ギルドで今日から治癒術士
やってきました冒険者ギルド。
木造の三階建て、周囲を見回してもかなり規模のでかい、市役所かと思うような施設だ。
アシュリーの案内で中に入ってみると、一階は半分が事務スペース兼受付窓口、残りの半分が待合ホールみたいになっていた。
大きな掲示板にいくつかの紙切れがピンで留めてあるので、あれが依頼票かな。
「かなり遅めの時間だから、あまり人がいないわね。すぐ登録できると思うわ」
「忙しい時間帯には、やっぱり人が増えるのか?」
「そうね。朝が一番多くて、割の良い依頼の奪い合い。昼から今の時間帯くらいまでは獲物や依頼完了の報酬受け渡し受付で混み合うかしら」
アシュリーの説明に、なるほどとうなずく。
待たずに済むならそれに越したことは無いか。
窓口に行くと、なんと受付嬢はケモミミでした。
鑑定! 鑑定さん、出番です!
異世界のケモミミお嬢さんの詳細をぜひ!
名前:ファリナ
種族:虎獣人
2/1
・敏捷
衛兵さん並みの攻撃力でした。
しかも敏捷持ちって、ハウンドウルフと同じステータスじゃねーか!
切れ長の目の美人さんだけど、怒らせないようにしよう。
「……あの。お客様、どうかされましたか?」
「いえ、虎の獣人を見るのが初めてでして。とても綺麗な瞳ですね」
ごまかしついでにそう言うと、受付嬢さんの頬がぽっと微かに染まった。
なぜかアシュリーが俺の背をつねってくる。痛い! 何すんの!?
「ったく、もう! ……ファリナ、獲物の買取と、こいつの身分登録をお願いね」
「あ、うん。わかったわ、収穫物は奥の解体場で査定してもらうから、先に出しておいてくれる?」
そう言って、ファリナさんはアシュリーを窓口の奥へ招きいれ、獲物置き場らしきスペースに収穫物を出すように勧めた。
「え、え!? ホーンラビットが六体にブレイドスタッグが四体、オークが六体、キラーアントの甲殻も一日でこんなに!? ……それに、この革、もしかしてオーガ!? 森の主!? いきなりどうしちゃったの、アシュリー!?」
「ふふん! あたしとコタローにかかれば、こんなもんよ!」
いや、狩ったのはほとんどデルムッドとゴブリンズだけど。
俺の横にお座りするデルムッドが、「くぅん」と寂しそうに見上げてきた。
すまん、後でいいもの食わせてやるからな。白い毛並みの頭を撫でてやる。
「え、えーと……身分登録をしたいということでしたが、そちらは冒険者志望ですか?」
「あ、はい。できればお願いします」
「ではあちらで書類の記入をお願いします。お名前をうかがっても?」
「コタローです。治癒術が使えるので、戦闘よりはそちらを活かせればと」
ファリナさんの促すままに窓口に戻り、書類に記入する。
スキル『異世界言語』は筆記にも通用するらしい、助かった。
鑑定でみんな苗字を持ってなかったので、俺も苗字は伏せておく。たぶん、苗字持ちは貴族とかなんだろーな。
アシュリーには苗字を話した気もするけど、異国人ということで流してもらえたようだ。
「えっと、所持技能は治癒術と召喚術……もしかして、そちらの猟犬は召喚獣?」
「はい。言葉もわかるし、俺の言うことを聞きます。あとはゴブリンなんかも召喚できるのですが、街中で召喚していても大丈夫ですか?」
「人を襲わないのであれば大丈夫ですよ。もし襲った場合は、召喚者のあなたの責任となりますので、くれぐれも管理は怠らないでください」
書類を確認したファリナさんは、俺の申請書を眺めて、
「珍しい組み合わせの技能ですね」
とこぼしていた。
「ファリナさん、そんなに珍しいんですか?」
「そうですね。そもそも召喚術士も治癒術士も、数が少ないですから。それに召喚術士は再召喚するから治癒術は覚えず護身の格闘術を覚えますし、魔術と併用できる魔力を持っている人は珍しいです」
スキル『魔力高速回復』の恩恵だな。
普通の人の魔力回復速度がどのくらいかはわからないけど、召喚と治療と、魔力頼みの戦術を取れるほどの魔力持ちはあまりいないんだろう。
「コタローさん。魔力がたくさんあるなら、冒険者の治療をお願いできませんか? ケガをして帰ってくる方も多いので、魔力に余裕のある治癒術士の方が請け負ってくださるととても助かるんですけど」
「えっと、報酬によりますかね。まだ、この辺の物価がよくわかってませんので。許可がいただけるなら、アシュリーに相談して治療費を決めたいと思います」
わかりました、とファリナさんは嬉しそうにうなずいた。
「本当は、召喚と治癒ができるなら、後衛向きなので他の冒険者からパーティに誘われるかもしれませんが……」
「コタローは、もしものときに自分で戦えないから向いてないわよ。安全なところで働いた方がいいわ」
アシュリーのアシストが飛ぶ。
そりゃそうだ。強いのはデルムッドたちで、俺自身の攻撃力はゼロだし。
HPは無駄に高いけど。
……よく考えたら、HP7の回復&増援召喚ユニットって、かなり有能か?
攻撃できなくても、有利性の塊みたいな肉の壁だもんな。
ゲームで敵に出会ったら、真っ先に潰されそうだ。俺なら先に潰す。
「そうですね。あまり争いごとは向いてないので……街を中心に活動しようと思います」
「それがいいかもしれませんね」
ファリナさんもにこりと同意して、できあがった俺のギルド証をくれた。
査定が終わり、収穫は金貨三枚分にもなった。
物価的に三十万円くらいだ。一日の稼ぎとしちゃ破格だろう。
この世界の貨幣は、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨と上がっていくらしい。
聞いた物価の限りでは、それぞれ十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円、一千万円か。白金貨は記念品らしく、王室が少量作っただけで流通してない、噂だけの存在なんだと。取引には使われないそうだ。
おかしいな? 日本だと銀と金じゃ、同じ重さで六十倍くらい価値が違うんだが。
これは金が安いんじゃなく、銀が高いのかもしれない。
地球でも古代は金より銀の方が価値の高い時代があったって聞くしな。
地中埋蔵量の差と電子製品への需要が無ければ、金銀の価値の差は薄まるのかも。
ともあれ、望外の稼ぎになったので、宿で山分けすることにした。
人はあまりいないが、大金を人目に晒したくない。同じ宿を目指しているので、話はそこでいいだろうと俺が提案した。
資金はできたし、とりあえず食事と寝床の確保か。
尻尾を振るデルムッドをつれ、アシュリーと人もまばらなギルドを後にした。




