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スカウトに行こう!



 使用人をスカウトしようということになって、現在の使用人の派遣元である、エルキュール所長に了解を取ることにした。


 新しい使用人の教育も頼めないかな? と。


 で、それを聞くために魔導研究所に、所長宛に言づてしておいた。



******



「やぁやぁ! 悪かったね、先日は登城して研究所を留守にしていて」


「わざわざ屋敷まで来てくれたんだ。ありがとう、所長」


 言づてした日は珍しく所長が留守だったのでそのまま帰ってきたけど、後日、こうして所長はわざわざ改めて出向いてきてくれた。


 応接室で茶菓子とお茶を出しながら応対する。

 ちなみに、お茶はフローラさんの孤児院から少し値段上乗せで購入したものだ。

 美味しいからってのもあるけど、孤児院にもお金を入れたいからね。


 お茶を口にしながら、所長が身を乗り出す。


「それで、エルフを雇用したいんだって?」


「そうですね。ナトレイアの伝手で。――流星弓とグラナダインの件があるので、しばらく捕まっちゃう可能性もありますけど」


「流星弓は、オリジナルは本来、我が里の失われた秘宝だからな」


「実物ではないので、失われたものは戻らない、と言い聞かせる必要がありそうだな」


 ナトレイアのつぶやきに、グラナダインが遠い方向を見ながら付け加える。

 アバターたちも勢揃いした、賑やかなテーブルになっている。


 グラナダインはやっぱり街中は苦手そうだけれど、屋敷の人たちには慣れてくれたみたいだ。

 アテルカたちも警備で見回ってるし、いつも同じ顔ぶれだもんな。

 日中は裏庭で、アシュリーに弓の稽古を付けながら自主訓練をして過ごしている。


「いいよ、うちの領の使用人たちなら、そのくらいはできるだろう。――それより、わたしも是非一緒に連れて行って欲しいね。エルフの里は王家直轄の自治領として保護されていて、普通人や、貴族は特に立ち入りが難しいんだ」


「ああ、誘拐や拉致があるからですね。……良いですよ、今回はナトレイアの紹介なので、王家も文句を言わないと思います」


 ナトレイアの方を見て確認すると、彼女も特に抵抗なくうなずいた。

 所長はもう、一緒に戦った戦友扱いなのかも知れないな。


 その承諾に、所長は嬉しそうに手を叩いた。


「ありがとう! ただ、コタロー殿はじっとしていられない性分なんだね。うちの使用人に甘えて、もう少し何もせず休養していても良いのに」


「冒険者ってこんなもんですよ。特例で、冒険者登録はそのままにしてもらってるので、うちの暇人たちから狩りに行こうともせっつかれてますし」


 本来、高位の貴族位を得た冒険者はその登録を削除するらしい。

 公的身分である貴族と、平民寄りの民間組織である冒険者ギルドの両方に所属すると、立ち位置が定まらないからだな。

 あと、だいたいは貴族側が、平民と同じ身分ではいられない、とギルドを抜けるとか。


 俺の場合は、特に事業も城内の職務も持っていないので、管理権限を使った汚職が発生する心配がないことで国の許可を得ている。

 ギルドに対する権力侵犯も、一介の冒険者扱いで良い、と騎士爵時代と同じ念書を書いてるので、特にギルド側には圧力はかからない。


 つまり、できることは増えたけど、できないことは別に増えていない状況だ。

 当然、狩りにも行けるし獲物素材を相場通りの値段で売却もできる。


「……むしろ、疑問なんですけど。『伯爵』って普通、何の仕事をするもんなんです? 叙爵して以来、報奨金で生活してるから、俺は何も働いてないんですけど」


 エルキュール所長は伯爵家女当主だけど、研究所の所長として働いてるもんな。

 ただ『伯爵』とだけ言われて金もらってる俺は、何の仕事をするんだろう?


「そうだね、普通は領地の管理かな? で、税収を集めて王家に納税する。領地を持っていなければ、王城での職務に就くことで年金をもらうことが多いから、それで家臣を養う。それ以外なら、持ってる特権やコネを利用して金策して、事業でも起こすかな」


 俺は、それらのどれにも当てはまらない。

 何だろう、ただ国につなぎ止めておくだけの捨て扶持かな?


「俺、どれにも当てはまらずに年金だけもらってますけど?」


「あはは。もちろん、期待はされているよ。何しろコタロー殿の場合は、わたしを介して『カード』の研究に協力してもらってる形になってるから。武力としても申し分ないから、そうだね。対外的には武勲の報酬ってことで説明してるんじゃないかい?」


 ああ、それがあったか。

 ある意味、俺の『特権』ではあるわな。


「なるほど、カード目当てか。それはそれでいいんですけど」


「……所長以外にも、コタローの『カード』を使える人を増やさなくてもいいの?」


 同じことを思ったのか、俺の聞きたかった疑問をアシュリーが尋ねてくれた。


「もちろん増やすよ? その候補は、国王陛下が直々に検討されている。……今のところは、わたしが『どの程度の魔力で、どのくらいの戦力を得られるのか』を検証しているところだね。こちらの予想外に強力な力を得て、当人に叛意を抱かれても困るだけだから」


 そりゃそうか。

 なまじ魔力が強い人に『エクスプロージョン』を渡して、それを主軸に反乱を起こされでもしたら取り返しがつかない。

 まだ準備段階ってことで、慎重に検討してるんだな。


「召喚獣からの意思伝達が難しいから、諜報関係に使いづらそうなのが難点かな。魔力が低い者は、『飛行』などの特殊能力を持つ召喚獣を喚ぶか、本命は能力付与系のサポート呪文を持たせることになると思う。付与系は低コストで特殊能力が手に入るから」


 妥当なとこだね。

 カードゲーマーなら誰もが一度は夢見る「もし現実にゲームのカードが使えたら?」を地で行ってるわけだ。


 よくある確定除去、つまり一枚で確殺系のカードが無くて良かった。

 元の、というか地球のゲームだと、昔のカードにはコスト調整とか考えられてなかったバグカードがいくつもあったからな。


「ナトレイアの話だと、新しいアバターも手に入りそうってことですから、所長も確認してみてください」


「良いね。理想は、低コストで攻撃力・体力が高くて有用な能力を持ってるモンスターがいると、使いやすくて良いなぁ」


 それは誰もが思うけど、実在するとすぐにバランスが崩れる奴です、所長。

 カードゲーマーの考えることは、地球でも異世界でも変わらんな。



******



「それじゃマクスさん、家のことはお願いします。警備はエルキュール所長と、ドライクルさん――デズモント侯爵が兵士を派遣してくれるそうなので」


「かしこまりました。屋敷のことは憂い無く、いってらっしゃいませ、旦那様」


 所長の出張準備に一日挟んで、エルフの里への出発当日。

 仕事を引き継いで準備を終えた所長と合流して、屋敷を出る。


 貴族としてはどうかと思うが、馬車が無いので徒歩で街門を出て、街の外で召喚開始だ。


「今回もグリフォンに乗っていくのかい、コタロー殿?」


「いや、もっと大きくて速い奴がいるんで、それに乗っていきます」


「そんな! グリタローの出番が!」


 落胆するナトレイア。

 グリフォンに乗って自分の里に凱旋、とかしたかったのかな。

 でもグリフォンだと、日数かかっちゃうしな。


「まぁいいや。後で乗り換えれば良いだろ。――召喚、『グリードワイバーン』」



『グリードワイバーン』

5:3/5

 『飛行』

 『甲殻1』・1点以下の攻撃を無効化する。



 召喚に応じて、他に誰もいない街道に、巨大な翼竜が現れる。

 『甲殻』持ちのプチドラゴン、ワイバーンだ。


 王城にも数は少ないがワイバーンが飼われているらしく、緊急の情報伝令手段として利用されているらしい。

 辺境でクリシュナが話してた飛竜便、って奴だな。


 攻撃力はグリフォンに劣るけど、その飛行速度は目を瞠るものがある。

 最大速度だとグリフォンの倍以上のスピードを誇り、辺境領までも半日から一日程で移動できてしまうほどだ。


 育成が難しいので戦力には数えられていないけど、伊達に国家間での緊急連絡手段に採用されてはいない。


「国内には、飼われてるワイバーンって何体くらいいるんです?」


「いや、全然いないよ。王城に二匹で、後は東西南北の各地方に一匹ずつくらいだ。個人でワイバーンを使えるなんて、これ以上ない贅沢だね。これだけでも伯爵の威厳が保てるよ」


 感嘆する所長。

 なら、『グリードワイバーン』のカードも何枚か渡しとくか。

 ドラゴンは、普段の移動手段扱いするには無理がありすぎる迫力だからな。


「魔力のある騎士を揃えたら、『飛竜騎士団』なんてのも夢じゃないなぁ……いや、喚べる人間はかなり限られちゃうけど。でも、国王陛下に奏上しようかな」


「同じコストで戦闘向きのモンスターなら『クリムゾンガルーダ』もいるんですけどね。移動はとりあえずこいつで良いでしょう。――みんな、乗ってくれ」


「クルルルッ」


 可愛い声を漏らす巨体のワイバーンの背中に乗り込む。

 広い背中だけど、ドラゴンほど大きくないから三人くらいが限度かな?


 グラナダインやアテルカたちもいるから、あと二体ほど喚んでから出発するか。


「……で、コタロー殿はこれを何体まで喚べるって?」


「枠が増えて、最大十四体ですね」


「国を攻められるね」


「言われ慣れました」


 オーガもグリフォンもワイバーンもクリムゾンガルーダも、もうそんなに変わらんよ。

 もう一つ階位が上がったら、ドラゴンを十体以上喚べちゃうしな。


 たぶん上昇限界を考えると、これでまだ半ばくらいの階位なんだけど。

 この世界に来たばかりの頃からは、考えられない戦力になったな。


「ナトレイアはグラナダインと一緒に乗るか? ……どの組み合わせで乗っても良いけど、ナトレイアのワイバーンが先導してくれ。俺たちは、里の場所を知らないからな」


「わかった。グラナダイン殿とエルフ二人で先行した方が、万が一地上から見られても仲間だと思ってくれるだろう。場所は……そうだな、辺境領の領都とここの、ちょうど中間くらいの距離かな。ただ、方角的に南下する必要がある」


 なるほど。わからん。

 道案内は任せた。


 二体を喚び終えて、一応護衛としてもう一体喚んで、合計四体。

 方角的には、『魔の森』とは反対の方面で、辺境領の国内寄りの方向、と。

 今は朝だから、今から出発すると今日中に着けたりするかな?


「よっし、そんじゃ行こうか! 出発!」


 大空に飛び立つワイバーン部隊。

 旅行日和の、良い天気だ。



 エルフの里って、どんなところなんだろうね?









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