竜をしとめるやり方
アシュリーの弓術により地に墜とされたオルスロート。
翼を動かすことができず、瓦礫の中に這いつくばって悶えている。
さて、倒す手段はいくつかある。
ナトレイアに創国の王剣を渡して『魔獣の力』なんかの強化呪文をかけても良いし、貫通効果を持つ火力、『パイロニックスピア』を連打してHPを削っても良い。
けど、それらのどの手段にも、魔力が必要になる。
オルスロートも飛行能力を失っただけで、動けないわけじゃない。翼の自由が利いていないだけだ、じきに立ち上がるだろう。
それまでに魔力を回復できるか、だな。
翼の自由が利かないことで感覚を掴めていないオルスロートに、アースドラゴンが突進する。鈍足のアースドラゴンだけれど、何しろ体格がデカい。
体長だけならオルスロートを超えるその巨体で、背後から回り込み、上からのしかかって自由を奪った。
このまま圧殺――できれば良いだろうけど、ステータスはオルスロートの方が遙かに上だ。
最初から時間稼ぎにしかならないとわかっているし、その「時間」が今は何より欲しい。魔力を回復する時間が。
動かない巨大な翼が障壁になり、背後のアースドラゴンに手が届かないオルスロート。良いね、そのまま抑え込んでてくれ。
『ぐっ、愚物がァ! どけッ!!』
もがいても無駄だよ。アースドラゴンはダメージを与えるのが目的じゃない。
持ってる『肉壁』と『甲殻』の能力で大抵の攻撃はシャットダウンできるだろうけど、単純な「重量」まではキャンセルできないだろ?
小山のような質量の地竜に、押さえつけられてろ。
アースドラゴンに攻撃の手が回らないよう、残った四体のフレアドラゴンが降下して接近したり、目に炎のブレスを吐きつけて一時的に視界を奪ったり、とオルスロートの気を引いて邪魔をする。
あまりにしつこい嫌がらせに、オルスロートの怒りが膨れ上がっていくのがわかる。
『おのれ! チョコマカと! 召喚された使い魔風情がッ!』
「……さてと、いつまでものんびりはしてらんねぇな」
このままフルに魔力を回復できたら嬉しいが、それはオルスロートをナメすぎだろう。
やつだってエルダードラゴン。しかも攻撃力は二桁に届くバケモノだ。
寄りかかったアースドラゴンだって、態勢が整って攻撃が当たれば一発でカードに戻っちまう。
「しかし、コタロー。アルストロメリアを喚ぶにも、私を強化するにも、かなりの魔力が必要になるだろう?」
「仕方ないさ、ナトレイア。リスクが高すぎるんで、できれば他の方法を採りたかったけど……ハンジロウ、奴の攻撃をかいくぐって、一撃与えられるか?」
腹をくくって、現状でも可能な手段を採択することにする。
俺の確認に、ハンジロウは力強くうなずいた。
「たやすいことにございます、お館様」
だろうな。『敏捷』に加えて、『隠密』の能力でオルスロートの『覇者の威圧』の対象にもならないから、身体能力も下がってない。
何も弱体化してないハンジロウの実力なら、一発当てることは可能だ。
「ならハンジロウ、頼んだ。お前の攻撃力は今から上げる」
「どうするつもり、コタロー? また皇帝を救出した帰りみたいに、自分に魔術を撃ち込むの?」
「ウチの魔力は、まだちょっとしか回復しとらんよ? それに、みんなの腕力も下がっとる。コタローはんのHPを、誰が下げるん?」
アシュリーとノアレックさんが、眉根を寄せながら尋ねてくる。
問題無い、手段はある。
すぐさま実行に移していないのは、ちょっと覚悟がいるからだ。
この手段は、HPが下がりすぎる。
今から俺は、HPの多さという、生き延びるための最大の優位を手放すのだ。
「魔力は1もあればいいさ。行くぞ……召喚」
そして俺は深く息を吸い、『そいつ』を喚び出す。
「召喚! ――『狂気の悪魔、トルトゥーラ』!!」
獣の容貌をした、黒い巨体の召喚獣が、俺たちの前に現れる。
そいつは、すべてを理解しているかのように俺を振り返り、ニヤリと笑った。
『よぅ、久しぶりだなぁ! ……と言っても、今回は活躍の場は無さそうだけどよ! ま、俺と覇王殺しの相性に気づいたことに免じて、素直に戻ってやらぁな』
「ああ、もしものときはお前の力も借りるよ。じゃあ、『またな』、トルトゥーラ」
そうして、すぐにカードに戻るトルトゥーラ。
悪いな、暴れさせてやれなくて。でも、これが一番手っ取り早いんだ。
俺は耐えきれず、ぐらりとその場にひざをついた。
「コタロー!?」
「何が起こった!?」
慌ててアシュリーとナトレイアが俺に肩を貸し、起こしてくれる。
俺は二人に支えられながらも、ハンジロウを見た。
「お館様……」
覆面に覆われたハンジロウの目元が、決意に深く歪む。
すまんな、後は頼むわ。
「こ、コタロー? あんた、何を……?」
「単純な話だよ。――俺のHPを3まで減らした。それだけだ」
『狂気の悪魔、トルトゥーラ』
1:4/4
『名称』・同じ名称を持つアバターは、一体しか召喚できない。
・このアバターを召喚している限り、あなたの最大HPは3になる。
・あなたのHPは、時間経過(三十秒)とともに1ずつ失われる。
召喚時に俺のHPを3にするデメリットを持つトルトゥーラ。
けれども、一度下がったHPは、トルトゥーラが消えても――
元の値には戻らない。
それは、過去に辺境伯邸の面談で喚び出したときに、実証済みだ。
だから、今の俺のステータスは、こうなっている。
ステータス
名前:コタロー・ナギハラ
職業:召喚術士
階位:6
HP:3/14(弱体化中)
魔力:2/6
攻撃:0(弱体化中)
そう。
このデメリットは、ハンジロウの能力と組み合わさったとき、これ以上ない威力を発揮するコンボになる。
今のハンジロウのステータスは、11点加算されて攻撃力12。
出会い頭の『パイロニックスピア』で4点のダメージを受けているオルスロートの残りHPを、『肉壁4』の上から刈り取れる数値だ。
「頼んだ。行ってくれ、ハンジロウ。後は……して欲しい。できるか?」
「お館様の覚悟、無駄には終わらせませぬ。――ご下命、必ずや」
ハンジロウの姿が目の前から消える。
頼もしい奴だよ、まったく。
「無茶しすぎだろう……今、他の敵貴族の生き残りにでも狙われたら、どうするつもりなのだ……」
「ああ、少し瓦礫の陰で休ませてもらうよ」
肩を借りているアシュリーに、手近な物陰に下ろしてもらう。
弱体化したアシュリーよりも俺の方がHPが残っているはずなんだけどね。
最大HPとの差で消耗度合いが加速するらしく、今の俺はろくに動けない。
なるべくなら、オルスロートの様子が見られる場所が良い。
瓦礫に背を預け、周りをアシュリーたちやゲルトールさんたちに警戒してもらいながら、様子を見守る。
ハンジロウの一撃が届けば、それで終わりだ。
言っているそばから、オルスロートの胸元で、陽光に何かが反射して煌めいた。
ハンジロウの片手剣かな。これで、やったか――
そう思ったのも、束の間。
次の瞬間に、信じられないことが起きた。
「き、消えた……!?」
アースドラゴンに抑え付けられていたオルスロートの巨体が、忽然と消え失せたのだ。
地響きを立てて、下敷きにしていたものの無くなった、アースドラゴンの前脚が着地する。
アシュリーのみならず、全員が目を見開きその光景を見つめる。
何だ!? 攻撃が当たって消滅した!?
……違う! 奴はカードじゃない、攻撃自体が当たっていない!
「――しまった、『人化』か!」
俺の叫びを証明するように、アースドラゴンが悲鳴を上げて、カードに戻される。
オルスロートの攻撃だ。奴は生きている!
「人の姿になって、アースドラゴンの拘束を抜け出しやがったな!?」
奴は少年の姿に変化することができる。
そのスキルでサイズを急速に縮めて、アースドラゴンの下に潜り込んだのか!
そうして、小さな陰が天へ昇り、奴は再び『竜』の姿となって現れた。
巨大なエルダードラゴンが、苛立ちに満ちた声を放つ。
『こんな小賢しい陽動に、いつまでも付き合うと思うなよ……この余をナメた報い、貴様らを踏み潰して受けさせてやらぁッ!』
怒りに我を忘れているのか、口調が粗暴になっている。
しかも、流星弓の飛行阻害まで解いちまってやがる。
「アシュリー、あの弓術は、解けるもんなのか!?」
「わ、わかんないわ……だって、訓練の時には、相手に姿を変えられたことなんて無いもの!」
しまった。アシュリーのさっきの飛行阻害は、あくまで『技術』だ。
能力で「カードに戻るまで」という、制限と同時に相手に対する強要をカードの能力で得ているグラナダインとの差が出たか!
上空を舞うフレアドラゴンたちが、次々にカードに戻されていく。
見境が無くなって、HP相当の身体能力を発揮してやがる。弱体化したフレアドラゴンたちじゃ上手く逃げられない。
『どこに隠れたァッ!! 城ごと更地にして、踏み潰してくれんぞッ!!』
まずい、俺たちの姿は捕捉されてないけど、一帯を丸ごと潰されたら一緒に瓦礫に飲み込まれちまう!
ハンジロウ……は、無事だろうが、奴をしとめてくれと言うのは無理だな。
再び『飛行』を得たオルスロートには、地上からの攻撃が届かない。
くそ、エミルがいれば、ここからでもハンジロウに『飛行』を付与できるのに!
魔力はすでに全快しているが、エミルを喚んでもHPが1しかない、すぐにカードに戻されちまう!
『地竜のいた場所……そこにいやがるのかァっ!』
フレアドラゴンを全滅させたオルスロートが咆吼を上げ、俺たちのいる場所へと突撃してくる。
狙いを付けているとかじゃない、その巨体で周囲ごとすり潰す気だ!
倒れている場合じゃない、力の入らない身体を無理矢理動かして立ち上がる。
どうする? 軽減系で防げる数値じゃない、『スタンランペイジ』で突進を止められるのか? 移動じゃなく攻撃と見なされるのか?
アシュリーの成功率で、もう一度流星弓で墜としてもらうのは分の悪い賭けだ。
どうする? 考えろ、考えろ――
そのとき、俺の脳裏に、いやに脳天気な声が響いた。
『困ったねぇ。死んじゃうねぇ。けど! ――そんなときこそ、大魔術士にお任せってもんさァ!』
皆様、良いお年を。




