対人戦闘開始!
「……わふ」
『……入ってきた、って言ってる』
デルムッドの反応を、エミルが訳してくれる。
ナトレイアが剣を抜き、アシュリーが通路の向こうに向けて弓を構え、所長とグリザリアさんが『カード』を構えた。
アテルカたちゴブリン騎士団は俺を取り囲むように周囲を守っている。
アバターを召喚しておきたいけれど、オーガなどは屋内では喚びづらい。いかに広い部屋と言えども、体長三メートルの巨体が同士討ちせず動ける屋外ほどの広さは無い。
それより大きいグリフォンやワイバーンにいたっては、この場は論外だ。
一応、『懸命な守備兵』だけは喚んでいる。
暗殺者が転移してきても、一瞬そちらに気を取られることを期待して、だ。
しかし、相手は野生のモンスターではなく訓練された戦闘技術者。
『探知』が『奇襲』を無効化するように、『誘導』を無効化できるように訓練されている可能性もあるので、過信は禁物だ。
体長が巨大な4コスト以上のアバターは喚べず、『ファイヤーボール』などの火力呪文も延焼の可能性があるので使いづらい。
使いやすいのは、『ソニックチーター』や『ラッシングジャガー』の『奇襲』持ち四足獣アバターくらいか。
一応、グリザリアさんから水攻撃呪文の『アクアスライサー』はコピーしてるから、できるならこっちを主軸に戦いたいな。
『アクアスライサー』
2:対象に2点の水の射撃を行う。魔力を1回復する。
できることなら、撃退や捕縛はしたけど屋敷も全焼しました、なんてことにはならないように戦いたい。
贅沢を言える余裕があるのなら、だけど。
「……全員、気をつけろよ。たぶん、並じゃないほど強い敵が送られてくると考えた方が良い。帝国も、切羽詰まってるだろうからな」
なんせ、伝説に語られる厄災の討伐者を暗殺しようってんだ。
全員が、ありふれてるわけでもない『奇襲』持ちで固められてる点からも、相手側の本気度がうかがえる。
帝国としちゃ、予期していないところから突然自国の関与を追及されて、短期間内に身代わりを立てて弁明しなけりゃ、国際的に追求されて戦争勃発、って状況だからな。
そうなると、災厄の討伐者である俺が、そのまま戦場に立つ可能性が高い。
ドラゴンや大量のオーガ、グリフォンなんかの巨大召喚獣と、だだっ広い平野でなんて相対したくないだろう。
もし『エクスプロージョン』の存在が知られてれば、なおさらだ。
王国の「救国の英雄」以上の地位を用意できない以上、帝国の懐柔交渉は成り立たない。
関与追及論が上がるこの時期に、帝国の名を出して戦力の調略、引き抜き交渉をすれば、戦争をしかける準備があると自白しているも同然だ。
ならば寝首をかいて、巨大召喚獣が喚べない屋内で始末する。
判断は正しい。
それでアシュリーの身柄も拘束できるなら、一石二鳥だ。
追求を弁明した後で、主犯として捕らえておいたアシュリーに罪を着せて処刑すれば良い。
「……ッ! コタロー、戦いが始まったぞ。剣戟の音がした」
ナトレイアの耳が、屋敷内の戦闘音を捉える。
剣と剣がぶつかり合う音、ということは、警備のエルフ戦士たちとの交戦が始まったな。
使用人たち非戦闘員はうまく隠れてくれていると良いけど。
「刺客は四方向から来る。エルフ戦士たちの小隊は三方向に配備している。必然、残る一方向の刺客たちがこちらへすり抜けてくる可能性があるね」
「そのための密接護衛態勢でしょぉ? どのみち、皆殺しが目的でも無い限り、向こうも警備なんて最初からすり抜けるつもりで来てるわよー」
所長とグリザリアさんが、ババ抜きのように複数枚の『カード』を構えながら話し合う。
状況に応じて、どのカードでも使えるようにするためだ。
「――刺客の、足音か気配は感じるか、ナトレイア?」
「さすがにそこまでは、私の耳でも無理だな……と言うより、驚くほど物音が少ない。剣戟音や交戦の気配は各方向から聞こえるが、大人数に襲撃されているとは思えないほど静かだ」
「あらあら。かなりの手練れ揃いねぇ。『カード』をもらってなかったら、うちの戦士たちでも少し難しかったかもしれないわね。……ましてや、普通人種の警備だったら、もう皆殺しにされててもおかしくなかったかもねぇ」
グリザリアさんが、おっとりと、しかし剣呑な感想を漏らす。
さすが一国家だよ。帝国側も、『殺せる』戦力を向けてきてるってことか。
エルフの戦士たちを雇えず、戦力がアテルカやナトレイアたちだけだったら危なかったかもな。
そのとき、デルムッドが『懸命な守備兵』に向かって、大きく一つ吼えた。
「おんッ!」
「――来るぞッ!」
俺たちが身構えた瞬間、部屋の中に突然黒ずくめの襲撃者の姿が現れた。
手に持ったダガーが『懸命な守備兵』の盾に向けて振り下ろされるが、目標が俺では無く重武装の守備兵だったことに、襲撃者は一瞬戸惑った様子を見せる。
「――身代わりだと!?」
「全員、戦闘態勢だ! ――ナトレイア!」
「任せろ、コタロー! 一番槍はもらうぞ!」
ナトレイアが室内を駆けて距離を詰め、黒ずくめの襲撃者に創国の王剣を振るう。
同時に、アシュリーもその腕前の精密射撃で流星弓を目的に放った。
けれども襲撃者は、その一撃と襲い来る矢の両方をかわし、ひらりと身を翻して距離を取る。
「――おんっ! おんっ、おんっ!」
「まだ来る! アテルカ!」
「ゴブリン騎士団、参るのですよ!」
同じく『懸命な守備兵』に斬りかかる二人の新たな襲撃者に、待ち構えていたアテルカたちが戸惑う背後から続けざまに一太刀を浴びせる。
先手を取れた今のうちに、状況を見て全力で頭を回せ!
……この侵入者たちは、どこから入ってきた。
窓は開いてないぞ?
――短距離転移か!
たぶん、空間魔術系の魔道具か何かを持っている。
それで、建物の外か、近くの通路から転移して襲撃してきたな。
屋敷内でも交戦音が聞こえて、全員がここに転移してきてない。ってことは、全員が魔道具を持ってるわけじゃないか、屋敷の外から寝室まで直接来れるほどの長い距離は転移できない。
たぶん、そのどっちもだな。
そして、初太刀の奇襲が失敗したのにも関わらず、部屋から離脱していない。
転移発動に時間がかかる? いや、距離を取っている奴がいる。けれども、起動している素振りは見えない。魔道具は一回きりの使い捨てか?
違う。魔力切れか、魔道具にチャージ時間かクールタイムが必要で、連続して使えないな!?
「ナトレイア、アテルカ! 敵は短距離の転移が使える! 時間をかけると、死角を取られるぞ!」
「――なるほど、ならば使うヒマは与えられんな!」
二回にわけてやってきた以上、全員が魔道具を持っている可能性もある。
けれども、もう一つのパターンの場合――
後に来た二人の内、どちらかが最初の刺客を送り込んだ後、自分たちも飛んできた。
その場合、魔道具を持っているのは後発の二人のどちらかの可能性が高いな。
「後から来た二人を先にしとめろ! 転移の魔道具持ちの可能性が高いのは、後発の二人の方だ! ――援護する、『ラッシングジャガー』ッ!」
「了解なのです! 逃がしてはいけませんよ、ともに参るのです、ゴブリン騎士団!」
俺の喚び出したラッシングジャガーの爪とアテルカたちの剣閃も、しかし襲撃者二人にはかすり傷程度しか追わせられず、かわされてしまう。
こいつら、『敏捷』も持ってやがんな!?
「グ、グガ……」
見やると、『懸命な守備兵』が大盾を支えに、片膝をついていた。
ダメージを食らったのか、後発の二人のどちらかが攻撃力3を超えている!
俺と所長で、『治癒の法術』を一回ずつ。これで守備兵のHPは全快だ。
『誘導』は有効だ、守備兵に気を惹かれて、三人の襲撃者もやりづらそうにしている。
HP4の守備兵が生き残ったことから、攻撃力3の相手は一人だけだ。
そいつを先に倒せると、後の戦いがかなり有利になる。
『鑑定』を撃ち込めれば有利になるが、あの相手の動きの速さだと、エミルを介した俺じゃないと『鑑定』を当てられない。
今はその余裕が無いな。動きから、ナトレイアたちに判断してもらうしかないか。
魔術は強力だが、魔力は回復が遅い。
スキル『魔力高速回復』を持つ俺じゃないと、所長とグリザリアさんの二人はあっという間に魔力切れになって戦線離脱してしまうので、魔術や召喚は俺が主軸になって放つしかない。
「くそ、やっぱり、モンスター相手とは勝手が違うな……」
王都防衛戦で、アテルカたちゴブリン騎士団がアビスエイプを圧倒したときと逆だ。
この世界の人間たちは、ステータスに依らない強さを持っている。
それは、剣術であったり体術であったり。
単純な数値の大小を比べるだけではない、この世界の戦闘を成立させる、人間の『技術』の存在だ。
ステータス頼りの、俺の大半のアバターたちとは違う。
この襲撃者たちの技量は、ステータスや能力以上に明らかに『強い』。
捉えられるのは、『剣姫』の異名を持つ剣の達人、ナトレイアか――
「――ぐあっ!」
「まだまだなのです! 我ら鬼精族が妖精剣術、お見せするのですよ!」
「グギャギャ!」
同じく剣術を習得している、アテルカたちゴブリン騎士団たちだ。
ラッシングジャガーの攻撃を牽制代わりにし、ゴブリンズがその剣で後発の刺客二人を追い詰めていく。
そのとき、寝室の窓が破られた。
奇襲失敗とみたのか、窓の外から後続の黒ずくめが三人、室内に飛び込んでくる。
突然の増援に、ナトレイアたちの手数が足りなくなった。
三人の攻撃を受け、『懸命な守備兵』がカードに戻る。
「――しまった、逃げろコタロー!」
増援に加勢され四対一となったナトレイアが、捌ききれずに二人をすり抜けさせてしまう。
その襲撃者たちはそれぞれ二本のダガーを構えて駆け、距離を詰める。
「――『スタンランペイジ』!」
グリザリアさんの魔術が直撃し、一人の襲撃者がダガーを強制的に下げさせられた。
三十秒間の攻撃不可能状態。
その一瞬に、横からゴブリン騎士団の刃が襲撃者の胴を切り裂く。
「どう、伯爵――?」
得意げに微笑むグリザリアさん。
確かに良い一手だったけど、それが他の襲撃者のヘイトを誘った。
襲撃者のダガーはその向く方向を変え、二人がグリザリアさんへと襲いかかる。
襲撃者たちの攻撃力はおよそ3前後。ダメージ軽減付与の『光輝の大盾』――
いや、間に合わないな。魔力が足りない。
仕方ないか!
「――ぐ、がふっ!」
「――伯爵ッ!?」
グリザリアさんとの間に割り込んだ俺に、襲撃者たちのダガーが斬り付けられた。




