で連携を取り合って高速機動戦術を行うなんてこともできる。


 願わくば、時田たちみんなが危ない目に遭わなければ良いのだけど。

 俺は、騒ぐみんなを見ながら、心に決める。




 何があっても、俺の仲間たちは守り切る。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
妖精が無害?妙だな
[気になる点] 天光の箱庭でコロナは根絶できないのでしょうか?
[良い点]  みんなが喚び出した巨大熊たちは、互いにクマ顔を見合わせ、ぺこりとお辞儀する。  肉球と爪のついた熊の手のひらを挙げて、のんきに挨拶していた。 ↑ 冒険者や学者が唖然としそう(ノ´∀`*)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ