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 ワイバーンの背に乗って飛ぶこと数時間。

 中天、つまり正午を少し過ぎた昼下がりくらいの時刻に、ナトレイアの乗るワイバーンが急旋回し始めた。


 それを追って旋回する俺たちのワイバーン。

 その場で回り続けるナトレイアのワイバーンに、何か伝えたいことがあるのだろうと思い近づくと、ナトレイアが大声で教えてくれた。


「もう里はこの近くだ。少し飛行速度を落として行こう!」


 そうか。このまま行くと通り過ぎかねないからだな。

 了解と大声で伝えて、スピードを落としてゆっくりと飛んでいく。


 眼下には、人の手の入ったらしき、間伐された大きな森が広がっていた。


 この森の中に、エルフの里があるのかな。



******



 森の外で、全員集合してワイバーンから降りる。

 やはりエルフの里は森の中にあるらしく、その前にみんなで一度休憩することにした。


「やれやれ、上空を高速で飛ぶと、とにかく寒いねぇ。厚着してきて良かった」


「ワイバーンの頭が背中の風よけになって、空中で吹き飛ばされずには済んだけど。この速さだと、ずっと鱗に掴まってるのも意外と疲れるわね」


 降りてきたエルキュール所長とアシュリーが、上空の感想を言い合う。


『んー……もう着いたのー?』


 俺の服の中で、エミルが目を覚ます。

 さすがにワイバーンの速さに併走するのは無理があって、移動中は俺の懐で眠っていた。


「さて、コタロー。どうする? 森を歩いて里に入ると少し距離があるが」


「里の住人って何人くらいだ? 空から行って、降り立てる広場があるかな」


 ナトレイアと移動手段を相談する。

 本人としては、グリフォンに乗って里に行きたいんだろうな。


「四百……はいないくらいか。里を出たのは結構前だから、少し子どもが生まれたかもしれん。森をかなり拓いているから、広場はある。……ただ、グリフォンだと撃ち落とされる可能性も、無いことは無い」


「主よ。弓兵二人に、アテルカのゴブリン騎士団もあるのだから、堂々と徒歩で行って門番のエルフに会うことを勧める」


 ナトレイアに続いて、エルフをよく知るグラナダインからも徒歩案が出る。


「そうね。森の中のモンスターを『カード』にしながら行くのが、手間が省けて良いんじゃない?」


「この近辺は人の手が余り入っていないから、絶滅したモンスターなんかがいてもおかしくないね。わたしも、徒歩で狩りをしながら行くのに賛成だ」


 と、弓を構えるアシュリーと、『カード』を取り出す所長。

 所長には各種攻撃呪文を山ほど渡してあるからな。魔力切れに気をつければ、ピンポイントのダメージディーラーとして、立派なサポートアタッカーに数えていい。


「んじゃ、デルムッドを喚んで徒歩で行くか。ナトレイアと武装オーガ一体で先導な。アテルカたちゴブリン騎士団は『クラッシュガゼル』にでも騎乗して、周囲の索敵を頼む。中衛が俺たちで、最後尾には武装オーガをもう一体置くよ」



『クラッシュガゼル』

3:3/1

 『敏捷』



 装備品が二枠、アテルカとグラナダイン、エミル、デルムッドで四枠、武装オーガ二体で四枠、ゴブリン騎士団の足になるクラッシュガゼルを三体、これで十三枠。

 残り一枠は、いつもの緊急召喚枠だ。

 アテルカがやられるとゴブリンズが全員カードに戻ってしまうので、本人は中衛になって俺たちの護衛にしておく。


「……以前の草原での狩りでも思ったけど、コタロー殿って部隊編成に慣れてるよね? 地味に作戦行動なんかも指示してるし、元の世界で指揮官の経験でもあったの?」


「いや、無いけど。……編成みたいなことは以前からやってて、こっちの世界に来てから実戦に慣れた感じだよ」


 変なところに感心する所長。

 戦力編成っていつも、ゲームのデッキ構築を単純化したことしかやってないしな。

 たぶん、このぐらいならカードゲーマーは誰でも、すぐにできるようになると思う。


 所長も、そのうちカード戦術を色々妄想したりするようになるよ。

 それがゲーマーのたどる道だ。


 そんなわけで、隊列を組んで森の中を進んでいく。

 下草は生えてるんだけど、まったく背が高くなく、獣道と言うよりも林道だ。周囲の木も間隔を空けて伐採されているようだし、人の――というかエルフの手が入ってるな。


 そんな手が入った林道でも、モンスターは割と現れた。


 グラナダインが突然、おもむろに弓を構えて矢を放ったかと思うと、どさりと獲物が墜ちてきたりする。

 さすが弓聖。


 他にもデルムッドが吼えて、オーガとアテルカが率先して討伐したり。

 周囲を索敵しているゴブリンズとクラッシュガゼルも、何体か獲物をしとめていた。


 新しく増えたアバターは以下。


『タイラントスネーク』

4:4/3

 『有毒2』・このアバターは毒攻撃が可能になる。毒を受けた対象は、時間経過でHPを2ずつ失う。


『グランドスパイダー』

3:3/2

 『捕獲』・このアバターの攻撃は、『飛行』を無効化する。


『ベルセルクグリズリー』

5:4/5

 『肉壁1』・このアバターへのダメージは、それぞれ1点軽減される。

 『高速連撃2』・一度の攻撃時間で2回攻撃できる。


『スモールベア』

2:2/2


『ラッシングジャガー』

4:3/4

 『奇襲』・このアバターは、敵に攻撃した状態で召喚される。

 『敏捷』・関連する負傷を負っていない場合、高確率で攻撃を回避する。



 豊作です。てか、本当に強いモンスター多いな。


 『肉壁』というかどう見ても毛皮が分厚い巨大熊、ベルセルクグリズリーは、俺と所長の『パイロニックスピア』同時射撃で沈んだ。

 地上に降りてたらドラゴンともガチで戦えるって、強くないかこのクマ。


 『グランドスパイダー』はあれだな。

 辺境伯領で、模型のカイトを飛ばしたときにタコ糸に使ってた奴。あの糸を出すのが、このモンスターだったんだな。

 新しい能力も持っていて面白い。


「この巨大熊は、数こそ少ないが見たら逃げろ、と言われているモンスターなのだが……当たり前に倒せるのだな……」


 ナトレイアが改めて驚いた声を出す。

 これで森の主じゃないってんだから、こっちの方が驚きだよ。

 この森の生態系の頂点はどんな化け物なんだよ。トリクスの森と違いすぎるだろ。


 『ラッシングジャガー』は、突然藪の中から飛び出して猫パンチをしかけて来たのだが、襲った相手が武装オーガだったのが運の尽きだ。

 返り討ちに遭い、オーガの傷も再生能力で癒えてしまっている。


 頼りになるな、この布陣。


 とりあえず、ゴブリン騎士団の乗ってるクラッシュガゼルは、この『ラッシングジャガー』に交換しよう。『敏捷』持ちでステータスも高いし。

 この体格なら、ゴブリンだけじゃなくて俺たちも乗せられるかもな。



 そうして、林道を歩いて行った先で、突然デルムッドが吼えた。

 モンスターか?


 と、思う俺たちの足下の地面に、二本の矢が突き刺さる。


「うぉ、危ねぇ! ……矢、ってことは?」


「森の見張り番だな。下がっていろ、コタロー。――里を守る見張り番よ! 私だ、エルフの里を出たナトレイアだ! 仲間とともに帰還した! 姿を見せてくれ!」


「ふむ……我が身も前に出るかな」


 グラナダインが俺をかばうように前に出る。


 ナトレイアの大きな呼びかけに、森の枝葉がざわめき、やがて二人のエルフが樹上から飛び降りてきた。

 緑の服を着て、緑色の長髪をした男女のエルフだ。


 二人のエルフは弓を下ろした後、俺たちの姿をまじまじと見て、近寄ってきた。


「……ナトレイア! 何十年ぶりだ!? どうした、人の街に飽きたのか!?」


「クルナルアとミストレアか。久しぶりだな、変わりないようで何よりだ」


 顔見知りだったらしく、あっという間に打ち解けるナトレイアと見張りのエルフたち。

 挨拶を交わした後、二人の視線はグラナダインに向いた。


「そちらのエルフは? それに……普通人? にゴブリン? この一行は、全員お前が連れてきた仲間なのか、ナトレイア? なんだってこんな大勢で?」


「うむ。里の様子を見に帰ってきたのと、後は……少し良い話を持ってきた。興味を持つ者がいるかもしれんと思ってな。詳しくは、族長に話してからだが」


 そう言うと、二人のエルフはナトレイアの肩を叩いて破顔した。


「そうか! ま、何にしろめでたい!」

「ゆっくりしていきなさいよ、ナトレイア! ――里の仲間が連れてきたなら、連れのあなたたちも歓迎するわ! ようこそ、エルフの里へ!」


 おお、意外と話が早くまとまったな。

 思ったより警戒されなかったのは、やはり紹介があるからか。


「コタロー、道中で狩った獲物は里に譲ってもいいか? あの巨大熊は、言い伝えによると熊肉と思えないほど美味いらしくてな。みんなが喜ぶ」


「ああ、いいよ。後でアシュリーに出してもらおう」


 何気ないそのやり取りに、二人のエルフが驚いた顔を見せた。


「巨大熊を倒したのか!? あの怪物を!?」

「どうやったの、ナトレイア!? それとも、その仲間たちが強いの!?」


 詰め寄る見張り番たちに、ナトレイアは苦笑しながらいなす。


「ははは。その辺りのことも、里でゆっくり話そう。とりあえず、里に入れてくれると嬉しい」


「そうだな、案内しよう」

「まさか、おとぎ話に聞く巨大熊の肉が食べられるなんて! 今日は良い日ね!」


 喜びにはしゃぐエルフさんたち。



 とりあえず、里の中に案内してもらえることになったらしい。










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