異世界サザービ 一日目 五話 勇者を魔王に鍛えるぞ
「ふむ」
ワシは勇者の格好を全身舐め回す様に観察すると、こやつの持つ剣もそうだが、装備自体が随分オンボロに見える。
「随分と装備が貧相だが、追い出された時に身ぐるみでも剥がされたのか」
「ああ、そうだよ! 酷い奴らだろ?」
元パーティーの事を持ち出されただけで、この怒りか。気が短いな。
しかし、この怒りでワシの鍛練を乗り越えて見せよ!
「そう言えば、その勇者パーティー、いや元勇者パーティーか。どんな奴らなのだ?」
「男女二組のカップルだ」
カップル? 何を言っとるんだこいつは。
「いや、そうではなくて、強いかどうかだ」
「強ぇよ。普通勇者って言えばモテモテだろ。それなのにメンバー同士でくっついて、勇者無視する精神力が強ぇよ」
「……そもそも、お主、何で追い出されたのだ?」
追い出された当時の事を思い出したのだろうか、唇を噛みしめ怒りで肩を震わしておる。
よいぞ、その怒りをバネに強くなってみせよ。
「ちょっと……ちょっと、着替えを覗いただけじゃねぇか……」
勇者ハーネスは、悲しみに暮れる暗い表情を見せる。いや、そんなに悲壮感出されても、ワシ困るだけなんだが。
「くそっ!!」
ハーネスは壁に拳を叩きつけ、悔しさのあまり泣き出した。
泣きたいのワシの方なのだが。
「もうちょっとで見えたのに……!!」
悔しいのそっちか。最低だな。
「この人、最低です」
ゴミ箱に入ったままのタツオが、何か言っているがワシからしたら、どっちも変わらんがな。
「よし、タツオ。残っている魔王軍全員ここに集めるのだ!」
「わかったです」
いつもと違い素直なタツオは、ゴミ箱から抜け出そうと力を込めている。
しかし、どうやら外れんらしいな。
「あの……ワイをここから──」
「早く行け」
「いえ、ですからここから──」
「早く行かんかぁー!!」
「は、はいーです」
一応怒鳴りつけたが、どうにもならんなら出してやろうと思っとった。
なのにタツオの奴、身体を倒してゴロゴロと転がって行きよった。
跳ねんのだな。
「さて、ハーネスよ! まずはお主には魔王としての威厳をここの魔王軍に見せつけなければならぬ。ここで、魔王としての目標を示すのだ!」
「おう! 任せろ!!」
張り切っておるな。ワシ、超不安。
◇◇◇
ぞろぞろと現魔王軍が部屋に集まってきおった。タツオの奴は腰の曲がったジジイの魔物の背中に乗って戻ってくる。
ワシでもそれはどうかと思うのだが。
集まった魔物はざっと数えて五十ほど。百はいると聞いていたが。
しかし、見事に年寄りばっかりだな。
「おい、タツオ。少ない気がするのだが」
「はいです。入院してるのが二十ほど、腰痛で来れないのが十六、危篤が三、死亡報告漏れが十一です」
おお、ワシ生まれて初めて頭が痛い。これが噂の頭痛と言うやつか。あまりのオンボロ魔王軍。これは酷いな。
ざわざわと話声が止まらない。
ああ、そうか。ワシが今玉座に座っとるからな。
ワシは玉座から立ち上がり、オンボロ魔王軍に語りかける。
「静かにしろ。ワシは異世界の魔王、ガルドラだ。タツオとここの魔王から救援を受けて駆けつけたのだ」
ウオォォォッ!!
オンボロ魔王軍が歓声を上げる。しかし、残念だったな。ワシがここの魔王になる訳ではないのだ。
「静かにしろ。救援は受けたが、こんな年寄りばかりでは話にならん。ワシもずっと居る訳ではないからな。なので新しい魔王を鍛える事にした。それが隣に居る勇者ハーネスだ!!」
再びざわつく魔王軍。まぁ混乱するのも分からないではない。
「静かにしろ!! いいか、倒すべきは勇者だけではない! ただの人間に負ける魔王軍など要らぬのだ。この勇者を鍛え若い力のある魔王軍にするのだ!」
静まりかえる中、一人の魔物が手を挙げる。全身岩に覆われた魔物。しかし、その岩は劣化しているのか所々ひび割れていた。
「そ、それではワシらはどうなるのですか?」
「お主らには、この新魔王の糧になってもらう」
「ワシらをお食べになるのですか!?」
岩だらけの魔物など誰が食うか!? というより魔物など食わんわ。
「そうではない。鍛えた後の仕上げに挑めと言う意味だ。魔王軍なら自分が魔王になるくらいの意気込みがないといかんからな。それでは、新魔王ハーネスから一言貰おうか」
ワシは玉座の前をハーネスに譲り、ハーネスの後ろ楯と示す様に右隣へと立つ。
そして、左隣にはタツオがいる。
なぜ、そのポジションにいるのだこいつは。
「俺が、俺が魔王となったからには、この世界を俺のモノにする!!」
おお、中々堂にいっているではないか。
「そして世界を征服したら、俺はたくさんの女とイチャイチャしたい!! 俺についてくれば、お前らにもおこぼれをやる事を約束する!!」
ウオオオオォォォォォォッッ!!!!
今日一番、年寄りばかりとは思えないほどの大歓声が部屋に響き渡る。
なんだ、こいつら。最低過ぎるだろ。
「人の振り見て我が振り直せです」
「こんなやつらと一緒にするな! ワシは、ちょーっとナツ以外の若い女性と、ちょーっとお話したいだけだ!」
タツオの所に行き、ワシはゴミ箱とタツオが外れない様にキッチリと押さえ込むのだった。