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おうさまに会おう



 翌日はかねやんを一度送り返し、休暇を取った倉科さんと飯山店長を異世界に連れてくることから始まった。

 別れ際、かねやんは、社長である父親と話を付けて自分も長期休暇をもらってくる、と息巻いていた。


 飯山店長の店はまだ空いていない時間……

 というか、一時休業の張り紙が貼られていたけど、時田に買ってもらったばかりのスマホで連絡したら、すでに倉科さんと一緒に店内で待機していた。


 思わず、びっくりした。


 二人は、かねやんが今日は仕事だと知っていた。

 日本に送り返しに来るなら早い時間だと思って、休暇を取った後に早朝から示し合わせて、店内で待機していたらしい。


 どんだけ異世界行きたいの、二人とも。

 気持ちはわかるけど。


『コタロー。はんばーがーは、まだこの時間は売ってないの?』


『もう売ってますよ、アシュリーさん。――コタロー、牛丼屋でテイクアウトもしようぜ。俺たちも待ってて腹が減った』


『なら、先にご飯食べてから行こうか』


 時田たちが持っていたスキルの話をすると、倉科さんと飯山店長もあっという間に『異世界言語』が使えるようになった。

 やっぱり、同じスキルがあったか。


 アシュリーと会話が出来るようになったので、どこの店舗のメシが美味いか、なんてことを和気藹々と話している。


 もう少し待てば、チェーンの回転寿司屋が開いて生魚が食べられる、と知ると、アシュリーが行きたがったので、朝食はそこに決まった。

 日本で食事する気満々で、屋敷の朝食を抜いてきていたのだ。


 先に追加のお菓子類のお土産を購入してから、揃って回転寿司屋に向かう。

 ワサビやノリ、それに酢飯は食べ慣れてないから少し不安だったけど、アシュリーは気に入ったようでバカスカ頼んでいた。


 異世界行きのお礼に、と全額おごる宣言をした倉科さんは、少し涙目になっていた。


 アシュリーの要望により、持ち帰りの寿司も注文したので、さすがにそれは俺が払った。

 どうも、日本の新鮮な生魚を気に入ったらしい。

 この街、漁港からも割と近いしな。


 ……早めに、時田に異世界産の売れそうなものを見繕ってもらった方が良いかもしれない。



******



 ……というわけで、またも山ほどお土産を抱えて異世界の屋敷に戻ったところ。


「――『エルフの占星術師』とリストークン、『クロノダイル』でアタック!」


「全部ボディ! 残りライフ8!」


 応接室のテーブルでは、時田とシノさんが、持ち込んだカードゲームで遊んでいた。

 使用人の皆さんやナトレイアたちも、卓上に並ぶたくさんの紙を、興味津々で見つめている。


「……なにやってんの、二人とも?」


 俺が呆然と声をかけると、二人はゲームを一時中断してこちらを振り返った。


「お、コタロー。おかえり! ――ヒマだったから、対戦してた!」


「なんせ、久しぶりにネット対戦じゃなく、紙のゲームだからな! いやぁ、やっぱ紙のカードを触らないとな!」


 心から楽しそうにはしゃぐ二人。

 ……異世界に来て、まずやることが、カードゲーム。


 魔術も使える。リアルエルフもいる。メイドさんもいる。

 外に出ればギルドもあるし冒険者もいるし、モンスターだっている。


 でも、カードゲーム。


 その選択に、思わず嬉しくなって笑みがこぼれた。

 そうなんだよなぁ。みんな、変わらずカードバカ……もとい、カードゲーマーだなぁ。

 これはもう、習性だ。俺たちは「そういう生き物」なのだと言ってしまっても良い。


「シノさん、そこは相討ち取った方が良くね? ライフ持たないだろ」

「スルーしないと攻め手が無くなるじゃねーか。こいつ生き残らせておいて、後続のブロッカーを連打した方が、まだ勝ち筋が残る」


 エルフやメイドさん、執事のマクスさんたちに囲まれながら、周囲の光景には目もくれずゲームの戦術を語り合う、時田とシノさん。


 地球の感染病のせいで、こういう話も久々なんだろう、夢中になっている。


 周りのみんなは、言葉はわかるが話の意味はわからない、と言った顔をしながらも、興味深げに二人の会話に耳を傾けている。


 その光景を見て、倉科さんたちも、エルフよりも先にゲームの盤面に飛びついた。


「お前ら! 俺も家から、デッキあるだけ持ってきたぞ! 混ぜろ!」

「僕もデッキ持ってきたよー。これで、主流のデッキタイプは揃うんじゃない?」


 目の前のファンタジーよりも、ゲームが先。

 さすがだよ、みんな。俺も逆の立場だったら、同じ反応してた自覚がある。


「コタロー、コタロー。これは、どういうルールなのだ? 何だか楽しそうなのだが」


 熱気に当てられたのか、ナトレイアがわくわくした顔で尋ねてくる。

 あー、うん。あとで遊び方は教えるよ。

 本当に、『エルフ』がエルフデッキを使う、なんてことになりそうだな。


「あたしにも覚えられる? これでも、盤上遊技なら、公爵家で少し遊んだわよ」


「アシュリーまでか。良いけど」


「あはは。そんなこともあるかと思って、良いもの持ってきたよー」


 俺たちのやり取りに、ニコニコと飯山店長が鞄から何かを取り出す。

 それは、カードのイラストと文章が印刷されたコピー用紙の束だった。


「昨夜、最近使われてる主なカードのリストを作ってきたんだ。手製だけど……ほら! この余白の部分に、この世界の言葉で翻訳テキストを書き添えれば、この世界の人でも遊べるようになりそうじゃない?」


 うおおお。わざわざ手製のリストを作って印刷してきてくれたのか。

 一口にカードと言っても、何百何千も種類があるのに。


 そのリストを見ながらであれば、言語のまるで違うカードの内容も、異世界人にも読み取れる。

 ありがとうございます、店長!


「すみません、店長。わざわざ……マクスさん。文字が綺麗に書ける人はいる? この資料を、翻訳して欲しいんだけど」


「それならば、わたくしめが当たらせていただきましょう。……わたくしも正直、旦那様や皆様方が夢中になっているものに、興味がございます」


 マクスさん自身が請け負ってくれて、飯山店長と一緒に別室で翻訳することになった。

 あの二人に任せておけば、本当にみんなもカードゲームで遊べるようになるかもしれない。


 さて。

 俺は俺の方で準備をしないとな。

 まずは土産を用意して、と。


 所長たちは後で屋敷に来るだろうから、クリシュナだけ屋敷に残ってもらって、所長たちと向かうことになるな。

 となると、正装だけど……


 時田は、まぁ、今の服装でも良いか。異邦人、てか異世界人だし。

 たぶん、面会するのはいつもの場所だろうから、他の貴族の目も無いだろう。


 そこまで考えて、ゲームに興じている時田を振り返る。


「時田ー。午後から、ちょっと付き合ってくれ。この世界の物品を売ったり見繕ったりするのに、話を通しておきたい人に会うから」


「うん? ああ、そうだな。大事なことだな。――いいぜ、誰に会うんだ?」


 軽く請け負ってくれる時田に安心して、俺も軽く応えた。


「この国の、おうさま、かな」


「…………はい?」



******



「やぁやぁ、ナギハラ伯爵! 無事に戻ってきてくれて、嬉しいよ!」


 いつもの王城内、王宮の応接室で出迎えてくれたのは、ハイボルト国王陛下だ。

 朗らかに俺の帰還を喜んでくれている。


 陛下の後ろに立つオーゼンさんも、言葉は発さないが笑顔を俺に向けてくれている。

 俺の隣にはエルキュール所長が並んで座っており、出迎えの際に再会のあいさつは済ませている。

 俺が異世界に戻って来れたことを喜んでくれて、室内の誰もが満面の笑顔だ。


 ……一人を除いて。


「――それで、トキタ殿、だったかな? ナギハラ伯爵の親友と言うことで、この王国の物品を持ち出したいと。もちろん構わないとも! そう堅くならずに、楽にしてくれたまえ!」


「は、はい。国王陛下からの過分なお言葉、ありがたく存じます……」


 時田は、脂汗をダラダラ流しながら緊迫した表情でうつむいている。

 無礼をして処刑されないか、なんて心配してるんだろうな。

 そういう人柄じゃない、と教えてはいるんだけど。


「ありがとうございます。陛下への報告が一日遅れで、すみません。……あ、これ、祖国の土産の菓子です。一般人でも手に入るもので、申し訳ないんですけど」


 乾物のクッキー類を一箱ずつと、生菓子のシュークリームの箱を差し出す。


 転移する前にケーキ屋に寄って買ってきたものだけど、シュークリームは異世界には存在しない保護フィルムを巻き付けていなかったので、これを選んできたのだ。

 クッキーの包装と違って、フィルムを口に入れちゃっても問題だからね。


「いやいや。違う世界のお菓子だなんて、こっちじゃ絶対に手に入らないでしょう。ナギハラ伯爵はこういう気配り細かいよね、感謝するよ。どれからいただこうかな……?」


「あ、包装は解きますね。ゴミは引き取りますんで集めるか、燃やすかしてください。えーと……オーゼンさんと所長、陛下の前に毒味をお願いしていいですか?」


「む、わしも良いのか? ……いやいや、毒味は大事じゃな。では陛下、失礼して」


「そうですね、先代。万が一があったら大変だ。いやぁ、屋敷の住人は昨日のうちに食べたとさっき聞いて、わたしも食べてみたかったんだよ!」


「ああっ、そんな……っ!」


 陛下が手を伸ばす前で、オーゼンさんと所長がシュークリームをパクつく。

 今頃は、クリシュナも屋敷でお土産を食べてる頃かな。

 喜んでくれるといいけど。


「おお? ……おお! なんと、とろけるような舌触りじゃのう。乳の味と、卵の味と、なめらかな甘さがたまらん!」


「ああ、良いですねぇ、これ! 香りも甘いし……原料は何かな? 他の貴族の、特にご婦人方に知られたら、奪い合いになっちゃうね! 絶対に知られないようにしないと!」


「……そろそろ、ぼくも食べて良いかな……?」


 おあずけをされて、陛下が泣きそうな目で二人を見ている。

 オーゼンさんたちが問題なしと確認して、陛下もようやくお土産にありつけた。


「本当だ。美味しいね、これ。サクサクした薄い皮と、中身の甘み……砂糖の甘みはするけど、そんなに強くないね。このぐらいの甘みだとちょうど良いし、食べやすい。何個でも食べられるね」


 陛下もお気に召したようだ。

 貴族や王族だと砂糖も食べ慣れているはずだけど、好評のようで何より。


「ほら、砂糖って薬用食品だからさ。王宮の菓子は、大量に入れられすぎてて胸焼けするんだよね」


「ああ、そうですのぉ。料理人は身体に良いから、と思ってふんだんに入れとるんでしょうがの。渋い紅茶と一緒じゃ無ければ、とても食えはしませんな」


 陛下とオーゼンさんがうなずき合う。

 ああ、なるほどね。チョコと同じく、砂糖も由来は薬用として扱われてたもんな。

 確かにエネルギー補給には効果的だけど、やり過ぎは良くない。


「上級貴族の社交でもそうですよ? 高価な貴重品だから、とにかく大量に使って財力を誇示したがるんですよね。いや、このお菓子を食べたら、あんな社交界で出る砂糖の固まりは二度と食べたくないね」


 所長が、貴族あるあるみたいな話を出してくる。

 身体に良いからとぶち込む人もいれば、大量に使えば豪華だとぶち込む人もいる……お菓子の文化がまだ発展してないな。

 砂糖が貴重品なせいだろうけど。


「異世界の砂糖事情、お約束だな……」


「地球の歴史も、似たようなもんだって聞いたことあるぞ」


 時田とぼそぼそとささやき合う。

 魔術のある世界でも、食文化に関しては似たような歴史をたどるらしい。


 そもそも、この世界はモンスターが多すぎて、大規模栽培が難しいからな。

 安全な農場、なんて広大な土地は限られていて、大量栽培は穀物だけで精一杯だ。


 地球みたいに、サトウキビ畑なんて作ってたら、草食モンスターが大挙して荒らしに来る。糖分が多くて、顎が強い大型モンスターには栄養豊富な、絶好のエサだからな。

 地球でもサトウキビは飼料転用してるわけだから、異世界だとモンスターも食べるだろう。


「砂糖、塩、コショウは大量生産してますんで。日本だと安いですよ、陛下」


「そうなの? うちもコショウを安く普及できると良いかもね……ほら、平民の食べるモンスターの肉って、クセがあるからさ。香草で臭みを消してるから、問題は少ないけど」


 確かに、この国のモンスター肉料理は美味いもんな。

 つまり、香草料理が発展してる上に、保存は魔道具が無いこともないので、香辛料の急激な需要があるわけではない、とも言える。


 穀物も、この王国は貴重な大穀倉地帯を国有してるから、食糧事情は良い。


 必需品は足りてるんで、交易するなら、こういう菓子とかの嗜好品かな。


 舌休めの紅茶を口にしながら、諸々の相談を交わしていく。


「……それでですね、陛下。王国というか、この世界の物品を、日本で売って資金源にしたいんですよ」


「さっきも言ったけど、良いよ? この王国は一般品の持ち出しに関税はかけてないから、普通の日用品なら仕入れも輸出も自由にしたら良いよ」


 どこかの商会でも尋ねてみたら? と軽く言われた。

 大規模な取引ならともかく、一個人の仕入れ程度なら、どんなに大量でもタカが知れているので問題無い、とのこと。


 これが企業単位の取引だと、また別なんだろうけどね。


「ただ、嗜好品や貴重品、軍需物資に当たる物の民間の持ち込みは、少し関税を取ってるからね。代わりにこうやって、たまに美味しいお菓子を献上してくれたら嬉しいな」


「それくらい問題無いです。むしろ、ご注文いただければ調達してきますよ?」


 予算が限られてるんで、金額にもよるけどね。

 俺の言葉に、陛下は嬉しそうにうなずいてくれた。


 ……今度、菓子屋やケーキ屋のサイトから、パンフレットにまとめて持ってこようかな?


「じゃあ、ナギハラ伯爵は無事にこっちにもいられる、ということで。……話していたとおりに、帝国との交渉の特任大使を任せても良いかな?」


「わかりました、お受けします。ただ、俺は、政治的な交渉には不向きですよ?」


 移動手段と帝国へのコネは持ってるけど。

 国益をもぎ取る政治的手腕なんてものは、俺に期待する方が間違いだ。

 陛下もそれはわかっているらしく、


「大丈夫、大丈夫。向こうの皇帝陛下からもらった書状には、言い値で賠償するって書かれてたからさ。……まぁ、帝国も苦しい時期だろうから、穏便な範囲で請求するよ。こっちの王国貴族たちには、交渉が難航している印象を与えておくけどね」


 完全な出来レースだった。


 言い値で賠償、というと下手すれば国家が潰れるほど請求しそうだけど。

 過度にむしり取らないのは、帝国に恩義という名の貸しを作るためだろうな。


 これで貸し借りを帳消しにしてしまうと、国力のある帝国を相手に優位に立てなくなる。これから帝国が経済的に発展して力を付けてきたら、なおさらだ。

 今、すべてを返してもらって優位を失うのは逆に損をする。


 裏で話し合って、今回は優しくする分、将来的に優遇しろよ、って意図だ。

 たぶん、帝国の皇帝もそういう対応になると見越して、全面降伏みたいな書面にしたんだろうな。


 そうと知らぬは王国貴族たちばかりで。

 陛下たちのお芝居で、帝国相手の難題を見事に解決した俺に、褒美を与える国内での口実を作る、と。


 ……政治は怖ぇなぁ。


 ふと横を向くと、時田が青ざめた顔をしていた。


「……皇帝とか、帝国に賠償とか。コタロー、お前マジで、こっちで何やったの?」




 いや、ちょっと救国の英雄を、二カ国ばかりね?







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[一言] 「……そろそろ、ぼくも食べて良いかな……?」  おあずけをされて、陛下が泣きそうな目で二人を見ている。 ↑ こういうの見るにつけ、いっそのこと王族は簡単な料理でも習ってしまってはどうかと思い…
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